連載物語

サイト管理人のブログです。

連載物語

「空からきた少女」026

「連行」
 チップメル教授は必死になって考えた。アールの言うとおり悪い話ではない。最新の装置を使って、何の心配もなく研究を続けることができるのだ。しかし――。教授はアールを見て気がついた。自分には選択(せんたく)の余地(よち)がないことを。もしここで頑(かたく)なに断れば、何をされるかわからない。命さえ危(あや)ういかもしれない。教授はどんな研究所なのか訊(き)いてみた。
「惑星アルメスにあるホイル研究所です。これからすぐに出発してもらいます」
 それは聞いたこともない惑星の研究所だった。アールは続けて言った。
「生活に必要なものはすべて用意させます。どうしても必要なものだけ荷造りして下さい」
 なおも躊躇(ちゆうちよ)している教授にアールは命令口調(くちよう)で言った。「これは決定事項です」
 教授は覚悟(かくご)を決めて荷造りを始めた。飾られている標本などを鞄(かばん)に詰め込む。もともと余計なものは持たない方なので、出発の準備を終えるのに時間はかからなかった。教授はその間に、気づかれないように自分が連れて行かれる場所を書き残し、机の引き出しの奥にこっそりと隠した。友人が訪ねて来たときに、見つけてくれることを信じて。
 最後に教授は部屋の中を見まわした。もう二度と戻って来られないかもしれないと思うと、何ともやり切れない気持ちで一杯(いつぱい)になった。――アールは教授を先に行かせると、机の引き出しからメモ書きを取り出して、くしゃくしゃに握(にぎ)りつぶした。
<つぶやき>自分の思うように生きることができれば、それが幸せなのかもしれません。
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年01月13日

「空からきた少女」027

「ホイル研究所」
 アルメスは小型の惑星で、赤茶けた空と荒涼(こうりょう)とした大地が広がっていた。薄い大気に覆(おお)われていて、ひとたび風が吹けば砂を巻き上げて何もかも隠してしまう。生物にとっては過酷(かこく)な環境だった。こんな、何もない星に立ち寄ろうとする者など、いるはずもない。
 ホイル研究所はこの星の地下深くに造られていて、地上部分には監視(かんし)のための装置が置かれていた。研究所の入口近くには、小さな観測所にカムフラージュされた監視施設がある。研究所は地下で何層にもわかれていて、地上部とは違い快適な環境が維持(いじ)されていた。ここはグリークの秘密機関が管理していて、この巨大な研究施設の存在を知る者はごくわずかだ。他の連盟国にもまったく知られていない。
 ここにはいろんな種族の技術者や研究者が集められていた。それも、突拍子(とっぴょうし)もない考えの持ち主ばかりだ。言いかえれば、組織になじめないはみだし者や厄介(やっかい)者たち。そんな連中がここに集められている。彼らは変わり者ばかりだが、あらゆる分野のトップクラスの人材がそろっていた。彼らの考えは斬新(ざんしん)、奇抜(きばつ)で、並みの者には理解できない。
 この場所は通信も遮断(しゃだん)されていて、外部とは完全に隔離(かくり)されていた。ここに来たら、特別の許可がおりない限り外へ出ることは許されない。研究所の中でも監視システムが作動していて、彼らの行動や研究の進み具合を逐一(ちくいち)チェックしていた。
<つぶやき>宇宙にはいろんな星がある。気軽に行けないけど、想像の翼をひろげると…。
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年01月31日

「空からきた少女」028

「巨大な施設」
 彼らの中には無理やり連れてこられた者もいたが、誰一人として監獄(かんごく)のような研究所から逃げ出そうとする者はいなかった。
 なぜなら、ここは彼らにとって最高の場所だからだ。自分のやりたい研究を、誰にも邪魔(じゃま)されることなくできるのだ。倫理(りんり)や道徳(どうとく)も関係ない。それに研究資金の心配もまったくなく、どんな希少(きしょう)な高価なものでも注文を出せば必ず手に入れられるのだ。監視(かんし)されたり多少の不自由はあるものの、そんなことを気にする者などいなかった。誰もが研究に没頭し、他の研究者とも意見をぶつけ合い、時間のたつのも忘れるような忙しさだ。
 チップメル教授が初めて研究所に足を踏み入れたとき、あまりの規模の大きさに驚いた。入口の扉が開くと大きな縦穴の空間が目の前に広がり、底を覗くと足がすくむほど深かった。縦穴の周りには透明の壁で仕切られた部屋があり、それが何層も底の方まで続いていた。ひとつひとつの部屋では、何人もの研究者が忙しそうに動きまわっている。
 呆気(あっけ)にとられている教授に、案内ロボットが近づいて来て、後ろへ乗るように指示をした。ロボットの後ろへ回ってみると立って乗れる部分がある。教授が指示どおりに上に乗ると、それは動き出した。何層か下の階に下り、迷路のような通路を進んで行く。その間に、何カ所も扉で区切られた所があり、センサーによるチェックが行われた。教授は警備の厳重(げんじゅう)さを目(ま)の当(あ)たりにして、とんでもない所に来てしまったんだと実感した。
<つぶやき>自由とは何でしょう。それは誰かが決めるものではなく、自分の中にある。
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年02月18日

「空からきた少女」029

「つのる不安」
 チップメル教授(きょうじゅ)は、自分が今何処(どこ)にいるのかまったく分からなくなった。
「さっきの入口へ戻るには、このロボットに案内させないと…。でも、こいつは私の言うことを聞いてくれるのか?」教授はそんなことを漠然(ばくぜん)と考えていた。
 その時、突然目の前で爆発(ばくはつ)が起こった。教授は爆音(ばくおん)に驚いて、ロボットにしがみついた。十数メートル先にある部屋の扉(とびら)が吹(ふ)っ飛び、煙(けむり)がもくもくと外へ吐(は)き出されている。
 煙はまたたく間に通路に充満(じゅうまん)し、あちこちで警報(けいほう)が鳴(な)り響いた。部屋の中では炎(ほのお)が立ち上っている。次の瞬間(しゅんかん)、部屋の天井から消火液が勢いよく噴射(ふんしゃ)され、あっという間に炎を消し止めてしまった。あれだけ立ち上っていた煙も、天井の穴の中へ吸い込まれていく。そして、どこからともなくロボットたちが集まってきて、部屋の中の研究員を救助(きゅうじょ)し、あたりに散乱(さんらん)している残骸(ざんがい)の後片付けを開始した。
 かなり大きな爆発だったのに、透明(とうめい)の壁(かべ)はまったく無傷(むきず)だった。それに、不思議なことに他の部屋からは誰も出て来ない。まったく無関心(むかんしん)なのか、それとも本当に気づかなかったのか…。透明の研究室の中では、忙しそうに働いている研究員の姿があった。
 案内ロボットは別ルートを検索(けんさく)し終わると、その場を離れて脇(わき)の通路を進んで行った。チップメル教授はますます不安になってきた。この先、どんな運命が待っているのか、まったく予測(よそく)ができないのだ。
<つぶやき>先のことが分からないと不安です。でも、先へ進まなくちゃ何も始まらない。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年02月27日

「空からきた少女」030

「探査プロジェクト」
 この研究所(けんきゅうしょ)では、以前(いぜん)から新型の探査機(たんさき)の開発(かいはつ)が進められていた。それは、どんな環境(かんきょう)にも適応(てきおう)でき、不測(ふそく)の事態(じたい)でも判断(はんだん)を下せる自立型(じりつがた)探査ロボット。グリーク政府は他の国に先駆(さきが)けて、未開(みかい)の宇宙の探査に乗り出そうとしていた。広大な宇宙には膨大(ぼうだい)な資源(しげん)が眠っている。それを独占(どくせん)することができれば、グリークの力は確固(かっこ)たるものになる。
 透明(とうめい)な壁(かべ)に囲まれた会議室には、数十人の研究者や技術者が集められていた。この探査機のプロジェクトが動きはじめて以来、開発メンバー全員が顔をそろえるのは初めてだった。会議室の中では、いろいろな言葉が飛び交(か)いざわついていた。チームリーダーと思われる男が入ってくると、やっと静かになった。
 バルンガ星人(せいじん)のリーダーは一同を前にして言った。
「さあ、私たちの子どもを送り出す時がきました。いよいよ、探査が始まります」
 会議室に歓声(かんせい)があがった。今までの研究成果をみせるときがきたのだ。さらに、リーダーは続けた。「探査のエリアは、六万光年離れた辺境(へんきょう)の宇宙域です」
 その時、誰かが声をあげた。「ちょっと待てくれ。何でここに部外者(ぶがいしゃ)がいるんだ」
 彼はそう言うと、部屋の隅(すみ)に静かに座っていた数名を指さした。そこにいたのは、小型兵器の開発をしている技術者たちだった。会議室は静まりかえり、彼らに注目(ちゅうもく)が集まった。
<つぶやき>未知のものを探究する。何だかワクワクしますね。そこにはどんな世界が…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月08日

「空からきた少女」031

「集められた頭脳」
 みんなの視線(しせん)を集めた部外者(ぶがいしゃ)の一人が、顔色を変えることなく面倒臭(めんどくさ)そうに答えた。
「それはこっちが聞きたいよ。われわれは呼ばれたから来ただけだ」
 チームリーダーはみんなに聞こえるように言った。
「探査(たんさ)の詳細(しょうさい)は私にもわからない。が、上の連中(れんちゅう)から、今回の探査にどうしても必要(ひつよう)な人材(じんざい)だ、と聞いています」
「われわれは兵器(へいき)を作るためにやってきたんじゃない」誰かが声をあげた。
「それは、もちろんです。しかし、私たちには運用(うんよう)の決定権(けっていけん)はありません。私たちの研究をどう生かすかは、この研究所の責任者(せきにんしゃ)が決めることです」
 会議室に重い空気がただよった。ちょうどそこに、チップメル教授(きょうじゅ)が顔を出した。教授は一同の注目(ちゅうもく)を集めてしまい、思わず後(あと)ずさった。
 チームリーダーがチップメル教授をみんなに紹介(しょうかい)した。その場にいた生物学者は、彼の名を聞き驚きの声をあげる。教授は宇宙生物の環境(かんきょう)による進化(しんか)についての第一人者なのだ。
 その時、天井(てんじょう)からモニターが静かに下りてきた。そこに映し出されたのはアールの姿。その場にいた全員に緊張(きんちょう)が走った。アールはそこに集められたメンバーに向かって、何の感情(かんじょう)も見せず今回の任務(にんむ)の説明(せつめい)を始めた。
<つぶやき>いろんな人の知恵(ちえ)と力を合わせると、今までに無かったものが生まれてくる。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月17日
» 続きを読む