「空からきた少女」046

「家族」
「もう、いい加減(かげん)にしなさい! 早くしないと遅刻(ちこく)するわよ」
 母親は怖(こわ)い顔で菜月(なつき)に言った。いつもと違うその様子(ようす)に、菜月は戸惑(とまど)ったように母親を見る。――母親は子供たちを座らせると、二人の顔をじっと見つめて静かに言った。
「昨夜(ゆうべ)、遅くにね、パパから電話があったの。こっちに戻って来られるかもしれないって」
「ほんとに?」勇太(ゆうた)は嬉(うれ)しそうに言った。「じゃあ、ずっと家にいるってこと?」
「そう…、そうよ」母親はそう答えたが、どこか浮(う)かない顔をしていた。
 父親は北海道の営業所に二年ほど前から単身赴任(たんしんふにん)をしていた。最初のうちは月に一度は帰って来られたのに、仕事が忙(いそが)しくなったのか、それが二月に一回になり、三月に一回になりで、今は半年以上も帰ってこない。もともと単身赴任は一年のはずだった。その一年がたった時、どういう会社の事情(じじょう)か分からないが本社へ戻ることができなくなった。それもあるので、母親は今度のこともあまり期待(きたい)はしていないようだ。
 子供たちが寝静(ねしず)まってから、母親は電話で言い争(あらそ)ったり泣いたりしていることがよくあった。菜月はそのことに気づいていて、知らないふりはしているが両親のことを心配していた。母親の淋(さび)しさを、子供ながらに感じていたのかもしれない。
 母親は心配そうにしている子供たちを見て、気を取り直して微笑(ほほえ)んで見せた。
<つぶやき>家族は愛という絆で結ばれているのです。でも、それを見失うこともある。
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2017年09月22日