「空からきた少女」026

「連行」
 チップメル教授は必死になって考えた。アールの言うとおり悪い話ではない。最新の装置を使って、何の心配もなく研究を続けることができるのだ。しかし――。教授はアールを見て気がついた。自分には選択(せんたく)の余地(よち)がないことを。もしここで頑(かたく)なに断れば、何をされるかわからない。命さえ危(あや)ういかもしれない。教授はどんな研究所なのか訊(き)いてみた。
「惑星アルメスにあるホイル研究所です。これからすぐに出発してもらいます」
 それは聞いたこともない惑星の研究所だった。アールは続けて言った。
「生活に必要なものはすべて用意させます。どうしても必要なものだけ荷造りして下さい」
 なおも躊躇(ちゆうちよ)している教授にアールは命令口調(くちよう)で言った。「これは決定事項です」
 教授は覚悟(かくご)を決めて荷造りを始めた。飾られている標本などを鞄(かばん)に詰め込む。もともと余計なものは持たない方なので、出発の準備を終えるのに時間はかからなかった。教授はその間に、気づかれないように自分が連れて行かれる場所を書き残し、机の引き出しの奥にこっそりと隠した。友人が訪ねて来たときに、見つけてくれることを信じて。
 最後に教授は部屋の中を見まわした。もう二度と戻って来られないかもしれないと思うと、何ともやり切れない気持ちで一杯(いつぱい)になった。――アールは教授を先に行かせると、机の引き出しからメモ書きを取り出して、くしゃくしゃに握(にぎ)りつぶした。
<つぶやき>自分の思うように生きることができれば、それが幸せなのかもしれません。
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2017年01月13日