連載物語

「空からきた少女」023

「機械進化論」
「博士の目指す究極の世界。もし、それが実現していたらと思うと、ぞっとしますね」
 アールは楽しんでいるかのように言った。
 ハンメル博士が提唱(ていしょう)した機械進化論(しんかろん)。それは機械を進化させることで、この世界の秩序をより良い方向に導(みちび)くというものだ。この考えは、当時はまったく無視されていた。誰しも、実現は不可能だと思ったのだ。それは、今になっても変わることはなかった。だが、今回のことであらためて博士の研究資料を分析した結果、あながち絵空事(えそらごと)ではないとグリークの政府は判断したようだ。アールがここにやって来たのも、その対策のひとつなのだ。
「まさか、あの秘密兵器が…」チップメル教授は最悪のシナリオを想像した。
「そうかもしれません」アールは無表情に答えた。「われわれが入手した情報では、それを否定することはできない。もし、その兵器に進化の機能(きのう)が備(そな)わっていれば、この世界にとって大きな脅威(きょうい)となるでしょう」
「進化の機能…、それはどんなものなのですか?」
 チップメルは進化を研究する学者として、その言葉に好奇心をそそられた。
 アールはそれを見逃さなかった。「博士の論文の中にこんな記述(きじゅつ)がありました。機械に意志を与えると。つまり、その機械が自ら判断し行動できるようにする。そして、状況によって必要な機能を付け加えて増殖(ぞうしょく)させる。まるで生き物のようにね」
<つぶやき>現代の機械の進化は凄(すご)いです。あんなことや、こんなことができるんだから。
Copyright(C)2008-2016 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2016年12月10日

「空からきた少女」024

「陰の力」
 チップメル教授は絞り出すように言った。
「でも、そんな機械を作ることができるのですか?」
「われわれは可能だと判断しました。もし兵器が稼働していれば、どんな形に進化しているか予測がつかない」
「稼働していないことを願いますね。そうでないと…」
「今、われわれは最高水準の研究者を集めて、探査装置の開発を進めています。それを完成させるためには、教授の知識が必要なのです」
「私の?」
「教授の宇宙生物学に関する研究は高く評価しています。ぜひ、協力していただきたい」
「それは…。まあ、私でお役に立つことがあれば…」
「では、われわれの研究所まで来ていただけますか?」
「ちょっと待って下さい」チップメル教授は慌てて言った。「私にも仕事があります。ここを離れるわけにはいきません。それに――」
 アールは手を上げて教授を制した。
「ご心配にはおよびません。あなたがここにいる理由は、何もありませんよ」
 アールはそう言うと、部下の二人に合図を送った。
<つぶやき>この後、教授の身に何が起きるのか。そこには、グリーク政府の陰の力が。
Copyright(C)2008-2016 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2016年12月26日

「空からきた少女」025

「協力依頼」
 アールの合図で、部下の一人が電脳装置に小さな箱のようなものを置いてスイッチを入れた。次の瞬間、断末魔(だんまつま)のような警告音が鳴り響き、イゴールはすべての機能を停止した。
「何をしたんだ!」教授は驚いて駆け寄った。だが、もうどうすることもできなかった。
「どうやら寿命のようですね。残念です。われわれの研究所に来ていただければ、最新の電脳装置をご用意させていただきます」
「あなたは、私のこれまでの研究データをすべて消去したんですよ!」
 チップメル教授は怒りのあまりアールに詰め寄った。だが二人の部下にはばまれて、教授は息もつけないほど床に押しつけら身動きができなくなった。
「もういい。放(はな)すんだ」アールは部下たちに命令した。
 やっと解放された教授は荒い息をついた。その顔は恐怖のためか引きつっている。
「心配には及びません。あなたの研究データはすべて、われわれの研究所に転送しました」
「いつの間に…」
「あなたが会議に出席されていた時です。研究所には、あなたが必要とするすべてのデータが蓄積(ちくせき)されています。それも、最新のものがね。あなたは思う存分研究を進めることができるはずです。ただ、ほんの少しだけ、われわれに協力して下さればいいのです」
<つぶやき>アールの本当の目的は何なのか。不気味な感じですよね。これからどうなる?
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年01月04日

「空からきた少女」026

「連行」
 チップメル教授は必死になって考えた。アールの言うとおり悪い話ではない。最新の装置を使って、何の心配もなく研究を続けることができるのだ。しかし――。教授はアールを見て気がついた。自分には選択(せんたく)の余地(よち)がないことを。もしここで頑(かたく)なに断れば、何をされるかわからない。命さえ危(あや)ういかもしれない。教授はどんな研究所なのか訊(き)いてみた。
「惑星アルメスにあるホイル研究所です。これからすぐに出発してもらいます」
 それは聞いたこともない惑星の研究所だった。アールは続けて言った。
「生活に必要なものはすべて用意させます。どうしても必要なものだけ荷造りして下さい」
 なおも躊躇(ちゆうちよ)している教授にアールは命令口調(くちよう)で言った。「これは決定事項です」
 教授は覚悟(かくご)を決めて荷造りを始めた。飾られている標本などを鞄(かばん)に詰め込む。もともと余計なものは持たない方なので、出発の準備を終えるのに時間はかからなかった。教授はその間に、気づかれないように自分が連れて行かれる場所を書き残し、机の引き出しの奥にこっそりと隠した。友人が訪ねて来たときに、見つけてくれることを信じて。
 最後に教授は部屋の中を見まわした。もう二度と戻って来られないかもしれないと思うと、何ともやり切れない気持ちで一杯(いつぱい)になった。――アールは教授を先に行かせると、机の引き出しからメモ書きを取り出して、くしゃくしゃに握(にぎ)りつぶした。
<つぶやき>自分の思うように生きることができれば、それが幸せなのかもしれません。
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年01月13日

「空からきた少女」027

「ホイル研究所」
 アルメスは小型の惑星で、赤茶けた空と荒涼(こうりょう)とした大地が広がっていた。薄い大気に覆(おお)われていて、ひとたび風が吹けば砂を巻き上げて何もかも隠してしまう。生物にとっては過酷(かこく)な環境だった。こんな、何もない星に立ち寄ろうとする者など、いるはずもない。
 ホイル研究所はこの星の地下深くに造られていて、地上部分には監視(かんし)のための装置が置かれていた。研究所の入口近くには、小さな観測所にカムフラージュされた監視施設がある。研究所は地下で何層にもわかれていて、地上部とは違い快適な環境が維持(いじ)されていた。ここはグリークの秘密機関が管理していて、この巨大な研究施設の存在を知る者はごくわずかだ。他の連盟国にもまったく知られていない。
 ここにはいろんな種族の技術者や研究者が集められていた。それも、突拍子(とっぴょうし)もない考えの持ち主ばかりだ。言いかえれば、組織になじめないはみだし者や厄介(やっかい)者たち。そんな連中がここに集められている。彼らは変わり者ばかりだが、あらゆる分野のトップクラスの人材がそろっていた。彼らの考えは斬新(ざんしん)、奇抜(きばつ)で、並みの者には理解できない。
 この場所は通信も遮断(しゃだん)されていて、外部とは完全に隔離(かくり)されていた。ここに来たら、特別の許可がおりない限り外へ出ることは許されない。研究所の中でも監視システムが作動していて、彼らの行動や研究の進み具合を逐一(ちくいち)チェックしていた。
<つぶやき>宇宙にはいろんな星がある。気軽に行けないけど、想像の翼をひろげると…。
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年01月31日

「空からきた少女」028

「巨大な施設」
 彼らの中には無理やり連れてこられた者もいたが、誰一人として監獄(かんごく)のような研究所から逃げ出そうとする者はいなかった。
 なぜなら、ここは彼らにとって最高の場所だからだ。自分のやりたい研究を、誰にも邪魔(じゃま)されることなくできるのだ。倫理(りんり)や道徳(どうとく)も関係ない。それに研究資金の心配もまったくなく、どんな希少(きしょう)な高価なものでも注文を出せば必ず手に入れられるのだ。監視(かんし)されたり多少の不自由はあるものの、そんなことを気にする者などいなかった。誰もが研究に没頭し、他の研究者とも意見をぶつけ合い、時間のたつのも忘れるような忙しさだ。
 チップメル教授が初めて研究所に足を踏み入れたとき、あまりの規模の大きさに驚いた。入口の扉が開くと大きな縦穴の空間が目の前に広がり、底を覗くと足がすくむほど深かった。縦穴の周りには透明の壁で仕切られた部屋があり、それが何層も底の方まで続いていた。ひとつひとつの部屋では、何人もの研究者が忙しそうに動きまわっている。
 呆気(あっけ)にとられている教授に、案内ロボットが近づいて来て、後ろへ乗るように指示をした。ロボットの後ろへ回ってみると立って乗れる部分がある。教授が指示どおりに上に乗ると、それは動き出した。何層か下の階に下り、迷路のような通路を進んで行く。その間に、何カ所も扉で区切られた所があり、センサーによるチェックが行われた。教授は警備の厳重(げんじゅう)さを目(ま)の当(あ)たりにして、とんでもない所に来てしまったんだと実感した。
<つぶやき>自由とは何でしょう。それは誰かが決めるものではなく、自分の中にある。
Copyright(C)2008-2017 Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年02月18日

「空からきた少女」029

「つのる不安」
 チップメル教授(きょうじゅ)は、自分が今何処(どこ)にいるのかまったく分からなくなった。
「さっきの入口へ戻るには、このロボットに案内させないと…。でも、こいつは私の言うことを聞いてくれるのか?」教授はそんなことを漠然(ばくぜん)と考えていた。
 その時、突然目の前で爆発(ばくはつ)が起こった。教授は爆音(ばくおん)に驚いて、ロボットにしがみついた。十数メートル先にある部屋の扉(とびら)が吹(ふ)っ飛び、煙(けむり)がもくもくと外へ吐(は)き出されている。
 煙はまたたく間に通路に充満(じゅうまん)し、あちこちで警報(けいほう)が鳴(な)り響いた。部屋の中では炎(ほのお)が立ち上っている。次の瞬間(しゅんかん)、部屋の天井から消火液が勢いよく噴射(ふんしゃ)され、あっという間に炎を消し止めてしまった。あれだけ立ち上っていた煙も、天井の穴の中へ吸い込まれていく。そして、どこからともなくロボットたちが集まってきて、部屋の中の研究員を救助(きゅうじょ)し、あたりに散乱(さんらん)している残骸(ざんがい)の後片付けを開始した。
 かなり大きな爆発だったのに、透明(とうめい)の壁(かべ)はまったく無傷(むきず)だった。それに、不思議なことに他の部屋からは誰も出て来ない。まったく無関心(むかんしん)なのか、それとも本当に気づかなかったのか…。透明の研究室の中では、忙しそうに働いている研究員の姿があった。
 案内ロボットは別ルートを検索(けんさく)し終わると、その場を離れて脇(わき)の通路を進んで行った。チップメル教授はますます不安になってきた。この先、どんな運命が待っているのか、まったく予測(よそく)ができないのだ。
<つぶやき>先のことが分からないと不安です。でも、先へ進まなくちゃ何も始まらない。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年02月27日

「空からきた少女」030

「探査プロジェクト」
 この研究所(けんきゅうしょ)では、以前(いぜん)から新型の探査機(たんさき)の開発(かいはつ)が進められていた。それは、どんな環境(かんきょう)にも適応(てきおう)でき、不測(ふそく)の事態(じたい)でも判断(はんだん)を下せる自立型(じりつがた)探査ロボット。グリーク政府は他の国に先駆(さきが)けて、未開(みかい)の宇宙の探査に乗り出そうとしていた。広大な宇宙には膨大(ぼうだい)な資源(しげん)が眠っている。それを独占(どくせん)することができれば、グリークの力は確固(かっこ)たるものになる。
 透明(とうめい)な壁(かべ)に囲まれた会議室には、数十人の研究者や技術者が集められていた。この探査機のプロジェクトが動きはじめて以来、開発メンバー全員が顔をそろえるのは初めてだった。会議室の中では、いろいろな言葉が飛び交(か)いざわついていた。チームリーダーと思われる男が入ってくると、やっと静かになった。
 バルンガ星人(せいじん)のリーダーは一同を前にして言った。
「さあ、私たちの子どもを送り出す時がきました。いよいよ、探査が始まります」
 会議室に歓声(かんせい)があがった。今までの研究成果をみせるときがきたのだ。さらに、リーダーは続けた。「探査のエリアは、六万光年離れた辺境(へんきょう)の宇宙域です」
 その時、誰かが声をあげた。「ちょっと待てくれ。何でここに部外者(ぶがいしゃ)がいるんだ」
 彼はそう言うと、部屋の隅(すみ)に静かに座っていた数名を指さした。そこにいたのは、小型兵器の開発をしている技術者たちだった。会議室は静まりかえり、彼らに注目(ちゅうもく)が集まった。
<つぶやき>未知のものを探究する。何だかワクワクしますね。そこにはどんな世界が…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月08日

「空からきた少女」031

「集められた頭脳」
 みんなの視線(しせん)を集めた部外者(ぶがいしゃ)の一人が、顔色を変えることなく面倒臭(めんどくさ)そうに答えた。
「それはこっちが聞きたいよ。われわれは呼ばれたから来ただけだ」
 チームリーダーはみんなに聞こえるように言った。
「探査(たんさ)の詳細(しょうさい)は私にもわからない。が、上の連中(れんちゅう)から、今回の探査にどうしても必要(ひつよう)な人材(じんざい)だ、と聞いています」
「われわれは兵器(へいき)を作るためにやってきたんじゃない」誰かが声をあげた。
「それは、もちろんです。しかし、私たちには運用(うんよう)の決定権(けっていけん)はありません。私たちの研究をどう生かすかは、この研究所の責任者(せきにんしゃ)が決めることです」
 会議室に重い空気がただよった。ちょうどそこに、チップメル教授(きょうじゅ)が顔を出した。教授は一同の注目(ちゅうもく)を集めてしまい、思わず後(あと)ずさった。
 チームリーダーがチップメル教授をみんなに紹介(しょうかい)した。その場にいた生物学者は、彼の名を聞き驚きの声をあげる。教授は宇宙生物の環境(かんきょう)による進化(しんか)についての第一人者なのだ。
 その時、天井(てんじょう)からモニターが静かに下りてきた。そこに映し出されたのはアールの姿。その場にいた全員に緊張(きんちょう)が走った。アールはそこに集められたメンバーに向かって、何の感情(かんじょう)も見せず今回の任務(にんむ)の説明(せつめい)を始めた。
<つぶやき>いろんな人の知恵(ちえ)と力を合わせると、今までに無かったものが生まれてくる。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月17日

「空からきた少女」032

「任務」
 アールの説明は簡単(かんたん)なものだった。だが、波紋(はもん)を広げるにはそれで充分(じゅうぶん)だ。
「昔、ある国で作られた兵器が辺境(へんきょう)の宇宙域(うちゅういき)へ送られた。その兵器は自爆(じばく)したものと思われるが、それを確認してもらいたい。もし、兵器の稼働(かどう)が確認できたら、ただちに破壊(はかい)すること。これが今回君たちに与えられた任務(にんむ)だ。ただちに取り掛(か)かってくれ」
 兵器のスペシャリストが声をあげた。「昔の兵器なのに急ぐ必要があるのか?」
 その問いに答えるようにアールは言った。「君は、機械進化論(きかいしんかろん)を知っているかね?」
「そんなのはでたらめの作り話さ。信じてる奴(やつ)なんていやしない」
「そこにいるチップメル教授(きょうじゅ)は、可能(かのう)だと思っているようだが」
 アールの言葉に、一同は教授の方を見つめた。教授はどう答えればいいのか戸惑(とまど)った。だが、機械進化論についてあちこちで意見が飛び出した。
「夢のような話だけど、けして不可能なことじゃない」
「私たちの探査機(たんさき)だって、それに近いものを目指(めざ)しているじゃない」
「我々(われわれ)でもまだ実現(じつげん)できないのに、完全な兵器として使えるものが作れるのか?」
「もし作れるとしたら、ハンメル博士(はかせ)ぐらいだろう」
 誰かが冗談半分(じょうだんはんぶん)に言った。他の人たちも、その意見には反対するものはいないようだ。
 アールは意味深長(いみしんちょう)な笑みを浮かべて、「それは正しい判断(はんだん)と言っていいだろう」
<つぶやき>新しいものを作るのは大変です。最初にそれを始めた人はすごいと思います。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年03月26日

「空からきた少女」033

「極秘命令」
 アールは満足(まんぞく)げに言った。「ハンメル博士(はかせ)が関わっているのは間違いないだろう。今でも稼働(かどう)しているとなると、どんな進化(しんか)をとげているか予測(よそく)できない。そのつもりでいてくれ」
「いったい、どんなものを探すのですか?」リーダーが思案(しあん)顔で言った。「もっと詳(くわ)しい情報(じょうほう)がなければ…」
「我々(われわれ)がもっている情報はごくわずかで断片的(だんぺんてき)なものだが、後で届(とど)けさせよう。不測(ふそく)の事態(じたい)に備(そな)えて、万全(ばんぜん)なものに仕上げてくれ」
「しかし、その兵器(へいき)について詳しく分析(ぶんせき)して、充分(じゅうぶん)に対応(たいおう)できるように調整(ちょうせい)しなくては。それからでないと、送り込むことはできません」
「そこまで待つことはできない。後は実戦(じっせん)で調整してくれ。そういう機能(きのう)も備(そな)えているのだろう。それに、武器の搭載(とうさい)も可能のはずだ。さらに言えば、パワーも報告(ほうこく)されたものより数倍あると聞いている。違(ちが)うかね?」
 アールの言葉に、一同は黙(だま)り込んだ。開発の進捗状況(しんちょくじょうきょう)も把握(はあく)されているようだ。アールはさらに続けた。
「チップメル教授には、未知(みち)の宇宙生物についての対応データを早急(そうきゅう)に作成(さくせい)してもらいたい。その間に、搭載可能な武器を装備(そうび)させて、最終調整(さいしゅうちょうせい)を完了(かんりょう)すること。以上だ」
 アールが言い終わると、モニターは消された。ここでは、上からの命令(めいれい)には従(したが)わなければならない。研究を続けるためには、それが絶対条件(ぜったいじょうけん)なのだ。
<つぶやき>難しいことに挑戦(ちょうせん)する。その心意気(こころいき)があれば、成功(せいこう)への道が開けるかも…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年04月04日

「空からきた少女」034

「黒いジェル」
 会議(かいぎ)が終わると、チップメル教授(きょうじゅ)はロボット開発者(かいはつしゃ)たちに案内(あんない)されて研究室(けんきゅうしつ)へ向かった。――その研究室にはいくつもの装置(そうち)が置かれ、通路(つうろ)もないほど雑然(ざつぜん)としていた。彼らは装置の間をすり抜(ぬ)けて、一番奥の小部屋に教授を招(まね)き入れた。そこは他の部屋とは違い、透明な壁(かべ)ではなく、何か金属のようなもので出来ていた。部屋の中央には台があり、五十センチ四方の透明(とうめい)な容器(ようき)が置かれている。その中には、黒いジェル状の物質(ぶっしつ)が入れられていた。
「これが、我々(われわれ)が開発した新型ロボットさ」
 緑色(みどりいろ)の肌(はだ)をした男が容器を指差(ゆびさ)し、ニヤリと笑った。唖然(あぜん)としている教授を見て楽しんでいるようだ。さらに男は続けた。
「この物質は、どんな形にも変形(へんけい)できるんだ。では、我々(われわれ)の最愛(さいあい)の子供を紹介(しょうかい)しよう」
 男はポケットからピンポン玉ほどの球体(きゅうたい)を取り出し、教授に見せると、容器の中へ投げ込んだ。すると、ジェル状の物質がうごめきだし、中央部分が盛(も)り上がってきた。教授は不思議(ふしぎ)に思い、容器に一歩近づいた。まるで新種(しんしゅ)の生き物のようで、興味(きょうみ)をひいたのだ。
 物質の動きがいったん止まると、盛り上がった部分に目のようなものが現れた。次の瞬間(しゅんかん)、そこから赤い光が飛び出して教授を捉(とら)えた。教授は、一瞬(いっしゅん)身体の自由を奪(うば)われた。赤い光は教授の全身を照らし出した。
<つぶやき>不思議なものを見ると、それが何なのか知りたくなる。でも注意しないと…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年04月13日

「空からきた少女」035

「新型ロボット」
 赤い光が消えると、チップメル教授は膝(ひざ)をついて屈(かが)み込んだ。身体中を虫が這(は)い回ったようで、何とも嫌(いや)な気分になったのだ。そんな嫌な感覚(かんかく)がおさまると、教授は目を開けた。すると、目の前に誰かの足元(あしもと)が見えた。教授は、視線(しせん)を上げていく。そこに立っている人物の顔を見て、教授は腰(こし)を抜(ぬ)かした。そこにいたのは、紛(まぎ)れもない自分自身だったのだ。
「どうだね。傑作(けっさく)だろう」
 緑の男は嬉(うれ)しそうにまた笑った。
「こいつは、すべてをコピーすることが出来るんだ。強度(きょうど)は違(ちが)うがね」
 緑の男は教授を後ろへさがらせると、教授の姿をしたロボットに向かって爆弾(ばくだん)を投げつけた。爆発音とともに一面(いちめん)に煙(けむり)が充満(じゅうまん)した。だが、煙はすぐに天井(てんじょう)に吸(す)い込まれていく。煙が消えた後には、傷(きず)ひとつついていないロボットが、何事(なにごと)もなかったように立っていた。
「これはすごい」教授は思わずつぶやいた。
「こいつはプロトタイプだ。まだまだ改良(かいりょう)の余地(よち)があるんだがね。時間がないのが残念(ざんねん)だ」
 別の研究員が言った。「この子に組み込まれている電子頭脳(ずのう)は、最高の出来なんだ。学習や分析(ぶんせき)能力が優(すぐ)れているのはもちろんだが、より我々(われわれ)に近い思考(しこう)を――」
「おい! 君はしゃべりすぎだ」緑の男はその研究員を制(せい)した。
<つぶやき>同じ人間が作れたら、面倒なことはすべて任せて…。そんなこと考えちゃ…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年04月22日

「空からきた少女」036

「意味深な…」
 緑の男は、チップメル教授の方を見て言った。
「あとは、あなたの作るデータにかかっている。よろしく頼むよ」
「はい。しかし、これはすばらしい」
 教授はロボットに近づいて言った。「これなら、原始的(げんしてき)な文明(ぶんめい)を持っている生物がいても、姿を真似(まね)ることで影響(えいきょう)を最小限に抑(おさ)えることができる。何より、間近(まぢか)な場所で観察(かんさつ)が出来るんだ。ぜひ、私の研究にも使いたい」
「それは無理(むり)だな。あなたは、まだ何も分かっていないようだ」
 緑の男はつぶやいた。「我々(われわれ)の開発(かいはつ)したものをどう使うかは、上の奴(やつ)らが決めることだ。我々が自由に使えるのは、この穴蔵(あなぐら)の中だけだよ」
 教授は改(あらた)めて理解(りかい)した。もう、この惑星(わくせい)アルメスからは出られないことを。二度と、家族や友人たちに会うこともできないのだ。教授は緑の男に訊(き)いた。
「君は、一生(いっしょう)ここで研究を続けるのか? それで、満足なのか?」
「ああ、もちろんさ。ここには煩(わずら)わしいことは全くない。自分の研究に没頭(ぼっとう)できるんだ。最高の環境だよ。それに…」
 緑の男は声をひそめて言った。
「ここは閉ざされた場所じゃない。あなたにも、いずれ分かるときがくるはずだ」
 緑の男は、意味深(いみしん)な笑(え)みを浮かべて教授を見つめた。
<つぶやき>チップメル教授はこれからどうなるのでしょうか? そしてロボットは…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年05月01日

「空からきた少女」037

「鎮守の森」
 木漏(こも)れ日が、まるでパッチワークのように森の中を照(て)らしていた。森の奥からは鳥のさえずりが聞こえ、あちこちに生き物の息吹(いぶき)が感じられる。
 ここは植林(しょくりん)の森。杉(すぎ)の大木が真っすぐに空へ伸(の)びていた。だが、木の周(まわ)りには下草(したくさ)が生(お)い茂(しげ)り、倒木(とうぼく)や枯(か)れ枝(えだ)がそのままにされている。昔はきちんと手入れされていたはずなのに、ここ数年は手をかけられていないようだ。
 その森の中を、ひとりの少女が歩いていた。淡(あわ)いピンクのワンピースを着て、とても可愛(かわい)らしい少女だ。でも、森を歩くには不似合(ふにあ)いだ。せっかくのきれいな靴(くつ)や服が、泥(どろ)などで汚れてしまっていた。長い黒髪にはクモの巣(す)がくっつき、どこかで引っかけたのだろう、スカートの裾(すそ)が破(やぶ)れていた。彼女はそんなこと気にならないのか、夢遊病者(むゆうびょうしゃ)のようにふらふらと歩いていた。その顔はどこか寂(さび)しげで、虚(うつ)ろな目をしている。
 植林の森のはずれ、自然の森との境界(きょうかい)に大きな岩(いわ)があった。なぜここに大岩があるのか、とても不思議な感じだ。まるで誰かが運んで来たかのように、ぽつんとひとつだけ居座(いすわ)っていた。その大岩の近くには、小さくて古い神社(じんじゃ)が建てられている。神社の裏手(うらて)には山が連(つら)なり、自然のままの森が広がっていた。
 少女は、その森の方へと歩(ほ)を進めているようだ。まるで何かに引き寄せられるように…。
<つぶやき>場面はどこにでもあるような山間の町へ。これからどんな展開をするのか?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年05月11日