「約束」

(再公開 2017/05/17)
「誰? そこにいるのは誰なの?」
 私はかすんだ目をこすった。だんだんはっきり見えてくる。そこには、お下げ髪の女の子が立っていた。私のほうを向いて、必死に手を振り何かを叫んでいる。私は、はっとした。それは、紛(まぎ)れもなく私。小学生の私の姿だった。
 そこで、私は目が覚めた。何でこんな夢を見たんだろう。きっと、あれよ。小学校の同窓会のはがきが届いたからだ。私は髪をかきむしった。
 一ヵ月後、私は静岡のとある町に降り立った。もちろん、明日の同窓会に出席するためだ。この町に来たのは十年ぶり。小学五年の時に引っ越して、それ以来一度も訪れたことはなかった。町を歩いていると、何となくその当時の記憶がよみがえってくる。町の様子も、ほとんど変わっていないように思えた。
 駅から少し離れたところにある民宿。確か、ここには同級生の男の子がいたはずだ。私はどんな子だったか思い出そうと、民宿の前でしばらく立ち止まっていた。そこへ突然、
「さゆりちゃん? さゆりちゃんだよな!」
 私は驚いて振り返る。そこに立っていたのは、真っ黒に日焼けした男性。彼は有無も言わさず私の手を取り、力いっぱい握(にぎ)りしめた。
「ほんと久しぶりだよな。俺のこと、覚えてる?」
 民宿に落ち着くと、彼は私のことはお構いなしにまくしたてた。「もう、予約の名前見て、もしかしたらって、思っちゃったよ。で、何しに来たの? まさか、俺に会にとか?」
「何言ってるの。違うわよ」
 私は少し怒った顔で言った。何だか昔に戻ったようだ。この子、お調子もんで、いつも女の子にちょっかい出してたっけ。「同窓会よ。明日、あるんでしょ」
「同窓会?」彼はキョトンとして首をひねった。「そんなの、知らないな」
 私は案内のはがきを出して、「ほら、明日になってるでしょ」
「えっ! 俺だけ除(の)け者かよ」彼ははがきを手に取り見ていたが、突然大声を出して、
「嘘(うそ)だろ、この幹事って――。亡くなってるんだけど」
「えっ、どういうこと?」
「だから、この中村宏(なかむらひろし)だよ。五年前に病気で死んでるんだ。俺、葬式(そうしき)に行ったし」
「やだ…。そうなの? 何で、私のところに…」
 中村宏。私はどんな子だったのか、まったく思い出せなかった。
「ほら、いただろ。体育の授業で、いつも見学してたやつ。けっこう学校も休んでたから、思い出せないのも無理ないけどな」
 私は、彼の言葉でふっと記憶がよみがえってきた。私、中村君と約束したことがあった。何でそんな約束したのか分からないけど…。二人で富士山に登ろうって。中村君から言ってきて。私、いいよって。一緒に登ろうねって。軽い気持ちで約束した。何で中村君、そんなこと言ってきたんだろう。もしかしたら…。私、決めた。富士山に登ろう。私は、お調子もんの彼に手伝ってもらって、富士山頂で同窓会を開くことにした。
<つぶやき>子供の頃、誰かと約束してませんか。今からでも、約束を果たしましょう。
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2012年12月07日