「空からきた少女」047

「登校」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。今度はきっと…」母親は自分にも言い聞かせるように呟(つぶや)いた。
 ふと時計を見た母親はハッとして言った。「あら、もうこんな時間じゃない。早くしないと、みんな待ってるわよ。急ぎなさい。ほら、ぐずぐずしないで――」
 いつもの母親に戻ったようだ。子供たちもほっとする暇(ひま)はない。慌(あわ)ててランドセルを背負って家を飛び出して行く。母親は笑顔で二人を送り出した。
 道の脇(わき)にある大きな樫(かし)の木。夏には心地よい日陰(ひかげ)を提供(ていきょう)してくれる。その下には、いつから置かれているのか小さな地蔵(じぞう)が祀(まつ)られていた。ここが子供たちの集合場所になっていて、ここから並(なら)んで学校へ向かうのだ。もう、七、八人の子供たちが待っていた。
 そこへ慌てて駆(か)け込んでくる二人。菜月(なつき)が遅(おく)れてくるのはいつものことなのか、みんなも待たされるのは慣(な)れているようだ。花代(はなよ)が菜月に声をかけた。
「遅(おそ)いよ。班長が遅れてどうすんのよ」
 菜月は舌(した)をペロリと出して、「ごめん、ちょっといろいろあって…」
 この班では、菜月と花代が五年生だけど一番年上の学年になる。同級生の大介(だいすけ)も同じ班なのだが、彼もいろいろあって今は一緒(いっしょ)に登校(とうこう)しなくなっていた。花代は自分勝手(かって)なことばかりしている大介のことを口では怒(おこ)っているが、心のうちでは心配(しんぱい)しているのだ。今朝も花代は大介の家に寄って来たのだが、もう学校へ出かけてしまっていた。
<つぶやき>集団登校に郷愁(きょうしゅう)を感じることはありませんか? これも歳(とし)のせいかもね。
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2017年10月10日