「ご主人さま」

(再公開 2017/09/08)
とあるアパートの一室。運送業者が大きな段ボール箱を運び込んでいた。その様子を困(こま)った顔をして見つめるタクミ。運送業者は部屋の真ん中に箱を置くと、受取のサインをもらって帰っていく。タクミは箱に貼(は)られた送り状を見て、
タクミ「まったく、お袋(ふくろ)、なに送ってきたんだよ。こんなでっかいの…」
タクミは箱を蹴飛(けと)ばすと、携帯を取り実家へ電話をかけようとする。その時、箱の中からピーッという小さな音が聞こえた。タクミは箱に近づく。また音がする。
タクミ「何なんだよ。また、変なもんじゃないだろうな」
タクミは梱包(こんぽう)を取ると、箱に貼られた荷造りテープを勢いよくはがす。そして箱を開けると、ワッと悲鳴をあげてその場で腰を抜かした。
タクミ「(震える声で)何だよ。何で、人が入ってんだよ。えっ、まさか死体?」
タクミは恐る恐る腰を上げて箱の中を覗(のぞ)こうと。その時、人の顔が飛び出してきた。タクミはまた悲鳴をあげて倒れ込む。中から出て来たのは女の子。女の子は箱から飛び出ると、部屋の中をぐるっと見回した。そしてタクミに視線を合わせると、
ヨシエ「(機械的な声で)ご主人さまを確認。これより任務(にんむ)を遂行(すいこう)します」
タクミ「なに? 何なんだよ。君は、一体誰だ? どうしてここに」
ヨシエ「私はヨシエ。横田好恵(よこたよしえ)のオーダーでやって来ました。あなたをサポートするようにプログラムされています」
タクミ「好恵って、お袋の名前じゃない。それに、何だよサポートって?」
ヨシエ「ご主人さまのデータはすべてインプット済(ず)みです。ご主人さまの健康管理から婚約者の選別(せんべつ)までサポートします」
タクミ「いいよ、そんなこと。サポートなんか必要ないから、もう帰ってくれ」
ヨシエ「そのオーダーはお受けできません。ご主人さま、現在、お付き合いしている女性は存在していますか?」
タクミ「そ、それは…。何で、お前にそんなこと言わなきゃいけないんだよ」
ヨシエ「微妙(びみょう)、微妙…。室内に女性の持ち物発見できず。存在しない確率92%」
タクミ「もういい加減にしてくれよ。帰らないと警察呼ぶぞ!」
タクミはヨシエの腕(うで)をつかみ引っぱろうとする。が、びくともしない。
ヨシエ「しつけモードに切り替えます。反抗(はんこう)は許(ゆる)されません」
ヨシエはタクミのえり首をつかむと、片手でグイっと持ち上げた。タクミは手足をバタつかせもがくが、逃げることができない。たまらず、
タクミ「分かった。分かったから、放(はな)してくれ…」
ヨシエ「(手を放し)しつけモード解除。今から観察モードに入ります。ご主人さまの行動を観察し、問題点を洗い出します。さらに、現在、接触(せっしょく)している女性の中から、婚約者にふさわしい人物を選別していきます」
タクミ「まさか、会社までついて来るっていうのか? そんなこと止めてくれよ」
ヨシエ「そのオーダーは却下(きゃっか)します。すでに、同行(どうこう)の許可(きょか)は得(え)ています」
<つぶやき>もしこんなアンドロイドが現れたら、もう大変なことになっちゃうかもね。
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2014年03月02日