読切物語

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読切物語

「残されたもの」

(再公開 2017/09/11)
 ある資産家が亡くなった。彼は良き家族を持っていたようで、世間で言う遺産争(いさんあらそ)いにはならなかった。でも、それはきちんとした遺言書(ゆいごんしょ)が作られていたからだろう。
 それが見つかったのは、葬儀(そうぎ)も終わり、彼の家族が遺品(いひん)の整理をしていた時のことだ。それは本の間に挟(はさ)まっていて、茶封筒にきれいに折りたたまれて見つかった。それには意味不明の文字や絵がびっしりと羅列(られつ)されていた。封筒には<我が良き家族へ>と書かれている。そこにいた家族はみんな頭をかかえた。もしかしたら、まだ他に遺産があるのかもしれない。その隠し場所がここに書かれているのでは…。実際、彼の資産がどれだけあったのか、家族は誰も知らない。だから、そう思う者がいても不思議ではないのだ。
 そこで家族たちは相談した。もしお宝が見つかったらみんなで折半(せっぱん)することを条件に、彼らは探偵を雇(やと)うことにした。最も信用があって、頭の切れそうな探偵を――。
「これが、問題の…」探偵はそれを見るなり口を閉じた。何事かを考えているように、じっとそれを見つめる。隣にいた助手が口を挟んだ。
「これが暗号なんですか? これだけじゃ、何が何だか分からないわ」
 探偵は笑みを浮かべると助手に呟(つぶや)いた。「さっぱり分からん。君の言う通りだ」
 落胆(らくたん)している家族を前に探偵は言った。
「亡くなった方のことを教えていただけませんか? そこにヒントがあるかもしれない」
 家族の話をまとめると、茶目(ちゃめ)っ気たっぷりの人で、いつもみんなを煙(けむ)に巻いて楽しんでいたそうだ。探偵はますます頭をかかえた。残されていた遺品すべてを調べてみたが、謎を解く鍵は見つからなかった。探偵は家族の前でおもむろに言った。
「もう少し時間をいただけませんか。これを持ち帰って、じっくりと…」
 家族たちの顔には失望(しつぼう)の色が出ていた。探偵は仕方なく、
「でも、一つだけ分かったことがあります。これには家族に対する感謝の気持ちが込められていました。よく見ると、この中にはアリが10匹、描かれています。つまり――」
「ありがとう?」助手が思わず呟いた。「だじゃれですか?」
 探偵はそれを助手に押しつけて、話を続ける。「そうです。これはまさに、そういうことなんです。最後の最後まで、皆さんを楽しませようとされたのではないでしょうか」
 家族たちはなるほどと、腑(ふ)に落ちたようだ。探偵はさらに調査を続けると約束して、その家を後にした。家を出てからも、助手はそれを首を傾(かし)げながら見つめていたが、
「先生、変ですよ。あたし、何度も数えてみたんですが、この中にアリが12匹いるんです。これって、どういうことなんですか?」
 探偵は助手からそれを取り上げると言った。
「いいんだよ、そんなことは。それより」探偵はポケットから小さな手帳を取り出して、
「遺品の中でこれを見つけたんだ。この中にも、同じ絵が描かれていた」
「先生、黙って持って来ちゃったんですか? そんなことしたら…」
「人聞きの悪いことを…。ちょっと拝借(はいしゃく)しただけだ。これも依頼人のためだろっ」
「そんなこと言って。お宝を一人占(ひとりじ)めしようって…。ダメですよ、そんなことしちゃ」
<つぶやき>探偵も生きていくにはお金が必要なんです。でも、猫ババはダメですからね。
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2014年03月12日

「待ちきれない」

(再公開 2017/09/19)
 彼女は待っていた。彼の口からプロポーズの言葉が出るのを…。でも彼は、何か言いたそうな素振(そぶ)りは見せるのだが、肝心(かんじん)なことになるとまるっきりダメなのだ。彼女にはそれがもどかしかった。――思い起(お)こせば、彼が告白しようとしたときも…。なかなか言い出してくれないから、仕方(しかた)なく彼女のほうから、
「あなたのこと好きかも…。私たち、付き合わない?」って言ってしまった。
 だからこそ、プロポーズは彼の方からしてほしい。彼女はそう思っていた。今日のデートでも、言うチャンスはたくさんあったはずだ。それに、今日は特別な日。彼だってそれが分かってて、こんな素敵(すてき)なレストランを予約したはずよ。なのに…。
 食事も終わりに近づいていた。デザートが運ばれて来て、二人の前に並べられる。彼女は小さな歓声(かんせい)をあげて、彼に笑顔を向ける。でも内心(ないしん)では、
「さあ、今よ。今でしょ。今言わないで、いつ言うのよ!」
 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、彼は美味(おい)しそうにデザートを頬張(ほおば)った。彼女は小さく溜息(ためいき)をつき、デザートを口にする。美味しいはずなのに、ちっとも美味しく感じないのはなぜ…。今日、プロポーズしてくれるんじゃないの?
 もう帰らなきゃいけない時間が迫(せま)っていた。彼も時計を気にしはじめた。二人の会話も途切(とぎ)れ途切れになり…。彼女は彼を見つめて、意味深な微笑(ほほえ)みを浮かべる。そして心の中で呪文(じゅもん)のように何度も呟(つぶや)いた。
「これが最後よ。言いなさい。プロポーズ、プロポーズ、プロポーズ…」
 きっと心の声が顔に出てしまったのだろう。彼は心配そうに彼女の顔を見て言った。
「大丈夫? お腹(なか)でも痛いの?」
 彼女は我(われ)に返って、「えっ、いや…。何でもない、何でもないわよ。別に…」
「だって、眉間(みけん)にシワ寄せて、苦しそうに見えたんだけど…」
 彼女は思った。こいつ、プロポーズする気なんてないんだ。期待した私がバカだったのよ。あーっもう、せっかくの記念日なのに――。
 二人は店を出ると、駅へ向かって歩き出した。彼女はどうやらご機嫌(きげん)ななめのようで、俯(うつむ)き加減(かげん)で黙(だま)って歩いていた。彼の方も、ポケットへ手を突っ込んでスタスタと…。ほどなくすると駅前に到着(とうちゃく)した。ここで二人は別れることとなる。
 彼女は彼の顔を見るでもなく手を上げて言った。「じゃ、またね」
 彼女の顔には、いつもの笑顔はなかった。足取りも重く、彼女は改札へ向かって歩き出す。すると、すぐに彼が彼女を呼び止めた。彼女が振り向くと、彼は指輪の箱を差し出して叫んだ。「あの…、ぼっ、僕と、け、けっ――」
 彼女は顔を真っ赤にして駆(か)けて来ると、慌(あわ)てて彼の口を押さえて小さな声で、
「ちょ、ちょっと…。こんなとこで、それはないでしょ。みんなが見てるじゃない」
 確かに駅前である。遅い時間でも人通りはある。彼はそこまで目に入らなかったようだ。
「ごめん。でも、今しかないと思って…。僕と、結婚してく――」
 彼女はキスで彼の口を塞(ふさ)ぐと、彼の耳元で囁(ささや)いた。
「もう、帰りたくなくなっちゃうじゃない。どうしてくれるのよ」
<つぶやき>恋は盲目(もうもく)にするものなのです。恋人たちの邪魔(じゃま)だけはしないようにしましょ。
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2014年05月03日

「恋の時計」

(再公開 2017/09/28)
 気がつけば、もう何年も恋なんかしていなかった。そりゃ、私だって学生の頃は、憧(あこが)れの先輩(せんぱい)とか、好きになった人もいたわよ。あの頃は、好きだって気持ちだけで充分(じゅうぶん)。それだけで幸せだった気がする。――社会人になってからは仕事に追(お)われて、恋に目を向ける余裕(よゆう)なんか…。
 そんな私に、恋の女神(めがみ)が微笑(ほほえ)みかけた。私、好きな人ができたの。――でも、恋に鈍感(どんかん)になっていた私は、そんな自分の気持ちにも気づかなかった。
 その人には、好きな人がいたの。それも、私の親友。私が、その人に親友を紹介(しょうかい)したの。だって、私、その時は、その人のこと会社の先輩としか思ってなかったから…。二人から付き合うことになったって聞いた時は、びっくりして言葉も出なかったわ。
 それからというもの、親友から先輩との仲(なか)むつまじい話を聞くたびに、私の心はざわついて…。私、何でこんな気持ちになるのか全然(ぜんぜん)分からなかった。前は、親友と会えるのが楽しみだったのに、だんだん彼女を避(さ)けるようになってしまった。仕事が忙(いそが)しいって理由(りゆう)を作って…。
 そんな時、先輩から彼女が入院したって聞かされた。私は驚いて、病院へお見舞いに行ったわ。病室へ入るとき、何だが後ろめたくて立ち止まってしまったけど…。ベッドの上の彼女は、全然変わっていなかった。いつもの笑顔で私に話しかけてくる。私は、何だかホッとして、昔のようにおしゃべりをすることが出来た。
 でも、何度も見舞に行ったけど、彼女の病気は…。
 ――半年ほどして、彼女は帰らぬ人になってしまった。後から聞いた話だけど、先輩は、彼女が亡くなる二日前にプロポーズをしたらしい。だけど、彼女はほんの少し微笑んだだけで、目を閉じて何も答えなかったって。
 ――あれから二年たったけど、先輩の心にはまだ彼女がいて…。そこに、私の入る余地(よち)なんてどこにもない。そんなこと分かってた。分かってたけど、私は思いきって先輩に告白した。だって、私、先輩のことずっと好きだったから。
 先輩はちょっと困った顔をしたけど、私を見つめてこう言ったわ。
「僕、もう恋はしないんだ。一生分の恋をしてしまったから。――ごめんね」
 そんなこと言われたら、もう何も言えなくなっちゃうじゃない。ずるいよ。――思い出の中の彼女は、ずっと美しいままじゃない。私が何をしたってかなうわけない。だけど…。このままじゃいけないわ。いいわけないじゃない。こんなこと、親友の彼女だって望(のぞ)んでなんかいない。
 私、決心したわ。女子力を磨(みが)いて、良い女になってみせる。そして何度でも告白して、先輩を振り向かせてやる。うざい女って思われてもかまわない。嫌(きら)われたって…、それはちょっとイヤだけど…。先輩の、止まってしまった恋の時計を動かさなきゃ。
 それでもだめなら、私、潔(いさぎよ)くあきらめるわ。でも…、私じゃなくても、誰かと恋をして、結婚して、幸せな家庭をもって…。彼女がつかめなかった幸せを、先輩にはかなえてほしいの。そのためなら、私、何だってするから――。
<つぶやき>一途な想いを持ち続けるのは大変ですよね。でも、人は前へ進まなくては…。
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2014年11月09日

「禁断の場所」

 町外れに、大きくて立派(りっぱ)な屋敷(やしき)が建っていた。だが手入れをしていないようで、柵(さく)が壊れていたり、屋敷の雨よけの戸が外(はず)れかけていたり、広い庭園(ていえん)も雑草がはびこっていた。まるで廃墟(はいきょ)のようで、人が住んでいるようには見えなかった。
 この屋敷を外から覗(のぞ)いている姉妹(しまい)がいた。姉が妹の手を引っ張って、
「もう帰りましょ。こんなところに住んでる人なんかいないわよ」
 妹は動こうとせずに答えた。「あたし見たのよ。昨日の夕方、明かりが点いてたわ」
「見間違(みまちが)いよ。ここからじゃ、草が邪魔(じゃま)をして家の窓(まど)なんか見えないじゃない」
「ほんとに見たの。こっちよ、柵が壊れているところがあるの」
 妹は、今度は逆(ぎゃく)に姉の手を引っぱって駆(か)け出した。――妹が言う通り、柵が壊れていて子供が入れる隙間(すきま)があった。妹はするりとそこを抜(ぬ)けて中へ入る。姉はためらって、
「ダメよ、勝手(かって)に入ったら怒(おこ)られるわよ。戻って来なさい」
「心配(しんぱい)ないわよ。人なんか住んでないんでしょ? あたしひとりで行ってくるわ」
 妹は屋敷の方へ歩き出した。姉は、ほっとくわけにもいかず、隙間を何とかくぐり抜けて妹の後を追いかけた。――草をかき分けてしばらく行くと、開けた場所に出た。目の前に、大きな屋敷が飛び込んで来た。二人は顔を見合わせて、屋敷の壁際(かべぎわ)まで駆け出した。そして、壁づたいに一つ一つの窓から中を覗いて見る。人の気配(けはい)はなかったが、でも思ったより部屋の中は整然(せいぜん)としていた。玄関までたどり着くと、姉は呼鈴(よびりん)を探してみた。でも妹の方は、玄関の扉(とびら)に手をかけた。扉は鈍(にぶ)い音を立てて動き出す。姉は驚いて声をあげた。
「何してるのよ。もし誰か住んでたらどうするの」
 妹は唇(くちびる)に人差し指をあてて静かにするように合図(あいず)をすると、扉から頭を突っ込んで家の中を覗いて見た。屋敷は中世の洋館という感じで、がらんとしていて骨董品(こっとうひん)らしきものがあちこちに飾られていた。耳を澄(す)ましていると、どこからか低く唸(うな)るような音がかすかに聞こえてきた。妹は思わず屋敷の中へ――。二人は音のする方へ歩き出した。
 ――その部屋には、複雑に組み立てられた機械(きかい)が並んでいた。色とりどりのランプが点滅し、火花を散らしながら、まるで呼吸(こきゅう)をしているように音を立てていた。
「さあ、やっと完成(かんせい)だ。今までさんざんわしをバカにしてきた連中に、吠(ほ)え面(ずら)をかかせてやる。わしの考えが正しかったことを見せつけてやるんだ」
 白髪(しらが)まじりの頭で、白衣(はくい)を着ている男が高笑いをした。その様子(ようす)を廊下(ろうか)の窓から覗いているのは、あの姉妹だ。男は機械を愛(いと)おしそうに触(ふ)れながら呟(つぶや)いた。
「さあ、始めよう。お前がいてくれて本当に助かったよ。電球(でんきゅう)を替(か)えるときに梯子(はしご)から落ちるなんて、まったくドジな話しだが…。おかげで、わしの研究(けんきゅう)を完成させることができる。最後の最後まで、わしのために…。さあ、わしがお前に命(いのち)を吹(ふ)き込んでやる」
 その時、姉妹が悲鳴(ひめい)をあげた。機械の中に人の姿を見つけたのだ。いくつものコードで機械につながれていた。悲鳴を聞いて、男は侵入者(しんにゅうしゃ)に気がついて叫(さけ)んだ。
「誰だ! 出て来い! ここから逃(に)げられると思うなよ。実験台(じっけんだい)にしてやる」
 姉妹は恐怖(きょうふ)に駆られて走り出した。玄関から外へ逃げようとしたが、どういうわけか扉はびくともしなかった。足音が静かに、だが確実(かくじつ)に二人に近づいて来ていた。
<つぶやき>二人は逃げることが出来るのでしょうか? きっと逃げ道はあるはずです。
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2017年01月22日

「明日の私」

 私には、もう一人、〈明日(あした)の私〉がいる。朝になると私を起こしてくれて、今日の忠告(ちゅうこく)をしてくれる。そのおかげかどうか、今まで何事(なにごと)もなく過(す)ごしてこられた。
 でも、何時(いつ)からか私は〈明日の私〉に疑念(ぎねん)を抱(いだ)くようになってしまった。本当にその忠告は正しいのか…。もしかしたら、別の選択(せんたく)があるのではないか…。その気持ちは私の中でだんだん大きく膨(ふく)らみ、自分でもどうすることも出来なくなった。
 そんな時だ。〈明日の私〉がこんな忠告をしてくれた。
「今日は、仕事が終わったら真っすぐ帰るのよ。寄(よ)り道なんかしちゃダメだからね」
 でも、今日は恋人(こいびと)から食事に誘(さそ)われていた。何か大事(だいじ)な話があるって。もしかしたらプロポーズかも…。だから、忠告に従(したが)うことなんてあり得(え)ない。
 ――私は、初めて忠告に逆(さか)らった。仕事が終わると、何時もの待ち合わせの場所へ向かった。人混(ひとご)みの中、私は恋人の姿(すがた)を見つけると小走(こばし)りで彼に近づいた。彼も私を見つけて手を上げた。その直後(ちょくご)、私は彼の後に人影(ひとかげ)を見た。それも、私の知ってる女性――。
 これ、どういうこと? 何で彼女がここに…。私は彼を問い詰(つ)めようとしたが、その前に彼が口を開いた。
「ごめん。今日は、もう一人いるんだ。一緒(いっしょ)に話がしたくて。どこか、入ろうか?」
 私が言葉(ことば)につまっていると、その、もう一人の彼女が口を出した。
「先輩(せんぱい)、ごめんなさいね。あたしは、来たくなかったんだけど、彼がどうしてもって言うから…。もし、先輩がイヤだったら、あたし、ここで待っててもいいのよ」
 この状況(じょうきょう)で…、いくら鈍感(どんかん)な私でも理解(りかい)できた。こいつ、二股(ふたまた)をかけてたのか! 何時からだ? この後輩(こうはい)を彼に紹介(しょうかい)したのは一ヶ月くらい前だから…。ああ、もう!!
 私は彼を睨(にら)みつけた。彼は、私と目を合わせようともしないで言った。
「そういうことで…。君とは、別(わか)れたいんだ。こんなことになって、ほんとごめん。でも、君とはこれからも――」
 私は、思いっ切り彼を引っぱたいていた。そして、彼に背を向けて私は駆(か)け出した。どこをどう歩いたのか、気がついたときには自分の家に戻っていた。――私は後悔(こうかい)していた。何で忠告に従わなかったんだろう。もし、彼に会いに行かなかったら、こんなことになんかならなかったはずなのに…。私は、いつの間にか眠(ねむ)ってしまったようだ。
 翌日、〈明日の私〉は起こしに来てくれなかった。遅刻(ちこく)ぎりぎりで会社に着いた私は、仕事に没頭(ぼっとう)した。そうしないと、イヤなことがどんどん頭の中に浮(う)かんできて、どうにかなってしまいそうだった。
 会社から帰ると、もうクタクタだった。泥(どろ)のように、このまま眠ってしまいたかった。私はベッドにもぐり込むと、目を閉じた。――でも、すぐに私は誰かに揺(ゆ)り起こされた。目を開けると、そこにはもう一人の自分がいた。私は思わず飛び起きて言った。
「ごめんなさい、私が悪かったわ。だから、もう一度――」
 もう一人の自分は、私の頭をなでならが呟(つぶや)いた。「私は、昨日(きのう)のあなたよ。何で、あんな後輩を彼に会わせたのよ。だから、別れることになっちゃったのよ」
<つぶやき>明日の私と昨日の私。あなただったら、どちらの言葉を聞いてみたいですか?
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2017年05月20日

「幽霊女子」

 彼女は幽霊(ゆうれい)。なぜ幽霊になっちゃったのか、彼女にもよく分からない。でも…、何か未練(みれん)でもあったのだろう。――そんな彼女が恋(こい)をした。まさに、初恋(はつこい)である。彼との出会いに、彼女は運命(うんめい)を感じてしまった。幽霊が運命を感じるなんて、変かも知れないけど…。
 ――彼女が、しょんぼりと公園(こうえん)のベンチに座(すわ)っていると、彼の方から声をかけて来た。幽霊になって初めてだ、こんなこと…。彼女は思わず訊(き)いてしまった。
「あたしが、見えるんですか?」
 彼は、ごく普通(ふつう)に、まるで友だちにでも話すように、「ごめんね、何か大丈夫(だいじょうぶ)かなって…。ほら、同じ学校みたいだからさ。迷惑(めいわく)だったかな?」
 彼女は、なぜかセーラー服を着ていた。若(わか)くして、高校生のときに亡(な)くなったのかもしれない。同じ高校の生徒(せいと)だったのだろう。
 そこへ、同じ制服(せいふく)を着た女子がやって来て、彼に声をかけた。どうやら、友だちなのか、それとも、もっと親(した)しい――。彼女に、嫉妬(しっと)という気持ちが生まれた。彼女は、その女の子を睨(にら)みつけた。すると、突然(とつぜん)突風(とっぷう)が吹(ふ)き荒(あ)れて、女の子のスカートをめくりあげた。
 それからというもの、彼女は彼に取り憑(つ)くことにした。取り憑くといっても、悪(わる)さをするとか、不幸(ふこう)にさせるとか、そういうことじゃないからね。彼女は、彼が一人になるのを見計(みはか)らって、彼の前に現れた。もちろん、ごくさり気なく、偶然(ぐうぜん)を装(よそお)って…。
 彼は、彼女を見つけると嬉(うれ)しそうに微笑(ほほえ)んだ。――何度か会って話をしてみて、彼女はますます彼のことを好きになってしまった。どうやら、付き合っている彼女はいないようだ。ここは、ちゃんと告白(こくはく)して…。でも、彼女はふと考えた。
「幽霊のあたしが、人間に告白するのって、いいのかな? あたしなんかが――」
 彼女は、告白をためらってしまった。そんな、うじうじとしているとき、最強(さいきょう)のライバルが転校(てんこう)してきた。その、人間の女子は、彼に猛(もう)アタックをかけてきた。彼に一人になる隙(すき)をあたえないのだ。まるで、幽霊の彼女のことを気づいているみたいに。
 彼女はあせった。このままだと、彼に会うことができなくなってしまう。彼女は、何度も、何度も、その機会(きかい)をうかがったが、いつも邪魔(じゃま)されて――。とうとう、最悪(さいあく)の事態(じたい)を迎(むか)えることになった。それは、あの人間の女子が告白すると公言(こうげん)したのだ。
 もう、うじうじしている場合ではなくなった。あんな女子に彼を取られるなんて…。こうなったら、取り殺すしか――。いや、彼女はそんな野蛮(やばん)な幽霊ではなかった。
 ――人間女子が彼を呼び出した。彼女は二人の様子(ようす)を物陰(ものかげ)からうかがった。まさに、女子が彼を見つめて告白しようとした瞬間(しゅんかん)――。彼女は飛び出した。女子を押(お)しのけると、
「あなたのことが好きです。あたしと、付き合って下さい」
 まさに、どんでん返(がえ)し! 驚(おどろ)いたのはその人間女子で、見たことのない女子が現れて横取(よこど)りされてしまったのだ。まあ、幽霊なんで見えるわけもないのだが…。
 さらに、彼の返事(へんじ)は衝撃的(しょうげきてき)だった。「やっと現(あらわ)れてくれたね。ずっと待(ま)ってたんだよ。でも、ずるいなぁ。僕の方から告白するつもりだったのに」
 彼女は、彼のこの言葉(ことば)で天(てん)にも昇(のぼ)る心地(ここち)になってしまって、あやうく成仏(じょうぶつ)しそうになってしまった。この後、二人は…。いや、人間女子の反撃が始まるかも――。
<つぶやき>恋のバトルの始まりですね。さて、どっちが彼を射止(いと)めることになるのか…。
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2017年07月04日
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