「逃がし屋」

○とある惑星(わくせい)にある飲み屋
薄暗い店内。けっこう混(こ)み合っていて、いろんな言語(げんご)が飛び交っていた。陽気(ようき)な音楽が流れ、ステージでは踊り子たちが客を楽しませていた。
人目(ひとめ)につかない店の奥のテーブルで、男と女が何やら密談(みつだん)をしている。
 「本当にあたしを逃(に)がしてくれるんでしょうね?」
 「もちろんだ。でも、それは報酬次第(ほうしゅうしだい)だけどな…。こっちも商売なんだ、悪く思わんでくれ。で、あんたは誰に狙(ねら)われてるんだい?」
 「それ、聞いちゃう? そういうの、気にするんだ」
 「そりゃ気にするだろ。やばい相手(あいて)だと、こっちもこれからの商売がやりにくくなるからな。それに、こういう商売は、いろいろと…。ほら、分かるだろ?」
 「じゃ、いいわ。他を捜(さが)すから…」
立とうとする女の手をつかんで、男は女を席に戻す。
 「待てよ、まだ話はついてない。それに、俺より凄腕(すごうで)の逃がし屋はどこにもいないぜ」
 「ふん、自信満々(じしんまんまん)ね。でも、あたしの話を最後まで聞いたら、きっとあなたもすぐに逃げ出すわ。――あたし、ガバンから逃げたいの」
 「(目を見開いて)ガバン…、あのドラグ・ガバンか? こいつは驚(おどろ)いた」
 「あなた、知ってるの? あいつのこと」
 「まあな、ちょっとした顔見知(かおみし)りってとこかな…。しかし、こりゃ相当(そうとう)やばいな」
 「いいわよ、断(ことわ)っても。どうせあなたも命(いのち)が惜(お)しいんでしょ」
 「誰が断ると言った。で、何やらかしたんだ? 盗(ぬす)みか、それとも――」
 「あたしは、まっとうに仕事をしてるわ。これでもお金は持ってるのよ」
 「そりゃ頼(たの)もしいねぇ。これで商談(しょうだん)も先へすすむってわけだ。でも、そんなお嬢(じょう)さんが、どうしてあんな奴(やつ)と付き合ってるんだい?」
 「付き合ってなんかないわ。向こうから近づいて来るだけよ。あたし、あんまりしつこいから張(は)り倒(たお)してやったわ。そしたら、手下(てした)たちが押しかけて来て…」
 「そりゃ面白(おもしろ)いや。見てみたかったなぁ。――何がねらいだ? ガバンは下手物(げてもの)好きだ。あんたみたいな美人に惚(ほ)れるはずがない」
 「(顔色が変わり)そ、そんなの知らないわよ。それより、引き受けてくれるの?」
 「そうだな…、1000でどうだ。こっちもいろいろ準備が必要だから、さしあたりその半額の500は先に払ってもらわないとな」
 「500?! それは高すぎるわ。今は、300しか持ってないもの」
 「それじゃ話にならないな。こっちは命がけの仕事だ。それだけじゃ…」
 「払うわよ、1000でも2000でも…。あてはあるの。そこへ連れてってくれれば、あなたが望(のぞ)むだけあげるわ」
 「こりゃ、楽しい旅になりそうだ。じゃ出ようか? 急がないと、ガバンって野郎(やろう)は犬並(な)みに鼻(はな)がきくからな。見つからないうちに、すぐに出航(しゅっこう)しないと。いつでも飛べるように準備はしてあるんだ。300あれば、出航の許可(きょか)が下(お)りるはずだ」
<つぶやき>彼女は訳ありのようですね。果たして、逃げ切ることができるのでしょうか?
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2016年10月26日