「嵐の夜」09

(再公開 2017/08/31)
「相棒」
 嵐(あらし)はいつの間にか去っていた。雨もやみ、雲間(くもま)から星が瞬(またた)いている。屋敷の前には警察の車輛(しゃりょう)が何台も並んでいて、ライトで屋敷全体を照らし出していた。屋敷の庭にはベンチのように石が置かれていて、そこに好恵(よしえ)が放心状態(ほうしんじょうたい)でじっと座っていた。
 警察の人間が何人も屋敷の周りを動き回り、屋敷から出たり入ったりしている。その中にアキラの姿があった。アキラと一緒に出て来た刑事が言った。
「悪かったな、遅くなってしまって。ここまで来る道で土砂崩(どしゃくず)れがあって、復旧(ふっきゅう)するのに時間がかかったんだ。でも良かったよ。君たちが無事(ぶじ)で」
「まあ、何とかね」アキラは苦笑(にがわら)いしながら、「俺より強い娘(こ)がいたからね」
「え? 何の話だ?」刑事は真面目(まじめ)な顔で訊(き)いた。
「いや、何でもない。それより、ありがとう。これで、彼女も浮(う)かばれるよ」
「こっちこそ、捜査に協力してくれて助かったよ。じゃ」
 刑事は、また屋敷の中へ戻って行った。アキラは大きく背のびをすると、屋敷の方を振り返った。そして、懐(なつ)かしそうに呟(つぶや)いた。
「もっとデッカイと思ってたけど…。またここに来られるなんてな」
 アキラは黙って好恵の隣に座った。好恵はうなだれたまま気づかないようだ。でも、アキラから声をかけることはなかった。しばらくして、それに気づいた好恵は、
「あっ、すいません。――あの、あなた、警察の方なんですか?」
「いや、俺は…。安岡健(やすおかけん)と言います。警察じゃなくて、探偵をしてます。よろしく」
「探偵? それじゃ、姉のことを…」
「お姉さんの死亡記事を見たときは、びっくりしたよ。彼女が自殺するなんてあり得(え)ない。だから、警察の知り合いに頼んで、捜査に協力してたんだ」
「姉のことを、知ってるんですか?」
「ああ、昔ね。君がまだ赤ちゃんだった頃。近所に住んでてね。よく遊んでた。この別荘(べっそう)にも連れて来てもらったことがあるんだ」
「そう…、全然知らなかったわ。私ね、姉とはずっと会ってなかったの。両親が離婚して、私は父と一緒にアメリカへ行っちゃったから。ずっと姉がいるなんて知らなかった。それを知ったとき、絶対に会いに来ようって。なのに……」
「そうか…。残念(ざんねん)だったな」
 健はそれ以上かける言葉が思いつかなかった。健は慰(なぐさ)めようと好恵の肩に手を回した。その時だ。みぞおちの辺(あた)りに激痛(げきつう)が走った。健は思わず膝(ひざ)をつき崩(くず)れ落ちた。
 好恵は慌(あわ)てて、「あっ、ごめんなさい。無意識に身体が動いちゃって」
 健は喘(あえ)ぎながら、「いや、大丈夫。これくらい…」
「ほんとに、ごめんなさい。私、格闘技(かくとうぎ)を教えてて…」
「やっぱり、ただもんじゃないと思ったよ。強いわけだ。もう、降参(こうさん)です」
「あーっ、またやっちゃった。これだからダメなのよね。いつも振(ふ)られてばっかり…」
「いや、俺は…。君のことスカウトしたいくらいだよ。君なら良い相棒になれそうだ」
<つぶやき>これで無事解決。好恵はこれからどうするんでしょうか。相棒になるのか?
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2013年09月03日