連載物語

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連載物語

「空からきた少女」021

「国家機密」
 チップメル教授は信じることが出来なかった。研究分野は違っても、同じ科学者として尊敬(そんけい)できる人物だったからだ。そんな教授の様子を観察しながら、アールは話を続けた。
「実は、あなたの発見したチップの中に、博士が開発した装置の情報が含まれていたのです。勿論(もちろん)、これは外部には公表していないもので、国家機密(きみつ)になっていました」
「何が言いたのですか?」教授は感情的になり、「博士が機密の漏洩(ろうえい)をしたとでも!」
「落ちついて下さい。いまさら国家反逆罪(はんぎゃくざい)を持ち出すつもりはありません。ただ、当時も機密漏洩の噂(うわさ)はあったようです。まっ先に容疑者として疑(うたが)われたのは、ハンメル博士でした。でも、証拠が確認できなかった。当時の捜査官の記録によると、そのころ博士は他の所員からあまりよく思われていなかったようです。妬(ねた)まれていたんでしょうな。あまりにも先を行きすぎていましたから。それで、あらぬ疑いをかけられた訳です」
 アールはなおも話を続けた。
「今となっては、誰が機密を漏らしたかは問題ではありません。ハンメル博士の開発した技術が使われていたとなると、あの兵器は最高水準の破壊(はかい)兵器だということになる」
「そうですね。でも、よかったじゃないですか。調査をすることになったんですから」
「それはどうでしょう。もし兵器が発見された場合、我が国はまずい立場に立たされることになりかねない。そうは思いませんか?」
<つぶやき>誰にも知られたくない秘めごと。多かれ少なかれ、誰でも持ってるかもね。
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2016年11月04日

「空からきた少女」022

「宇宙の同化」
 チップメル教授は何も答えられなかった。アールは先を続ける。
「事情はどうあれ、この国の科学者が関わっているわけですから。銀河連盟における我が国の立場を危(あや)うくしかねない問題なのです」
 教授はため息をついた。まさかこんな大事(おおごと)になるなんて。
「それで、私に何ができます?」教授は困惑して言った。「私に協力できることなんかありませんよ。だいいち、博士がどんな研究をしていたのか、まったく知らないんですから」
「あなたと同じ研究ですよ」アールはそう言うとまた薄笑いを浮かべた。「進化について研究していたんです。といっても、生物ではなく機械の進化ですがね」
「機械の進化?」チップメル教授は首をかしげた。
「ハンメル博士は、ある考えに取り憑(つ)かれていました。ひとつのシステムが全てを支配する世界。そこでは同じ価値観のもとで、戦争につながる争いもない。全宇宙の同化。博士は真剣に考えていたみたいですよ」
「そんなこと出来るわけがない」チップメルは叫んだ。「すべての種族を同化させるなんて。それは、侵略(しんりゃく)と同じじゃないですか」
「たしかにそうです。これは、平和の名のもとでの侵略に違いありません」
<つぶやき>違う価値観や考えがあるから、そこから新しいものが生まれてくるんです。
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2016年11月22日

「空からきた少女」023

「機械進化論」
「博士の目指す究極の世界。もし、それが実現していたらと思うと、ぞっとしますね」
 アールは楽しんでいるかのように言った。
 ハンメル博士が提唱(ていしょう)した機械進化論(しんかろん)。それは機械を進化させることで、この世界の秩序をより良い方向に導(みちび)くというものだ。この考えは、当時はまったく無視されていた。誰しも、実現は不可能だと思ったのだ。それは、今になっても変わることはなかった。だが、今回のことであらためて博士の研究資料を分析した結果、あながち絵空事(えそらごと)ではないとグリークの政府は判断したようだ。アールがここにやって来たのも、その対策のひとつなのだ。
「まさか、あの秘密兵器が…」チップメル教授は最悪のシナリオを想像した。
「そうかもしれません」アールは無表情に答えた。「われわれが入手した情報では、それを否定することはできない。もし、その兵器に進化の機能(きのう)が備(そな)わっていれば、この世界にとって大きな脅威(きょうい)となるでしょう」
「進化の機能…、それはどんなものなのですか?」
 チップメルは進化を研究する学者として、その言葉に好奇心をそそられた。
 アールはそれを見逃さなかった。「博士の論文の中にこんな記述(きじゅつ)がありました。機械に意志を与えると。つまり、その機械が自ら判断し行動できるようにする。そして、状況によって必要な機能を付け加えて増殖(ぞうしょく)させる。まるで生き物のようにね」
<つぶやき>現代の機械の進化は凄(すご)いです。あんなことや、こんなことができるんだから。
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2016年12月10日

「空からきた少女」024

「陰の力」
 チップメル教授は絞り出すように言った。
「でも、そんな機械を作ることができるのですか?」
「われわれは可能だと判断しました。もし兵器が稼働していれば、どんな形に進化しているか予測がつかない」
「稼働していないことを願いますね。そうでないと…」
「今、われわれは最高水準の研究者を集めて、探査装置の開発を進めています。それを完成させるためには、教授の知識が必要なのです」
「私の?」
「教授の宇宙生物学に関する研究は高く評価しています。ぜひ、協力していただきたい」
「それは…。まあ、私でお役に立つことがあれば…」
「では、われわれの研究所まで来ていただけますか?」
「ちょっと待って下さい」チップメル教授は慌てて言った。「私にも仕事があります。ここを離れるわけにはいきません。それに――」
 アールは手を上げて教授を制した。
「ご心配にはおよびません。あなたがここにいる理由は、何もありませんよ」
 アールはそう言うと、部下の二人に合図を送った。
<つぶやき>この後、教授の身に何が起きるのか。そこには、グリーク政府の陰の力が。
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2016年12月26日

「空からきた少女」025

「協力依頼」
 アールの合図で、部下の一人が電脳装置に小さな箱のようなものを置いてスイッチを入れた。次の瞬間、断末魔(だんまつま)のような警告音が鳴り響き、イゴールはすべての機能を停止した。
「何をしたんだ!」教授は驚いて駆け寄った。だが、もうどうすることもできなかった。
「どうやら寿命のようですね。残念です。われわれの研究所に来ていただければ、最新の電脳装置をご用意させていただきます」
「あなたは、私のこれまでの研究データをすべて消去したんですよ!」
 チップメル教授は怒りのあまりアールに詰め寄った。だが二人の部下にはばまれて、教授は息もつけないほど床に押しつけら身動きができなくなった。
「もういい。放(はな)すんだ」アールは部下たちに命令した。
 やっと解放された教授は荒い息をついた。その顔は恐怖のためか引きつっている。
「心配には及びません。あなたの研究データはすべて、われわれの研究所に転送しました」
「いつの間に…」
「あなたが会議に出席されていた時です。研究所には、あなたが必要とするすべてのデータが蓄積(ちくせき)されています。それも、最新のものがね。あなたは思う存分研究を進めることができるはずです。ただ、ほんの少しだけ、われわれに協力して下さればいいのです」
<つぶやき>アールの本当の目的は何なのか。不気味な感じですよね。これからどうなる?
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2017年01月04日

「空からきた少女」026

「連行」
 チップメル教授は必死になって考えた。アールの言うとおり悪い話ではない。最新の装置を使って、何の心配もなく研究を続けることができるのだ。しかし――。教授はアールを見て気がついた。自分には選択(せんたく)の余地(よち)がないことを。もしここで頑(かたく)なに断れば、何をされるかわからない。命さえ危(あや)ういかもしれない。教授はどんな研究所なのか訊(き)いてみた。
「惑星アルメスにあるホイル研究所です。これからすぐに出発してもらいます」
 それは聞いたこともない惑星の研究所だった。アールは続けて言った。
「生活に必要なものはすべて用意させます。どうしても必要なものだけ荷造りして下さい」
 なおも躊躇(ちゆうちよ)している教授にアールは命令口調(くちよう)で言った。「これは決定事項です」
 教授は覚悟(かくご)を決めて荷造りを始めた。飾られている標本などを鞄(かばん)に詰め込む。もともと余計なものは持たない方なので、出発の準備を終えるのに時間はかからなかった。教授はその間に、気づかれないように自分が連れて行かれる場所を書き残し、机の引き出しの奥にこっそりと隠した。友人が訪ねて来たときに、見つけてくれることを信じて。
 最後に教授は部屋の中を見まわした。もう二度と戻って来られないかもしれないと思うと、何ともやり切れない気持ちで一杯(いつぱい)になった。――アールは教授を先に行かせると、机の引き出しからメモ書きを取り出して、くしゃくしゃに握(にぎ)りつぶした。
<つぶやき>自分の思うように生きることができれば、それが幸せなのかもしれません。
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2017年01月13日
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