「鈍感だから」

とある公園(こうえん)。ベンチで物思(ものおも)いにふける秋穂(あきほ)がいる。そこへ良太(りょうた)がやって来る。
秋穂「えっ、何で…」
良太「あ…、おお…。何やってんだよ、こんなところで…」
秋穂「べ、別に…。良太こそ…、どうして? 部活(ぶかつ)じゃないの」
良太「部活はいいんだよ。俺(おれ)がいなくても、どうってことないし…」
秋穂「何で、そんなに投(な)げやりなの? そんなんだからね、いつまでたっても――」
良太「うっせぇなぁ。いいだろ? 俺の勝手(かって)じゃねぇか。前こそ、何やってんだよ」
秋穂「あたしは…。ちょっと、考えごとしてただけよ」
良太「……それで、決めたのか? 付き合うかどうか…」
秋穂「えっ、なんで、何で知ってるのよ」
良太「そ、それは…。隆(たかし)が…。あいつに相談(そうだん)されてて…、お前に告白(こくはく)するとか…」
秋穂「へぇえ、そうなんだ。…で、中村(なかむら)君には何て言ったのよ」
良太「いや、別に…。そ、そうかって…」
秋穂「ああ…、そうなんだ。もう何なのよ。あたしのことはほっといてよ。良太だって、告白されたんでしょ。美月(みづき)に…。よかったわね。あたしなんかより――」
良太「はぁ? されてねぇよ。されたとしても、俺は、付き合うつもりなんて…」
秋穂「えっ、なんで? だって、美月よ。クラスで一番人気(にんき)の――」
良太「そんなの関係(かんけい)ねぇよ。俺には…、他に…、いるから…」
秋穂「えっ! そうなの? だ、誰(だれ)よ。あたしの知ってる娘(こ)? 教えなさいよ」
良太「な、なんでお前に教えなきゃいけないんだ?」
秋穂「なんでって…。そ、それは…。あんたみたいな鈍(どん)くさいのが、彼女と上手(うま)くやっていけるの? あたしが…、その…」
良太「うっせぇなぁ。そんな心配(しんぱい)されても、まだ付き合ってるわけじゃないし…」
秋穂「(ほっとした感じで)あっ、そうなんだ。なんだぁ」
良太「そいつは…、他のヤツに告白されてんだよ。だから、俺は……」
秋穂「そうか…。良太もたいへんだね。あたしも…、似(に)たようなもんかなぁ。鈍感(どんかん)で、女心(おんなごころ)なんてまったく分かってなくて、もうどうしようもないヤツなの……」
良太「なんだそれ。こっちも、ほんとにめちゃくちゃ鈍感で、なに考えてんのか分かんないし。どうしようもなく……」
秋穂「(笑って)なにそれ…。あたし、決めたわ。中村君とは付き合わない」
良太「えっ、いいのかよ? それで…」
秋穂「うん。だって、あたし、中村君のこと好きになれるとは思えないし。だから…」
良太「そ、そうか…。お前が、それでいいなら、いいけど…」
秋穂「さぁ、あたしの問題(もんだい)は解決(かいけつ)したわ。今度は、良太の番(ばん)よ。その彼女、どんな娘(こ)なの?」
良太「いや…、どんな娘(こ)って…。そ、それは…。別に、俺のことはいいから。ほっといてくれ。どこまで鈍(にぶ)いんだよ。普通(ふつう)、気づくだろ…」
秋穂「えっ、なに? やっぱり、あたしの知ってる娘(こ)なのね」
<つぶやき>何をぐずぐずしてるんだ? はっきりと言っちゃえばいいんだよ。ほら…。
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2019年05月17日