連載物語

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連載物語

「空からきた少女」023

「機械進化論」
「博士の目指す究極の世界。もし、それが実現していたらと思うと、ぞっとしますね」
 アールは楽しんでいるかのように言った。
 ハンメル博士が提唱(ていしょう)した機械進化論(しんかろん)。それは機械を進化させることで、この世界の秩序をより良い方向に導(みちび)くというものだ。この考えは、当時はまったく無視されていた。誰しも、実現は不可能だと思ったのだ。それは、今になっても変わることはなかった。だが、今回のことであらためて博士の研究資料を分析した結果、あながち絵空事(えそらごと)ではないとグリークの政府は判断したようだ。アールがここにやって来たのも、その対策のひとつなのだ。
「まさか、あの秘密兵器が…」チップメル教授は最悪のシナリオを想像した。
「そうかもしれません」アールは無表情に答えた。「われわれが入手した情報では、それを否定することはできない。もし、その兵器に進化の機能(きのう)が備(そな)わっていれば、この世界にとって大きな脅威(きょうい)となるでしょう」
「進化の機能…、それはどんなものなのですか?」
 チップメルは進化を研究する学者として、その言葉に好奇心をそそられた。
 アールはそれを見逃さなかった。「博士の論文の中にこんな記述(きじゅつ)がありました。機械に意志を与えると。つまり、その機械が自ら判断し行動できるようにする。そして、状況によって必要な機能を付け加えて増殖(ぞうしょく)させる。まるで生き物のようにね」
<つぶやき>現代の機械の進化は凄(すご)いです。あんなことや、こんなことができるんだから。
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2016年12月10日

「空からきた少女」024

「陰の力」
 チップメル教授は絞り出すように言った。
「でも、そんな機械を作ることができるのですか?」
「われわれは可能だと判断しました。もし兵器が稼働していれば、どんな形に進化しているか予測がつかない」
「稼働していないことを願いますね。そうでないと…」
「今、われわれは最高水準の研究者を集めて、探査装置の開発を進めています。それを完成させるためには、教授の知識が必要なのです」
「私の?」
「教授の宇宙生物学に関する研究は高く評価しています。ぜひ、協力していただきたい」
「それは…。まあ、私でお役に立つことがあれば…」
「では、われわれの研究所まで来ていただけますか?」
「ちょっと待って下さい」チップメル教授は慌てて言った。「私にも仕事があります。ここを離れるわけにはいきません。それに――」
 アールは手を上げて教授を制した。
「ご心配にはおよびません。あなたがここにいる理由は、何もありませんよ」
 アールはそう言うと、部下の二人に合図を送った。
<つぶやき>この後、教授の身に何が起きるのか。そこには、グリーク政府の陰の力が。
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2016年12月26日

「空からきた少女」025

「協力依頼」
 アールの合図で、部下の一人が電脳装置に小さな箱のようなものを置いてスイッチを入れた。次の瞬間、断末魔(だんまつま)のような警告音が鳴り響き、イゴールはすべての機能を停止した。
「何をしたんだ!」教授は驚いて駆け寄った。だが、もうどうすることもできなかった。
「どうやら寿命のようですね。残念です。われわれの研究所に来ていただければ、最新の電脳装置をご用意させていただきます」
「あなたは、私のこれまでの研究データをすべて消去したんですよ!」
 チップメル教授は怒りのあまりアールに詰め寄った。だが二人の部下にはばまれて、教授は息もつけないほど床に押しつけら身動きができなくなった。
「もういい。放(はな)すんだ」アールは部下たちに命令した。
 やっと解放された教授は荒い息をついた。その顔は恐怖のためか引きつっている。
「心配には及びません。あなたの研究データはすべて、われわれの研究所に転送しました」
「いつの間に…」
「あなたが会議に出席されていた時です。研究所には、あなたが必要とするすべてのデータが蓄積(ちくせき)されています。それも、最新のものがね。あなたは思う存分研究を進めることができるはずです。ただ、ほんの少しだけ、われわれに協力して下さればいいのです」
<つぶやき>アールの本当の目的は何なのか。不気味な感じですよね。これからどうなる?
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2017年01月04日

「空からきた少女」026

「連行」
 チップメル教授は必死になって考えた。アールの言うとおり悪い話ではない。最新の装置を使って、何の心配もなく研究を続けることができるのだ。しかし――。教授はアールを見て気がついた。自分には選択(せんたく)の余地(よち)がないことを。もしここで頑(かたく)なに断れば、何をされるかわからない。命さえ危(あや)ういかもしれない。教授はどんな研究所なのか訊(き)いてみた。
「惑星アルメスにあるホイル研究所です。これからすぐに出発してもらいます」
 それは聞いたこともない惑星の研究所だった。アールは続けて言った。
「生活に必要なものはすべて用意させます。どうしても必要なものだけ荷造りして下さい」
 なおも躊躇(ちゆうちよ)している教授にアールは命令口調(くちよう)で言った。「これは決定事項です」
 教授は覚悟(かくご)を決めて荷造りを始めた。飾られている標本などを鞄(かばん)に詰め込む。もともと余計なものは持たない方なので、出発の準備を終えるのに時間はかからなかった。教授はその間に、気づかれないように自分が連れて行かれる場所を書き残し、机の引き出しの奥にこっそりと隠した。友人が訪ねて来たときに、見つけてくれることを信じて。
 最後に教授は部屋の中を見まわした。もう二度と戻って来られないかもしれないと思うと、何ともやり切れない気持ちで一杯(いつぱい)になった。――アールは教授を先に行かせると、机の引き出しからメモ書きを取り出して、くしゃくしゃに握(にぎ)りつぶした。
<つぶやき>自分の思うように生きることができれば、それが幸せなのかもしれません。
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2017年01月13日

「空からきた少女」027

「ホイル研究所」
 アルメスは小型の惑星で、赤茶けた空と荒涼(こうりょう)とした大地が広がっていた。薄い大気に覆(おお)われていて、ひとたび風が吹けば砂を巻き上げて何もかも隠してしまう。生物にとっては過酷(かこく)な環境だった。こんな、何もない星に立ち寄ろうとする者など、いるはずもない。
 ホイル研究所はこの星の地下深くに造られていて、地上部分には監視(かんし)のための装置が置かれていた。研究所の入口近くには、小さな観測所にカムフラージュされた監視施設がある。研究所は地下で何層にもわかれていて、地上部とは違い快適な環境が維持(いじ)されていた。ここはグリークの秘密機関が管理していて、この巨大な研究施設の存在を知る者はごくわずかだ。他の連盟国にもまったく知られていない。
 ここにはいろんな種族の技術者や研究者が集められていた。それも、突拍子(とっぴょうし)もない考えの持ち主ばかりだ。言いかえれば、組織になじめないはみだし者や厄介(やっかい)者たち。そんな連中がここに集められている。彼らは変わり者ばかりだが、あらゆる分野のトップクラスの人材がそろっていた。彼らの考えは斬新(ざんしん)、奇抜(きばつ)で、並みの者には理解できない。
 この場所は通信も遮断(しゃだん)されていて、外部とは完全に隔離(かくり)されていた。ここに来たら、特別の許可がおりない限り外へ出ることは許されない。研究所の中でも監視システムが作動していて、彼らの行動や研究の進み具合を逐一(ちくいち)チェックしていた。
<つぶやき>宇宙にはいろんな星がある。気軽に行けないけど、想像の翼をひろげると…。
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2017年01月31日

「空からきた少女」028

「巨大な施設」
 彼らの中には無理やり連れてこられた者もいたが、誰一人として監獄(かんごく)のような研究所から逃げ出そうとする者はいなかった。
 なぜなら、ここは彼らにとって最高の場所だからだ。自分のやりたい研究を、誰にも邪魔(じゃま)されることなくできるのだ。倫理(りんり)や道徳(どうとく)も関係ない。それに研究資金の心配もまったくなく、どんな希少(きしょう)な高価なものでも注文を出せば必ず手に入れられるのだ。監視(かんし)されたり多少の不自由はあるものの、そんなことを気にする者などいなかった。誰もが研究に没頭し、他の研究者とも意見をぶつけ合い、時間のたつのも忘れるような忙しさだ。
 チップメル教授が初めて研究所に足を踏み入れたとき、あまりの規模の大きさに驚いた。入口の扉が開くと大きな縦穴の空間が目の前に広がり、底を覗くと足がすくむほど深かった。縦穴の周りには透明の壁で仕切られた部屋があり、それが何層も底の方まで続いていた。ひとつひとつの部屋では、何人もの研究者が忙しそうに動きまわっている。
 呆気(あっけ)にとられている教授に、案内ロボットが近づいて来て、後ろへ乗るように指示をした。ロボットの後ろへ回ってみると立って乗れる部分がある。教授が指示どおりに上に乗ると、それは動き出した。何層か下の階に下り、迷路のような通路を進んで行く。その間に、何カ所も扉で区切られた所があり、センサーによるチェックが行われた。教授は警備の厳重(げんじゅう)さを目(ま)の当(あ)たりにして、とんでもない所に来てしまったんだと実感した。
<つぶやき>自由とは何でしょう。それは誰かが決めるものではなく、自分の中にある。
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2017年02月18日
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