「社内恋愛の結末」

(再公開 2017/07/19)
とあるレストラン。男女が向かい合って食事の最中(さいちゆう)。
女は楽しそうにたわいもないおしゃべりをしている。男は肯(うなず)いて相(あい)づちを打っているが、心ここに在(あ)らずという感じ。
食後の飲み物が運ばれてくると、男は、女のおしゃべりを遮(さえぎ)るように、
「ちょっといいかな…。今日は、大事(だいじ)な話があるんだ」
女の顔から笑顔が消える。女は男をじっと見つめる。
「俺たち、もうやめよう。こんなこと…」
「こんなこと、って?」
「俺たちは、そういう関係じゃ…。だから、何か、二人で運命感じちゃって付き合い始めたけど、やっぱ、違うと思うんだよね。俺たちは――」
「何それ? 何が言いたいのか分かんない。あたしたち、これからも、ずっと――」
「無理だ。(女から視線をそらして)ごめん。君とはもう付き合えない」
「えっ、何で? あなた、あたしのこと好きだって言ったよね。俺たちはずっと変わらないでいようって…。あれは、嘘(うそ)だったの? あたしを引っかけるだけの口説(くど)き文句(もんく)?」
「(女の顔を見ないで)いや、それは…。あの時は、俺だって…」
「何で急にそんなこと言うのよ。あたしが結婚を匂(にお)わせたから? だから別れようって」
男は何も答えようとしない。女は大きなため息をつく。
「やっぱり、あの噂(うわさ)は本当だったんだ。何でそうなるのよ」
「なに言ってんだよ。俺は、そういうあれじゃ…」
「あたしが知らないとでも思ってるの? それぐらい、あたしの耳にも入ってくるわよ」
「そ、そうなんだ。…でもな、これは、会社のためっていうか――」
「取引先の、社長の娘なんだって。そんなにお金が欲しいの?」
「いや、そうじゃないよ。向こうから、付き合ってくれって…」
「へぇ、告白とかされちゃったわけ。見せて。写真とかあるんでしょ?」
「それは…、ちょっと…。い、今は……」
女、怖い顔で睨(にら)みつけている。男は、おずおずと携帯の画像を出して女に渡す。
画像の女は、可愛くてけっこう美人である。女は嫉妬(しつと)の炎が燃えあがる。
「おとなしそうな顔して…。こんな女、消去よ」
女は画像を消去してしまう。男は慌てて携帯を取り上げて、
「何すんだよ。やめろよ」
「その女に電話して。あたしが話をつけてあげる。人の男を盗(と)るなんて――」
「彼女は悪くない。……知らないんだよ。君がいるってこと」
「はぁ? あなたってそんな人だったの? 最低。あたしは、あなたの何なのよ!」
「(周りを気にしつつ、声を落として)大きな声を出すなよ。みんなが見るだろ」
「(落ち着き払って)分かったわ。別れてあげる。その代わり…」
女は立ち上がり、飲み物を男の顔にぶっかける。そして、何事もなかったように、真っすぐ前を向いて去って行く。男は呆然(ぼうぜん)としたまま、座り続けている。
<つぶやき>誠実が一番。嘘が嘘を呼び、取り返しのつかないことになるかも知れません。
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2013年04月09日