「忘れたい記憶、買います」

(再公開 2017/04/16)
診察室のような一室。香織(かおり)がしのぶにつき添(そ)われて座っている。その前には白衣を着た男。カルテに何か書き込みをしていた。
香織「あの、私、どこが悪かったんですか?」
「もう大丈夫ですよ。これで、スッキリしたと思います。注意しなければいけないことは、お友だちに伝えておきましたので、彼女の言うことはちゃんと守って下さいね」
香織「あっ、はい。(しのぶに)ねえ、私、どうしちゃったのかな?」
しのぶ「もう、風邪よ、風邪。あたしの言うこと聞かないから、こじらせちゃったんでしょ」
香織「そうなの?」
「では、受付でお支払いをしますので、しばらくお待ち下さい」
二人は部屋を出る。香織は少しふらついたが、しのぶがしっかり支えてやった。
数日後、二人の姿は街中にあった。香織は楽しそうに笑っている。前から来た男が香織を見つけて声をかけてきた。
山本「(ニヤつきながら)香織じゃない。久しぶりだな」
香織は誰だか分からず、しのぶの顔を見る。しのぶは二人の間に入り、
しのぶ「人違いです。(香織に)さあ、行きましょ」
山本「なあ、お前、今どこにいるんだよ。何で引っ越したんだ。連絡先教えろよ!」
しのぶは構わず、香織を引っ張って歩いて行く。山本(やまもと)、追いかける。しのぶは、山本から逃げるようにして、香織の手を取り走り出す。
香織「ねえ、どうしたのよ。今の人って…」
しのぶ「いいから、走って!」
翌日、同じ場所。香織が一人で携帯でしゃべりながら歩いている。
香織「大丈夫だよ。そんなに心配しなくても。……。うん、これから帰るね」
香織、携帯を切る。目の前に山本が立っていた。香織、驚いて立ち止まる。
山本「よっ。やっと会えたな。ずっと待ってたんだぞ」
香織「あ、あの。人違いじゃないですか。私、あなたのこと知らないし…」
香織、歩き出す。山本、香織の腕を強くつかんで引き寄せる。
山本「待てよ。俺から逃げられるとでも思ってるのか。いいから、ちょっと付き合えよ」
山本、無理やり香織を引っ張って行こうとする。いつの間にか、黒ずくめの女が山本の前に立ちはだかる。山本、その女をにらみつけて、
山本「何だ、お前。邪魔(じゃま)するな。とっとと消えろ」
山本、女を突き飛ばそうとする。だが、女は山本の手をつかみ締(し)め上げる。思わず、香織を離す山本。女は余裕の顔で香織に、
「行きなさい。あなたには関係ないことよ」
香織はその場を走り去る。女は手を離し、銃のようなものを突きつける。
「消えるのは、あなたの方よ。このウジ虫野郎(やろう)」
女は引き金を引く。青白い閃光(せんこう)が走り、山本に当たる。彼の姿は一瞬に消える。
「(携帯をかけて)元彼の消去、完了です。引き続き、彼女のサポートを続けます」
<つぶやき>嫌な記憶を買い取ってくれる。未来の世界には、そんな会社ができてるかも。
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2012年10月19日