ブログ版物語

*** 作品リスト ***
  No、  公開日     作品名(本文表示へ)
0093 2010/05/07 0001「お嬢様教育コース」
0094 2010/05/10 0002「女の切り札」
0096 2010/05/16 0003「仕事と恋」
0099 2010/05/22 0004「ラブレター」
0101 2010/05/25 0005「最後のラブレター」
0102 2010/05/28 0006「タイミング」
0103 2010/06/03 0007「飛び立つ男」
0104 2010/06/06 0008「ロスト・ワールド」
0108 2010/06/12 0009「タイムカプセル」
0109 2010/06/15 0010「呼びつける」
0112 2010/06/24 0011「ほんの小さな夢」
0114 2010/06/30 0012「約束」
0117 2010/07/06 0013「復活の日」
0119 2010/07/12 0014「恋の始まり」
0123 2010/07/18 0015「ふくらむ疑惑」
0125 2010/07/24 0016「探しものは…」
0128 2010/08/02 0017「初恋前夜」
0130 2010/08/08 0018「遠距離ストーカー」
0133 2010/08/14 0019「大切な宝物」
0134 2010/08/17 0020「自殺志願者」
0138 2010/08/26 0021「漬ける女」
0141 2010/09/01 0022「アフター5のシンデレラ」
0144 2010/09/07 0023「いちご症候群」
0146 2010/09/13 0024「運命の出会い」
0148 2010/09/19 0025「エリカちゃん」
0151 2010/09/25 0026「プレゼント」
0153 2010/10/01 0027「我ら探検隊」
0155 2010/10/07 0028「ウルトラQQ」
0158 2010/10/13 0029「ママの楽しみ」
0160 2010/10/16 0030「君を好きになった理由」
0162 2010/10/22 0031「週末婚の憂鬱」
0164 2010/10/28 0032「戦場の架け橋」
0165 2010/11/03 0033「公園友達」
0167 2010/11/09 0034「幻の美容師」
0169 2010/11/15 0035「水曜の女」
0172 2010/11/21 0036「テレパス」
0173 2010/11/27 0037「星くずのペンダント」
0175 2010/11/30 0038「別れの杯」
0177 2010/12/06 0039「犯罪者撲滅キャンペーン」
0178 2010/12/12 0040「昔みたいに」

ブログ版物語Top

T:0040「昔みたいに」
 一人娘(ひとりむすめ)を送り出した夫婦(ふうふ)が、テーブルをはさみお茶(ちゃ)をすすっていた。
「綾佳(あやか)、きれいだったなぁ。今日は天気(てんき)もよかったし、いい一日だった」
「そうですね。あの娘(こ)がこんなに早く結婚(けっこん)するなんて、思ってもみませんでしたよ」
「そうだな。でも、遅(おそ)いよりはいいさ。この家も淋(さび)しくなるなぁ」
「なに言ってるんですか。近いんですから、ちょくちょく帰って来ますよ」
「そうかなぁ」夫(おっと)は嬉(うれ)しそうにしたが、
「でも、そうたびたび帰って来るのは、まずいだろ」
「ふふ…」妻(つま)は思い出し笑いをして、「覚(おぼ)えてます? なんて私にプロポーズしたのか」
「えっ、何だよ急に」夫は目をそらし、お茶をすすった。
「ほら、披露宴(ひろうえん)のときにそんな話が出たじゃないですか。それで、思い出したんですよ」
「そんな話はいいじゃないか。それより、どうしてるかな綾佳は…」
「あなた、私にこう言ったんですよ。俺はお前と――」
「もういいよ、そんな昔の話しは。俺(おれ)はもう忘れたよ」
「ああ、ずるい。都合(つごう)の悪いことはすぐ忘れるんだから」
「でもな、一つだけ覚えてるぞ。新婚旅行のとき、お前と始めて泊(と)まった旅館(りょかん)で…」
「まだ覚えてたんですか? いやだわ。そうだ、また二人で旅行に行きましょうよ。ねっ」
<つぶやき>たまには夫婦で昔の話しをしてみませんか? ちょっと気恥(きは)ずかしいかも。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0039「犯罪者撲滅キャンペーン」
 ベッドに寝(ね)かされている男が目を覚(さ)ました。男のそばには白衣(はくい)の女医(じょい)が立っている。
「ここは…」男は辺りを見回して、「どうして、ここに…」
「ここは、総合病院(そうごうびょういん)です。山崎(やまざき)さんは、仕事先で倒(たお)れて、ここに運ばれたんですよ」
「えっ、何をしてたんだ。私は…。ああっ、思い出せない。私は、山崎なんですか?」
「山崎さんは、倒れたときに頭を強く打ったので、記憶(きおく)に障害(しょうがい)が起(お)きたんだと思います」
「記憶に障害が…」男は包帯(ほうたい)の巻(ま)かれた頭に手をやった。
「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。記憶はちゃんと戻(もど)りますから。それより、奥さんがみえてますよ」
 女医は病室の扉(とびら)を開けて、外で待っていた妻(つま)を招(まね)き入れた。
「あなた」妻は男のそばに駆(か)け寄って、「よかった…。もう、心配(しんぱい)したんだから」
 女医は病室を出て隣(となり)の部屋に入った。そこで病室の様子(ようす)を見ていた男がつぶやいた。
「迫真(はくしん)の演技(えんぎ)だな。いったい何処(どこ)から連れてきたのかね?」
「あれは人間ではありません。プログラム通りに反応(はんのう)しているだけです」
「そうなのか。でも、受刑者(じゅけいしゃ)の記憶を消して更生(こうせい)させるとは、驚(おどろ)いたよ。この計画(けいかく)がうまく行けば、刑務所(けいむしょ)の経費(けいひ)を減(へ)らすことができるな。だが、記憶が戻ることは無いのかね」
「脳(のう)に埋(う)め込んだ装置(そうち)の保障期間(ほしょうきかん)は五十年です。彼が生きている間は問題(もんだい)ないでしょう」
<つぶやき>未来の世界では、こんなことになってるかもしれませんよ。怖(こわ)いですね…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0038「別れの杯」
 女は部屋を出て行こうとしていた。男は女を呼(よ)び止めて、
「もう行くのかい?」
「ええ。いつまでもここにはいられないわ」女は淋(さび)しげに微笑(ほほえ)んだ。
「いいじゃないか。もう少しいてくれても」
「切りがないじゃない。いつまでも、こんなことしてちゃだめよ」
「あと一杯(いっぱい)だけ。なあ、いいだろう」男は女に杯(さかずき)を差し出した。
 女は男に寄り添(そ)うように座ると、何も言わず杯を受け取った。そして、酒(さけ)を注(そそ)ぐ男の顔を静かに見つめた。女の目からひとしずく涙(なみだ)がこぼれ、口元(くちもと)に持ってきた杯にきらきらとこぼれ落ちた。女はわずかに口をつけ、杯を男に返す。女の目には強い決意(けつい)が現れていた。
「また、会えるかい?」男は女の手を強くにぎり、「必(かなら)ず会いに行くから。いいだろ?」
「もうよしましょう。辛(つら)くなるだけよ。きっと、いい人に出会えるわ。だから…」
「僕は、君でなくちゃ…」男は女の悲しそうな顔を見て、手をゆるめた。「そうだな…、もうよすよ。でも、君のことは忘(わす)れないから。僕の心の中で君は…」
 ――そこで男は目を覚ました。ふと、彼女の姿を探して部屋を見まわす。誰(だれ)もいない現実(げんじつ)が突(つ)き刺(さ)さり、男はため息をついた。飲みかけの杯に目がとまり、男はぐいと飲み干(ほ)した。燗冷(かんざ)ましが喉(のど)を通り、身体の芯(しん)までしみ込んだ。
<つぶやき>男は恋に溺(おぼ)れ、必死(ひっし)にもがいて…。それでも、男は恋を追(お)い求めるのです。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0037「星くずのペンダント」
 彼と喧嘩(けんか)をした。きっかけは些細(ささい)なことだったのに、まさかこんなことになるなんて。もう、三日も連絡(れんらく)がない。
 時間がたつにつれて、仲直(なかなお)りのきっかけがつかめなくなっていた。このまま、さよならするのかな。そんなのイヤだ。
 私は思いきってメールを送ろうとスマホを手にした。その時、着信音が鳴ってメールが届いた。見てみると、
<この間は、ごめん。ドアの取っ手を見て>
 彼からのメールだ。私は急いで玄関(げんかん)を開けてみた。取っ手のところに小さな紙袋(かみぶくろ)がかけてあった。中にはケースに入ったペンダントが。これって、あの時の…。
「それさ、ずっと見てただろ」彼は私の前に突然(とつぜん)現れて、「なんか、欲(ほ)しそうにしてたから」
「でも、これってけっこう高かったのよ。どうして…」
「何かないとさ、来づらいっていうか…。ほら、俺(おれ)さ、貯金(ちょきん)とかしてるし」
「それって、まさか…。ダメだよ。カナダ旅行(りょこう)のための貯金でしょ。あんなにがんばってバイトしてたじゃない。もらえないよ」
「いいんだよ。また、貯金すればいいんだから。カナダが無くなるわけでもないし。ほら、楽しみが延(の)びたってことで…。それに、俺だけじゃなくて、君と二人で行きたいから」
「もう、ほんと計画性(けいかくせい)がないんだから。そんなんじゃ、いつ行けるか分かんないでしょ」
<つぶやき>ほんとにそうですよね。でも、彼と仲直りできてよかったじゃないですか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0036「テレパス」
 さやかには不思議(ふしぎ)な能力(のうりょく)があった。心の声が聞こえるのだ。周(まわ)りの人の考えていることが、洪水(こうずい)のように頭の中に流れ込んでくる。子供の頃はたまらなく嫌(いや)だったが、今はそれをくい止める術(すべ)を身につけ、相手(あいて)のことを知りたいときだけ力を使っていた。さやかは力のことは誰にも話したことはない。だから、このことは誰も知らないはずだった。それなのに…。
 とある喫茶店(きっさてん)で紅茶(こうちゃ)を飲んでいたとき、どこからか声が聞こえた。さやかは声をあげそうになった。力を使っていないのに、さやかの心の中に飛び込んで来たのだ。
<おばあちゃん。こっちだよ。ここにいるよ>
 さやかは店内を見まわした。誰だろう? 私より力の強い人がいるなんて。さやかは力を開放(かいほう)した。他の客たちの声が次々に飛び込んで来る。さやかは一人の青年(せいねん)に目をとめた。彼からは何も聞こえてこないのだ。さやかはその青年に意識(いしき)を集中(しゅうちゅう)させた。すると、
<やっと、見つけてくれたね。僕は、あなたの孫(まご)です。未来(みらい)から来たんだよ>
<未来? 何をバカなことを言ってるの。そんなこと、あるわけないわ>
<ほら、右側に座っている人を見て。おばあちゃんは、その人と恋(こい)をして…>
 さやかは右側の客を見て、<あんな人、私の好みじゃないわ。いい加減(かげん)なこと…>
 さやかが振り返ると、さっきまでいたはずの青年の姿(すがた)はどこにもなかった。
<つぶやき>世の中には、まだまだ不思議なことや、理解できないことがあるのかもね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0035「水曜の女」
 智美(ともみ)と遥(はるか)は十年来の友(とも)だった。でも、同じ人を好きになってしまい、一ヵ月前から絶交状態(ぜっこうじょうたい)にあった。
 智美が行き付けだった飲み屋をのぞくと、遥が酔(よ)いつぶれていた。この店には仕事帰り、よく二人で来ていたのだ。絶交してからは、智美は足が遠(とお)のいていた。
「やあ、久し振りじゃない」店主はいつもの笑顔でそう言うと、「遥ちゃん、どうしたんだろうねぇ。こんなになるまで飲んだことないのに」
「もう、しょうがないな」智美は隣(とな)りに座り遥を揺(ゆ)り起こし、「ねえ、遥。起きなさいよ」
「うーん」と遥はゆっくり顔をあげると、智美の顔を覗(のぞ)き込み、「あっ、智美!」
「あんた、飲みすぎだよ。いい加減(かげん)にしなよ」
「智(とも)にそんなこと言われたくないよ。何でここにいるのよ」
「遥と同じ理由(りゆう)。私も、酔いつぶれようと思ってね」
「智も振られたんだ。はははは…。おかしくって…。たまんないわ。ふふふ…」
「そうね。まさかね、他の女がいたなんて。私たち、何やってたんだろう」
「まったくだよ。仕事(しごと)が忙(いそが)しいとか言って、水曜日にしか会ってくれなかったんだよ」
「水曜の女か…。私は、木曜だったなぁ。ねえ、また友達になってくれる?」
「なに言ってるの。私たちの腐(くさ)れ縁(えん)はいつまでも続くの。二人でいい男、見つけるわよ」
<つぶやき>空元気(からげんき)でもいいんですよ。前を向いて突き進みましょう。きっと明日は…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0034「幻の美容師」
「ねえ、本当(ほんとう)にここなの?」ブランド品で着飾(きかざ)った娘(むすめ)がささやいた。
「はい、お嬢様(じょうさま)」と付(つ)き人の娘が答えて、「ここで間違(まちが)いないはずです」
 そこは薄汚(うすよご)れたビルの一階にある美容室(びようしつ)だった。上流階級(じょうりゅうかいきゅう)の女性の間で、幻(まぼろし)の美容師(びようし)がいると噂(うわさ)されていたのだ。二人が中に入ってみると、外観(がいかん)とはまったく違っていた。店の中は奇麗(きれい)に整(ととの)えられ、髪(かみ)の毛一本も落ちてはいなかった。店主(てんしゅ)は二人を無愛想(ぶあいそう)に迎(むか)えた。
「あの…」付き人はいかめしい顔の店主に声をかけ、「こちらに幻の美容師がいると…」
「さあね…。どうするんだ。やるのか、やらないのか」男は客を見ようともしなかった。
「もちろん、お願いするわ」お嬢様は鏡(かがみ)の前に座(すわ)ると、「この雑誌(ざっし)に載(の)っている髪型(かみがた)にしてちょうだい」
 お嬢様の目配(めくば)せで、付き人が雑誌を開き男の前に差し出した。
 男はそれをちらっと見て、「やめときな。あんたには、今のままがお似合(にあ)いだ」
「それ、どういう意味(いみ)!」お嬢様は立ちあがり男を睨(にら)みつけた。だが男は気にもとめず、付き人の顔をじっと見つめて、「あんた、いい顔してるな。もっと奇麗になりたくないか?」
 付き人の娘は、男の迫力(はくりょく)におされてうなずいた。すると男は有無(うむ)も言わせず娘を座らせ仕事(しごと)にとりかかった。男の手さばきは軽(かろ)やかで、無駄(むだ)がなかった。あっという間に仕事を終わらせた。驚(おどろ)いたことに、鏡に映(うつ)った娘の顔は、まるで天使(てんし)が舞(ま)い降(お)りたようだった。
<つぶやき>誰かの真似をするのはやめにして、あるがままの自分を見つめてみませんか?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0033「公園友達」
 明日香(あすか)は公園(こうえん)のベンチに座(すわ)り、ぼうっとしていた。そこへ犬(いぬ)を連れた男がやって来て、
「こんにちは」と声をかけた。でも彼女が気づかないので男は横に座り、「どうしたの?」
「あっ…、いやだ。山田(やまだ)さん、いつからいたんですか?」
 この二人は公園友達だった。この公園で何度か挨拶(あいさつ)を交(か)わすうち、仲良(なかよ)くなってしまったのだ。お互(たが)いどんな仕事(しごと)をしているか知らないし、どこに住んでいるのかも聞くことはなかった。ただこの公園で会うだけの関係(かんけい)。でも、明日香にとってはとても居心地(いごこち)のいい付き合いだった。山田には、なぜか心のもやもやを何でも話せてしまうのだ。
「あのね」明日香は笑いながら切り出した。「彼と、別れたの。もう、最悪(さいあく)。彼ったら、他の女を私の部屋に入れたのよ。これまで何度も浮気(うわき)して。私、知らないふりしてたけど、もう限界(げんかい)。彼に、出てけって言っちゃった」
「そうですか。それは大変(たいへん)でしたね」山田は悲(かな)しげな顔をして、「大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」
「うん、平気(へいき)よ。私、こういうことにはなれてるの。だって、悲しくても涙(なみだ)なんか出ないし…。あーあ、何で私には変な男ばっかり寄(よ)ってくるんだろう」
「僕(ぼく)も変な男かもしれませんね。こうして、あなたの悩(なや)みごとを聞いてるんだから」
「あっ、山田さんは違いますから…」と明日香は笑ったが、なぜか涙があふれてきた。
<つぶやき>辛(つら)い時、何でも話せる人がいるといいですね。見つけるのは大変ですけど…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0032「戦場の架け橋」
 とある有名(ゆうめい)ホテルで創業(そうぎょう)三十周年のパーティが開かれていた。各界(かっかい)の名士(めいし)が招待(しょうたい)され、その子女(しじょ)の方々も奇麗(きれい)に着飾(きかざ)り花を添(そ)えた。このパーティ、ホテルの御曹司(おんぞうし)の結婚相手を見つける目的(もくてき)もあった。だから、お嬢(じょう)さまたちの力の入れようといったら、すごいものだった。御曹司が現れたとたん、水面下(すいめんか)で壮絶(そうぜつ)なバトルが繰(く)り広げられた。わざとぶつかってドレスを汚(よご)したり、御曹司に近づこうとする女性の足を引っかけて転(ころ)ばせたり、まるで戦場(せんじょう)である。
 その戦場の中で一人だけ、御曹司には目もくれず黙々(もくもく)と食事を楽しんでいる女性がいた。彼女は、隅(すみ)の方で淋(さび)しげに座っている娘(むすめ)に気がついて声をかけた。
「ねえ、これ美味(おい)しいよ」とご馳走(ちそう)を盛(も)った皿(さら)を差し出した。娘はそれを受け取り、
「あ、ありがとうございます」娘は悲しさを隠(かく)すように微笑(ほほえ)んだ。
「あら、大変(たいへん)。ドレスが汚れちゃってるわ。あなた、もう諦(あきら)めちゃうの?」
「私は、そんなんじゃないんです。ただの友だちで…。大学で知り合っただけで…」
「そう。あいつが呼(よ)んだんだ。ふーん、何か分かる気がするな。いいわ、私が呼んであげる」彼女はそう言うと、大声で御曹司を呼びつけて、「ダメでしょ。彼女をひとりにさせて」
「姉(ねえ)さん、大声出さないでよ。仕方(しかた)ないだろ、動けなかったんだから」
「さあ、これでいいわ。後は二人で楽しみなさい。じゃあねぇ」
<つぶやき>こんな小粋(こいき)なお姉さんがいてくれると、ちょっと楽しいかもしれませんね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0031「週末婚の憂鬱」
 康雄(やすお)と香織(かおり)は三十代半(なか)ばで結婚(けっこん)し、いつの間にか結婚四年目に突入(とつにゅう)していた。二人は平日は別々に生活(せいかつ)して、週末(しゅうまつ)だけ一緒(いっしょ)に暮(く)らす週末婚(しゅうまつこん)という生活をしていた。仕事の忙(いそが)しい二人にとって、それが一番いい選択(せんたく)だと思ったからだ。でも、四年もたってみると…。
「ねえ、ここには仕事を持ち込まない約束(やくそく)でしょ」香織はイライラしていた。
「仕方(しかた)ないだろ。急(いそ)ぎの仕事で、月曜までに仕上(しあ)げないといけないんだから」
「あなた、先週も仕事だって言って来なかったじゃない!」
「あの時は…、いろいろあって大変(たいへん)だったんだよ」康雄は目を合わそうとしなかった。
「何よ、いろいろって。夜遅(おそ)くても、帰ってこられるでしょ。私、待ってたんだから!」
「ちゃんと、電話しただろ。君だって、そういうこと、あったじゃないか。……。なあ、どうしたんだよ。そんなに怒(おこ)ることじゃないだろ」
「別に、怒ってなんかいないわよ。ただ、私は…」
「仕事、うまくいってないのか? だったら、もう辞(や)めちゃえよ。君がいなくたって…」
「何で、どうして私が辞めなきゃいけないのよ。そんなこと言わないで!」
「ごめん。言い過(す)ぎたよ」康雄は香織を優(やさ)しく抱(だ)きしめた。その時、携帯(けいたい)が鳴り出した。
 康雄は着信(ちゃくしん)を確認(かくにん)すると、急に顔色(かおいろ)を変えて部屋を出て行った。そして、声をひそめて電話の相手に答えた。「週末はダメだって……。いや、そうじゃなくて…」
<つぶやき>どんなに忙しくても、二人の時間を大切に。会話があれば心は結(むす)ばれてます。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0030「君を好きになった理由(わけ)」
 どうして君(きみ)を好きになったんだろう?
 出会いは最悪(さいあく)だった。君は僕(ぼく)を殴(なぐ)り飛ばしたんだから。君の友達をもて遊んだ男と間違(まちが)えて…。僕ってそんなにひどい男に見えたのかな? その後、君は僕に謝(あやま)るどころか、ひと晩(ばん)じゅうつき合わせたよね。いま思うと、それが君にとって精一杯(せいいっぱい)の謝罪(しゃざい)だったのかな?
 初めて会ったときから、君は自己中(じこちゅう)でわがままだったよね。僕が携帯(けいたい)番号を教えたら、毎日のようにかけてきて…。あれは何だったのかな? 君はひとりでしゃべって、僕の返事(へんじ)も聞かずにすぐに切ってしまう。結局(けっきょく)、僕が君に合わせるしかないじゃないか。
 僕が約束(やくそく)の時間に遅(おく)れたとき、君はほっぺたを丸くして僕を睨(にら)みつけたよね。僕はそれを見て笑っちゃった。だって、とっても可愛(かわい)かったから。その時からかな、君のことを好きになったのは。でも、僕から君に近づくと、君は距離(きょり)をとってしまう。どうしてかな?
 君から突然(とつぜん)別れようって言われたとき、僕は目の前が真っ暗になった。理由(わけ)を訊(き)いても、君は泣いてばかりで。はじめて君の涙(なみだ)を見た。この時、僕は決めたんだ。君を守るって。君を抱(だ)きとめることができるのは、僕しかいないんだから。僕がそう言ったら、君は黙(だま)ってうなずいたよね。今、君は僕の横で寝息(ねいき)をたてている。あの涙は何だったのか、今でも分からない。でも、いいんだ。君の幸(しあわ)せそうな寝顔(ねがお)を、こうして見ていられるんだから。
<つぶやき>相手(あいて)のすべてを知ることはできません。でも、愛があればそれで充分(じゅうぶん)です。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0029「ママの楽しみ」
「ごちそうさま」
 愛子(あいこ)は箸(はし)を置いて、ため息をついた。その様子(ようす)を見て母親は、
「どうしちゃったの? いつもなら呆(あき)れるぐらい食べるくせに」
「別に…。なんか、食欲(しょくよく)ないの」
 母親は娘の額(ひたい)に手をあてて、
「熱(ねつ)はなさそうねぇ。あっ! もしかして、好きな人でも…」
「そ、そんなんじゃないよ。な、なに言ってるの」愛子はあきらかに慌(あわ)てていた。
「そうなんだ。よかったわ。あんたもやっと恋(こい)に目覚(めざ)めたのね」
「やっとって何よ。私だって、それくらい…」
「で、誰(だれ)なの? 高校の同級生? もう、告白(こくはく)したの。それとも、されちゃった?」
「勝手(かって)に決めつけないでよ。そんなんじゃないってば…」
「ママにも憶(おぼ)えがあるわ。あれは、小学六年の夏だったなぁ」
「まだ、子供じゃない。そんなの恋じゃないわよ」
「なに言ってるの。恋に齢(とし)は関係ないのよ。今度、家に連れてきなさい。いいわね」
「えっ? そんなの、無理(むり)だよ。パパがなんて言うか…」
「そうね、パパにはショックが大きいかもね。でも、パパがどんな顔するか楽しみだわ」
「ママ、何を期待(きたい)してるの? やめてよ、もう」
<つぶやき>父親の心をもてあそばないようにして下さい。繊細(せんさい)な生き物なのですから。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0028「ウルトラQQ」
 とある温泉旅館(おんせんりょかん)で事件(じけん)は起こった。ここに宿泊(しゅくはく)していた女性客が、部屋から忽然(こつぜん)と姿(すがた)を消したのだ。部屋には荷物(にもつ)が残され、飲みかけのお茶と、食べかけの茶菓子(ちゃがし)がそのままになっていた。すぐに警察(けいさつ)が呼ばれたが、なにぶん田舎(いなか)なので駐在所(ちゅうざいしょ)の老巡査(ろうじゅんさ)がやって来た。
「そんで、だれも旅館から出てくの見とらんのかね?」
 老巡査は従業員(じゅうぎょういん)一人一人に訊(き)いてみたが、だれも見たものはいなかった。
「旅館の中、くまなく探してもおらんかったんだね。そんで、どんな人だったん?」
「それが…」担当(たんとう)の仲居(なかい)が答えた。「顔はよく分からんのだわ。帽子(ぼうし)かぶってサングラスかけて、マスクしとったの。でもね、背格好(せかっこう)は女の人だったよ」
「顔が分からんかったら、捜(さが)しようないわなぁ」老巡査は頭をかいて、「荷物、見せてもらえるかな? なんか、手掛(てが)かりがあるかもしれんし」
 残されていたのは小さな鞄(かばん)が一つだけだった。どう見ても男物(おとこもの)の鞄だ。女性の持ち物とは思えない。老巡査は鞄を開けてみた。中に入っていたのは、女性がかぶっていた帽子に、サングラスとマスク。それに、女性が着ていた服。これは、仲居が間違(まちが)いないと確認(かくにん)した。
「とすると、その女性は裸(はだか)で出て行ったのか!」老巡査は目を丸くした。
 結局、この事件はだれかの悪戯(いたずら)として処理(しょり)された。真相(しんそう)はいまだに闇(やみ)の中である。
<つぶやき>その人はきっと透明人間(とうめいにんげん)だったんじゃないのかな。あなたはどう思います?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0027「我ら探検隊」
 UMA(ユーマ)探検隊(たんけんたい)は深い森の中に分け入った。今回の目的はツチノコ捜索(そうさく)である。先日、この森の中でツチノコの目撃情報(もくげきじょうほう)があったのだ。はたして、彼らはツチノコを発見できるのか?
「野元(のもと)隊長。目撃されたのは、この辺りだと思われます」
「いよいよ、我々の活動(かつどう)が報(むく)われる時が来た。身を引き締(し)めて、捜索にあたってくれ」
 隊長の檄(げき)が飛び、隊員たちは散開(さんかい)し、辺りをくまなく探し回った。だが、いっこうに見つかる気配(けはい)はなかった。時間だけが、虚(むな)しく過ぎていく。
「隊長、もう無理(むり)ですよ。あきらめましょうよぉ」
「何を言ってるんだね。明子(あきこ)隊員、最後まであきらめちゃだめだ」
「隊長、あれを見て下さい!」松村(まつむら)隊員が、森の先を指さした。そこには街(まち)の明かりが…。
「はーい! もうやめましょう」明子は覚(さ)めた口調(くちょう)で、「みなさーん、撤収(てっしゅう)しますよーぉ。集めたゴミは、車のところまで運んで、分別(ふんべつ)して下さーい。お願いしまーす」
「明子君、次はもっとやり甲斐(がい)のある所へ行きたいね。ヒマラヤで雪男(ゆきおとこ)の捜索とか…」
「社長、わが社にそんな余裕(よゆう)はありません。ボランティア活動もいいですけど、社員を探検ごっこに付き合わせるのは、もう止めて下さい」
「いいじゃないか。楽しまなきゃ。それに、このビデオでCMを作れば、一石二鳥(いっせきにちょう)だよ」
<つぶやき>この会社の行く末(すえ)は大丈夫(だいじょうぶ)なの? でも、遊び心は大切です。忘れないでね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0026「プレゼント」
 今日は彼の誕生日(たんじょうび)。彼といっても、私の片思(かたおも)いなんだけど…。彼は、私のことをたくさんいる友達の一人としか思っていない。今度の誕生パーティだって、特別(とくべつ)に招待(しょうたい)されたわけじゃない。なのに私ったら、彼へのプレゼントを真剣(しんけん)に探して、何を着ていくかで悩(なや)んでいる。ほんと、バカみたいだよね。私にもう少し勇気(ゆうき)があったら、彼に告白(こくはく)して…。
 誕生パーティはレストランを貸(か)し切って盛大(せいだい)に始まった。彼の周(まわ)りには奇麗(きれい)な女の子がいっぱいいて、私は足がすくんでしまった。大きなバースデーケーキの横には、たくさんのプレゼントが積(つ)み上げられていて。私のプレゼントより、大きくて豪華(ごうか)なものばかり。
 私はパーティとか華(はな)やかな場所はほんとは苦手(にがて)なんだ。だから、隅(すみ)の方で小さくなっていた。彼へのプレゼントを握(にぎ)りしめて…。私がぼんやり座っていると、
「やあ、来てくれたんだ」彼がすぐ横に座って話しかけてきた。私はドキドキして、
「あの…、おめでとう…」彼の顔をまともに見ることができなかった。でも、少しだけ勇気を出して、「これ、あなたにと思って…」プレゼントを渡すことができた。
「君からプレゼントをもらえるなんて…。ありがとう」
 彼は嬉(うれ)しそうに受け取ってくれた。そして、「ねえ、誰か、付き合ってる人とか…、いるのかな?」私が首(くび)を振ると、「だったら、僕と付き合って下さい。ああッ…、やっと言えた」
 彼はほっとした顔をして、私に微笑(ほほえ)んだ。
<つぶやき>気持ちはちゃんと伝えないと、なにも始まりませんから。はじめの一歩です。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0025「エリカちゃん」
 由佳(ゆか)は、お手伝(てつだ)いロボ<エリカちゃん>を手に入れて上機嫌(じょうきげん)だった。これで家事(かじ)から解放(かいほう)され、自分だけの時間を楽しむことができる。エリカちゃんは最新式(さいしんしき)だけあって人間とそっくりで、ロボットとは思えないほどだ。由佳と同じ二十代の女性をモデルに作られていた。
 由佳は分厚(ぶあつ)いマニュアルを見て、「こんなに読めないわ。まっ、いいか」と言ってロボットの起動(きどう)スイッチを入れた。動き出したエリカちゃんに、由佳は掃除(そうじ)、洗濯(せんたく)、炊事(すいじ)と次々に家事を言いつけた。由佳は大満足(だいまんぞく)だった。いつどこへ出かけても、時間を気にしなくてもいい。すべてエリカちゃんがやってくれるから――。
 今日も遅(おそ)くまで友達と遊んで帰ってみると、エリカちゃんは夫(おっと)とソファーでくつろいでいた。肩(かた)を抱(だ)いたりして、夫もまんざらでもない様子(ようす)。それを見た由佳は、
「エリカ、何してるの? ちゃんと仕事をしなさい!」
「あなたこそ、いつまで遊んでるのよ」エリカは命令口調(めいれいくちょう)になり、「早く部屋を片づけなさい。洗濯物(せんたくもの)だってたまってるのよ。さっさとやりなさい!」
「えっ…」由佳は怖(こわ)くなりトイレに逃げ込み、携帯(けいたい)でメーカーに電話をかけた。メーカーの担当者(たんとうしゃ)は、「ありがとうって言いました? 人間と同じで、感謝(かんしゃ)の言葉(ことば)をかけないと暴走(ぼうそう)するんです。マニュアルの注意書(ちゅういが)きにも書いてあるんですがね。よく、読んでみて下さい。対処法(たいしょほう)としましては、しばらくエリカの言う通りにしてれば、もとに戻(もど)ると思います」
<つぶやき>近日、お助けロボ<タクヤくん>発売決定! 予約(よやく)はお早めにお願いします。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0024「運命の出会い」
 窓(まど)から気持ちのいい朝日(あさひ)が射(さ)し込み、良太(りょうた)は目を覚ました。だが、昨夜(ゆうべ)、飲みすぎた良太は最悪(さいあく)の状態(じょうたい)だった。頭はガンガンするし、何となく気分もよくないのだ。どうせ今日は休みだし、このまま寝ていようと良太は決め込んだ。
 寝返(ねがえ)りを打って、ふっと目を開けたとき、良太は驚(おどろ)いて飛び起きた。そこに、女の子が寝ていたのだ。それも、かなり可愛(かわい)い…。良太は目をぱちくりさせて、何でこうなったのか必死(ひっし)に思い出そうとした。でも、昨夜、友達と店を出てからの記憶(きおく)がないのだ。どうやって家に帰って来たのかも…。
 良太があたふたしていると女の子が目を覚まし、「おはようございます」と言って可愛い笑顔で起き上がり、良太の顔を見つめた。良太はあまりの美しさに、身体(からだ)が震(ふる)えた。
「あの…、おはようございます」良太は思わず挨拶(あいさつ)を返したが、「えっと、どなたですか?」
「忘れちゃったんですか? 昨夜、会ったじゃないですか」
「あの、どこで会ったんですかね? よく覚えてなくて…。すいません!」
「別にいいんですよ、そんなこと。これから、よろしくお願いします。今日から、あなたにつくことにしました。だって、私と気が合いそうだから」
「えっ、これからって? つくってなに?」良太には何のことかまったく分からなかった。
「たまにいるんですよ。私たちのことが見えてしまう人って。ふふふふ……」
<つぶやき>記憶(きおく)をなくすほど飲まないようにして下さい。何が起こるか分かりませんよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0023「いちご症候群」
 ここは心療内科(しんりょうないか)の診察室(しんさつしつ)。今日もちょっと変わった患者(かんじゃ)がやって来た。
「どうされました?」美人(びじん)の先生は優しく微笑(ほほえ)んた。
「あの…」患者はそわそわして周(まわ)りを気にしながら小さな声で言った。
「実は、見えてしまうんです」
「えっ?」先生は患者を落ち着かせようと、「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。何が見えるんですか?」
 患者は震(ふる)える手を押さえながら、「僕、食べ物に見えてしまうんです。いろんなものが…。あれ、先生のくちびる…」患者は先生の口元(くちもと)をじっと見つめた。
「吉田(よしだ)さん、大丈夫ですか? 私のくちびるが、何かに見えるんですか?」
「ああああ…」患者は何とか理性(りせい)を保(たも)とうと踏(ふ)みとどまって、
「イチゴ…。みずみずしいイチゴに見えます。ああああああ…、食べたい!」
「吉田さん。落ち着きましょう。深呼吸(しんこきゅう)して下さい、ほら」先生は深呼吸をして見せた。
 だが、これは逆効果(ぎゃくこうか)だった。患者はつばを飲み込み、目を血走(ちばし)らせ、くちびるを奪(うば)おうと先生に抱(だ)きついた。驚いた先生は悲鳴(ひめい)をあげて、患者を思いっ切りひっぱたいて、
「何すんのよ。この変態(へんたい)おやじ!」と叫(さけ)んでから、先生ははっと我(われ)に返った。
「あらっ、私ったら…」先生は慌(あわ)てて患者に駆(か)け寄り、「すいません、大丈夫ですか?」
 患者は先生の顔を覗(のぞ)き込み、「あれ、治(なお)ってる。先生、もうイチゴに見えません!」
<つぶやき>とても不思議な病気ですよね。でも、あなたの一撃(いちげき)で治るかもしれません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0022「アフター5のシンデレラ」
 ちょっと昔(むかし)のお話しです。財閥(ざいばつ)の一流企業に、なぜか中途採用(ちゅうとさいよう)で一人の女の子が入社しました。彼女は黒眼鏡(くろめがね)をかけて髪(かみ)はぼさぼさ、化粧(けしょう)もしてないようなみすぼらしい娘でした。それに、仕事ものろまで、失敗(しっぱい)ばかりしていて、いつも怒鳴(どな)られていました。
 そんな風(ふう)なので先輩(せんぱい)の女子社員からは雑用(ざつよう)にこき使(つか)われ、男子社員からも見向きもされず、声をかけられることもありませんでした。そんな彼女ですが、愚痴(ぐち)をこぼすこともなく、こまねずみのように働いていました。
 ある日、前が見えないほど書類(しょるい)を抱(かか)えて歩いていた彼女は、一人の男子社員とぶつかって転(ころ)んでしまいます。彼女はおどおどして「すいません」と頭を下げますが、男子社員はニコニコ笑って、「大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」と優(やさ)しく手を取ってくれました。
 その男は真面目(まじめ)だけが取り柄(え)で、いつも楽しそうに仕事をしていました。男は彼女を見た途端(とたん)、好きになってしまいます。一生懸命(いっしょうけんめい)に働いている彼女を、何かと手伝(てつだ)うようになったのです。男はどんな陰口(かげぐち)を言われても、まったく気にしませんでした。
 いつしか二人は付き合うようになりました。そして、彼女は男を家に招(まね)くことにしたのです。彼女に連れられて、男はそわそわしながら家に向かいます。そして、
「ここなんですよ」と彼女が指さした先には、立派(りっぱ)な豪邸(ごうてい)が建っていました。
 実は彼女は、財閥のお嬢さんだったのです。男は、足がすくんでしまいました。
<つぶやき>この二人は、これからどうなるのでしょうか? 幸せになってほしいなぁ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0021「漬ける女」
 とある喫茶店(きっさてん)で、紗英(さえ)は悲しそうな顔をして、涙(なみだ)をこらえていた。そんな紗英を見て、親友の麻美(あさみ)はあきれた顔をしてささやいた。
「もう、こんなところで泣(な)かないでよ」
「だって、あの人ったら、私を捨(す)てたのよ。お前みたいな重い女とは、もう付き合えないって」紗英の目から、ひとすじ涙がこぼれた。
「もう…」麻美はハンカチを手渡して、「だからやめなって言ったじゃない」
「私、あの人のために、いろいろしてあげたのよ。それなのに、それなのに…」
「紗英はね、尽(つ)くしすぎるのよ。もっとさ、私みたいに気楽(きらく)に…」
「あの人ね、私といると、漬(つけ)け物石(いし)を抱(だ)いてるみたいだって言ったのよ」
「漬け物石? 今どき、そんなの使わないでしょ。けっこう、古風(こふう)な人だったのね」
「私もね、つい言っちゃったの。あなたみたいなフニャフニャで、野沢菜(のざわな)みたいな人…」
「へーえ、言っちゃったんだ。紗英、それでいいんだよ。あんな男なんて忘れなよ」
「私が、野沢菜って言ったから、嫌(きら)われたのよ。きっとそうよ。それで、出てけって…」
「もう。別れた男のことで、イジイジしないの。スッパリと忘(わす)れなきゃ。いいわ、私がもっといい男、見繕(みつくろ)ってあげる。そうね、歯(は)ごたえのありそうな、カブみたいな人とか…」
 紗英はすごい形相(ぎょうそう)で睨(にら)みつける。麻美は殺気(さっき)を感じて、「もう、冗談(じょうだん)だってば…」
<つぶやき>こんな一途(いちず)な人もいるんですよ。今度は素敵(すてき)な人と出会えるといいですね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0020「自殺志願者」
 一人の男が公園(こうえん)のベンチに座(すわ)り、悲嘆(ひたん)に暮(く)れていた。そこへ幼(おさな)い少女が近寄って来た。
「ねえ、おじちゃん。どうしたの?」
 少女はあどけない笑顔で男の顔を覗(のぞ)き込んだ。男は少女の方を見るが、目をそらして額(ひたい)に手をあてて大きなため息をついた。
「一人にしてくれないか」男はかすれた声でつぶやくと、「おじちゃんは、これから遠(とお)いところへ行かなきゃいけないんだ」
「遠いところ?」少女は男の手を取り、「ねえ、あたしも連れてって」
 少女の小さくて温(あたた)かい手とつぶらな瞳(ひとみ)は、男の寒々(さむざむ)とした心にぬくもりを与えた。
「あたしも行きたい。だってね、遠いところにはママがいるんだよ。ママに会いたいの」
「そんなこと言っちゃいけない」男は少女を抱(だ)きしめて、「死んじゃいけないよ!」
 ――次の瞬間(しゅんかん)、「はい、終了(しゅうりょう)です」と声が聞こえてきて、ベンチや少女は跡形(あとかた)もなく消え失(う)せ、白(しろ)一色の部屋に変わった。そして、音もなく自動扉(じどうとびら)が開いた。
「今度はいけると思ったのになぁ」男は部屋から出ると受付(うけつけ)の女性に、「またダメですか?」
「そうですね。もう少し頑張(がんば)っていただかないと、自殺許可証(じさつきょかしょう)は発行(はっこう)できませんね」
「あの、また予約(よやく)をお願いします。今度こそ、頑張りますから」
「では、次は一週間後です。それまで、しっかり生きていて下さいね」
<つぶやき>生きることも大変ですが、死ぬことも大変かもしれません。生き抜いて…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0019「大切な宝物」
「ねえ、これはなに?」
 妻(つま)は、薄暗い藏(くら)の中から私を呼(よ)んだ。外で発掘品(はっくつひん)を整理(せいり)していた私は、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を手に穴蔵(あなぐら)へ向かった。
 実は、崩(くず)れかけている古い藏を取り壊(こわ)すことにしたのだ。何代(なんだい)も前の先祖(せんぞ)が建てたもので、長年の風雨(ふうう)で痛(いた)みがひどくなり、この間の台風(たいふう)でとうとう壁(かべ)が崩れてしまったのだ。
 この藏にはいろんな思い出がある。子供の頃、悪(わる)さをして父親に閉じ込められたり、祖父(そふ)と一緒(いっしょ)に探検(たんけん)したこともあった。今思うと、祖父はかなりの変わり者だった。ほとんど家にはいなかったのだ。いつも旅をしていて、突然(とつぜん)帰ってくる。どんな仕事をしているのか聞いてみたことがあったが、祖父は「わしは、探検家(たんけんか)さ」と笑っていたのを覚(おぼ)えている。
「ねえ、これすごいよ」妻は私にほこりにまみれた小さな箱(はこ)を見せた。
「これは…」私には見覚(みおぼ)えがあった。祖母(そぼ)が大切(たいせつ)にしていた箱だ。でも、中に何が入っていたのか、私には記憶(きおく)がなかった。たぶん、祖母が亡(な)くなってから、父が藏にしまったのだろう。妻はそっと箱を開けてみた。私は懐中電灯で中を照(て)らす。
「うわっ!」妻は驚きの声をあげた。「すごくきれい。ねえ、見て!」
 中に入っていたのは、たくさんの絵はがきだった。昔の風景(ふうけい)や人物(じんぶつ)、花などが印刷(いんさつ)されていた。文面(ぶんめん)を見ると、祖父が祖母に宛(あ)てた手紙で、愛情(あいじょう)込めた言葉がつづられていた。
<つぶやき>大切な人に、あなたは何を残しますか? どんなものでも、それは宝物(たからもの)です。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0018「遠距離ストーカー」
「あっ、まただ」淳子(じゅんこ)は着信(ちゃくしん)したばかりのメールを見て呟(つぶや)いた。
「どうしたの?」一緒(いっしょ)にお茶をしていた菜月(なつき)が、ケーキを頬張(ほおばり)りながら聞いてきた。
「私のストーカー」淳子は平気(へいき)な顔でそう言うと、「毎日ね、メールしてくるのよ」
「ストーカーって…。なにそれ?」菜月は心配(しんぱい)して、「大丈夫(だいじょうぶ)なの?」
「私の故郷(ふるさと)にいる元彼(もとかれ)なの。もう、しつこくて」
「元彼? それだったら、着信拒否(きょひ)とかすればいいじゃない。そうすれば…」
「えっ、そんなことしたら、もう届(とど)かなくなるじゃない」
「なに言ってるの。迷惑(めいわく)してるんでしょ?」
「だって、今まで来てたのが来なくなったら、なんか淋(さび)しいじゃん」
「あんた、ときどき分かんないこと言うよね。そもそも、何で元彼と別れたの?」
「えっとね、こっちでやりたい仕事(しごと)があったし、都会(とかい)に来たかったの」
「それで、その元彼は許(ゆる)してくれなかったんだ」
「ううん。黙(だま)って来ちゃった」
 淳子は婚約指輪(こんやくゆびわ)を見せて、「結婚の約束(やくそく)までしたんだけどね」
「えっ! あんたね、指輪を返して、ちゃんと別れてから出てきなさいよ」
「私、彼のとこ嫌(きら)いじゃないし。向こうに戻ったら、結婚するかもしれないじゃん」
<つぶやき>こんな自由奔放(じゆうほんぽう)な彼女と付き合うのは、とっても大変じゃないかと思います。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0017「初恋前夜」
 ありさは校門(こうもん)のところで里子(さとこ)を待っていた。この二人は気が合うようで、学校ではいちばんの仲良(なかよ)しだった。でも、今日は何だか、ありさの様子(ようす)がちょっといつもと違うみたいだ。里子が来ると、ありさは言いにくそうに、
「あのね…。里(さと)ちゃんに頼(たの)みがあるんだけど…」
「なに? 何でも言ってよ。でも、勉強(べんきょう)のことは無理(むり)だからね」
「佐藤(さとう)君のことなんだけど…」ありさは頬(ほお)を赤らめて、「付き合ってる子とか、いるのかな?」
「佐藤? 良夫(よしお)のこと」里子は笑いながら、「いない、いない。いるわけないよ。だって、部活(ぶかつ)のないときは、いつも私の家に来て暇(ひま)つぶししてるのよ」
「そおなんだ。里ちゃんは、佐藤君のこと、どう思ってるの? 好きとか…」
「えっ? 私は…」里子は今まで良夫のことをそんなふうに考えたことはなかった。
「あいつとは幼稚園(ようちえん)のときからの幼(おさな)なじみで、好きとかそういうのは…」
「じゃあ、いいよね。私が好きになっても」ありさは思わず言ってしまった。
 里子は驚(おどろ)いた。良夫のことをそんなふうに思っていたなんて。ありさは恥(は)ずかしそうに、
「ねえ、佐藤君に、私と付き合ってほしいって、伝(つた)えてくれない?」
 里子は胸(むね)が騒(さわ)いだ。何だか分からないけど、大切(たいせつ)なものを無(な)くしてしまうような、淋(さび)しい気持ちになった。だから、里子はこんなふうに答えてしまった。
「それは、無理よ。私からは…、言えないわ。ごめんね。ほんと、ごめん」
<つぶやき>この二人はこれからどうなるのでしょう? 親友のままでいてほしいけど…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0016「探しものは…」
 もう陽も落ちて薄暗くなった教室で、二人の生徒(せいと)が何かを探していた。
「どうしてないのよ」やよいはべそをかきながら、「困(こま)ったなぁ。どうしよう…」
「他のとこに持ってったんじゃないのか?」祐介(ゆうすけ)は呆(あき)れて、「お前、そそっかしいからな」
「他のとこって…。あっ、音楽室(おんがくしつ)かも。帰る前にそこによったのよ」
 二人は暗い廊下(ろうか)を音楽室に向かった。昼間と違って何だか別の場所のようだ。薄気味悪(うすきみわる)い感じなので、やよいは祐介の腕(うで)をつかんだ。階段を上がって行くと、ピアノの音が聞こえてきた。二人は顔を見合わせて、息を呑(の)んだ。三階について音楽室の方を見たとき、何かがすーっと動いたような気がした。やよいは思わず祐介にしがみついて言った。「何かいたよぉ」
「バカ、気のせいだよ」祐介は怖(こわ)いのを我慢(がまん)して、「ほら、行くぞ」
 ピアノの音はいつの間にか消えていた。音楽室の扉(とびら)をそっと開けて、二人は中に入った。中には誰もいなかったが、ピアノのふたが開けられたままになっていた。やよいは教壇(きょうだん)の上に探していたものを見つけて駆(か)け寄(よ)り、「あった。あったよ、祐介」やよいは大事(だいじ)そうにそれを祐介に手渡(てわた)して、「はい、プレゼント。今日は私たちが初めて…」
「それ、神田(かんだ)さんのなの。ダメじゃない、忘れていっちゃあ。大切(たいせつ)なものなんでしょ」
 突然(とつぜん)先生に声をかけられたので、二人はどぎまぎしてしまった。
<つぶやき>大切なものは無くさないようにしないといけません。気をつけて下さいね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0015「ふくらむ疑惑」
「ねえ、あなた」君江(きみえ)は背広(せびろ)のポケットに入っていた一枚のメモを見せて、「これはなに?」と微笑(ほほえ)んだ。
 隆(たかし)は遅(おそ)い夕食を食べながら、ちらっとメモを見て、「えっ、何それ?」
「あれ、とぼけるんだ。読んであげましょうか?」
 君江は夫(おっと)に疑(うたが)いの目をむけた。
 隆はきょとんとして、ふくれている妻(つま)を見た。君江はおもむろにメモを読み始める。
「今日は楽しかったわ。まさか、二人であんなことが出来るなんて、思ってもみなかったんですもの。また誘(さそ)って下さいね。待ってるわ。かおり」
 メモを読み終えた君江は、「さあ、ちゃんと説明(せつめい)して。かおりって誰(だれ)なの?」
「かおり? 知らないよ。知るわけないだろ」
「とぼけないでよ! かおりって人と、何をしたの!」
「何もしてないよ。ほんとだって」隆には身に覚えがないようだ。
「今日のことよ。忘れたなんて言わせないから。会社の人じゃないの? それとも…」
「あっ、思い出したよ。あの、このあいだ移動(いどう)で来た娘(こ)で…。それで、席(せき)が隣(となり)になって、いろいろ教えてあげたりとか…。ちょっと変わった娘(こ)で、天然(てんねん)っていうか…」
「それで、仲良(なかよ)くなったんだ。で、あんなことやこんなことして、楽しんだんだ…」
 二人の話し合いは、深夜(しんや)まで続いた。この結末(けつまつ)は、ご想像(そうぞう)におまかせします。
<つぶやき>些細(ささい)なことが、とんでもないことになるときも、あるのです。気をつけて。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0014「恋の始まり」
「おはよう。田中(たなか)君…、早いのね」ななみは恥(は)ずかしさのあまり声がうわずっていた。
「あ、吉田(よしだ)さん。あの、どうも…」田中の方も何だか落ち着かない様子(ようす)だ。
 この二人、お互(たが)いに好きなのだ。でも、それが言い出せないでいた。他の友達がいるときは何でもないのだが、いざ二人っきりになると意識(いしき)しすぎてしまい何も話せなくなる。二人してもじもじしていると、それぞれの携帯(けいたい)が鳴(な)り出した。
「あ、さゆり。何してるの、遅いよ。えっ…、今日、来られない? 何でよ…」
「何だよ、研二(けんじ)。早く来いよ。えっ、嘘(うそ)だろ。どうすんだよ。えっ…」
 今日は友達四人で水族館(すいぞくかん)に行くことになっていた。それが、ドタキャンされたみたいだ。実(じつ)は、友達が気をきかせて、二人っきりになれるように計画(けいかく)したのだ。二人はどうしていいのか分からず、うつむいてしまった。でも、真(ま)っ赤な顔をしたななみの方から、
「あの…、さゆり、来られないって。何か…、急に用事(ようじ)が出来たみたいなの」
「そう…。沢田(さわだ)も、今日、ダメだってさ。どうしようか…、これから」
「えっと…、行かない? 水族館。二人で…。せっかく、来たんだから…」
「そうだね。うん…、そうしようか。それがいいよ」
 二人はぎこちなく歩き出した。二人の恋の時計(とけい)が、ゆっくりと動きはじめた。
<つぶやき>恋の始まりは、突然(とつぜん)やって来るんですよね。今思えば、その頃(ころ)がいちばん…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0013「復活の日」
 古びた酒場(さかば)のカウンターで、一人の男がバーボンを飲んでいた。だいぶ酔(よ)いが回っているようで、うつろな目をして物思(ものおも)いにふけっていた。そこに、この店には不釣(ふつ)り合いな、二十歳(はたち)ぐらいの若い女が近寄ってきて、隣(となり)の席に座り男の顔を覗(のぞ)き込んだ。
「ねえ」女は男に声をかけ、「私にダンス教えてよ。お願い」
 男は女の顔をちらりと見ただけで、何も言わずに残っていたバーボンを喉(のど)に流しこんだ。
「おじさん、聞いてんの? 何とか言いなよ」女はイラついて男の腕(うで)をつかんだ。
 男はその手を振りはらうと、「何度来ても同じだ。俺(おれ)は、ダンスはやめたんだ」
「そんなこと言わないで。私も、おじさんみたいに一流(いちりゅう)のダンサーになりたいの」
 女の目は真剣(しんけん)だった。男の心は揺(ゆ)れていた。彼女を見ていると、昔の自分とそっくりなのだ。捨(す)てたはずの夢(ゆめ)がちらつき、心の片隅(かたすみ)で熱い気持ちがくすぶり始めていた。
「やめとけ。俺みたいになるだけだ。踊れなくなったら、もう死んだも同然(どうぜん)だ」
「だったら、私が生き返らせてあげる。おじさんがなくした夢、私が取り戻(もど)してあげるわ」
「お前な……」男は何か言いかけたが、しばらく考え込んで、「俺の授業料(じゅぎょうりょう)は高いぞ」
「えっ…、教えてくれるの? ありがとう! でも、授業料っていくらなの?」
 男は飲んでいたグラスを差し出し、「こいつ、一杯(いっぱい)だ」
<つぶやき>いくつになっても、熱い情熱を忘れないでいたいですよね。青春、万歳!!
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0012「約束」
 昼(ひる)近くになって純子(じゅんこ)はベッドから這(は)い出した。今日は久(ひさ)し振(ぶ)りのお休み。もう一ヵ月も休みがなかったのだ。だから、今日は一日をまったりと過ごすことに決めていた。純子は思いっ切り背伸(せの)びをするとニコニコしながら、「今日は、なにしようかなぁ」と呟(つぶや)いた。
 これが純子の平穏(へいおん)な一日の始まり…、のはずだった。一本の電話がかかってくるまでは。
<おめえ、何やってんだ。約束(やくそく)忘れたんけ?>それは男の声だった。
「えっ、どなたですか?」純子には聞き覚(おぼ)えのない声だった。
<バカこくでねえ。オラだ! おめえの物忘(ものわす)れは、大人(おとな)になってもちっとも治(なお)んねえな。そんなんだからさ、いつまでたっても恋人が出来ねえんだ>
「さとし? 何で…、何で番号知ってんの!」それは幼(おさな)なじみの男だった。
<約束通り迎(むか)えに来たさぁ。田舎(いなか)にけえって、結婚(けっこん)すべ>
「いきなり何よ。あんたとなんか結婚しないわよ。するわけないでしょ!」
<なに言ってんだ。三年たっても恋人できなかったら、オラと結婚するって言ったべ>
「そんなこと言ってねえ」でも純子は、冗談半分(じょうだんはんぶん)にそんなことを言ったような気がした。
<すぐ着くからな。もう、淋(さび)しい思いさせねえから。待ってろや>
 純子はこの後、さとしを説得(せっとく)して追(お)い出すのに長い時間を費(つい)やした。結局(けっきょく)、まったりとした休日は夢に終わった。
<つぶやき>冗談半分に変な約束してませんか? 気をつけないととんでもないことに…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0011「ほんの小さな夢」
 さゆりはラブホテルの一室(いっしつ)で朝を迎(むか)えた。横で寝(ね)ているのは、名前も知らない行きずりの男。彼女は自分の身体を売って、お金を手に入れていた。別に、お小遣(こづか)いが欲(ほ)しくてしているわけではなく、女一人で生きていくにはこの方法(ほうほう)しか思いつかなかったのだ。でも、彼女には夢があった。お金を貯(た)めて雑貨(ざっか)のお店を持つこと。そのための勉強(べんきょう)もしていた。
 さゆりは家庭(かてい)のぬくもりを知らなかった。両親からは邪魔者扱(じゃまものあつか)いされ、いつも一人ぼっちだった。自分の家なのに、そこには彼女の居場所(いばしょ)はなかったのだ。だから、自分のお店を持つことは、自分の居場所を作ることなのかもしれない。
「どうして、こんな商売をしてるんだい」
 男は着替(きが)え終わるとさゆりに声をかけた。
「私、学校もちゃんと行ってないし」さゆりは髪(かみ)をとかしながら、「でもね、勉強は嫌(きら)いじゃないのよ。いまも勉強してる。私には夢があるんだ」
 さゆりは無邪気(むじゃき)に微笑(ほほえ)んだ。
「夢ね」男はしらけた顔で、「夢があったって、幸せにはなれないさ。俺(おれ)は、自分の夢はすべてかなえたけど、そこには幸せなんかなかった」
「そんなことないよ。夢があれば生きていけるわ。もし夢がかなったら、また別の夢を…」
「夢がかなったら、後は失(うしな)うだけだよ。仕事も、家庭もな。後は何も残らない」
「それは違うよ。そんな悲しいこと言わないで…」さゆりは男を優(やさ)しく抱(だ)きしめた。
<つぶやき>どんな人にも夢はあると…。夢は元気の源(みなもと)。人生を喜びで満(み)たしてくれる。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0010「呼びつける」
 佐々木(ささき)は、半年かけて新しい得意先(とくいさき)と契約(けいやく)を結(むす)ぶまでにこぎつけた。今日は契約書を交わす大事(だいじ)な日。佐々木の上司(じょうし)も加わり、得意先の社長と最終的な契約の確認(かくにん)をしていた。
 その時、静かな会議室にメールの着信音が鳴(な)り響(ひび)いた。佐々木は慌(あわ)てて、「すいません」と言ってメールを確認し、「今日はダメだって言ったのになぁ」とつぶやいた。
「今度は何だって?」上司が心配(しんぱい)そうにささやいた。
 佐々木は携帯を上司にこっそりと見せた。そこにあった文面は、
<早く来て。来なかったら怒(おこ)っちゃうから!>
 佐々木の恋人からのメールだった。こういうことはたびたびあったので、上司もなれたもので、「もう少し、待ってもらえないのか? 今はちょっとな…」
「何か問題(もんだい)でもあるのかね?」相手(あいて)の社長はただならぬ様子(ようす)に声をかけた。
「いや、ちょっと個人的(こじんてき)なことでして」
 上司は言葉をにごした。が、またメールの着信音が鳴り響いた。今度は、
<何してるの! 来なさい!! どうなっても知らないわよ!>
「まずいな」メールを見た上司はそうつぶやくと、「ここはいいから、君は行きなさい」
「いったいどうしたんだね?」社長は相手の会社の大事(おおごと)だと思い声を荒(あら)げた。
 上司は仕方なく届(とど)いたメールを見せて、佐々木の恋人のことを説明した。社長はそれを聞くと、「これはいかん。わしにも憶(おぼ)えがあるんだ。すぐ行きたまえ。行かなきゃダメだ!」
<つぶやき>いつの時代になっても、女性はたくましいのです。見くびらないように…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0009「タイムカプセル」
 久(ひさ)し振(ぶ)りに故郷(こきょう)に帰って来た。二年ぶりぐらいかなぁ。実は家を建て替(か)えることになって、<片付けを手伝いに帰って来い>って連絡(れんらく)があったの。私は高校を卒業(そつぎょう)してから東京の大学に入り、そのまま就職(しゅうしょく)してしまった。だから、私の部屋は高校生のときのままになっている。
 部屋の片付けをしていると、いろんな発見があった。あの頃(ころ)の思い出がこの部屋にはいっぱい詰(つ)まっている。そして、私は見つけてしまった。彼と二人で撮(と)った記念写真。彼も東京の大学に入ったので、二人の付き合いは続いていた。でも、大学を卒業する前に、些細(ささい)なことがきっかけで別れてしまった。いま考えると、別れた原因って何だったのかな。いろんなことが積(つ)もり積もって、二人の気持ちが離(はな)れてしまったのね、きっと。
 写真の中の二人は、今でも恋人のままで時間が止まっていた。まるでタイムカプセルみたいに…。あっ、思い出した。この写真は二人でタイムカプセルを埋(う)めたときのだ。その頃の記憶(きおく)が頭の中を駆(か)けめぐった。高校卒業の記念にって、学校の近くの公園(こうえん)にこっそり埋めたタイムカプセル。たしか、十年後に二人で掘(ほ)り起こそうって約束(やくそく)した。
 私は写真の日付を見て驚いた。十年後って明日じゃない。何だかドキドキしてしまった。明日、行ってみようかな。そしたら、彼に会えるかもしれない…。私ってバカね。そんなことあるわけないのに。何を期待(きたい)してるのよ。でも…、行ってみてもいいよね。
<つぶやき>あの頃の楽しかったこと、忘れたくないよね。そんな思い出を作りましょう。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0008「ロスト・ワールド」
 ここは地球最後の秘境(ひきょう)。深い密林(みつりん)や湿地(しっち)に守られた、前人未踏(ぜんじんみとう)の地である。以前撮(と)られた衛星(えいせい)写真で、密林の中に断崖(だんがい)に囲(かこ)まれた小高い丘(おか)があり、その中央に小さな山があることが確認(かくにん)された。前回の予備調査(よびちょうさ)で新種(しんしゅ)の生物が多数発見されているので、今回の調査には全世界の注目(ちゅうもく)が集まっていた。
 探検隊は断崖を登り切り、いよいよ未知の世界に踏(ふ)み込んだ。そこは倒木(とうぼく)や立木(こだち)にいたるまで苔(こけ)でおおわれていて、今まで歩いてきたジャングルとはまったく違っていた。
「隊長(たいちょう)! あれは何ですか?」
 しばらく歩いたところで隊員(たいいん)の一人が叫(さけ)んだ。何かが倒木のあいだから頭(あたま)を出していたのだ。隊長はすぐに駆(か)け寄り、驚きの声をあげた。
「何でここにあるんだ!」隊長が手にしたのはペットボトルだった。
「こっちにも何かあります!」別の隊員が叫んだ。そこにあったのはスナック菓子(かし)の袋(ふくろ)。
 次々と見つかる人の痕跡(こんせき)に、隊長をはじめ隊員たちは呆然(ぼうぜん)と立ちつくした。何とか目的の小山(こやま)にたどり着いたとき、みんなは言葉をなくした。驚きのあまりしゃがみ込む者や、憤(いきどお)りのあまり涙(なみだ)する隊員さえいた。そこにあったのは、ゴミの山。緑色のごみ袋が積(つ)み上げられて、山のようになっていたのだ。その時、どこからともなく飛行機の音が響(ひび)き始めた。みんなが見上げると、小型の輸送機(ゆそうき)が旋回(せんかい)していて、緑のごみ袋を落とし始めた。
<つぶやき>ゴミはちゃんと持ち帰りましょう。小さなことからでも地球を救えるのです。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0007「飛び立つ男」
 崖(がけ)の上に一人の男が立っていた。ただ立っていた。風が吹き始めると両手を真横(まよこ)に広げて目をつむり、身体で風を受けて背筋(せすじ)を伸(の)ばす。まるで飛び立とうとでもするように。
 そこに一人の女がやって来た。女は、男のしていることを不思議(ふしぎ)そうに眺(なが)めていたが、
「何をしてるの?」と声をかけた。「あなた、昨日もここにいたわね」
「僕は、待ってるんですよ」
 男は空を見上げたまま、女を見ようともしなかった。
「誰(だれ)を待っているの?」
「風を待ってるんです。僕の風を」
「あなたの風?」
 女には、男の言っていることが理解できなかった。「風は誰のものでもないわ。それに、どうやって風を見分けるの?」
「身体で感じるんです。自分の風を感じたら、飛び立つことができる」
「飛び立つ?」女は目を丸くして、「人は飛ぶことなんてできないわ」
「誰が決めたんですか?」男は女の顔を覗(のぞ)き込み、「思い込んでいるだけですよ」
「そんなことない」女はむきになって、「人の身体は飛ぶようにはできてないの」
「辛抱(しんぼう)して自分の風を待ち続ければ、飛び立つことができますよ。やってみませんか?」
「私には、そんな無駄(むだ)なことをする時間はないの。あなたもちゃんと働いた方がいいわ」
<つぶやき>男のロマンを理解することができたら、世界はもっと広がるのでしょうか?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0006「タイミング」
 祐太(ゆうた)は会社の同期(どうき)の女性に思いを寄(よ)せていた。別に一目惚(ひとめぼ)れってわけじゃない。職場(しょくば)でたわいのない話をしたり、仕事のあとの飲み会とかで仲良くなって――。自分でも意識(いしき)しないうちに…、なんか良いよな、やっぱり気になる、好きになっちゃったのかも。てな感じで、<どうしようか>と思い始めたのは一ヵ月前だった。それからというもの、普通(ふつう)に話してるつもりでも、なんだかぎこちなくなっている自分がいた。
 彼女のプライベートのことは詳(くわ)しく知らないし、もしかすると彼氏がいるかもしれない。自分のことをどう思っているのかな? 祐太はあれこれと思い悩(なや)んでしまった。
 そんな祐太に突然(とつぜん)チャンスがめぐってきた。街を歩いていた祐太の目の前に、彼女が現れたのだ。彼女もびっくりした顔をして、
「この近くに友だちが住んでて、それで。田中(たなか)君は?」
「僕は、あの…。この辺(へん)に、住んでるんだよね。それで…」
「そうなんだ。あっ、そうだ。これから時間あります? 友達の家でパーティがあるの。一緒(いっしょ)に行きませんか?」
 祐太は行きたかった。でも、今日は田舎(いなか)から母親が出て来るので、駅まで向かえに行くことになっていたのだ。<なんで!>祐太は心の中で叫(さけ)んだ。彼女ともっと親(した)しくなれるかもしれないのに。祐太は彼女と別れてから、思いっ切りため息をついた。
<つぶやき>こういうことって、あるんですかね? そのうち、良い風が吹いてきますよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0005「最後のラブレター」
 かすみさんがこの手紙を見つけたとき、もう僕はこの世界から消えてしまっていると思います。でも、悲しまないで下さい。僕とあなたが過ごした三十年のあいだ、楽しいことがたくさんあったから。僕は、あなたと一緒(いっしょ)にいられて、とても幸せでした。
 僕がこんなとこを言うと、かすみさんは怒(おこ)るかもしれませんね。だって、僕は良い夫ではなかったから。仕事にばかり夢中になって、あなたのとこを一人ぼっちにしてしまった。子供たちのことも、みんなかすみさんに任(まか)せてしまっていたし…。
 でも、あなたのおかげで、子供たちも無事(ぶじ)に育(そだ)ってくれました。とても感謝(かんしゃ)しています。こんなこと、面(めん)と向かっては言えなかった。ちゃんと言っておけばよかったね。
 あなたはいつも家族のことを考えていてくれたよね。僕が入院したときも、毎日のように来てくれた。僕がそんなに来なくていいよって言っても、あなたは<僕と一緒にいられる時間が増えたのよ、こんな幸せなことはない>って笑ってくれた。僕は、あなたの笑顔がいちばん好きだったんだよ。あなたの笑顔はみんなを幸せにしてくれる。
 僕がいなくなっても、笑顔を忘れないで下さい。これからは、あなたのやりたいことを好きなだけしていいんだよ。僕から、かすみさんへのご褒美(ほうび)です。ありがとう。
<つぶやき>人生の節目(ふしめ)にあたり、心のこもった感謝のラブレターを書いてみませんか?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0004「ラブレター」
 山田(やまだ)君へ。突然(とつぜん)こんな手紙(てがみ)を書いちゃって、ごめんなさい。
 私が廊下(ろうか)で転(ころ)んでしまって、持っていたプリントをばらまいちゃったとき、そばにいた山田君は一緒(いっしょ)に集めてくれたよね。あのとき、私、ちゃんとお礼(れい)を言えなくて…。山田君は、そんなこともう忘れているかもしれないけど。私は、ずっと後悔(こうかい)してて…。なんで、ちゃんとありがとうって言わなかったんだろうって。ちゃんと言ってれば…。
 私、山田君と同じクラスになったときから、山田君のことがずっと気になってて…。でも、声をかけることができなかったんだよね。この手紙を書くのだって、ずっと迷(まよ)ってたんだ。友だちに相談(そうだん)したらね、ちゃんと告白(こくはく)した方がいいって言われたの。それで、私、決めたの。
 私、山田君のことが好きです。山田君は、他に好きな人がいるかもしれないけど、それでもいいの。私の片思(かたおも)いでもいい。こんな気持ちになったのは初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からないんだ。今もドキドキしてる。でも、なんだか心の中がほわっとしてて、あったかいの。今まで悩(なや)んでいたことが、どっかへ行っちゃった。
 あのときは助けてくれて、ほんとにありがとう。もし、私のこと好きじゃなかったら…、好きになれなかったら、この手紙は捨(す)ててください。
<つぶやき>初恋は青春の思い出よね。心のどこかに隠れてて、時々現れては消えていく。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0003「仕事と恋」
「何でそんなこと言うの? 約束(やくそく)したじゃない! ずっと一緒(いっしょ)にいるって」
 涼子(りょうこ)は電話口で声を荒(あ)らげた。電話相手の彼とは、もう三年の付き合いになる。ここ数ヶ月はお互(たが)いの仕事が忙(いそが)しく、なかなか逢(あ)うことが出来なかった。それに、電話も夜遅くしか出来ないので、長話(ながばなし)をするわけにもいかなかった。涼子は淋(さび)しい思いを我慢(がまん)していた。
 だから、今日はまだ早い時間なのに彼から電話がかかってきて、涼子は飛び上がらんばかりに喜(よろこ)んだ。それが、まさかこんな事になるなんて、夢にも思わなかった。
「どういうことよ。はっきり言ってよ」
 涼子の声は震(ふる)えていた。相手の話を身動(みうご)きもせずに聞いていたが、
「分かんないよ! 仕事がそんなに大切(たいせつ)なの。……そりゃ、私だって、仕事が忙しくて、急に逢えなくなったときあったけど…」
 涼子の目から、一筋(ひとすじ)の涙(なみだ)がこぼれた。
「ねえ、どうしてもだめなの。離(はな)れたくないよ。ずっと一緒にいようよ」
 彼は、涼子が泣いているのに気づいたようだ。
「泣いてなんかいないわよ。二人で出かける旅行、楽しみにしてたんだから。それなのに、私を残して、一人だけ日帰りで帰るなんて。いいわよ、一人で泊(と)まるから。二人分、ご馳走(ちそう)食べてやる!」
<つぶやき>仕事と恋の両立は難しいのかもしれませんね。どっちも大切なんですから。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0002「女の切り札」
「何なのこれ?」
 エコバッグからカップ麺(めん)を取り出して純子(じゅんこ)が呟(つぶや)いた。
「私は醤油味(しょうゆあじ)を頼んだのに、何でとんこつ味を買ってくるのよ」
「だって、ちょうど売り切れてたから」
 隆(たかし)はヤカンに水を入れながら答えた。
「私はいま、醤油味を食べたいの。それ以外はあり得(え)ないから」
「いいじゃない。これだって美味(おい)しいって」ヤカンをコンロにのせて火をつける隆。
「そりゃ、とんこつも美味しいわよ。でも、今は醤油なの。醤油を食べたいの!」
「そんなのいいじゃん。美味しけりゃ、同じだって」隆は無頓着(むとんちゃく)な人間のようだ。
「買ってきて」純子はエコバッグを隆に突(つ)きつけて、「今すぐ買ってきて!」
 隆は純子のわがままには慣(な)れっこになっていたが、今日は我慢(がまん)の限界(げんかい)に達していた。
「お前な、いい加減(かげん)にしろよ! 前から言いたかったんだけど、朝食の目玉焼きに醤油なんかかけるなよ。目玉焼きはソースだろ。俺がせっかく美味しく作ってるのに…」
「なに言ってるの?」
 純子は鼻(はな)で笑って、「目玉焼きは醤油じゃない。常識(じょうしき)でしょ。それより、早く行ってよ。15分だけ待っててあげる。遅れたら、もうこの部屋には入れないから」
「何だよ、それ」隆は背筋(せすじ)に冷たいものが走るのを感じた。「分かった。行ってきまーす」
<つぶやき>隆、負けるな。いつかきっと、報われる時が来るから。たぶん…、きっと…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

T:0001「お嬢様教育コース」
「ここは何処(どこ)よ!」ファッションモデルのように着飾(きかざ)った若い女性が叫(さけ)んだ。「エッフェル塔(とう)は? 凱旋門(がいせんもん)は何処にあるのよ」
「ここ、ガルバね」と添乗員(てんじょういん)が説明(せつめい)し、「アフリカの秘境(ひきょう)あるよ。どうね、良い景色(けしき)ね」
「どこがよ。何にも無(な)いじゃない」女は頭をかきむしり、「吉田(よしだ)! どうなってるの? 私はパリに行きたかったのよ。パリが私を待ってるの。あなた、なんとかなさい。いいわね」
「お嬢(じょう)様、そう言われましても。次の飛行機が来るのは、一週間後ですから」
「何で? それじゃ、チャーターしなさい。お金はいくらかかってもいいわ」
 女はそう言うと、バックから札束(さつたば)を取り出して吉田に突(つ)き出した。
「おお、これダメね」添乗員は札束を見て、「ここ、お金、使わないよ。物々交換(ぶつぶつこうかん)ね」
「物々交換?」女は顔をひきつらせて、「なにそれ? じゃあ、どうするのよ。吉田!」
「お嬢様、仕方(しかた)ありません。とりあえず、ホテルを探(さが)しましょう」
「ホテル、ないよ。私の家、来るといい。今、収穫(しゅうかく)の時期(じき)。人手(ひとで)、欲(ほ)しかったね」
 女はその場にへたり込んだ。吉田はそんな彼女に優しく微笑(ほほえ)んで、
「お嬢様、ここで働くのも悪くないかもしれません。きっと、良い経験(けいけん)になりますよ」
<つぶやき>お金では手に入らないものが、きっと見つかるかもね。がんばれ、お嬢様!
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

ブログ版物語End