「嵐の夜」04

(再公開 2017/07/16)
「人間消失」
 アキラと賢治(けんじ)は階段をゆっくりと上がって行った。ときおり階段のきしむ音がギーギーと鈍(にぶ)い音を立てた。二階は広間になっていて、調度品はほとんどなく、椅子が数脚と壊れた小テーブルがうち捨てられていた。
 アキラは頬(ほお)に風を感じた。どこかの窓が開いているのか? アキラはランプをかざして、部屋をぐるりと見回した。その時だ。バタンと大きな音がして、二人は身構えた。音のした方へランプを向ける。窓の外にある鎧戸(よろいど)が風に揺れているのが見えた。
 アキラは駆け寄り窓を開ける。風が容赦(ようしや)なく吹き込み、雨粒を部屋の中へと送り込む。アキラは急いで動いている鎧戸に手をかけた。その時、ふと窓の下に目をやって思わず声を上げた。そこには梯子(はしご)か立てかけてあったのだ。
「おい、来てみろよ。やっぱり、誰かいるんだ」
 呼ばれた賢治は、慌ててアキラの方へ行こうとして、何かにつまずき倒れ込んだ。
「何やってんだよ」アキラは呆(あき)れて呟(つぶや)くと、鎧戸と窓を閉め始めた。これ以上濡(ぬ)れたくはなかったのだ。賢治は起き上がると、やけになりつまずかせたものを蹴飛(けと)ばした。その拍子(ひようし)に、その上にかけてあったカーテンらしき布がずれて、下から白いものが顔を覗かせた。
 賢治は、それが何なのか気になった。近寄ると布に手をかけてめくってみた。次の瞬間、賢治の悲鳴が部屋中に響き渡った。賢治は震える声で叫んだ。
「ひ、ひとだ…。人が…、倒れてる!」
 布の下からまっ白い手と、長い髪の毛らしきものが現れていた。アキラはランプをつかむと、賢治の方へ駆け寄った。ランプの灯りをかざして見てみる。すぐに、アキラはフッと息をはいて言った。「何だよ、脅(おど)かすなよ。ほら、よく見てみろよ」
 アキラが布を全部めくると、等身大の女性のマネキンが姿を現した。暗がりだったので見間違(みまちが)えるのも当然かもしれない。アキラはくすくすと笑い出した。
「笑うなよ。もう、何て日なんだ。くそっ」賢治も苦笑(にがわら)いをするしかなかった。
 突然、後から声がした。二人はギクリとして振り返る。そこにいたのは好恵(よしえ)だった。
「何だよ。びっくりさせるなよ」賢治は引きつった顔で言った。
 好恵は二人に近づきながら、「だって、さっき悲鳴が聞こえたから…」
「何でもないよ。賢治がさ――」
「いいよ、その話は。誰だって、間違えることあるだろ。もう、ほっといてくれ」
 アキラは笑いをこらえて、好恵の後ろの方を覗きながら言った。
「あれ、のりちゃんは? 一緒(いつしよ)じゃないのか?」
「紀香なら、ここに…」
 好恵は後を振り返った。だが、そこに紀香の姿はなかった。
「あれ? 私のすぐ後にいたのよ。一緒に階段を上がって――」
 三人は顔を見合わせた。そして、階段の方へ駆け寄り下を覗いてみた。でも、そこに人の気配はなかった。暖炉(だんろ)の灯りがちらつき、薪(まき)の燃えるパチパチという音がかすかに聞こえるだけだった。三人は急いで階