「オンナ」

○岩夫(いわお)のアパート・朝
ベッドに寝ている岩夫。昨夜(ゆうべ)、飲み過ぎたようで、着替(きが)えもしないで寝てしまっていた。物音(ものおと)で目を覚(さ)ますが、頭がぼーっとしていてまだ夢(ゆめ)の中のよう。寝惚(ねぼ)け眼(まなこ)でキッチンの方を見ると、女性のエプロン姿(すがた)が見えた。
岩夫「あーぁ、これは…、まだ夢なのか…。何なんだよ…」
岩夫、目を閉じる。どのくらいたったのか、誰(だれ)かが岩夫の名前を呼んでいる。
オンナ「いわおさん、起きて下さい。朝ごはん、できてますよ」
岩夫「朝ごはん…。朝ごはんは…、食べたくない…」
オンナ「ダメですよ。今日もお仕事(しごと)なんでしょ。ちゃんと食べて下さい」
岩夫、突然(とつぜん)飛び起きる。目の前の女性を見て悲鳴(ひめい)をあげてしまう。
岩夫「き、君は…、誰だ…? ど、どうして…こ、ここに…」
オンナ「もう、寝惚けてるんですか? 早くしないと、会社遅(おく)れますよ」
岩夫「いやいやいや…、だから、君は…」
オンナ「早くしてください。それと、ちゃんと着替えて下さいよ。シワクチャじゃないですか。これからは、飲み過ぎは禁止(きんし)です」
岩夫「あ…、ハイ。き、気をつけます」
岩夫、そそくさと着替えをすませると、食卓(しょくたく)につく。食卓には栄養(えいよう)バランスの整(ととの)った朝食が並んでいた。岩夫は目を見張(みは)って、
岩夫「こ、これは…。すごいな…。こんな朝飯(あさめし)は、初めてかも…」
オンナ「早く食べないと、遅刻(ちこく)しちゃいますよ。あたし、先に行きますね」
オンナは上着とカバンを手に出て行く。岩夫は呆然(ぼうぜん)とそれを見送る。ふと時計(とけい)を見て、
岩夫「あっ! やばい…。時間が…」
岩夫、慌(あわ)てて食事(しょくじ)を始める。
○会社・廊下(ろうか)
岩夫が同僚(どうりょう)の男性と歩いて来る。
同僚「昨夜は部長(ぶちょう)に付き合わされて大変だったな。奥(おく)さんに怒(おこ)られなかったか?」
岩夫「なに言ってんだよ。俺(おれ)に、奥さんなんかいるわけないだろ。変なこと言うなよ」
同僚「おい、大丈夫(だいじょうぶ)か? まさか、もう離婚(りこん)ってことになってるのか?」
前から女子社員が書類(しょるい)を手にやって来た。岩夫はその女性を見て思わず立ち止まった。それは今朝のオンナだった。オンナはそのまますれ違って行ってしまう。
岩夫「(オンナを追いかけて)ちょっと、君…。今朝のあれは、どういうことなんだ?」
オンナ「(振り返り)えっ、何のことでしょう?」
岩夫「何って…。今朝、俺の部屋で、朝飯を作ってくれたじゃないか…」
オンナ「変なこと言わないで下さい。あたし、あなたのところへなんて行ってません」
オンナ、足早(あしばや)に行ってします。見送る岩夫に、同僚が声をかける。
同僚「おいおい、会社でナンパか? お前、なに考えてんだよ。あんな美人(びじん)の奥さんがいるのに。もし離婚ってことになったら、絶対(ぜったい)にみんなから恨(うら)まれるぞぉ」
<つぶやき>身に憶(おぼ)えのないことが起きたら、あなたなら、受け入れます? それとも…。
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2017年12月25日