「絶滅危惧種」

空港内のとある一室。大きな机(つくえ)と数脚(すうきゃく)の椅子(いす)が置かれているだけで、会議室というには殺風景(さっぷうけい)な感じである。外国人風の若い女に案内されて、大きな荷物を抱(かか)えた若い男がやって来る。その後に数人の男たちが続く。
ローザ「どうぞ、こちらへおかけになって下さい」
若い女は机の前の椅子をすすめる。女は男と対面(たいめん)するように席(せき)につく。
ローザ「私、ローザ・山下です。政府の日本保護機関(ほごきかん)で働いている者です。少し、お聞きしたいことがあって、こちらに来ていただきました。質問(しつもん)、いいですか?」
若い男「あ、はい。かまいませんが…」
ローザ「あなたは五年前に出国(しゅっこく)されていますね。今までどちらの国にいましたか?」
若い男「えっと、アジアを旅してました。あっちこっちへ…、旅をするのが好きで…」
ローザ「あなたのパスポートを拝見(はいけん)しました。それによると、日本で起きたパンデミックの前に出国されていますね。間違いありませんか?」
若い男「パンデミックって…。何のことですか?」
ローザ「(驚いて)あなた、知らないですか? 五年前に起きた伝染病(でんせんびょう)の大流行(だいりゅうこう)を…。一年間、日本は封鎖(ふうさ)されていたんですよ」
若い男「そんな…、知りませんでした。旅行中は誰とも連絡(れんらく)してないし。そういうニュースを聞ける場所にはいなかったんで。携帯(けいたい)も非常用のつもりで電源は切ってあったし」
ローザ「そう、そうなんですか…。あなたのご両親、御家族は日本人ですか? 血縁(けつえん)の人で、外国人と結婚した方はいませんか?」
若い男「いないはずですけど…。両親も日本から出たことありませんし」
ローザ「純粋(じゅんすい)な日本人、分かりました。すぐにあなたの家族と会えるように手配(てはい)します」
ローザは男の一人に合図(あいず)をすると、男は部屋を出て行く。
ローザ「ご無事(ぶじ)だといいんですか…」
若い男「そんな、ひどいことになってたんですか?」
ローザ「ええ、日本人の八割(はちわり)が亡くなりました。そのほとんどが、赤ちゃんから三十代までの若い方たちでした。感染(かんせん)が治(おさ)まった後、政府は税収(ぜいしゅう)を補(おぎな)うために、外国からの移住(いじゅう)を促進(そくしん)しました。それにより、純粋な日本人、子供を作ることのできる若い独身(どくしん)の日本人が減(へ)り続けています。純粋な日本人は全滅寸前(ぜんめつすんぜん)というわけです」
若い男は首をかしげるばかりで、彼女の話の内容が理解(りかい)できないようだ。
ローザ「そこで、あなたには、これから精密検査(せいみつけんさ)を受けていただきます。健康状態に問題がなければ、あなたは日本政府の特別保護対象(ほごたいしょう)になります。――心配(しんぱい)は何もありません。あなたは今まで通り自由に生活できます。住宅は勿論(もちろん)、生活や、医療(いりょう)にかかる費用(ひよう)はすべて政府が負担(ふたん)します。ただ、あなたには純粋な日本人を増やすため、こちらで指定した純粋な日本人女性たちと子作りに励(はげ)んでもらいます」
若い男「ちょっと待って下さい。それは、どういうことですか?」
ローザ「日本人の絶滅を防(ふせ)ぐためにはこれしかないのです。もし希望(きぼう)があれば、その中の女性から一緒(いっしょ)に暮らす妻(つま)を選ぶことができます」
<つぶやき>もし地球上から日本人がいなくなったら…。あまり考えたくないですよね。
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2017年02月09日