連載物語

「空からきた少女」030

「探査プロジェクト」
 この研究所(けんきゅうしょ)では、以前(いぜん)から新型の探査機(たんさき)の開発(かいはつ)が進められていた。それは、どんな環境(かんきょう)にも適応(てきおう)でき、不測(ふそく)の事態(じたい)でも判断(はんだん)を下せる自立型(じりつがた)探査ロボット。グリーク政府は他の国に先駆(さきが)けて、未開(みかい)の宇宙の探査に乗り出そうとしていた。広大な宇宙には膨大(ぼうだい)な資源(しげん)が眠っている。それを独占(どくせん)することができれば、グリークの力は確固(かっこ)たるものになる。
 透明(とうめい)な壁(かべ)に囲まれた会議室には、数十人の研究者や技術者が集められていた。この探査機のプロジェクトが動きはじめて以来、開発メンバー全員が顔をそろえるのは初めてだった。会議室の中では、いろいろな言葉が飛び交(か)いざわついていた。チームリーダーと思われる男が入ってくると、やっと静かになった。
 バルンガ星人(せいじん)のリーダーは一同を前にして言った。
「さあ、私たちの子どもを送り出す時がきました。いよいよ、探査が始まります」
 会議室に歓声(かんせい)があがった。今までの研究成果をみせるときがきたのだ。さらに、リーダーは続けた。「探査のエリアは、六万光年離れた辺境(へんきょう)の宇宙域です」
 その時、誰かが声をあげた。「ちょっと待てくれ。何でここに部外者(ぶがいしゃ)がいるんだ」
 彼はそう言うと、部屋の隅(すみ)に静かに座っていた数名を指さした。そこにいたのは、小型兵器の開発をしている技術者たちだった。会議室は静まりかえり、彼らに注目(ちゅうもく)が集まった。
<つぶやき>未知のものを探究する。何だかワクワクしますね。そこにはどんな世界が…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月08日

「空からきた少女」031

「集められた頭脳」
 みんなの視線(しせん)を集めた部外者(ぶがいしゃ)の一人が、顔色を変えることなく面倒臭(めんどくさ)そうに答えた。
「それはこっちが聞きたいよ。われわれは呼ばれたから来ただけだ」
 チームリーダーはみんなに聞こえるように言った。
「探査(たんさ)の詳細(しょうさい)は私にもわからない。が、上の連中(れんちゅう)から、今回の探査にどうしても必要(ひつよう)な人材(じんざい)だ、と聞いています」
「われわれは兵器(へいき)を作るためにやってきたんじゃない」誰かが声をあげた。
「それは、もちろんです。しかし、私たちには運用(うんよう)の決定権(けっていけん)はありません。私たちの研究をどう生かすかは、この研究所の責任者(せきにんしゃ)が決めることです」
 会議室に重い空気がただよった。ちょうどそこに、チップメル教授(きょうじゅ)が顔を出した。教授は一同の注目(ちゅうもく)を集めてしまい、思わず後(あと)ずさった。
 チームリーダーがチップメル教授をみんなに紹介(しょうかい)した。その場にいた生物学者は、彼の名を聞き驚きの声をあげる。教授は宇宙生物の環境(かんきょう)による進化(しんか)についての第一人者なのだ。
 その時、天井(てんじょう)からモニターが静かに下りてきた。そこに映し出されたのはアールの姿。その場にいた全員に緊張(きんちょう)が走った。アールはそこに集められたメンバーに向かって、何の感情(かんじょう)も見せず今回の任務(にんむ)の説明(せつめい)を始めた。
<つぶやき>いろんな人の知恵(ちえ)と力を合わせると、今までに無かったものが生まれてくる。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月17日

「空からきた少女」032

「任務」
 アールの説明は簡単(かんたん)なものだった。だが、波紋(はもん)を広げるにはそれで充分(じゅうぶん)だ。
「昔、ある国で作られた兵器が辺境(へんきょう)の宇宙域(うちゅういき)へ送られた。その兵器は自爆(じばく)したものと思われるが、それを確認してもらいたい。もし、兵器の稼働(かどう)が確認できたら、ただちに破壊(はかい)すること。これが今回君たちに与えられた任務(にんむ)だ。ただちに取り掛(か)かってくれ」
 兵器のスペシャリストが声をあげた。「昔の兵器なのに急ぐ必要があるのか?」
 その問いに答えるようにアールは言った。「君は、機械進化論(きかいしんかろん)を知っているかね?」
「そんなのはでたらめの作り話さ。信じてる奴(やつ)なんていやしない」
「そこにいるチップメル教授(きょうじゅ)は、可能(かのう)だと思っているようだが」
 アールの言葉に、一同は教授の方を見つめた。教授はどう答えればいいのか戸惑(とまど)った。だが、機械進化論についてあちこちで意見が飛び出した。
「夢のような話だけど、けして不可能なことじゃない」
「私たちの探査機(たんさき)だって、それに近いものを目指(めざ)しているじゃない」
「我々(われわれ)でもまだ実現(じつげん)できないのに、完全な兵器として使えるものが作れるのか?」
「もし作れるとしたら、ハンメル博士(はかせ)ぐらいだろう」
 誰かが冗談半分(じょうだんはんぶん)に言った。他の人たちも、その意見には反対するものはいないようだ。
 アールは意味深長(いみしんちょう)な笑みを浮かべて、「それは正しい判断(はんだん)と言っていいだろう」
<つぶやき>新しいものを作るのは大変です。最初にそれを始めた人はすごいと思います。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月26日

「空からきた少女」033

「極秘命令」
 アールは満足(まんぞく)げに言った。「ハンメル博士(はかせ)が関わっているのは間違いないだろう。今でも稼働(かどう)しているとなると、どんな進化(しんか)をとげているか予測(よそく)できない。そのつもりでいてくれ」
「いったい、どんなものを探すのですか?」リーダーが思案(しあん)顔で言った。「もっと詳(くわ)しい情報(じょうほう)がなければ…」
「我々(われわれ)がもっている情報はごくわずかで断片的(だんぺんてき)なものだが、後で届(とど)けさせよう。不測(ふそく)の事態(じたい)に備(そな)えて、万全(ばんぜん)なものに仕上げてくれ」
「しかし、その兵器(へいき)について詳しく分析(ぶんせき)して、充分(じゅうぶん)に対応(たいおう)できるように調整(ちょうせい)しなくては。それからでないと、送り込むことはできません」
「そこまで待つことはできない。後は実戦(じっせん)で調整してくれ。そういう機能(きのう)も備(そな)えているのだろう。それに、武器の搭載(とうさい)も可能のはずだ。さらに言えば、パワーも報告(ほうこく)されたものより数倍あると聞いている。違(ちが)うかね?」
 アールの言葉に、一同は黙(だま)り込んだ。開発の進捗状況(しんちょくじょうきょう)も把握(はあく)されているようだ。アールはさらに続けた。
「チップメル教授には、未知(みち)の宇宙生物についての対応データを早急(そうきゅう)に作成(さくせい)してもらいたい。その間に、搭載可能な武器を装備(そうび)させて、最終調整(さいしゅうちょうせい)を完了(かんりょう)すること。以上だ」
 アールが言い終わると、モニターは消された。ここでは、上からの命令(めいれい)には従(したが)わなければならない。研究を続けるためには、それが絶対条件(ぜったいじょうけん)なのだ。
<つぶやき>難しいことに挑戦(ちょうせん)する。その心意気(こころいき)があれば、成功(せいこう)への道が開けるかも…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年04月04日

「空からきた少女」034

「黒いジェル」
 会議(かいぎ)が終わると、チップメル教授(きょうじゅ)はロボット開発者(かいはつしゃ)たちに案内(あんない)されて研究室(けんきゅうしつ)へ向かった。――その研究室にはいくつもの装置(そうち)が置かれ、通路(つうろ)もないほど雑然(ざつぜん)としていた。彼らは装置の間をすり抜(ぬ)けて、一番奥の小部屋に教授を招(まね)き入れた。そこは他の部屋とは違い、透明な壁(かべ)ではなく、何か金属のようなもので出来ていた。部屋の中央には台があり、五十センチ四方の透明(とうめい)な容器(ようき)が置かれている。その中には、黒いジェル状の物質(ぶっしつ)が入れられていた。
「これが、我々(われわれ)が開発した新型ロボットさ」
 緑色(みどりいろ)の肌(はだ)をした男が容器を指差(ゆびさ)し、ニヤリと笑った。唖然(あぜん)としている教授を見て楽しんでいるようだ。さらに男は続けた。
「この物質は、どんな形にも変形(へんけい)できるんだ。では、我々(われわれ)の最愛(さいあい)の子供を紹介(しょうかい)しよう」
 男はポケットからピンポン玉ほどの球体(きゅうたい)を取り出し、教授に見せると、容器の中へ投げ込んだ。すると、ジェル状の物質がうごめきだし、中央部分が盛(も)り上がってきた。教授は不思議(ふしぎ)に思い、容器に一歩近づいた。まるで新種(しんしゅ)の生き物のようで、興味(きょうみ)をひいたのだ。
 物質の動きがいったん止まると、盛り上がった部分に目のようなものが現れた。次の瞬間(しゅんかん)、そこから赤い光が飛び出して教授を捉(とら)えた。教授は、一瞬(いっしゅん)身体の自由を奪(うば)われた。赤い光は教授の全身を照らし出した。
<つぶやき>不思議なものを見ると、それが何なのか知りたくなる。でも注意しないと…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年04月13日

「空からきた少女」035

「新型ロボット」
 赤い光が消えると、チップメル教授は膝(ひざ)をついて屈(かが)み込んだ。身体中を虫が這(は)い回ったようで、何とも嫌(いや)な気分になったのだ。そんな嫌な感覚(かんかく)がおさまると、教授は目を開けた。すると、目の前に誰かの足元(あしもと)が見えた。教授は、視線(しせん)を上げていく。そこに立っている人物の顔を見て、教授は腰(こし)を抜(ぬ)かした。そこにいたのは、紛(まぎ)れもない自分自身だったのだ。
「どうだね。傑作(けっさく)だろう」
 緑の男は嬉(うれ)しそうにまた笑った。
「こいつは、すべてをコピーすることが出来るんだ。強度(きょうど)は違(ちが)うがね」
 緑の男は教授を後ろへさがらせると、教授の姿をしたロボットに向かって爆弾(ばくだん)を投げつけた。爆発音とともに一面(いちめん)に煙(けむり)が充満(じゅうまん)した。だが、煙はすぐに天井(てんじょう)に吸(す)い込まれていく。煙が消えた後には、傷(きず)ひとつついていないロボットが、何事(なにごと)もなかったように立っていた。
「これはすごい」教授は思わずつぶやいた。
「こいつはプロトタイプだ。まだまだ改良(かいりょう)の余地(よち)があるんだがね。時間がないのが残念(ざんねん)だ」
 別の研究員が言った。「この子に組み込まれている電子頭脳(ずのう)は、最高の出来なんだ。学習や分析(ぶんせき)能力が優(すぐ)れているのはもちろんだが、より我々(われわれ)に近い思考(しこう)を――」
「おい! 君はしゃべりすぎだ」緑の男はその研究員を制(せい)した。
<つぶやき>同じ人間が作れたら、面倒なことはすべて任せて…。そんなこと考えちゃ…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年04月22日

「空からきた少女」036

「意味深な…」
 緑の男は、チップメル教授の方を見て言った。
「あとは、あなたの作るデータにかかっている。よろしく頼むよ」
「はい。しかし、これはすばらしい」
 教授はロボットに近づいて言った。「これなら、原始的(げんしてき)な文明(ぶんめい)を持っている生物がいても、姿を真似(まね)ることで影響(えいきょう)を最小限に抑(おさ)えることができる。何より、間近(まぢか)な場所で観察(かんさつ)が出来るんだ。ぜひ、私の研究にも使いたい」
「それは無理(むり)だな。あなたは、まだ何も分かっていないようだ」
 緑の男はつぶやいた。「我々(われわれ)の開発(かいはつ)したものをどう使うかは、上の奴(やつ)らが決めることだ。我々が自由に使えるのは、この穴蔵(あなぐら)の中だけだよ」
 教授は改(あらた)めて理解(りかい)した。もう、この惑星(わくせい)アルメスからは出られないことを。二度と、家族や友人たちに会うこともできないのだ。教授は緑の男に訊(き)いた。
「君は、一生(いっしょう)ここで研究を続けるのか? それで、満足なのか?」
「ああ、もちろんさ。ここには煩(わずら)わしいことは全くない。自分の研究に没頭(ぼっとう)できるんだ。最高の環境だよ。それに…」
 緑の男は声をひそめて言った。
「ここは閉ざされた場所じゃない。あなたにも、いずれ分かるときがくるはずだ」
 緑の男は、意味深(いみしん)な笑(え)みを浮かべて教授を見つめた。
<つぶやき>チップメル教授はこれからどうなるのでしょうか? そしてロボットは…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年05月01日

「空からきた少女」037

「鎮守の森」
 木漏(こも)れ日が、まるでパッチワークのように森の中を照(て)らしていた。森の奥からは鳥のさえずりが聞こえ、あちこちに生き物の息吹(いぶき)が感じられる。
 ここは植林(しょくりん)の森。杉(すぎ)の大木が真っすぐに空へ伸(の)びていた。だが、木の周(まわ)りには下草(したくさ)が生(お)い茂(しげ)り、倒木(とうぼく)や枯(か)れ枝(えだ)がそのままにされている。昔はきちんと手入れされていたはずなのに、ここ数年は手をかけられていないようだ。
 その森の中を、ひとりの少女が歩いていた。淡(あわ)いピンクのワンピースを着て、とても可愛(かわい)らしい少女だ。でも、森を歩くには不似合(ふにあ)いだ。せっかくのきれいな靴(くつ)や服が、泥(どろ)などで汚れてしまっていた。長い黒髪にはクモの巣(す)がくっつき、どこかで引っかけたのだろう、スカートの裾(すそ)が破(やぶ)れていた。彼女はそんなこと気にならないのか、夢遊病者(むゆうびょうしゃ)のようにふらふらと歩いていた。その顔はどこか寂(さび)しげで、虚(うつ)ろな目をしている。
 植林の森のはずれ、自然の森との境界(きょうかい)に大きな岩(いわ)があった。なぜここに大岩があるのか、とても不思議な感じだ。まるで誰かが運んで来たかのように、ぽつんとひとつだけ居座(いすわ)っていた。その大岩の近くには、小さくて古い神社(じんじゃ)が建てられている。神社の裏手(うらて)には山が連(つら)なり、自然のままの森が広がっていた。
 少女は、その森の方へと歩(ほ)を進めているようだ。まるで何かに引き寄せられるように…。
<つぶやき>場面はどこにでもあるような山間の町へ。これからどんな展開をするのか?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年05月11日

「空からきた少女」038

「出会い」
 大岩(おおいわ)の上に、少年がぼんやりと寝転(ねころ)がっていた。彼はむしゃくしゃしたときや、一人になりたいとき、いつもここに来ていた。ここには滅多(めった)に人は来ないし、彼にとって落ち着ける場所になっているようだ。
 小枝(こえだ)を踏(ふ)み折(お)る音で、彼は起き上がった。見ると、女の子がこちらへ近づいてくる。それは、見たことのない子だ。ここらへんの子供じゃないのだろう。彼はそう思った。彼女はどんどん大岩の方に近づいてくる。彼は高い場所にいるので、彼女はまだ気づいていないようだ。彼女は大岩の前を通り過ぎ、森の奥の方へ歩いて行く。彼は慌(あわ)てて大岩から飛びおりて、彼女を追(お)いかけた。そして、彼女の前で立ち止まり、行く手をふさいだ。
「だめだよ。入っちゃ」少年は声をかけた。
 少女はその声で我(われ)に返ったのか、急に目の前に現れた少年に驚いて後(あと)ずさった。
「この森を知らない人間が入ると、戻(もど)れなくなるから」少年の目は真剣(しんけん)だった。
 少女はおびえていた。それは少年にもはっきりと分かった。彼女は長い髪(かみ)を震(ふる)える指でくるくると回しながら、周(まわ)りを見まわして、「あたし…。どうして……」
「おまえ、どこから来たんだ? なんで、こんなところに」
 いつもの乱暴者(らんぼうもの)の彼なら、声などかけなかっただろう。でも、なぜか分からないが、放(ほ)っておけなかったのだ。彼女はそのことには何も答えず、何かを思い出したように、
「あたし、帰らなきゃ…」と、少女はふらふらとまた歩き出した。
<つぶやき>彼女はなぜこんな所へ来たのでしょうか? そこには何か理由があるのか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年05月29日

「空からきた少女」039

「ぬくもり」
「そっちじゃないよ」彼は少女を呼びとめた。そして神社の方を指差(ゆびさ)して、
「森から出るなら、こっちの方が近道(ちかみち)だ」
 少女は彼の方を振り返り、かすかに頷(うなず)いた。少年は神社の方へ歩き出す。時々、後ろを気にしながら。
 そこには道があるわけでもないので、木の根(ね)や岩が所々(ところどころ)に飛び出している。少年は慣(な)れているのでずんずんと歩いて行く。でも、少女の方は何度もつまずいて、とうとう枯葉(かれは)に足を滑(すべ)らせて転んでしまった。見かねて少年が駆(か)け寄り、少女に手を差し出すと、少女はためらいながらも少年の手を取った。
 少年は、柔(やわ)らかくて暖(あたた)かな少女の手の感触(かんしょく)に、どきりとした。人とこんなふうに触(ふ)れ合うのは久(ひさ)しぶりだった。一緒(いっしょ)に暮らしている母親とは、いつも反発(はんぱつ)ばかりしていたから。
 どのくらい歩いただろうか、細長い窪地(くぼち)にさしかかった。いつ頃掘(ほ)られたのだろうか、神社の周りは空堀(からぼり)で囲(かこ)まれているのだ。窪地の向こうの木々の間に、神社のお社(やしろ)が見え隠(かく)れしている。崩(くず)れて緩(ゆる)やかな傾斜(けいしゃ)になっているところを通り、二人は空堀を越(こ)えた。
 神社の境内(けいだい)に出ると、二人は気恥(きは)ずかしさから、どちらからともなく手を離した。
 境内は大きな木々に囲まれていて、夏だというのに涼(すず)やかな風に包(つつ)まれていた。少年は細い参道(さんどう)を歩いて行く。少し遅(おく)れて、少女も歩き出した。二人とも、どうしたらいいのか分からず無言(むごん)のままだ。誰もいない境内に、蝉(せみ)の声だけが響(ひび)いていた。
<つぶやき>この二人の出会いから、何かが始まるのでしょうか。それはまた次のお話。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年06月07日

「空からきた少女」040

「幼なじみ」
 古ぼけた鳥居(とりい)をくぐり、道に出た。ここは田舎(いなか)町なので、歩いている人などいなかった。少し離れたところにある畑(はたけ)で、農作業をしている人が小さく見えるだけだ。
「家はどこ? 送って行くよ」少年は思い切って声をかけた。
「いえ…」少女はちょっと困った顔をして目を伏(ふ)せたが、少年の方をしっかりと見て、
「帰れます…。一人で帰れますから。ありがとう」
 少女は頭を下げるとにっこりと笑顔を見せて、そのまま背を向けて歩き出した。彼女の後ろ姿はどこか寂(さび)しげで、少年の心はざわついていた。少年は彼女とつないだ手を見る。まだ、彼女のぬくもりが残っているような、そんな気がした。
 そんな二人の様子(ようす)を木陰(こかげ)から見ていた者がいた。少女が離れていくのを見届(みとど)けてから、ゆっくりと少年に近づいて声をかけた。
「ねえ、大介(だいすけ)。いまの子、だれ?」
 少年は驚(おどろ)いて振り返った。そこにいたのは幼なじみの花代(はなよ)だ。
「知るかよ」大介はぶっきらぼうに答えた。
「こんなとこで何してたの?」花代は神社の方を見て言った。
「お前には関係ねえだろ。もう、うるせえなぁ」
「何よ。そんな言い方しなくても…」
<つぶやき>田舎では子供たちの遊び場はいっぱい。でも気をつけないといけないことも。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年06月25日

「空からきた少女」041

「近づくもの」
 大介(だいすけ)は花代(はなよ)の言うことなど聞かずに、ぷいと逃げるように行ってしまった。
 この二人、以前はとても仲(なか)が良かった。何でも話せる関係だった。それが、大介の両親(りょうしん)が離婚(りこん)してからというもの、二人の関係(かんけい)もぎくしゃくしてしまった。花代は、前のように仲良くしたいと思っていた。でもそんな気持ちとは裏腹(うらはら)に、ひどいことを言ってしまう自分がいた。花代には大介の行き場のない気持ちを、どうすることもできないのだ。やるせない思いで、花代は大介を見送るしかなかった。
 ――はるか宇宙(うちゅう)の彼方(かなた)、天(あま)の川の方角(ほうがく)から近づいて来る光があった。まだ小さすぎて、地球からはそれを確認(かくにん)することは出来ない。発光体(はっこうたい)はものすごいスピードで太陽系に入り、次第(しだい)に速度(そくど)を落としていく。海王星(かいおうせい)、土星(どせい)の軌道(きどう)を通りすぎて木星(もくせい)の間近(まぢか)まで迫(せま)ったとき、燃(も)えるような光が消えていった。光の中から現れたのは、直径(ちょっけい)が二メートルにも満たない球体(きゅうたい)だった。その球体は銀色をしていて、太陽の光をキラキラと反射(はんしゃ)させていた。球体はさらに速度を落として、火星(かせい)へ向かって進んで行った。
 ちょうどその頃、火星に近づいていく探査機(たんさき)があった。機体には日の丸が描かれていて、日本が火星に送った初めての探査機だ。小型ながらも日本の技術の粋(すい)を集めて作られている。探査機は順調(じゅんちょう)に飛行を続け、ようやく火星の周回軌道に投入するところまでたどり着いた。日本中がその探査機を固唾(かたず)を呑(の)んで見守っていた。
<つぶやき>宇宙を目指すのはとても大変なこと。でもそこには大いなる夢とロマンが…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年07月13日

「空からきた少女」042

「火星探査機」
 日本の探査機(たんさき)が火星(かせい)に近づいていた。計算では間もなく周回軌道(しゅうかいきどう)に乗るはずだ。宇宙開発センターの管制室(かんせいしつ)では、探査機からの信号を今か今かと待ち構えていた。モニターを見つめていた担当者が声を上げた。
「信号を受信しました。軌道投入(とうにゅう)を確認。成功です!」
 静まり返っていた管制室が、一転(いってん)歓喜(かんき)の声に包(つつ)まれた。互(たが)いに握手(あくしゅ)をかわしたり、抱き合ったり、涙を流して喜ぶ人もいた。今までの長かった苦労が報(むく)われた瞬間だ。
 このミッションの責任者が声を上げた。
「みんな、ご苦労さま。だが、本番はこれからだ。気を引きしめて、それぞれの作業を進めてくれ。みんな、ほんとにありがとう!」
 ――宇宙空間を漂(ただよ)っている十数個の小さな物体があった。小惑星がぶつかった時に飛び散った星くずなのか…。大きなものでも二、三センチほどしかなかった。それが火星の引力(いんりょく)に引きよせられて、スピードを上げて近づいて来ていた。その行く手には、軌道に乗ったばかりの探査機が浮(う)かんでいる。地球からはそのことを知ることはできない。
 探査機をかすめるように、それは隕石(いんせき)となって火星の表面へ次々と落下していった。
 ――もうこれで危険は去ったかと思ったとき、一センチほどの塊(かたまり)が探査機に激突(げきとつ)した。そして、機体を突(つ)き抜けて地表へ落下していく。機体には大きな穴が開いてしまった。それと同時に、小さな爆発が起き探査機は機能を停止した。
<つぶやき>宇宙では何が起こるか分からない。それでも知りたいことは山ほどあります。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年07月22日

「空からきた少女」043

「佐藤家の朝」
 朝の光がレースのカーテン越(ご)しに柔(やわ)らかに差し込んで、鳥のさえずりが彼女を起(お)こそうとするかのように窓(まど)の外から聞こえていた。そして、扉(とびら)の向こうからは母親が朝食の支度(したく)をしている音やテレビの声が響(ひび)いてくる。でも、それさえも彼女には心地(ここち)よく聞こえてしまうのか、幸(しあわ)せそうな寝顔を布団(ふとん)の間からのぞかせていた。
 ここは郊外(こうがい)にある何の特徴(とくちょう)もないような小さな町、石神町(いしがみちょう)。彼女の住む団地(だんち)は少し高い場所にあり、周(まわ)りには果樹園(かじゅえん)とか民家が点在(てんざい)している。彼女たち一家の部屋は三階にあり、見晴(みは)らしはすこぶる良い。彼女もそこは気に入っているようだ。
「ねえ、お姉ちゃん起こしてきて。学校に遅れちゃうわ」
 母親はハムエッグを皿(さら)に移しながら、テーブルに茶碗(ちゃわん)を並(なら)べていた勇太(ゆうた)に声をかけた。
 勇太は小学三年生だが、しっかりしていて母親の手伝いを率先(そっせん)してやっていた。勇太は、分かったと言って子供部屋の扉を開けた。そして、まだ布団にくるまっている姉を揺(ゆ)り起こして、「ねえ、起きて。起きないと、どうなっても知らないよ」
 姉の菜月(なつき)は目を閉じたまま不機嫌(ふきげん)に答えた。「うるさいなぁ…。もう少し…」
 これはいつものことなのだろう、勇太は小さくため息(いき)をつくと部屋を出て行った。キッチンでは朝食の支度は終わっていた。母親は勇太が戻ってくると、
「先に食べてなさい。ママはひと仕事してくるからね」
 そう言うと、母親は腕(うで)まくりしながら子供部屋へ入って行った。
<つぶやき>どこにでもあるような朝の風景です。あなたにも身に憶えがあるのでは…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年07月31日

「空からきた少女」044

「朝の儀式」
 リビングのキャビネットには何枚も家族写真が飾(かざ)られている。両親と子供たちの楽しそうな笑顔が、そこにはあった。母親はその前を通って子供部屋へ入って行く。ベッドに近づくと、母親は優しい声で菜月(なつき)の耳元(みみもと)でささやいた。
「おきなさい、朝ですよ。早くしないと、学校に遅(おく)れちゃいますよ」
 菜月はまだ夢の中にいるようで、幸せそうな微笑(ほほえ)みを浮(う)かべていた。――これも、いつものことなのだろう。母親は何度か耳元でささやいてから、おもむろに立ち上がった。そして布団(ふとん)をつかんではねのけると、最後(さいご)の言葉(ことば)をはいた。
「いつまで寝てるの! いい加減(かげん)にしなさい。遅れても知らないからね」
 菜月の目がぱちりと開(あ)くのを確認(かくにん)すると、母親は菜月のほっぺたを両手ではさんで、おはようの挨拶(あいさつ)をした。菜月は起き上がると不機嫌(ふきげん)な顔をして、
「やめてよ。もう、子供じゃないんだから…。あっちへ行ってて」
 母親は菜月の頭をなでて言った。「子供じゃないんなら、自分でちゃんと起きなさい」
 佐藤(さとう)家は四人家族。でも父親が単身赴任(たんしんふにん)をしているので、母親はスーパーで働きながら一人で子供たちの面倒(めんどう)をみていた。子供たちも、母親が大変なのを分かっているので、家のお手伝いを進んでやっているようだ。でも、どうやら菜月は朝だけは苦手(にがて)みたい。
<つぶやき>早寝早起きは大切ですよね。早く起きると、とっても良い一日になるかも。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年08月09日