超短編戯曲一覧

「兄と妹」

(再公開 2017/05/14)
独り暮らしの兄・隆夫(たかお)のマンション。そこへ妹・好恵(よしえ)が来ていた。何かと世話をやく好恵を、隆夫は持てあましていた。話は結婚のことにおよんで、
隆夫「俺は結婚できないんじゃなくて、結婚しないんだ」
好恵「もう、いつもそうなんだから。お兄ちゃん、もっと現実を見なさいよ」
隆夫「何で、お前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ」
好恵「それは、お兄ちゃんのこと心配してるんでしょ。ほんと、お兄ちゃんって、人とのコミュニケーションが下手(へた)なんだから。そんなんじゃ、絶対結婚なんて無理よ」
隆夫「うるさい。余計なお世話だ。いいから、お前、帰れよ」
好恵「この間の、あの人は? ほら、すっごくいい感じだったじゃない」
隆夫「えっ?(少し動揺して)だ、誰の話してんだよ」
好恵「誰って…。もう、とぼけちゃって。私、あの人ならいいと思うわ。優しそうだし」
隆夫「あいつは、ダメだろ。なに言ってんだよ。あの人は、そういう、あれじゃ。――もういいから、帰れよ。お前さ、何しにうちへ来るんだ? ここはな、お前の家じゃないんだぞ。用もないのに来るなよ」
好恵「用ならあるわよ。私が来なかったら、この部屋グチャグチャになるでしょ」
隆夫「ならないよ。たとえなったとしても、お前には関係ないだろ」
好恵「あるわよ。グチャグチャだったら、私、泊(と)まれないじゃない」
隆夫「何だよそれ。また、泊まるつもりでいるのか? ここは、旅館じゃないんだぞ」
好恵「いいじゃん。ここからの方が、学校も近いし。何かと都合がいいのよ」
隆夫「お前な…。あれか? また親父と喧嘩(けんか)でもしたんだろ」
好恵「そんなんじゃ…。いいでしょ、私だってたまには息抜きしたって」
隆夫「あのな。親に心配かけんなよ」
好恵「お兄ちゃんに、そんなこと言われたくない。お兄ちゃんこそ、心配かけてんじゃん」
隆夫「俺は、ちゃんと働いてんだよ。学生のくせに、なにえらそうに…」
好恵、膨(ふく)れっ面(つら)をして黙ってしまう。まだあどけない子供のよう。
隆夫「あのな。そんな顔してもダメだからな。帰れ」
好恵「何よ。今日の夕飯、私が用意してあげたじゃない。それなのに追い出すの?」
隆夫「用意したって、スーパーの惣菜(そうざい)を温めただけだろ。それに、お金はさっき渡したじゃないか。お前も、少しは料理くらい出来るようにしないと…」
好恵「出来るわよ。この間なんか、ハムエッグ作ったんだから」
隆夫「(笑って)真っ黒にしたんだってな。ちゃんと聞いてるぞ」
好恵「何で知ってんの? あ、あれは、ちょっと失敗しただけで…」
隆夫「ちゃんと、母さんに連絡しとけよ。でないと、俺が怒られるからな」
好恵「えっ? じゃ、いいの。泊まっても?」
隆夫「ああ、今日だけだぞ。それと…」
好恵、兄の話を最後まで聞かずに、すぐに携帯を出して家に電話をかけだす。
<つぶやき>兄にとって、妹は可愛くて…。妹は、ちゃっかり利用しちゃうんですよね。
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2012年11月30日

「新種創造」

(再公開 2017/05/23)
○ 深い森の入口
教授と助手がリュックを背負い、網(あみ)を持って立っていた。
助手「(不安気に)ほんとに行くんですか?」
教授「当たり前だ。あのゴキブリ野郎に負けてたまるか」
助手「でも、新種の昆虫がそう簡単に見つかるはずありませんよ」
教授「何を言うか。そもそも、私の方が先だったんだ。あの昆虫を発見したのは」
助手「そうかもしれませんが、横島(よこしま)教授が先に発表してしまったんですし」
教授「横島! あいつは、いつもそうだ。私の邪魔(じゃま)ばかりしやがって」
助手「教授、大丈夫ですか。あんまり興奮(こうふん)すると」
教授「行くぞ。この森の中には必ず新種の昆虫がいるはずだ。私に捕まるのを待ってる」
助手「はあ。でも…」
教授「心配するな。ここはホットスポットなんだ。新種の昆虫の宝庫さ」
教授を先頭に森へ分け入る。道なき道を進んでいく。
○ 古びた建物の前
森の中に突然現れた建物。二人は驚いて建物に近づいて行く。
教授「なぜだ。なぜこんなところに、こんなものが」
助手「人が住んでるんでしょうか? もしかしたら、廃墟(はいきょ)かもしれませんよ」
建物の入口の戸が、音をたてて開く。中から老人が顔を出した。
老人「何か用かね? こんなとこへ来るんだ。お前たちの目的はあれだろ」
助手「あの、僕たちは、その、昆虫を探して…」
老人「だったら入りな。ここには、お前たちの欲しがってるものがあるぞ」
老人は、二人を中へ招き入れた。二人は、恐る恐る入って行く。
○ 実験室
実験器具などが並べられている部屋。昆虫が入っているケースも並んでいる。
教授「(ケースの中の昆虫を見て)これは…。まさか、こんなところに」
老人「さすが、お目が高い。そいつは、つい最近発見された新種さ」
教授「信じられない。まだ、一匹しか見つかっていないはずだ」
助手「教授! これを見て下さい。これって、横島教授が発見したやつですよ」
教授「どれだ。(駆け寄り見つめる)うーん。間違いない。これは私が発見したやつだ」
老人「ほう。横島を知ってるのか? あいつは、金払いが悪くてな」
教授「(老人に詰め寄り)どういうことだ。あんたはいったい、何者なんだ」
老人「そんなことより、これなんかどうかね。(ケースの一つを見せて)この、何ともいえない色と輝き。フォルムも最高のできばえさ」
教授は、その昆虫に魅了(みりょう)されてしまう。
老人「百万でどうだ。こいつの発見者になれるんだ。けして高くはないと思うが」
教授「これは、素晴らしい。こんな昆虫がいたなんて…。分かった。払おう。絶対に他の奴に渡さないでくれ。これは、私の昆虫だ。ハハハハハハハ」
<つぶやき>まねしないで下さい。自然の摂理(せつり)に逆らったら、どんなしっぺ返しが来るか。
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2012年12月14日

「バーコード」

(再公開 2017/06/01)
未来の世界。人々は持って生まれたバーコードによって選別することを選んだ。
それはあらゆる場面で行われ、そこから逃れることはできなかった。
選別人「次の方。こちらへ腕をのせて下さい」
呼ばれた青年は言われるままに腕をのせる。装置が動き出し、一枚のカードをはじき出した。選別人はそれを見て驚きの声をあげる。
選別人「ほう、これは珍しい。あなたは、素晴らしいバーコードをお持ちですね」
青年1「そ、そうなんですか? でも、僕は…、普通でいいんですけど」
選別人「あなたは選ばれたんですよ。人類の宝です。その能力を存分(ぞんぶん)に生かして下さい」
青年1「でも、僕なんかに、何ができるんでしょう?」
選別人「それは、私には分かりません。でも、あなたは人類に貢献(こうけん)できるんです。頑張って下さい。では、一番右の金のドアからお入り下さい」
選別人はカードを渡しドアへ促(うなが)す。その時、後ろにいた別の青年が割り込んできた。
青年2「ちょっと待てよ。何でこんなみすぼらしい奴が金のドアなんだ。納得(なっとく)できないな」
選別人「(顔色を変えることなく)こちらへ腕をのせて下さい」
青年2「聞いてんのかよ。こんなのが人類に貢献できるわけないだろ」
選別人、青年2の腕をつかんで装置の上にのせる。装置が動き出す。
青年2「なにすんだよ。俺を誰だと思ってんだ。俺は、この国の大統領の息子だぞ」
選別人「ほう、それは素晴らしい」
装置が一枚のカードをはじき出す。選別人はそれを見て、
選別人「では、一番左の木のドアからお入り下さい」
青年2「はぁ? 俺が木のドアだって。冗談じゃない。俺にはな、特別な才能が…」
選別人「お父上は素晴らしい才能をお持ちだと思います。だからといって、あなたにもその才能があるとは限りません。次の方どうぞ」
青年2「待てよ! 俺は大統領の息子だぞ。そんなことしてみろ。後でどうなるか…」
青年2は警備員に押さえられ、引きずられるように木のドアへ連れて行かれた。
次の少女が顔をこわばらせて立っていた。
選別人「大丈夫ですよ。(にこやかな表情で)私は、取って食ったりしませんから」
少女「あっ、はい。(おずおずと進み出て)よろしくお願いします」
選別人「こちらへ腕をのせて下さい。心配なさらなくてもいいですよ。運命なんて、その人の努力次第(しだい)でどうとでも変わりますから」
装置が動き出し、一枚のカードをはじき出す。
選別人「なかなか良いバーコードですよ。では、右から三番目の銅のドアへ行って下さい」
少女「はい。ありがとうございました」
少女はカードを受け取りドアへと進む。
彼女の後ろには長い列が続いていて、最後尾がどこなのか全く分からない。選別人は、いつ終わるか分からない仕事を延々(えんえん)続けていく。
<つぶやき>まるで最後の審判のような光景です。自分の力を信じて前へ進みましょう。
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2012年12月28日

「浮気宣言」

(再公開 2017/06/10)
ある恋人同志の会話。いつまでも煮え切らない男に、女は結婚を匂(にお)わせたようだ。
「君は、本当に僕と結婚したいのか?」
「ええ。あなたは、あたしと結婚する気はあるわよね?」
男、しばらく女を見つめていたが、おもむろに口を開いた。
「まあ、なくはないな」
「何よ、それ。あなた、あたしのことどう思ってるの。はっきり聞かせて」
「どうって? それは、あれだ。まあ、嫌いではないと思うよ」
「えっ? だって、あたしのこと好きだって、愛してるって言ったじゃない」
「それは、君が聞くから。そう答えるしかないだろ」
「(呆れて)何なのよ。それじゃ、あたしのことだましたのね」
「そんなんじゃないよ。(面倒(めんどう)くさそうに)だから、君のこと好きに決まってるだろ。好きじゃなきゃ、付き合わないよ。そんなこと訊くなよ」
「じゃあ、証明して。あたしのこと、どれくらい愛してるか」
「分かったよ。じゃ、結婚すればいいんだろ。そんなの、いつだってしてやるよ」
「ほんと? 約束よ。じゃあ、あたしの両親と会って」
「えっ? そんなの後でいいよ。また今度な」
「ダメよ。今すぐ。明日はどう? 仕事休みなんだし」
「うるさいな。明日は、やることがあるんだよ」
「何よ。今、結婚するって言ったじゃない。あたしたち二人のことよ」
「結婚、結婚って。いっとくけど、僕は結婚しても浮気はするからな」
「はぁ? 何言ってるの。浮気って…」
「だから、浮気宣言だよ。当然じゃないか。君より好きになる女が現れるかもしれないだろ。君は、それでも僕と一緒になりたいのか?」
「そんな…。あなた、そんなこと考えてたの?」
「いけないか。どうせ君だって、何にも考えてないんだろ。ただお気楽(きらく)に結婚したいなんて言ってるだけじゃないか」
女は少しも驚かず、あっさりと言ってのける。
「そう。いいわよ、それで。あたしもそうするから」
「はぁ、何だよそれ」
「だから、あたしも好きな人ができたら、浮気するってことよ」
「何言ってんだ。君は、僕のことが好きなんだろ。僕の妻になりたいって…」
「あなただって、似たようなもんでしょ。そう思わない?」
「君は、いったい何を考えてるんだ?」
「結婚なんて形式的なものよ。結婚したら世間に認められるでしょ。お気楽な主婦の仲間入り。でも、あたしはそんなんじゃ満足できないの。あなた、知ってる? 愛がなくても、結婚はできるのよ。あたしたち、きっといい夫婦になれるわ」
<つぶやき>愛は、どこにいってしまったの? 真心の愛を見失わないようにしましょ。
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2013年01月11日

「初めての挨拶」

(再公開 2017/06/19)
付き合っている真以子(まいこ)を両親に会わせるために実家に戻った一樹(かずき)。茶の間で対面した両親。両親としてみればいろいろと確かめなければいけないことが。
一樹「えっと、彼女が、今、付き合ってる…」
真以子「(元気よく笑顔で)里見(さとみ)真以子です。一樹と付き合って三カ月になります」
面食(めんく)らう両親。二人で顔を見合わせる。一樹、真以子を見詰(みつ)める。
父親「ああ…、なかなか元気そうで、いいんじゃないのかな。なあ、母さん?」
母親「(戸惑いながら)そうねぇ。それに、可愛(かわい)い子じゃない、一樹」
真以子「はい。よく言われます(満面(まんめん)の笑(え)み)」
一樹の声「(真以子を見て)ええ、そこはあれだろ。自分から言うか? それに、笑いすぎだって」
母親「それで、一樹。どこで知り合ったの?」
一樹「ああ、それは友達に…」
真以子「合コンです。彼ったら、すっごい積極的(せっきょくてき)で…」
一樹「(真以子の手を押さえて、小声で)ちょっと、それは――」
父親「合コン? 一樹、お前、合コンなんか…」
一樹「違うよ。合コンって言うのは、いろんな友達が集まって、ほら、何て言うかな…」
一樹、言葉に詰まり真以子を見る。真以子は無邪気(むじゃき)に微笑(ほほえ)んでいる。
一樹の声「何だよ。普通、ここは友達の紹介で、とか言うだろ。どうすんだよ」
真以子「あたしも、いろいろ合コンしてたんですけど、彼ほど気が合う人いなかったです。それで、もう盛り上がっちゃって――。やっちゃいました」
両親と一樹、驚いた顔で真以子を見る。
一樹の声「な、何で? そりゃ確かに、盛り上がってラブホに行っちゃったけど。でも、酔(よ)っぱらいすぎてて、そのまま寝ちゃっただけだろ」
父親「あの、やっちゃったってのは?」
一樹の声「親父! そこは、掘(ほ)り下げるとこじゃないだろ。そんなこと訊くなよ」
真以子「あっ、それは、二人で一緒に…」
母親「ところで、真以子さんは、一樹のどこかよかったのかな?」
一樹の声「お袋(ふくろ)、ナイス。やっぱ、機転(きてん)が利(き)くわ」
真以子「う~ん、そうですね~ぇ(しばらく考えている)」
一樹の声「(真以子を見詰めて)おいおい、そんなに考えることなのか?」
真以子「あたし、いろんな方とお付き合いしてきたんですが――」
父親「それは、合コンで?」
一樹の声「親父、合コンのことから離(はな)れろよ」
真以子「ええ。お医者さんとか、一流企業の人、それにお金持ちの社長さん」
父親「そりゃ、すごいな。一樹とは月とすっぽんだ」
一樹の声「ほっとけよ。どうせ俺は、親父の息子だよ」
真以子「やっぱ、一樹と一緒だとすっごく楽なんです。素(す)のままのあたしでいられるし」
<つぶやき>あけすけの彼女ですが、悪気なんて全くないんです。末長くお付き合いを…。
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2013年02月20日

「家事手伝い」

○とあるマンションの部屋
五郎(ごろう)が一人暮らしをしている家。彼は几帳面(きちょうめん)な性格(せいかく)でいつもならきれいに整頓(せいとん)されているはずなのだが、今は足の踏(ふ)み場もないほど散(ち)らかっている。その中で何かがうごめいているような、そんな気配(けはい)が感じられる。
○同マンションの玄関中
鍵(かぎ)を開ける音。五郎が仕事から帰って来る。ドアを開けて中に入ったとたん、あまりの変わりようにしばし唖然(あぜん)として立ちつくす。彼は慌(あわ)てて靴(くつ)を脱ぐと、置かれている段ボール箱などを押しやりながら部屋に入って行った。
○同マンションの部屋
部屋の入口で立ちつくす五郎。思わず叫(さけ)んだ。
五郎「何じゃ、こりゃ…! ど、どうなってるんだ!」
部屋に置かれたソファの陰(かげ)から、のっそりと顔を出した若い女。五郎に気づくと、すっとソファの陰へ隠(かく)れる。五郎は散乱(さんらん)している雑誌や服などに足を取られながらも何とかソファまでたどり着くと、女の首根(くびね)っこをつかんで引っ張り上げた。
五郎「何をしている。これはどういうことなんだ? ここは俺の…」
女は五郎の手から逃れると部屋の隅(すみ)へ行って、ぎこちなく愛嬌(あいきょう)を振(ふ)りまいて言った。
「ごめんなさい。どうしてもお引っ越し、しなくちゃいけなくなって…」
五郎「一晩(ひとばん)だけって約束(やくそく)だろ? だから、今朝だって出るとき合鍵(あいかぎ)渡してポストにって…。そうか、最初っからそのつもりで…。なに考えてんだ!」
五郎は女に迫(せま)って行く。女はちょこまかと逃げ回りながら、
「違(ちが)うの、そんなつもりじゃなかったの、信じて。ちゃんと話すから、聞いてよ」
五郎は立ち止まる。女は息を整(ととの)えると、
「朝、帰ったら大家(おおや)さんがいて…。わたし、家賃(やちん)を滞納(たいのう)してて…、それで出てけって。わたし、ためてた家賃払ったんだけど、許(ゆる)してくれなくて…」
五郎「だからって、俺のところへ来なくてもいいだろ。実家(じっか)とか、友だちの――」
「ごめんなさい。でも、そのお金、あなたに借(か)りちゃったから。そこの引出(ひきだし)にあった…」
五郎、慌てて引き出しを開けて確かめる。愕然(がくぜん)とする。
五郎「ああっ、忘れてた。(震える声で)この金は…、俺が…、俺が…」
「ごめんなさい。わたし、ちゃんと返すから。それまで、ここにおいてもらえないかな?」
五郎「はぁ? なに言ってるんだ。冗談(じょうだん)じゃないぞ。泊(と)まる所がないっていうから…。それを、こんなのってありかよ。俺、バカみたいじゃないか」
「わたし、ほんとに感謝してるのよ。見ず知らずのわたしを、下心(したごころ)なしに泊めてくれて…。ほんとに良い人だと思ってる。だから、ちゃんとしないといけないと思って」
五郎「お前、仕事は? ちゃんと仕事してれば、そんなことにはならないはずだ」
「あの、何ていうか、いろいろあって…、今は無職(むしょく)…? 仕事は探してたのよ、わたしなりにちゃんと…。でも、なかなか…、やっぱり不景気(ふけいき)なのかしらね…。あの、それでね…、今日からは家事手伝いってことで、よろしくお願いします」
<つぶやき>大丈夫なんでしょうか? 彼女に、家事が出来るとは思えないんですが…。
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2016年07月30日

「逃がし屋」

○とある惑星(わくせい)にある飲み屋
薄暗い店内。けっこう混(こ)み合っていて、いろんな言語(げんご)が飛び交っていた。陽気(ようき)な音楽が流れ、ステージでは踊り子たちが客を楽しませていた。
人目(ひとめ)につかない店の奥のテーブルで、男と女が何やら密談(みつだん)をしている。
 「本当にあたしを逃(に)がしてくれるんでしょうね?」
 「もちろんだ。でも、それは報酬次第(ほうしゅうしだい)だけどな…。こっちも商売なんだ、悪く思わんでくれ。で、あんたは誰に狙(ねら)われてるんだい?」
 「それ、聞いちゃう? そういうの、気にするんだ」
 「そりゃ気にするだろ。やばい相手(あいて)だと、こっちもこれからの商売がやりにくくなるからな。それに、こういう商売は、いろいろと…。ほら、分かるだろ?」
 「じゃ、いいわ。他を捜(さが)すから…」
立とうとする女の手をつかんで、男は女を席に戻す。
 「待てよ、まだ話はついてない。それに、俺より凄腕(すごうで)の逃がし屋はどこにもいないぜ」
 「ふん、自信満々(じしんまんまん)ね。でも、あたしの話を最後まで聞いたら、きっとあなたもすぐに逃げ出すわ。――あたし、ガバンから逃げたいの」
 「(目を見開いて)ガバン…、あのドラグ・ガバンか? こいつは驚(おどろ)いた」
 「あなた、知ってるの? あいつのこと」
 「まあな、ちょっとした顔見知(かおみし)りってとこかな…。しかし、こりゃ相当(そうとう)やばいな」
 「いいわよ、断(ことわ)っても。どうせあなたも命(いのち)が惜(お)しいんでしょ」
 「誰が断ると言った。で、何やらかしたんだ? 盗(ぬす)みか、それとも――」
 「あたしは、まっとうに仕事をしてるわ。これでもお金は持ってるのよ」
 「そりゃ頼(たの)もしいねぇ。これで商談(しょうだん)も先へすすむってわけだ。でも、そんなお嬢(じょう)さんが、どうしてあんな奴(やつ)と付き合ってるんだい?」
 「付き合ってなんかないわ。向こうから近づいて来るだけよ。あたし、あんまりしつこいから張(は)り倒(たお)してやったわ。そしたら、手下(てした)たちが押しかけて来て…」
 「そりゃ面白(おもしろ)いや。見てみたかったなぁ。――何がねらいだ? ガバンは下手物(げてもの)好きだ。あんたみたいな美人に惚(ほ)れるはずがない」
 「(顔色が変わり)そ、そんなの知らないわよ。それより、引き受けてくれるの?」
 「そうだな…、1000でどうだ。こっちもいろいろ準備が必要だから、さしあたりその半額の500は先に払ってもらわないとな」
 「500?! それは高すぎるわ。今は、300しか持ってないもの」
 「それじゃ話にならないな。こっちは命がけの仕事だ。それだけじゃ…」
 「払うわよ、1000でも2000でも…。あてはあるの。そこへ連れてってくれれば、あなたが望(のぞ)むだけあげるわ」
 「こりゃ、楽しい旅になりそうだ。じゃ出ようか? 急がないと、ガバンって野郎(やろう)は犬並(な)みに鼻(はな)がきくからな。見つからないうちに、すぐに出航(しゅっこう)しないと。いつでも飛べるように準備はしてあるんだ。300あれば、出航の許可(きょか)が下(お)りるはずだ」
<つぶやき>彼女は訳ありのようですね。果たして、逃げ切ることができるのでしょうか?
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2016年10月26日

「選ばれし者」

女が一人、座(すわ)っている。目の前にいる誰(だれ)かに何かを頼(たの)まれているようだ。何度か相(あい)づちをうっていたが、困(こま)った顔をして話し始める。
「えっ、そうなの? そんなこと急に言われても…、あたし困るわ」
女は目線を外して小さくため息をつく。
「あのさ…、どうしてあたしなの? あたしがいないときにそんなこと決めるなんて…、もうひどいよ。他にもいるじゃない、もっとふさわしい人が…。そうでしょ?」
相手が何かを話している間、また相づちを繰り返す。だんだんいたたまれなくなってきて、話を止めるように口を挟(はさ)む。
「だってさ! それ何か違(ちが)うでしょ。それで、どうしてあたしになるの? やっぱり、おかしいよ。もう…、あたしにはムリだから。そんなことできない!」
女はそっぽを向く。だが相手がまた何か言うたびに、女は背(せ)を向けたまま身体をよじらせ、しまいには悲しげな顔になり振り返る。
「ダメよぉ、そんなこと言っても…。ムリなものはムリなの…。(懇願(こんがん)するように)ねえ、他の人に頼んでよ。お願い! 他にもいるじゃない、上手(うま)くやれる人が…」
相手が話している間、女はだんだん恥(は)ずかしそうに、ニヤニヤそわそわし始める。
「ちょっと待って…。それって、あの人が言ったの? あたしのこと…」
あの人とは、どうやら女が片思(かたおも)いをしている相手のようだ。目の前にいる人物は、何か交換条件を提案(ていあん)して女に納得(なっとく)させようとしていた。女は思わず立ち上がり、
「そ、そんなの…。あたしに…、それ、言っちゃうの…?」
女はもどかしそうに座ると、しばらく悩(なや)んで、すごく悩んでから、
「でも…、でもね…。あたしには、信じられないんだけど…。あの人が、そんな…、あたしに、あたしと…そういうこと…」
女はしばらく相手の顔をまじまじと見つめる。だんだんと睨(にら)みつけるような恐い目つきになる。相手は多少ひるんだように目をそらしたようだ。
「(冷静(れいせい)を装(よそお)いながら)じゃあ、会わせてよ、あの人に。あの人から、直接(ちょくせつ)、確(たし)かめたいの。そうじゃなきゃ、引き受けられないわ」
相手は喜んで女のことを称賛(しょうさん)しはじめる。女はそれを止めるように、
「やめてよ! あたし、まだ引き受けたわけじゃないわ。あの人に会ってからよ」
相手は何か困ったような顔をして話し出す。女の表情が曇(くも)ってくる。
「そんな…、いないってどういうことよ。どこへ行ったの? それじゃ、ぜんぜん話が違うじゃない。ねえ、本当にあの人が言ったの? ウソとかつかないでね」
相手は平身低頭(へいしんていとう)してあやまり、さらに泣き落としにかかる。女は驚き、困り果て、
「ちょっと、やめてよ。そんなことしないで……。泣きたいのはこっちなんだから」
女は手で顔をおおいうなだれる。呻(うめ)き声がもれる。女は意(い)を決して立ち上がると、
「分かったわよ。やればいいんでしょ! やってあげるわよ。その代わり、このことがちゃんと上手くいったら…。あの人と…、そういう…、あなたがいま言ったみたいに、あれになるように、して…、欲しいなって…。分かってる? 絶対(ぜったい)だからね、約束(やくそく)よ」
<つぶやき>さて、彼女は何を頼まれたのでしょうか? 上手く行くといいですけど…。
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2016年12月18日

「絶滅危惧種」

空港内のとある一室。大きな机(つくえ)と数脚(すうきゃく)の椅子(いす)が置かれているだけで、会議室というには殺風景(さっぷうけい)な感じである。外国人風の若い女に案内されて、大きな荷物を抱(かか)えた若い男がやって来る。その後に数人の男たちが続く。
ローザ「どうぞ、こちらへおかけになって下さい」
若い女は机の前の椅子をすすめる。女は男と対面(たいめん)するように席(せき)につく。
ローザ「私、ローザ・山下です。政府の日本保護機関(ほごきかん)で働いている者です。少し、お聞きしたいことがあって、こちらに来ていただきました。質問(しつもん)、いいですか?」
若い男「あ、はい。かまいませんが…」
ローザ「あなたは五年前に出国(しゅっこく)されていますね。今までどちらの国にいましたか?」
若い男「えっと、アジアを旅してました。あっちこっちへ…、旅をするのが好きで…」
ローザ「あなたのパスポートを拝見(はいけん)しました。それによると、日本で起きたパンデミックの前に出国されていますね。間違いありませんか?」
若い男「パンデミックって…。何のことですか?」
ローザ「(驚いて)あなた、知らないですか? 五年前に起きた伝染病(でんせんびょう)の大流行(だいりゅうこう)を…。一年間、日本は封鎖(ふうさ)されていたんですよ」
若い男「そんな…、知りませんでした。旅行中は誰とも連絡(れんらく)してないし。そういうニュースを聞ける場所にはいなかったんで。携帯(けいたい)も非常用のつもりで電源は切ってあったし」
ローザ「そう、そうなんですか…。あなたのご両親、御家族は日本人ですか? 血縁(けつえん)の人で、外国人と結婚した方はいませんか?」
若い男「いないはずですけど…。両親も日本から出たことありませんし」
ローザ「純粋(じゅんすい)な日本人、分かりました。すぐにあなたの家族と会えるように手配(てはい)します」
ローザは男の一人に合図(あいず)をすると、男は部屋を出て行く。
ローザ「ご無事(ぶじ)だといいんですか…」
若い男「そんな、ひどいことになってたんですか?」
ローザ「ええ、日本人の八割(はちわり)が亡くなりました。そのほとんどが、赤ちゃんから三十代までの若い方たちでした。感染(かんせん)が治(おさ)まった後、政府は税収(ぜいしゅう)を補(おぎな)うために、外国からの移住(いじゅう)を促進(そくしん)しました。それにより、純粋な日本人、子供を作ることのできる若い独身(どくしん)の日本人が減(へ)り続けています。純粋な日本人は全滅寸前(ぜんめつすんぜん)というわけです」
若い男は首をかしげるばかりで、彼女の話の内容が理解(りかい)できないようだ。
ローザ「そこで、あなたには、これから精密検査(せいみつけんさ)を受けていただきます。健康状態に問題がなければ、あなたは日本政府の特別保護対象(ほごたいしょう)になります。――心配(しんぱい)は何もありません。あなたは今まで通り自由に生活できます。住宅は勿論(もちろん)、生活や、医療(いりょう)にかかる費用(ひよう)はすべて政府が負担(ふたん)します。ただ、あなたには純粋な日本人を増やすため、こちらで指定した純粋な日本人女性たちと子作りに励(はげ)んでもらいます」
若い男「ちょっと待って下さい。それは、どういうことですか?」
ローザ「日本人の絶滅を防(ふせ)ぐためにはこれしかないのです。もし希望(きぼう)があれば、その中の女性から一緒(いっしょ)に暮らす妻(つま)を選ぶことができます」
<つぶやき>もし地球上から日本人がいなくなったら…。あまり考えたくないですよね。
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2017年02月09日

「迫る」

○住宅街にある公園(こうえん) 夜
さほど広くもない公園。夜なので子供の姿(すがた)もなくひっそりしている。若い男がベンチに座って落ち着かない様子(ようす)。さっきから腕時計(うでどけい)を何度も見ている。ここは学生の頃から付き合っている彼女との待ち合わせの場所だった。その彼女が小走(こばし)りでやって来た。
 「(息を切らして)ごめんね、遅(おそ)くなっちゃった。待ったでしょ?」
 「(立ち上がり)いや、そうでもないよ。で、何だよ…、大事(だいじ)な話って?」
 「うん…、それがね…」
二人はベンチに座る。女は、もじもじとしている。男が先走(さきばし)り、
 「わ、別れたいってことか? 何でだよ。そりゃ、最近(さいきん)忙しくてなかなか会えなかったけど…。俺(おれ)は、お前のことずっと――」
 「(冷静(れいせい)に言い放(はな)つ)なに言ってるの? そんな話しじゃないわよ」
 「(一瞬(いっしゅん)かたまるがほっとして)何だよ、そうなのか? ああ、もう、びっくりしたぁ。大事な話って言うから、俺、もう、ずっとドキドキだったんだぞ」
 「(独(ひと)り言のように)まあ、別れてもいいんだけどね」
 「(聞こえなかったようで)なに? で、何なんだよ話しって」
 「それがね、急な話なんだけど…。引っ越すのよ、私たち家族(かぞく)で…」
 「引っ越す? えっ、どうして…。どこへ行くんだよ?」
 「九州(きゅうしゅう)。父さんの故郷(ふるさと)なんだけど、そっちで暮(く)らすことになったの」
 「九州…、そりゃ、遠いな…。でも、一緒(いっしょ)に行かなくても、仕事だってあるだろ?」
 「私のお父さんのこと知ってるでしょ。一人娘(ひとりむすめ)の私を置いて行くわけないじゃない。前に私が、一人暮らししたいって言ったとき猛反対(もうはんたい)されたじゃない。私だけ残(のこ)るなんて言ったら、大変なことになっちゃうわ」
 「まあ、そうだな…。あの人なら、お前の会社に乗りこんで辞表(じひょう)を出すかもなぁ」
 「私、遠距離恋愛(えんきょりれんあい)はしたくないの。そんなの、続(つづ)くわけないし」
 「えっ、そんなの…。大丈夫(だいじょうぶ)だって、俺は、遠くなったって俺の愛は――」
 「そうなの。前に遠距離してた彼は、他の女と…。そうなっちゃうんだから」
 「えっ、付き合ってた奴(やつ)、いたのかよ? 俺、聞いてないぞ」
 「そんなこと、何で話さなきゃいけないのよ。あなたには関係(かんけい)ないじゃない」
 「まあ、そうだけど…。でも、俺はそんなこと絶対(ぜったい)ないから。他の女なんか――」
 「(じっと男の顔を見つめて)遠距離にしないためには、一つだけ方法(ほうほう)があるわ」
 「方法…? 何だよ、それ?」
 「(じれったそうに)私は、ここに残りたいのよ。そのためには残る理由(りゆう)が必要(ひつよう)なの」
男は首をかしげるばかり。女は大きなため息をついて、
 「もう…、結婚(けっこん)よ! 何で分からないかなぁ。普通(ふつう)、気づくでしょ」
 「…ああ、なるほど。そうだよな…。でも、急に結婚って言われても…」
 「急って何よ? あたしたち、付き合い始めてもう長いよね。急ってことはないでしょ。私、このまま別れてもいいのよ。その方が面倒(めんどう)なこともないし。そうしましょうか?」
<つぶやき>まさに、ここは決断のときですよ。ビシッと決めて、男を上げましょうよ。
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2017年06月16日