「ナビゲーション」

(再公開 2017/04/25)
乗用車の中。ドライブに出かけた二人。楽しそうである。目的地に近づいた頃。
「ねえ。あたし、ここら辺は詳(くわ)しいのよ。前に、よく遊びに来てたから」
「へーえ、そうなんだ。家族と来てたの?」
「ううん。前にね、付き合ってた人と。楽しかったわよ」
「そ、そうか…。(複雑な気持ちでつぶやく)何なんだよ、それ…」
「(急に)そこ、左へ入って。左よ!」
「えっ、でも、ナビは直進なんだけど」
「いいの。こっちの方が近道なんだから。言う通りにしなよ」
男、仕方なく彼女の言う通りに左に曲がる。
「ほんとに大丈夫なの。何か、違う方へ行っちゃうんじゃない?」
「大丈夫だって。あたし、これでも一度も道に迷ったことないんだから」
「でも、それって、どうなのかな?」
「なに。あたしのこと信じてないの? あなたって、そういう人だったの」
「いや、そういうことじゃなくて。ここは、やっぱり地図でいった方が…」
「(突然ナビの電源を切って)あたしがナビしてるんだから、こんなの見ないで」
「(驚き)ああっ、そんな…」
女のナビで車は走り続ける。いつの間にか、山の中へと突き進んでいた。
「あの、どんどん道が細くなってくんだけど。ほんとに、大丈夫なの?」
「(不安な素振(そぶ)りを見せるが)うん、大丈夫よ。だって、裏道(うらみち)なんだから、こんなもんよ」
男、限界(げんかい)を感じて車をとめる。女の方を見て、
「なあ、戻らないか? このまま行ったら、道が無くなっちゃう気がするんだ」
「(バツが悪そうに)そ、そうね。そうしましょ」
男、何とか車をUターンさせてゆっくり走り出す。女はナビの電源を入れる。
「(ナビの画面を見て)あれ、どうなってるの。道がなくなってる!」
「大丈夫だよ。今来た道を戻ればいいんだから」
「もう、何で! あなたのせいよ。何とかしなさいよ!」
「えっ? だって、君がこっちだって…」
「あたしのせいだって言うの。あたしは、早く着いた方がいいと思って…」
「分かったよ。君のせいなんかじゃないから。何も、君が悪いなんて…」
「思ってる! 思ってるでしょ。絶対、そうに決まってるわ」
「何言ってんだよ。俺は、そんなこと…」
「いつもそうよ。あなたの目は、あたしをバカにしてるとしか思えない」
「なにそれ。そんなこと言われても、俺はこういう顔だから。どうしろって言うんだよ」
「もう、どうでもいいわよ! あたし、帰る。あなたとは、もう一緒にいたくない!」
「分かったよ。家まで送ってくから。もう、そんなこと言うなよ」
女、膨(ふく)れっ面をして黙ってしまう。しばらくすると、女は穏やかな顔で眠りについた。
<つぶやき>せっかくのドライブです。喧嘩なんかしたら、楽しくなくなっちゃいますよ。
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2012年11月02日