「空からきた少女」038

「出会い」
 大岩(おおいわ)の上に、少年がぼんやりと寝転(ねころ)がっていた。彼はむしゃくしゃしたときや、一人になりたいとき、いつもここに来ていた。ここには滅多(めった)に人は来ないし、彼にとって落ち着ける場所になっているようだ。
 小枝(こえだ)を踏(ふ)み折(お)る音で、彼は起き上がった。見ると、女の子がこちらへ近づいてくる。それは、見たことのない子だ。ここらへんの子供じゃないのだろう。彼はそう思った。彼女はどんどん大岩の方に近づいてくる。彼は高い場所にいるので、彼女はまだ気づいていないようだ。彼女は大岩の前を通り過ぎ、森の奥の方へ歩いて行く。彼は慌(あわ)てて大岩から飛びおりて、彼女を追(お)いかけた。そして、彼女の前で立ち止まり、行く手をふさいだ。
「だめだよ。入っちゃ」少年は声をかけた。
 少女はその声で我(われ)に返ったのか、急に目の前に現れた少年に驚いて後(あと)ずさった。
「この森を知らない人間が入ると、戻(もど)れなくなるから」少年の目は真剣(しんけん)だった。
 少女はおびえていた。それは少年にもはっきりと分かった。彼女は長い髪(かみ)を震(ふる)える指でくるくると回しながら、周(まわ)りを見まわして、「あたし…。どうして……」
「おまえ、どこから来たんだ? なんで、こんなところに」
 いつもの乱暴者(らんぼうもの)の彼なら、声などかけなかっただろう。でも、なぜか分からないが、放(ほ)っておけなかったのだ。彼女はそのことには何も答えず、何かを思い出したように、
「あたし、帰らなきゃ…」と、少女はふらふらとまた歩き出した。
<つぶやき>彼女はなぜこんな所へ来たのでしょうか? そこには何か理由があるのか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

2017年05月29日