書庫 連載物語「空からきた少女」001~

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T:001「惑星グリークⅠ」
 果(は)てしない宇宙には数えきれないほどの星々が光り輝き、途方もない時間をかけて星たちは生まれ死んでいく。宇宙には、人類の叡智(えいち)では計り知れない謎がまだ残されている。この物語は、地球から遠く離れた場所からはじまった。
 地球が属している銀河系の外縁(がいえん)のあたりに、私たちの太陽と同じくらいの大きさの恒星(こうせい)が存在していた。地球からは銀河系の中心をはさんでちょうど反対側にあたるので、その存在を確かめることは出来ない。その恒星は七つの惑星を従えていた。その中のひとつ、第四惑星は地球によく似ていて、グリークと呼ばれていた。
 グリークには海があり、白い雲と青い海が暗闇(くらやみ)の宇宙に美しい輝きをはなっていた。両極地には、地球でいう北極のような氷の大陸が存在していた。でも、地球にあるような大きな大陸はなく、大小様々な島が点在しているだけだった。いくつかの島は火山島になっていて、今も煙を噴き上げている。時には、大きな噴火もあるようだ。
 海の中には豊かな生態系が作られていた。点在する島々にも、荒涼(こうりょう)とした場所もあるが、深い森で覆(おお)われている島もあった。その森の中、埋(う)もれるように石組みの遺構(いこう)がわずかに顔を出していた。かつて、この星には文明が存在していたようだ。
<つぶやき>宇宙、それは誰もがあこがれる世界。みなさんも空想の翼をひろげよう。
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T:002「惑星グリークⅡ」
 グリークでは数千年に及ぶ大きな地殻変動や気候の変化によって、陸地が少しずつ海に飲み込まれていった。この星の住民たちは、長い時間をかけて海に生活の場を移すようになった。海上に人工の島を作り、そこで暮らすようになったのだ。
 文明の発達により人口は増えつづけ、小さかった街はどんどんふくれあがった。今ではいくつのも海底都市を作り上げるまでになっている。
 たいていの海底都市はピラミッドのような構造で、上部が海上に突き出ていて人工の島になっている。そこには空港や港が整備され、他の都市との交通の拠点(きよてん)になっている。また、いくつもの浮島をつなぎ合わせて作られた人工の島もあり、そこでは主食となる植物の栽培や、家畜などが飼育されていて、食料生産の要所(ようしよ)となっている。この島は季節によって移動していて、いつも最適な環境で食料を生産していた。
 青みがかった空を見上げると、そこにはイセアと呼ばれている恒星が光り輝いている。恒星との距離が離れているので、地球の気温と比べるとずいぶん寒く感じるだろう。
 グリーク人はとても友好的で、好奇心旺盛な人たちだ。他の星の文化や技術を取り入れ、自分たちが使いやすいように改良してしまう。それだけではない。独得の発想で、まったく新しい技術や考え方を生み出していた。貿易にもその才能が生かされいる。宇宙のあらゆる物資が取引され、いろんな星の人たちが訪れていた。
 今のグリークは誰もがうらやむほど、平和で豊かな星になっている。
<つぶやき>豊かな暮らしの陰には、別の世界があるものです。事件はそこから始まる。
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T:003「衛星アーク」
 惑星グリークはアークと呼ばれる小さな衛星を従えていた。
 グリークの人たちはアークにも移住していて、いくつかの居住区が建設されていた。すべての居住区は網目状に延びたパイプでつながれていて、モノレールのような乗り物で自由に移動することができる。
 衛星には大きな宇宙空港があり、頻繁に宇宙船が離発着を繰り返していた。軌道上にもいろんなタイプの宇宙船が浮かんでいて、この星の繁栄ぶりをうかがい知ることが出来る。他のおもな施設としては、政府の研究機関や大手の民間企業などがある。宇宙貿易だけでなく、別種族との文化や技術の交流拠点になっているようだ。
 衛星にある建造物の中でひときわ大きな建物。そこは銀河連盟の本部になっていて、他の居住区からは隔離されていた。警備が厳しく、専用の空港からしか出入りすることができない。いろいろな国の要人が集まる施設なので、最新の防衛設備が整っている。
 銀河系にはいくつもの種族が存在していて、それぞれ独自の国家を作り上げていた。種族間の交流も盛んにおこなわれ、グリークのように貿易や産業で繁栄している種族もいた。反面、文化や宗教の違いによって対立することもあった。そこに利害がからんでくると、ますます溝が深まってしまうことがある。
<つぶやき>富むものがいれば、貧しいものもいる。これはどこの世界でも共通かも…。
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T:004「銀河連盟」
 銀河連盟はそうした紛争(ふんそう)を未然(みぜん)に防ぎ、お互いが共存共栄できる世界を目指して作られた。現在、連盟に加盟している大小様々な国をまとめると、銀河系の三分の一ほどの広さになる。連盟が作られてからは、たしかに戦争につながるような紛争は減少したが、まだ完全に無くすまでには至(いた)っていない。今もまだ危(あや)うさが残っているのだ。
 銀河連盟では定期的に会議を開いて、国家間での問題を話し合うことになっていた。問題意識を統一して、よりよい解決策を見つけ出そうとしているのだ。
 現在、いくつもある問題の中で最優先の議題は、サルマ星で作られた秘密兵器について。
 前回の定例会議でその兵器の極秘資料が公表され、その真偽(しんぎ)について白熱した議論がかわされた。兵器の全容は分からないが、宇宙の平和に脅威(きょうい)を与えるものであることは明白で、サルマ政府にたいして非難(ひなん)の声が上がった。
 連盟に加盟する以前のサルマ星は、独裁者のもとで軍事帝国として繁栄していた。領域を接する国との摩擦(まさつ)や争いが絶えず起こり、領域侵犯や略奪行為を繰り返していた。秘密兵器はそのころ作られたもので、領域拡大の野望(やぼう)が生み出したものである。
 帝国は民衆の革命によって倒されたが、その当時の記憶がまだ残っていて、新しい政府ができてからも、ことあるたびに非難を受けていたのだ。平和国家としての道を模索(もさく)しているにもかかわらず。
<つぶやき>怨みはいつまでも心に残り、自身も呪縛から抜け出せなくなってしまいます。
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T:005「臨時会議」
 銀河連盟の臨時会議は緊迫した空気のなかで始まった。サルマ政府による秘密兵器についての調査報告をうけて、これからの対処を話し合うのだ。
 連盟のスタッフに案内されて、サルマ政府の代表がおずおずと壇上にのぼった。
「現在、問題になっている秘密兵器についてですが…」
 サルマの代表は息をつまらせながら言った。「まず、この件は、我々が連盟に加盟する以前の、帝政時代に開発された兵器でありまして、我が政府は全く関知していないことを…」
「また嘘をつくのか!」
「お前たち種族の言うことは信用できない!」
 話の途中で、参加している一部の代表者たちから怒号があびせられた。サルマが連盟に加盟したときのしこりが、まだ根強く残っているのだ。
「静粛に願います! 静粛に!」
 困惑しているサルマ代表を見てグリークの議長が叫び、槌(つち)を何度も打ちつけた。だが、騒然となった議場はなかなか静まらなかった。ようやく騒ぎがおさまると、
「報告が終了するまで、勝手な発言は慎むように願いたい」
 と議長は代表者たちに向かって注意を促した。そして議長は、議事が滞りなく進むように威厳を持って言った。「では、報告を続けて下さい」
<つぶやき>代表として何か発言するとき、誰でもドキドキしちゃいます。逃げ出したい。
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T:006「負の遺産」
「はい、議長…」サルマ代表は緊張した面持ちで報告を続けた。
「発見された資料を検討した結果ですが…」サルマ代表はおずおずと話しはじめた。
「この兵器は帝政時代の軍部と、兵器研究所が開発に関わっていたようです。その後の革命による混乱などで、研究データなどは破棄(はき)されたり散逸(さんいつ)して…、今回その一部が偶然発見されたものと思います」
 サルマ代表は言葉を切って、議場の反応をうかがった。冷ややか視線と責任の重さに、胸が苦しくなるのを感じた。ここを何とか切り抜けなければ、サルマに未来は訪れない。
「宇宙暦で百年以上も前のことなので、当時の軍部や研究所の関係者もすでに死亡しており…、兵器のことを詳しく知る者は…」
 議場がまたざわめき始める。それを制するようにサルマ代表は声を張り上げて、
「しかしながら、一部ではありますが、兵器についての資料を発見することが出来ました」
 この発言に議場は静まりかえり、代表者たちは次の言葉に注意を向けた。
「我々が発見した数少ない資料によりますと、兵器を搭載した宇宙船は、最果(さいは)ての宇宙へ向かったようです」
 静まりかえった議場に、サルマ代表の声が響いた。
<つぶやき>前進するには過去を乗り越えなくてはいけません。とても勇気が必要です。
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T:007「新たな事実」
 議場は一瞬静寂(せいじゃく)に包まれた。だが、それもすぐに消し飛んだ。代表者の一人が声を張り上げて、「どうしてそんな場所に運んだんだ!」と口をはさむ。
「おそらく、機密保持のために実験の場所を辺境の領域にしたのではないかと…」
「では、兵器は完成していたんですね」
 この議長の発言で、議場は再びざわめき始めた。
「完成はしていません!」サルマ代表はすぐにそれを否定した。
「どうしてそう言い切れるんだ!」サルマに反感を抱いてる者が声を上げる。
「実験は失敗に終わったからです。搭載した宇宙船は爆発して、もう存在していません」
 議場はまた騒然となり、周りにいる者と議論を始めたり、罵声(ばせい)を浴びせる者もいた。
 議長は騒ぎを静めるのに何度も槌(つち)を打ちつけ、声を張り上げた。
 サルマ代表はデータチップを取り出して、
「ここに、宇宙船との最後の交信記録を復元処理したものがあります」
 みんなの注意はその小さなデータチップに向けられた。
「発見されたデータチップは旧式のものなので破損がひどく、ほんの一部分しか復元できませんでした。それに、まだ初期の高速通信技術なので、不鮮明な音声データしかありませんが…」そう言うと、サルマ代表はデータチップを再生装置に挿入した。
<つぶやき>技術が進歩すると、今まで出来なかったことが出来ちゃったりするんです。
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T:008「爆発」
 しばらくの間(ま)があって、それは耳をつんざくような爆発音から始まった。かなりの雑音が混じり、叫び声や悲鳴の中に、いくつかの断片的な言葉を聞き取ることが出来た。
『……新型の…兵器…制御……乗員…殺戮(さつりく)……自爆(じばく)システム……』
 かなり聞き取りにくかったが、緊迫(きんぱく)した様子がうかがえた。最後に大きな爆発音が聞こえて、そこで通信は途切れてしまった。
 議場は異様(いよう)なほど静まりかえった。この事実をどう判断すればいいのか。それぞれの代表者たちには思惑(おもわく)があるようにもみえた。
 サルマ代表はさらにつけ加えて、
「当時はちょうど政変(せいへん)による混乱の時期でもあり、救援や調査に向かったという記録は見つかりませんでした。しかし、宇宙船は爆発し消滅(しょうめつ)したことは間違いないと思われます。かろうじて残されていた飛行ルートの解析(かいせき)によると、爆発地点は我々の銀河のちょうど反対側にあたる領域だということが判明しました」
 特定された爆発地点は、現在でもきちんとした宇宙地図が作成されていないような辺境の領域だった。報告を終えてサルマ代表が席に戻ると、議長は代表者たちに言った。
「これが事実なら、これ以上の議論は無用なのではないでしょうか?」
<つぶやき>これは事故なのか、それとも…。いろんな思惑のなか、この会議の行方は。
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T:009「会議の行方」
 皆は顔を見合わせ考え込んでいたが、論理を重(おも)んじるバルンガ星の代表が口を開いた。
「本当に爆破されたのか、確かめる必要があるのでは…」
「それは間違いないでしょう」
 議長は彼の発言をさえぎるように口をはさんだ。議長としてはこれ以上の混乱は避けたいようだ。バルンガの代表は、
「しかし、兵器が存在している可能性が消えたわけではない」
 と反論するが、他の代表者たちから賛同を得られることはなかった。
「どうせ時代おくれの兵器だろ。今ある兵器に比べたら、脅威にはならないはずだ」
「もし兵器が存在していても、辺境の領域ならここまで被害は及ばないさ」
「百年間何ごともなかったんだから、兵器は破壊されている。心配はない」
 代表者たちの大方(おおかた)の意見はこんなことろで、議場にただよっていた危機感はだんだん薄れていった。サルマの代表は、ほっと胸を撫(な)で下ろした。議長は会議の流れが思うように運び、満足げにこの会議の結論を出す準備を始めた。
 しかし、この議場の雰囲気に危機感をつのらせている者がいた。問題の資料を偶然発見したグリーク星人のチップメル教授だ。彼は特別にこの会議に招かれていたのだ。
 チップメル教授は議長に発言の許可を求めた。
<つぶやき>火の粉が降りかからないと気づかない。でも、その時はもう手遅れかもね。
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T:010「チップメル教授」
 チップメル教授は緊張した面持ちで言った。
「私が見つけた資料によれば、全宇宙を支配することが可能であるとありました。しっかりとした調査をすべきです。危機はそこまで来ているのかも…」
 議長は教授の発言をさえぎり、
「それは誇張された部分であって、すべてを把握(はあく)できるものではないはずです。それに、脅威と判断できるものは何も見つかってはいない」
「では、何のためにこの臨時(りんじ)会議が招集されたのですか?」
 教授は引き下がらずに切り返して、「脅威と思われるものが有ったからではないのですか」
「それでは、あなたが脅威と判断できる決定的な根拠を提示して下さい」
 チップメル教授は議長のこの言葉に反論できなかった。教授は宇宙生物が専門で、兵器に関する知識はまったくなかったのだ。
 会議の流れは楽観的な方向へ移っていた。これは議長が望んでいたことでもあり、大国の方針としても、これ以上の騒ぎは利益を損なうと判断したようだ。
 教授を黙らせることに成功した議長は、会議をこれで終わらせようと動きはじめた。しかし、ここでまたバルンガ星の代表が発言を求めた。
<つぶやき>未来のことは誰にも分かりません。でも、将来に備えることはできるはず。
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T:011「会議の決着」
 バルンガ星の代表は他の代表者たちを見渡して、冷静な口調で言った。
「議長、早急に結論を出すのは誤(あやま)りです。やはり、破壊(はかい)されたことを確認すべきではないでしょうか」
 議長は憤慨(ふんがい)して、「では、あなたなら根拠(こんきょ)を提示できるのですか!」
「根拠を示すにはデータが不足しています」
 バルンガの代表は落ち着き払って、
「しかし、リスクを考えれば、いま調査を行った方が理(り)にかなっています」
「そうです」チップメル教授も勢いづいて、「兵器の被害がここまで及んでいないだけで、辺境(へんきょう)領域の文明に脅威(きょうい)を与えているのかもしれません」
 この発言がきっかけで会議の流れは一変した。他の代表者たちからも、二人の考えに同調する意見が出された。議長も、これらの意見を無視することができなくなった。
 結局、遠隔地(えんかくち)で危険も伴(ともな)う調査なので、最新の探査ロボットを送ることに決定した。
 会議を終えたチップメル教授は、グリークのトング島に降り立った。彼の自宅兼仕事場がこの島にあるのだ。人口が百人程度の島で、小さな港があるだけののどかな場所である。
 港に着いた時には、もう夜になっていた。まる一日かけて帰って来た教授は、自宅のソファに身を沈めて大きくのびをした。彼にとってはこの場所がいちばん落ち着けるのだ。煉瓦(れんが)造りの小さな家だが、生活に必要なものはすべてそろっていた。
<つぶやき>住み慣れた場所は、誰にとっても落ち着けるのです。人間だってそうでしょ。
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T:012「我が家」
 教授はもう何年も一人でここに住んでいた。たまに友人が訪ねてくることもあるが、唯一(ゆいいつ)の話し相手というか、相棒といえるのはイゴールだけである。彼女は旧型の電脳装置で、もうアップグレードが出来ないおばあちゃんである。でも、彼女がいなければ教授は何もできない。すべての研究データは彼女が管理しているのだ。
「お帰りなさい、教授」教授を感知したイゴールが優しく声をかけた。
「ああ、ただいま」疲れ切った声でチップメル教授は答え、「留守中に何かあったかい?」
「ご家族とご友人からのメッセージを受け取っています。再生しますか?」
「いや、明日でいいや。少し休ませてくれ」教授はそう言うと、目を閉じた。
 イゴールは教授の健康状態のチェックをし終えると、申し訳なさそうに声をかけた。
「教授、お疲れのところ申し訳ないのですが」
「何だい?」教授は横になったまま答えた。
「二十八番の回路に不具合が発生しました。修理をお願いできますか?」
「そうか…。明日にでも見てみよう。回路ならまだ部品も残っているから、大丈夫だよ」
「ありがとうございます。――教授、ベッドでお休みになることをお勧めしますが」
「ああ…、そうだな…」と教授は答えたが、そのままソファでうとうとし始めた。
<つぶやき>健康管理もしてくれる電脳装置があれば、すっごく助かっちゃうんですが。
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T:013「真夜中の訪問客」
 もう、夜も遅い時間になっていた。教授は来客を知らせるチャイムで目を覚ました。
 イゴールが、「お客様です」と声をかける。
「こんな時間に、誰なんだ」と教授は時計を見ながら言った。
「グリーク安全保障局のアールさんと、他に部下の方が二名です。お通ししますか?」
 チップメル教授はソファに起き上がり、「安全保障局? いったい何なんだ…。すまないが用件を訊いてくれないか」教授はそう言うと、大きくのびをした。しばらくして、
「教授。アールさんはサルマの兵器について詳しくお訊きしたいそうです」
「サルマの兵器…?」教授は不審(ふしん)に思い、「身分証は確認したかい?」
「はい。三名とも政府の安全保障局に登録されています」
 教授は政府の関係者を追い返すわけにもいかず、真夜中の訪問客を迎え入れた。
 アールと名乗る人物は、二人の部下を従えて入って来た。三人とも黒ずくめの服装で、二人の部下は大きな角張った黒い金属製のケースを運び込んだ。
 アールは温和な顔立ちをしていて、物腰の柔らかそうな人物だった。だが、ときおり見せる鋭い眼差しは、この人物がただ者ではないことを物語っていた。
「夜遅くに申し訳ありません」アールはそう言って、チップメル教授と抱擁(ほうよう)して胸を合わせた。これがグリークの習慣で、親愛の情と敵意のないことを示す挨拶(あいさつ)になっている。
<つぶやき>何か裏があるのかもしれません。真夜中の訪問者には気をつけなくっちゃ。
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連載物語End