「空からきた少女」048

「憧れの…」
 みんなは学校へ向けて出発した。前を歩いている勇太(ゆうた)に花代(はなよ)が声をかけた。
「勇太もかわいそうね。出来(でき)の悪い姉(あね)がいると大変でしょ?」
 勇太は後を振(ふ)り向いて肯(うなず)くと、にやにやしながら菜月(なつき)の顔を見た。菜月は、
「勇太、前を向いて歩かないと、転(ころ)んでも知らないよ。ほら」
 勇太が前を向くと、菜月は花代にささやいた。「もう、変なこと言わないでよ」
「遅刻(ちこく)した罰(ばつ)よ」花代は笑いながら言った。「いつになったら直(なお)るのかな?」
「ほんとごめん。実はさ、テレビであの映画のことやってたのよ。だからつい見ちゃって」
「あきれた。それで遅(おく)れるなんて信じられない」
「しかたないでしょ。わたしの憧(あこが)れの立花(たちばな)さやかが出てるのよ。もうじき封切(ふうぎ)りじゃない。絶対(ぜったい)、一緒(いっしょ)に観(み)に行こうね。あ~ぁ、待ち遠しいわぁ」
「ほんと好きよねぇ。だったら、菜月も女優を目指(めざ)したら」
 菜月は慌(あわ)てふためいて、「な、なに言ってるのよ。そ、そんなの、ムリに決まってるでしょ。わたしは見てるほうがいいの。そ、そんな映画に出るなんて、ムリ、ムリ、ムリ…」
 花代はそんな菜月を見て思いっ切り笑った。こんなに笑ったのは久(ひさ)しぶりだ。
 花代は先祖代々(せんぞだいだい)この町に住んでいた。家は農業(のうぎょう)をやっていて、田んぼや畑、それに桃(もも)も育てていた。兄(あに)が二人と姉が一人いて、花代は末(すえ)っ子だけど、とっても面倒見(めんどうみ)のあるしっかりした子だった。祖父母(そふぼ)も同居(どうきょ)していて、とってもにぎやかな家庭(かてい)で暮(く)らしていた。
<つぶやき>大家族の家は少なくなっていますよね。どんな家族でも仲良しがいいです。
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2017年10月28日