「空からきた少女」044

「朝の儀式」
 リビングのキャビネットには何枚も家族写真が飾(かざ)られている。両親と子供たちの楽しそうな笑顔が、そこにはあった。母親はその前を通って子供部屋へ入って行く。ベッドに近づくと、母親は優しい声で菜月(なつき)の耳元(みみもと)でささやいた。
「おきなさい、朝ですよ。早くしないと、学校に遅(おく)れちゃいますよ」
 菜月はまだ夢の中にいるようで、幸せそうな微笑(ほほえ)みを浮(う)かべていた。――これも、いつものことなのだろう。母親は何度か耳元でささやいてから、おもむろに立ち上がった。そして布団(ふとん)をつかんではねのけると、最後(さいご)の言葉(ことば)をはいた。
「いつまで寝てるの! いい加減(かげん)にしなさい。遅れても知らないからね」
 菜月の目がぱちりと開(あ)くのを確認(かくにん)すると、母親は菜月のほっぺたを両手ではさんで、おはようの挨拶(あいさつ)をした。菜月は起き上がると不機嫌(ふきげん)な顔をして、
「やめてよ。もう、子供じゃないんだから…。あっちへ行ってて」
 母親は菜月の頭をなでて言った。「子供じゃないんなら、自分でちゃんと起きなさい」
 佐藤(さとう)家は四人家族。でも父親が単身赴任(たんしんふにん)をしているので、母親はスーパーで働きながら一人で子供たちの面倒(めんどう)をみていた。子供たちも、母親が大変なのを分かっているので、家のお手伝いを進んでやっているようだ。でも、どうやら菜月は朝だけは苦手(にがて)みたい。
<つぶやき>早寝早起きは大切ですよね。早く起きると、とっても良い一日になるかも。
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2017年08月09日