「詮索マニア」

「あたしたち、やっぱりダメかも…」
 ひばりがポツリと呟(つぶや)いた。隣(となり)にいた茜(あかね)が驚(おどろ)いて訊(き)き返して、
「なに言い出すのよ。あたしたち、ずっと親友(しんゆう)でしょ。ダメになんかならないよ」
「いや…、茜のことじゃなくて…」
「えっ、なによ? あっ…、まさか、誰(だれ)かと付き合ってるの?」
 ひばりは一瞬(いっしゅん)ためらって答えた。「ん…、まあ…、そんな…」
「ちょっと、何で教えてくれないのよ。あたしたち親友でしょ。隠(かく)しごとするなんて」
「いや、だから、そういうあれじゃ…」
「誰よ。あたしの知ってる男子(だんし)? いつからそんなことになってたのよ」
「いつからって…。それは、この春から…」
「まさか、同じクラスの男子なの? ええっ、誰よ、白状(はくじょう)しなさいよ」
「だから、そういうのじゃ…。――あの…、山崎(やまさき)…くん…」
 茜は彼の名を聞くと、唖然(あぜん)としてしまった。山崎といえばクラス一の秀才(しゅうさい)で、端整(たんせい)な顔だちから他のクラスからも女子たちが集まってきていた。
「これはびっくりだわぁ。山崎くんって女子に興味(きょうみ)ないって感じじゃない。あたしの知る限(かぎ)りでは、告白(こくはく)に成功(せいこう)した女子はいないはずよ」
「へぇ、そうなんだ。それは知らなかったわ。あたしはてっきり…」
「ねぇ、どうやったの? あの山崎を落とすなんて…。詳(くわ)しく聞かせなさいよ」
「いやぁ、別にあたしは…」
「ええっ、じゃぁ、告白されたの? あの山崎くんに…。ああっ、うらやまし過ぎるぅ」
「そうじゃないわよ。もう…、あたしたちは、まだ、そういうあれじゃないし…」
「じゃぁ、何なのよ? はっきりしないわね。ひばりってさ、そういうとこあるよね」
「そういうとこって……。だから、山崎くんとは、たまたま顔を合わせて…」
「どこで? どこで会ったのよ。あたしの知る限りでは、あなたたちに接点(せってん)はないはずよ」
「いや…、それは……。言えないわ。だって、だれにもしゃべるなって…」
「はぁ? この、親友のあたしにも言えないの? ひどい、ひどすぎるわ」
 茜は悲しそうに顔をそむける。けど、その目には、したたかさを感じさせた。
「ねぇ、あたしたちって…」茜はにこやかにささやいた。「もう付き合い長いわよね」
「ええ、そうねぇ。……もう何年になるのかしら?」
「あなたのこと、誰よりも知ってるのは、このあたしよ。そうでしょ?」
「えっ? そ、そうかな…。ねぇ、茜…、まさか、変なこと考えてないわよね」
「変なこと?」茜は不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべて、「あなたの…、弱点(じゃくてん)とか?」
「ダメよ。それだけはやめて…」
「何のこと言ってるの? あたしは、ただ、あなたたちがどこで知り合ったのか知りたいだけなの。だって、あたしたち親友でしょ。あなたのこと、何でも知りたいの」
「ねぇ、お願い。それだけは訊かないで。ほんとに話せないの。だから――」
「分かってるでしょ。あたしはおしゃべりじゃないわ。秘密は、ちゃんとこの胸に…」
<つぶやき>これは詮索(せんさく)好きの度を越してるよ。この後、どうなったのでしょ。恐(こわ)いです。
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2019年04月19日