「また明日」

(再公開 2017/06/04)
 三年付き合っていた彼が突然いなくなった。何の前触(まえぶ)れもなく。別れぎわに、また明日って言ってたのに。これって、どういうことよ。あたし…、捨てられたってこと。
 彼と最後に会った日のことは今でも覚えてる。仕事帰りに二人で待ち合わせ。いつものお店で食事して、たわいのない話で盛り上がる。いつもと変わらない、全然、まったく別れ話なんかなかったし、喧嘩(けんか)だってしてないでしょ。なのに、どうして?
 次の日、メールして。返信がなかったけど、仕事が忙しいんだなって思ってた。夜になって電話して。つながらなかったけど、まだ仕事なのかなって…。そういうことって、今までだってあったから。それに、彼って、そういうのマメじゃないし。
 でも、三日たっても連絡がなくて。さすがのあたしも、変だなって思った。それで、彼の会社に電話してみた。そしたら、彼、会社辞(や)めてたの。辞めた理由を訊いてみたら、一身上(いっしんじょう)の都合(つごう)ですって。それって、何よ。まったく分かんない。
 あたし、彼のアパートへ行ってみたわ。そしたら、誰もいなくて。たまたま顔を合わせた隣の人に言われちゃった。二、三日前に引っ越したって。あたし、目の前が真っ暗になったわ。もう、笑うしかないじゃない。あたしは、何度も何度も、彼の携帯に電話した。何度かけたって、電源が入ってないってそればっかし。
 あたし、一人で考えてみたわ。あたしが捨てられた理由。でも、いくら考えたって、そんなの思いつかないわよ。あたしの、何がいけなかったの。いなくなる前に、教えてほしかったわよ。もうダメ。これ以上一人でいたら、あたしどうにかなっちゃう。無性(むしょう)に淋(さび)しくて、叫びたくなるくらい腹が立った。
 あたしは友だちに電話した。誰かに聞いてもらわないと、あたしおかしくなりそう。友だちは慰(なぐさ)めてくれたわ。そんな身勝手(みがって)な男のことなんか忘れなさいって。別れて正解だったのよ。ほんと、そうかもしれない。でも、でもね。あたしもそうしようと思ったわよ。思ったけど、どうしても心のどっかに彼のことが引っかかってるの。このままじゃ、あたし前へ進めない。仕事も手につかないし。
 今、あたしは彼の実家へ向かっている。興信所(こうしんじょ)で調べてもらったの、彼のことを。そしたら、彼の居場所(いばしょ)が見つかったわ。一ヵ月ぶりの再会。彼には、言いたいことが山ほどある。でも、その前に一発ぶん殴(なぐ)ってやる。それくらいのこと、許されるはずよ。
 地図を見ながらあたしは歩く。――何なのここは。畑ばっかりで、家なんでどこにあるのよ。道を訊こうにも、人なんかまったく歩いてないじゃない。彼が、こんな田舎で育ったなんて、まったく知らなかった。あたし、彼のことどこまで知ってたんだろう。
 遠くの畑で働いている人影を見つけた。あたしは、その人の方へ歩いて行く。これでやっと道を訊くことができるわ。だんだん近づくにつれて、あたしはハッとした。その人の背格好(せかっこう)、身体つき…。そして、帽子の下で見え隠れする顔。あたしは足を止めた。それは、間違いなく彼だった。あたし、身体が震えたわ。頭へ血がカーッとのぼって…。
 あたしはゆっくりと彼に近づく。あたしを見つけた彼の顔は、ハトみたいに口を開けちゃって。あんなに言いたいことがあったのに、あたし何も言えなくなっちゃった。
<つぶやき>人生は出会いと別れの連続です。悔いのないように、一期一会(いちごいちえ)で生きましょ。
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2013年01月04日