連載物語

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連載物語

「空からきた少女」035

「新型ロボット」
 赤い光が消えると、チップメル教授は膝(ひざ)をついて屈(かが)み込んだ。身体中を虫が這(は)い回ったようで、何とも嫌(いや)な気分になったのだ。そんな嫌な感覚(かんかく)がおさまると、教授は目を開けた。すると、目の前に誰かの足元(あしもと)が見えた。教授は、視線(しせん)を上げていく。そこに立っている人物の顔を見て、教授は腰(こし)を抜(ぬ)かした。そこにいたのは、紛(まぎ)れもない自分自身だったのだ。
「どうだね。傑作(けっさく)だろう」
 緑の男は嬉(うれ)しそうにまた笑った。
「こいつは、すべてをコピーすることが出来るんだ。強度(きょうど)は違(ちが)うがね」
 緑の男は教授を後ろへさがらせると、教授の姿をしたロボットに向かって爆弾(ばくだん)を投げつけた。爆発音とともに一面(いちめん)に煙(けむり)が充満(じゅうまん)した。だが、煙はすぐに天井(てんじょう)に吸(す)い込まれていく。煙が消えた後には、傷(きず)ひとつついていないロボットが、何事(なにごと)もなかったように立っていた。
「これはすごい」教授は思わずつぶやいた。
「こいつはプロトタイプだ。まだまだ改良(かいりょう)の余地(よち)があるんだがね。時間がないのが残念(ざんねん)だ」
 別の研究員が言った。「この子に組み込まれている電子頭脳(ずのう)は、最高の出来なんだ。学習や分析(ぶんせき)能力が優(すぐ)れているのはもちろんだが、より我々(われわれ)に近い思考(しこう)を――」
「おい! 君はしゃべりすぎだ」緑の男はその研究員を制(せい)した。
<つぶやき>同じ人間が作れたら、面倒なことはすべて任せて…。そんなこと考えちゃ…。
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2017年04月22日

「空からきた少女」036

「意味深な…」
 緑の男は、チップメル教授の方を見て言った。
「あとは、あなたの作るデータにかかっている。よろしく頼むよ」
「はい。しかし、これはすばらしい」
 教授はロボットに近づいて言った。「これなら、原始的(げんしてき)な文明(ぶんめい)を持っている生物がいても、姿を真似(まね)ることで影響(えいきょう)を最小限に抑(おさ)えることができる。何より、間近(まぢか)な場所で観察(かんさつ)が出来るんだ。ぜひ、私の研究にも使いたい」
「それは無理(むり)だな。あなたは、まだ何も分かっていないようだ」
 緑の男はつぶやいた。「我々(われわれ)の開発(かいはつ)したものをどう使うかは、上の奴(やつ)らが決めることだ。我々が自由に使えるのは、この穴蔵(あなぐら)の中だけだよ」
 教授は改(あらた)めて理解(りかい)した。もう、この惑星(わくせい)アルメスからは出られないことを。二度と、家族や友人たちに会うこともできないのだ。教授は緑の男に訊(き)いた。
「君は、一生(いっしょう)ここで研究を続けるのか? それで、満足なのか?」
「ああ、もちろんさ。ここには煩(わずら)わしいことは全くない。自分の研究に没頭(ぼっとう)できるんだ。最高の環境だよ。それに…」
 緑の男は声をひそめて言った。
「ここは閉ざされた場所じゃない。あなたにも、いずれ分かるときがくるはずだ」
 緑の男は、意味深(いみしん)な笑(え)みを浮かべて教授を見つめた。
<つぶやき>チップメル教授はこれからどうなるのでしょうか? そしてロボットは…。
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2017年05月01日

「空からきた少女」037

「鎮守の森」
 木漏(こも)れ日が、まるでパッチワークのように森の中を照(て)らしていた。森の奥からは鳥のさえずりが聞こえ、あちこちに生き物の息吹(いぶき)が感じられる。
 ここは植林(しょくりん)の森。杉(すぎ)の大木が真っすぐに空へ伸(の)びていた。だが、木の周(まわ)りには下草(したくさ)が生(お)い茂(しげ)り、倒木(とうぼく)や枯(か)れ枝(えだ)がそのままにされている。昔はきちんと手入れされていたはずなのに、ここ数年は手をかけられていないようだ。
 その森の中を、ひとりの少女が歩いていた。淡(あわ)いピンクのワンピースを着て、とても可愛(かわい)らしい少女だ。でも、森を歩くには不似合(ふにあ)いだ。せっかくのきれいな靴(くつ)や服が、泥(どろ)などで汚れてしまっていた。長い黒髪にはクモの巣(す)がくっつき、どこかで引っかけたのだろう、スカートの裾(すそ)が破(やぶ)れていた。彼女はそんなこと気にならないのか、夢遊病者(むゆうびょうしゃ)のようにふらふらと歩いていた。その顔はどこか寂(さび)しげで、虚(うつ)ろな目をしている。
 植林の森のはずれ、自然の森との境界(きょうかい)に大きな岩(いわ)があった。なぜここに大岩があるのか、とても不思議な感じだ。まるで誰かが運んで来たかのように、ぽつんとひとつだけ居座(いすわ)っていた。その大岩の近くには、小さくて古い神社(じんじゃ)が建てられている。神社の裏手(うらて)には山が連(つら)なり、自然のままの森が広がっていた。
 少女は、その森の方へと歩(ほ)を進めているようだ。まるで何かに引き寄せられるように…。
<つぶやき>場面はどこにでもあるような山間の町へ。これからどんな展開をするのか?
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2017年05月11日

「空からきた少女」038

「出会い」
 大岩(おおいわ)の上に、少年がぼんやりと寝転(ねころ)がっていた。彼はむしゃくしゃしたときや、一人になりたいとき、いつもここに来ていた。ここには滅多(めった)に人は来ないし、彼にとって落ち着ける場所になっているようだ。
 小枝(こえだ)を踏(ふ)み折(お)る音で、彼は起き上がった。見ると、女の子がこちらへ近づいてくる。それは、見たことのない子だ。ここらへんの子供じゃないのだろう。彼はそう思った。彼女はどんどん大岩の方に近づいてくる。彼は高い場所にいるので、彼女はまだ気づいていないようだ。彼女は大岩の前を通り過ぎ、森の奥の方へ歩いて行く。彼は慌(あわ)てて大岩から飛びおりて、彼女を追(お)いかけた。そして、彼女の前で立ち止まり、行く手をふさいだ。
「だめだよ。入っちゃ」少年は声をかけた。
 少女はその声で我(われ)に返ったのか、急に目の前に現れた少年に驚いて後(あと)ずさった。
「この森を知らない人間が入ると、戻(もど)れなくなるから」少年の目は真剣(しんけん)だった。
 少女はおびえていた。それは少年にもはっきりと分かった。彼女は長い髪(かみ)を震(ふる)える指でくるくると回しながら、周(まわ)りを見まわして、「あたし…。どうして……」
「おまえ、どこから来たんだ? なんで、こんなところに」
 いつもの乱暴者(らんぼうもの)の彼なら、声などかけなかっただろう。でも、なぜか分からないが、放(ほ)っておけなかったのだ。彼女はそのことには何も答えず、何かを思い出したように、
「あたし、帰らなきゃ…」と、少女はふらふらとまた歩き出した。
<つぶやき>彼女はなぜこんな所へ来たのでしょうか? そこには何か理由があるのか。
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2017年05月29日

「空からきた少女」039

「ぬくもり」
「そっちじゃないよ」彼は少女を呼びとめた。そして神社の方を指差(ゆびさ)して、
「森から出るなら、こっちの方が近道(ちかみち)だ」
 少女は彼の方を振り返り、かすかに頷(うなず)いた。少年は神社の方へ歩き出す。時々、後ろを気にしながら。
 そこには道があるわけでもないので、木の根(ね)や岩が所々(ところどころ)に飛び出している。少年は慣(な)れているのでずんずんと歩いて行く。でも、少女の方は何度もつまずいて、とうとう枯葉(かれは)に足を滑(すべ)らせて転んでしまった。見かねて少年が駆(か)け寄り、少女に手を差し出すと、少女はためらいながらも少年の手を取った。
 少年は、柔(やわ)らかくて暖(あたた)かな少女の手の感触(かんしょく)に、どきりとした。人とこんなふうに触(ふ)れ合うのは久(ひさ)しぶりだった。一緒(いっしょ)に暮らしている母親とは、いつも反発(はんぱつ)ばかりしていたから。
 どのくらい歩いただろうか、細長い窪地(くぼち)にさしかかった。いつ頃掘(ほ)られたのだろうか、神社の周りは空堀(からぼり)で囲(かこ)まれているのだ。窪地の向こうの木々の間に、神社のお社(やしろ)が見え隠(かく)れしている。崩(くず)れて緩(ゆる)やかな傾斜(けいしゃ)になっているところを通り、二人は空堀を越(こ)えた。
 神社の境内(けいだい)に出ると、二人は気恥(きは)ずかしさから、どちらからともなく手を離した。
 境内は大きな木々に囲まれていて、夏だというのに涼(すず)やかな風に包(つつ)まれていた。少年は細い参道(さんどう)を歩いて行く。少し遅(おく)れて、少女も歩き出した。二人とも、どうしたらいいのか分からず無言(むごん)のままだ。誰もいない境内に、蝉(せみ)の声だけが響(ひび)いていた。
<つぶやき>この二人の出会いから、何かが始まるのでしょうか。それはまた次のお話。
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2017年06月07日

「空からきた少女」040

「幼なじみ」
 古ぼけた鳥居(とりい)をくぐり、道に出た。ここは田舎(いなか)町なので、歩いている人などいなかった。少し離れたところにある畑(はたけ)で、農作業をしている人が小さく見えるだけだ。
「家はどこ? 送って行くよ」少年は思い切って声をかけた。
「いえ…」少女はちょっと困った顔をして目を伏(ふ)せたが、少年の方をしっかりと見て、
「帰れます…。一人で帰れますから。ありがとう」
 少女は頭を下げるとにっこりと笑顔を見せて、そのまま背を向けて歩き出した。彼女の後ろ姿はどこか寂(さび)しげで、少年の心はざわついていた。少年は彼女とつないだ手を見る。まだ、彼女のぬくもりが残っているような、そんな気がした。
 そんな二人の様子(ようす)を木陰(こかげ)から見ていた者がいた。少女が離れていくのを見届(みとど)けてから、ゆっくりと少年に近づいて声をかけた。
「ねえ、大介(だいすけ)。いまの子、だれ?」
 少年は驚(おどろ)いて振り返った。そこにいたのは幼なじみの花代(はなよ)だ。
「知るかよ」大介はぶっきらぼうに答えた。
「こんなとこで何してたの?」花代は神社の方を見て言った。
「お前には関係ねえだろ。もう、うるせえなぁ」
「何よ。そんな言い方しなくても…」
<つぶやき>田舎では子供たちの遊び場はいっぱい。でも気をつけないといけないことも。
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2017年06月25日
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