「父と娘」

(再公開 2017/08/06)
とある公園。見晴らしのいい場所にあるベンチに娘が座っている。その回りを落ち着かない様子でうろうろしている父親。
「ねえ、座ったら? 目ざわりなんですけど」
父親「ああ…。もう、来ると思うんだ。きっと、お前も好きになって――」
「ねえ、どうして公園なのよ。もっと他にあるでしょ? 雰囲気のいいお店とか」
父親「そ、そうだな。でも、ここがいちばん落ち着くというか…。よく二人でここに…」
「(父親を見つめて、嫌味(いやみ)を込めて)そうなんだ。あたし、全然知らなかった」
父親「ああ…、それはだな、いろいろ、あれだ。タイミングを、こう…」
父親、ハンカチを出して汗(あせ)をふく。娘は遠くを見ながら、
「で、あたしは何て呼べばいいの?」
父親「そ、それは…。まあ、お前の好きな呼び方でいいんじゃないか?」
「そう。じゃあ、ママ? でも、あたしより10コ上なんでしょ。ということは…」
父親「ママは、ちょっとあれかな? 彼女、まだ二十代だし…」
「ほんと、何でこんなオヤジを好きになったのか。あたし、信じられないんですけど。一体(いったい)どこで知り合ったのよ。そこんとこ、まだちゃんと聞いてないんですけど」
父親「それはだな、おいおいと…。彼女が来たら、順(じゅん)を追って…」
「まさか、お金目当てだったりして。――まあ、それはないか。ウチにそんなお金…」
父親「なに言ってる。彼女はそんな人じゃないぞ。とっても純粋(じゅんすい)な――」
「純粋? あたしに言わせれば、ただのバカよ。こんな、どっから見ても中年のオヤジで、しかも子供までいるんだよ。あたしだったら、絶対好きにならない」
父親「お前、父親に向かって…、それはないだろ」
「あっ、分かった。よっぽどのブスなんじゃない? だから、男なら誰でもって」
父親「いい加減にしなさい! 彼女はそんな…」
父親は財布から一枚の写真を取り出して娘に渡す。娘はそれを見て、
「ゲゲッ! 嘘でしょ。何で、こんな人が…。あり得ない。絶対あり得ないでしょ!」
父親「(自慢気に)けっこう、あれだろ。――これで、若いのに、しっかりしてるんだ」
「絶対、欺(だま)されてる。お金とか渡してるんじゃないの。それか、保険! まさか、生命保険入ったりしてないでしょうね。やめてよ、殺されちゃうよ」
父親「だから、パパの話を聞いてなかったのか? お金なんか渡してないし、保険にも入ってない。彼女は、本当にパパのことを好きになって…」
「違うよ。ねえ、しっかりして。こんな奇麗(きれい)な人が、パパのこと好きになるはずないでしょ。あれよ、他に付き合ってる男がいるはずだわ。いなきゃ変よ」
父親「お前は彼女のことを分かってない。彼女に会えばきっと――」
「もしかして、整形(せいけい)とか…。歳(とし)も誤魔化(ごまか)してるんじゃないの? もう、やだよ。再婚なんかやめようよ。あたし、ちゃんとパパのこと…」
父親「もう決めたんだ。お前に老後(ろうご)の心配なんかされたくない」
<つぶやき>どんな人を好きになるか。人それぞれです。でも、この場合はどうなんでしょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2013年06月09日