「空からきた少女」043

「佐藤家の朝」
 朝の光がレースのカーテン越(ご)しに柔(やわ)らかに差し込んで、鳥のさえずりが彼女を起(お)こそうとするかのように窓(まど)の外から聞こえていた。そして、扉(とびら)の向こうからは母親が朝食の支度(したく)をしている音やテレビの声が響(ひび)いてくる。でも、それさえも彼女には心地(ここち)よく聞こえてしまうのか、幸(しあわ)せそうな寝顔を布団(ふとん)の間からのぞかせていた。
 ここは郊外(こうがい)にある何の特徴(とくちょう)もないような小さな町、石神町(いしがみちょう)。彼女の住む団地(だんち)は少し高い場所にあり、周(まわ)りには果樹園(かじゅえん)とか民家が点在(てんざい)している。彼女たち一家の部屋は三階にあり、見晴(みは)らしはすこぶる良い。彼女もそこは気に入っているようだ。
「ねえ、お姉ちゃん起こしてきて。学校に遅れちゃうわ」
 母親はハムエッグを皿(さら)に移しながら、テーブルに茶碗(ちゃわん)を並(なら)べていた勇太(ゆうた)に声をかけた。
 勇太は小学三年生だが、しっかりしていて母親の手伝いを率先(そっせん)してやっていた。勇太は、分かったと言って子供部屋の扉を開けた。そして、まだ布団にくるまっている姉を揺(ゆ)り起こして、「ねえ、起きて。起きないと、どうなっても知らないよ」
 姉の菜月(なつき)は目を閉じたまま不機嫌(ふきげん)に答えた。「うるさいなぁ…。もう少し…」
 これはいつものことなのだろう、勇太は小さくため息(いき)をつくと部屋を出て行った。キッチンでは朝食の支度は終わっていた。母親は勇太が戻ってくると、
「先に食べてなさい。ママはひと仕事してくるからね」
 そう言うと、母親は腕(うで)まくりしながら子供部屋へ入って行った。
<つぶやき>どこにでもあるような朝の風景です。あなたにも身に憶えがあるのでは…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年07月31日