ブログ版物語

*** 作品リスト ***
  No、  公開日     作品名(本文表示へ)
0093 2010/05/07 0001「お嬢様教育コース」
0094 2010/05/10 0002「女の切り札」
0096 2010/05/16 0003「仕事と恋」
0099 2010/05/22 0004「ラブレター」
0101 2010/05/25 0005「最後のラブレター」
0102 2010/05/28 0006「タイミング」
0103 2010/06/03 0007「飛び立つ男」
0104 2010/06/06 0008「ロスト・ワールド」
0108 2010/06/12 0009「タイムカプセル」
0109 2010/06/15 0010「呼びつける」
0112 2010/06/24 0011「ほんの小さな夢」
0114 2010/06/30 0012「約束」
0117 2010/07/06 0013「復活の日」
0119 2010/07/12 0014「恋の始まり」
0123 2010/07/18 0015「ふくらむ疑惑」
0125 2010/07/24 0016「探しものは…」
0128 2010/08/02 0017「初恋前夜」
0130 2010/08/08 0018「遠距離ストーカー」

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T:0018「遠距離ストーカー」
「あっ、まただ」淳子(じゅんこ)は着信(ちゃくしん)したばかりのメールを見て呟(つぶや)いた。
「どうしたの?」一緒(いっしょ)にお茶をしていた菜月(なつき)が、ケーキを頬張(ほおばり)りながら聞いてきた。
「私のストーカー」淳子は平気(へいき)な顔でそう言うと、「毎日ね、メールしてくるのよ」
「ストーカーって…。なにそれ?」菜月は心配(しんぱい)して、「大丈夫(だいじょうぶ)なの?」
「私の故郷(ふるさと)にいる元彼(もとかれ)なの。もう、しつこくて」
「元彼? それだったら、着信拒否(きょひ)とかすればいいじゃない。そうすれば…」
「えっ、そんなことしたら、もう届(とど)かなくなるじゃない」
「なに言ってるの。迷惑(めいわく)してるんでしょ?」
「だって、今まで来てたのが来なくなったら、なんか淋(さび)しいじゃん」
「あんた、ときどき分かんないこと言うよね。そもそも、何で元彼と別れたの?」
「えっとね、こっちでやりたい仕事(しごと)があったし、都会(とかい)に来たかったの」
「それで、その元彼は許(ゆる)してくれなかったんだ」
「ううん。黙(だま)って来ちゃった」
 淳子は婚約指輪(こんやくゆびわ)を見せて、「結婚の約束(やくそく)までしたんだけどね」
「えっ! あんたね、指輪を返して、ちゃんと別れてから出てきなさいよ」
「私、彼のとこ嫌(きら)いじゃないし。向こうに戻ったら、結婚するかもしれないじゃん」
<つぶやき>こんな自由奔放(じゆうほんぽう)な彼女と付き合うのは、とっても大変じゃないかと思います。
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T:0017「初恋前夜」
 ありさは校門(こうもん)のところで里子(さとこ)を待っていた。この二人は気が合うようで、学校ではいちばんの仲良(なかよ)しだった。でも、今日は何だか、ありさの様子(ようす)がちょっといつもと違うみたいだ。里子が来ると、ありさは言いにくそうに、
「あのね…。里(さと)ちゃんに頼(たの)みがあるんだけど…」
「なに? 何でも言ってよ。でも、勉強(べんきょう)のことは無理(むり)だからね」
「佐藤(さとう)君のことなんだけど…」ありさは頬(ほお)を赤らめて、「付き合ってる子とか、いるのかな?」
「佐藤? 良夫(よしお)のこと」里子は笑いながら、「いない、いない。いるわけないよ。だって、部活(ぶかつ)のないときは、いつも私の家に来て暇(ひま)つぶししてるのよ」
「そおなんだ。里ちゃんは、佐藤君のこと、どう思ってるの? 好きとか…」
「えっ? 私は…」里子は今まで良夫のことをそんなふうに考えたことはなかった。
「あいつとは幼稚園(ようちえん)のときからの幼(おさな)なじみで、好きとかそういうのは…」
「じゃあ、いいよね。私が好きになっても」ありさは思わず言ってしまった。
 里子は驚(おどろ)いた。良夫のことをそんなふうに思っていたなんて。ありさは恥(は)ずかしそうに、
「ねえ、佐藤君に、私と付き合ってほしいって、伝(つた)えてくれない?」
 里子は胸(むね)が騒(さわ)いだ。何だか分からないけど、大切(たいせつ)なものを無(な)くしてしまうような、淋(さび)しい気持ちになった。だから、里子はこんなふうに答えてしまった。
「それは、無理よ。私からは…、言えないわ。ごめんね。ほんと、ごめん」
<つぶやき>この二人はこれからどうなるのでしょう? 親友のままでいてほしいけど…。
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T:0016「探しものは…」
 もう陽も落ちて薄暗くなった教室で、二人の生徒(せいと)が何かを探していた。
「どうしてないのよ」やよいはべそをかきながら、「困(こま)ったなぁ。どうしよう…」
「他のとこに持ってったんじゃないのか?」祐介(ゆうすけ)は呆(あき)れて、「お前、そそっかしいからな」
「他のとこって…。あっ、音楽室(おんがくしつ)かも。帰る前にそこによったのよ」
 二人は暗い廊下(ろうか)を音楽室に向かった。昼間と違って何だか別の場所のようだ。薄気味悪(うすきみわる)い感じなので、やよいは祐介の腕(うで)をつかんだ。階段を上がって行くと、ピアノの音が聞こえてきた。二人は顔を見合わせて、息を呑(の)んだ。三階について音楽室の方を見たとき、何かがすーっと動いたような気がした。やよいは思わず祐介にしがみついて言った。「何かいたよぉ」
「バカ、気のせいだよ」祐介は怖(こわ)いのを我慢(がまん)して、「ほら、行くぞ」
 ピアノの音はいつの間にか消えていた。音楽室の扉(とびら)をそっと開けて、二人は中に入った。中には誰もいなかったが、ピアノのふたが開けられたままになっていた。やよいは教壇(きょうだん)の上に探していたものを見つけて駆(か)け寄(よ)り、「あった。あったよ、祐介」やよいは大事(だいじ)そうにそれを祐介に手渡(てわた)して、「はい、プレゼント。今日は私たちが初めて…」
「それ、神田(かんだ)さんのなの。ダメじゃない、忘れていっちゃあ。大切(たいせつ)なものなんでしょ」
 突然(とつぜん)先生に声をかけられたので、二人はどぎまぎしてしまった。
<つぶやき>大切なものは無くさないようにしないといけません。気をつけて下さいね。
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T:0015「ふくらむ疑惑」
「ねえ、あなた」君江(きみえ)は背広(せびろ)のポケットに入っていた一枚のメモを見せて、「これはなに?」と微笑(ほほえ)んだ。
 隆(たかし)は遅(おそ)い夕食を食べながら、ちらっとメモを見て、「えっ、何それ?」
「あれ、とぼけるんだ。読んであげましょうか?」
 君江は夫(おっと)に疑(うたが)いの目をむけた。
 隆はきょとんとして、ふくれている妻(つま)を見た。君江はおもむろにメモを読み始める。
「今日は楽しかったわ。まさか、二人であんなことが出来るなんて、思ってもみなかったんですもの。また誘(さそ)って下さいね。待ってるわ。かおり」
 メモを読み終えた君江は、「さあ、ちゃんと説明(せつめい)して。かおりって誰(だれ)なの?」
「かおり? 知らないよ。知るわけないだろ」
「とぼけないでよ! かおりって人と、何をしたの!」
「何もしてないよ。ほんとだって」隆には身に覚えがないようだ。
「今日のことよ。忘れたなんて言わせないから。会社の人じゃないの? それとも…」
「あっ、思い出したよ。あの、このあいだ移動(いどう)で来た娘(こ)で…。それで、席(せき)が隣(となり)になって、いろいろ教えてあげたりとか…。ちょっと変わった娘(こ)で、天然(てんねん)っていうか…」
「それで、仲良(なかよ)くなったんだ。で、あんなことやこんなことして、楽しんだんだ…」
 二人の話し合いは、深夜(しんや)まで続いた。この結末(けつまつ)は、ご想像(そうぞう)におまかせします。
<つぶやき>些細(ささい)なことが、とんでもないことになるときも、あるのです。気をつけて。
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T:0014「恋の始まり」
「おはよう。田中(たなか)君…、早いのね」ななみは恥(は)ずかしさのあまり声がうわずっていた。
「あ、吉田(よしだ)さん。あの、どうも…」田中の方も何だか落ち着かない様子(ようす)だ。
 この二人、お互(たが)いに好きなのだ。でも、それが言い出せないでいた。他の友達がいるときは何でもないのだが、いざ二人っきりになると意識(いしき)しすぎてしまい何も話せなくなる。二人してもじもじしていると、それぞれの携帯(けいたい)が鳴(な)り出した。
「あ、さゆり。何してるの、遅いよ。えっ…、今日、来られない? 何でよ…」
「何だよ、研二(けんじ)。早く来いよ。えっ、嘘(うそ)だろ。どうすんだよ。えっ…」
 今日は友達四人で水族館(すいぞくかん)に行くことになっていた。それが、ドタキャンされたみたいだ。実(じつ)は、友達が気をきかせて、二人っきりになれるように計画(けいかく)したのだ。二人はどうしていいのか分からず、うつむいてしまった。でも、真(ま)っ赤な顔をしたななみの方から、
「あの…、さゆり、来られないって。何か…、急に用事(ようじ)が出来たみたいなの」
「そう…。沢田(さわだ)も、今日、ダメだってさ。どうしようか…、これから」
「えっと…、行かない? 水族館。二人で…。せっかく、来たんだから…」
「そうだね。うん…、そうしようか。それがいいよ」
 二人はぎこちなく歩き出した。二人の恋の時計(とけい)が、ゆっくりと動きはじめた。
<つぶやき>恋の始まりは、突然(とつぜん)やって来るんですよね。今思えば、その頃(ころ)がいちばん…。
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T:0013「復活の日」
 古びた酒場(さかば)のカウンターで、一人の男がバーボンを飲んでいた。だいぶ酔(よ)いが回っているようで、うつろな目をして物思(ものおも)いにふけっていた。そこに、この店には不釣(ふつ)り合いな、二十歳(はたち)ぐらいの若い女が近寄ってきて、隣(となり)の席に座り男の顔を覗(のぞ)き込んだ。
「ねえ」女は男に声をかけ、「私にダンス教えてよ。お願い」
 男は女の顔をちらりと見ただけで、何も言わずに残っていたバーボンを喉(のど)に流しこんだ。
「おじさん、聞いてんの? 何とか言いなよ」女はイラついて男の腕(うで)をつかんだ。
 男はその手を振りはらうと、「何度来ても同じだ。俺(おれ)は、ダンスはやめたんだ」
「そんなこと言わないで。私も、おじさんみたいに一流(いちりゅう)のダンサーになりたいの」
 女の目は真剣(しんけん)だった。男の心は揺(ゆ)れていた。彼女を見ていると、昔の自分とそっくりなのだ。捨(す)てたはずの夢(ゆめ)がちらつき、心の片隅(かたすみ)で熱い気持ちがくすぶり始めていた。
「やめとけ。俺みたいになるだけだ。踊れなくなったら、もう死んだも同然(どうぜん)だ」
「だったら、私が生き返らせてあげる。おじさんがなくした夢、私が取り戻(もど)してあげるわ」
「お前な……」男は何か言いかけたが、しばらく考え込んで、「俺の授業料(じゅぎょうりょう)は高いぞ」
「えっ…、教えてくれるの? ありがとう! でも、授業料っていくらなの?」
 男は飲んでいたグラスを差し出し、「こいつ、一杯(いっぱい)だ」
<つぶやき>いくつになっても、熱い情熱を忘れないでいたいですよね。青春、万歳!!
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T:0012「約束」
 昼(ひる)近くになって純子(じゅんこ)はベッドから這(は)い出した。今日は久(ひさ)し振(ぶ)りのお休み。もう一ヵ月も休みがなかったのだ。だから、今日は一日をまったりと過ごすことに決めていた。純子は思いっ切り背伸(せの)びをするとニコニコしながら、「今日は、なにしようかなぁ」と呟(つぶや)いた。
 これが純子の平穏(へいおん)な一日の始まり…、のはずだった。一本の電話がかかってくるまでは。
<おめえ、何やってんだ。約束(やくそく)忘れたんけ?>それは男の声だった。
「えっ、どなたですか?」純子には聞き覚(おぼ)えのない声だった。
<バカこくでねえ。オラだ! おめえの物忘(ものわす)れは、大人(おとな)になってもちっとも治(なお)んねえな。そんなんだからさ、いつまでたっても恋人が出来ねえんだ>
「さとし? 何で…、何で番号知ってんの!」それは幼(おさな)なじみの男だった。
<約束通り迎(むか)えに来たさぁ。田舎(いなか)にけえって、結婚(けっこん)すべ>
「いきなり何よ。あんたとなんか結婚しないわよ。するわけないでしょ!」
<なに言ってんだ。三年たっても恋人できなかったら、オラと結婚するって言ったべ>
「そんなこと言ってねえ」でも純子は、冗談半分(じょうだんはんぶん)にそんなことを言ったような気がした。
<すぐ着くからな。もう、淋(さび)しい思いさせねえから。待ってろや>
 純子はこの後、さとしを説得(せっとく)して追(お)い出すのに長い時間を費(つい)やした。結局(けっきょく)、まったりとした休日は夢に終わった。
<つぶやき>冗談半分に変な約束してませんか? 気をつけないととんでもないことに…。
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T:0011「ほんの小さな夢」
 さゆりはラブホテルの一室(いっしつ)で朝を迎(むか)えた。横で寝(ね)ているのは、名前も知らない行きずりの男。彼女は自分の身体を売って、お金を手に入れていた。別に、お小遣(こづか)いが欲(ほ)しくてしているわけではなく、女一人で生きていくにはこの方法(ほうほう)しか思いつかなかったのだ。でも、彼女には夢があった。お金を貯(た)めて雑貨(ざっか)のお店を持つこと。そのための勉強(べんきょう)もしていた。
 さゆりは家庭(かてい)のぬくもりを知らなかった。両親からは邪魔者扱(じゃまものあつか)いされ、いつも一人ぼっちだった。自分の家なのに、そこには彼女の居場所(いばしょ)はなかったのだ。だから、自分のお店を持つことは、自分の居場所を作ることなのかもしれない。
「どうして、こんな商売をしてるんだい」
 男は着替(きが)え終わるとさゆりに声をかけた。
「私、学校もちゃんと行ってないし」さゆりは髪(かみ)をとかしながら、「でもね、勉強は嫌(きら)いじゃないのよ。いまも勉強してる。私には夢があるんだ」
 さゆりは無邪気(むじゃき)に微笑(ほほえ)んだ。
「夢ね」男はしらけた顔で、「夢があったって、幸せにはなれないさ。俺(おれ)は、自分の夢はすべてかなえたけど、そこには幸せなんかなかった」
「そんなことないよ。夢があれば生きていけるわ。もし夢がかなったら、また別の夢を…」
「夢がかなったら、後は失(うしな)うだけだよ。仕事も、家庭もな。後は何も残らない」
「それは違うよ。そんな悲しいこと言わないで…」さゆりは男を優(やさ)しく抱(だ)きしめた。
<つぶやき>どんな人にも夢はあると…。夢は元気の源(みなもと)。人生を喜びで満(み)たしてくれる。
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T:0010「呼びつける」
 佐々木(ささき)は、半年かけて新しい得意先(とくいさき)と契約(けいやく)を結(むす)ぶまでにこぎつけた。今日は契約書を交わす大事(だいじ)な日。佐々木の上司(じょうし)も加わり、得意先の社長と最終的な契約の確認(かくにん)をしていた。
 その時、静かな会議室にメールの着信音が鳴(な)り響(ひび)いた。佐々木は慌(あわ)てて、「すいません」と言ってメールを確認し、「今日はダメだって言ったのになぁ」とつぶやいた。
「今度は何だって?」上司が心配(しんぱい)そうにささやいた。
 佐々木は携帯を上司にこっそりと見せた。そこにあった文面は、
<早く来て。来なかったら怒(おこ)っちゃうから!>
 佐々木の恋人からのメールだった。こういうことはたびたびあったので、上司もなれたもので、「もう少し、待ってもらえないのか? 今はちょっとな…」
「何か問題(もんだい)でもあるのかね?」相手(あいて)の社長はただならぬ様子(ようす)に声をかけた。
「いや、ちょっと個人的(こじんてき)なことでして」
 上司は言葉をにごした。が、またメールの着信音が鳴り響いた。今度は、
<何してるの! 来なさい!! どうなっても知らないわよ!>
「まずいな」メールを見た上司はそうつぶやくと、「ここはいいから、君は行きなさい」
「いったいどうしたんだね?」社長は相手の会社の大事(おおごと)だと思い声を荒(あら)げた。
 上司は仕方なく届(とど)いたメールを見せて、佐々木の恋人のことを説明した。社長はそれを聞くと、「これはいかん。わしにも憶(おぼ)えがあるんだ。すぐ行きたまえ。行かなきゃダメだ!」
<つぶやき>いつの時代になっても、女性はたくましいのです。見くびらないように…。
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T:0009「タイムカプセル」
 久(ひさ)し振(ぶ)りに故郷(こきょう)に帰って来た。二年ぶりぐらいかなぁ。実は家を建て替(か)えることになって、<片付けを手伝いに帰って来い>って連絡(れんらく)があったの。私は高校を卒業(そつぎょう)してから東京の大学に入り、そのまま就職(しゅうしょく)してしまった。だから、私の部屋は高校生のときのままになっている。
 部屋の片付けをしていると、いろんな発見があった。あの頃(ころ)の思い出がこの部屋にはいっぱい詰(つ)まっている。そして、私は見つけてしまった。彼と二人で撮(と)った記念写真。彼も東京の大学に入ったので、二人の付き合いは続いていた。でも、大学を卒業する前に、些細(ささい)なことがきっかけで別れてしまった。いま考えると、別れた原因って何だったのかな。いろんなことが積(つ)もり積もって、二人の気持ちが離(はな)れてしまったのね、きっと。
 写真の中の二人は、今でも恋人のままで時間が止まっていた。まるでタイムカプセルみたいに…。あっ、思い出した。この写真は二人でタイムカプセルを埋(う)めたときのだ。その頃の記憶(きおく)が頭の中を駆(か)けめぐった。高校卒業の記念にって、学校の近くの公園(こうえん)にこっそり埋めたタイムカプセル。たしか、十年後に二人で掘(ほ)り起こそうって約束(やくそく)した。
 私は写真の日付を見て驚いた。十年後って明日じゃない。何だかドキドキしてしまった。明日、行ってみようかな。そしたら、彼に会えるかもしれない…。私ってバカね。そんなことあるわけないのに。何を期待(きたい)してるのよ。でも…、行ってみてもいいよね。
<つぶやき>あの頃の楽しかったこと、忘れたくないよね。そんな思い出を作りましょう。
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T:0008「ロスト・ワールド」
 ここは地球最後の秘境(ひきょう)。深い密林(みつりん)や湿地(しっち)に守られた、前人未踏(ぜんじんみとう)の地である。以前撮(と)られた衛星(えいせい)写真で、密林の中に断崖(だんがい)に囲(かこ)まれた小高い丘(おか)があり、その中央に小さな山があることが確認(かくにん)された。前回の予備調査(よびちょうさ)で新種(しんしゅ)の生物が多数発見されているので、今回の調査には全世界の注目(ちゅうもく)が集まっていた。
 探検隊は断崖を登り切り、いよいよ未知の世界に踏(ふ)み込んだ。そこは倒木(とうぼく)や立木(こだち)にいたるまで苔(こけ)でおおわれていて、今まで歩いてきたジャングルとはまったく違っていた。
「隊長(たいちょう)! あれは何ですか?」
 しばらく歩いたところで隊員(たいいん)の一人が叫(さけ)んだ。何かが倒木のあいだから頭(あたま)を出していたのだ。隊長はすぐに駆(か)け寄り、驚きの声をあげた。
「何でここにあるんだ!」隊長が手にしたのはペットボトルだった。
「こっちにも何かあります!」別の隊員が叫んだ。そこにあったのはスナック菓子(かし)の袋(ふくろ)。
 次々と見つかる人の痕跡(こんせき)に、隊長をはじめ隊員たちは呆然(ぼうぜん)と立ちつくした。何とか目的の小山(こやま)にたどり着いたとき、みんなは言葉をなくした。驚きのあまりしゃがみ込む者や、憤(いきどお)りのあまり涙(なみだ)する隊員さえいた。そこにあったのは、ゴミの山。緑色のごみ袋が積(つ)み上げられて、山のようになっていたのだ。その時、どこからともなく飛行機の音が響(ひび)き始めた。みんなが見上げると、小型の輸送機(ゆそうき)が旋回(せんかい)していて、緑のごみ袋を落とし始めた。
<つぶやき>ゴミはちゃんと持ち帰りましょう。小さなことからでも地球を救えるのです。
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T:0007「飛び立つ男」
 崖(がけ)の上に一人の男が立っていた。ただ立っていた。風が吹き始めると両手を真横(まよこ)に広げて目をつむり、身体で風を受けて背筋(せすじ)を伸(の)ばす。まるで飛び立とうとでもするように。
 そこに一人の女がやって来た。女は、男のしていることを不思議(ふしぎ)そうに眺(なが)めていたが、
「何をしてるの?」と声をかけた。「あなた、昨日もここにいたわね」
「僕は、待ってるんですよ」
 男は空を見上げたまま、女を見ようともしなかった。
「誰(だれ)を待っているの?」
「風を待ってるんです。僕の風を」
「あなたの風?」
 女には、男の言っていることが理解できなかった。「風は誰のものでもないわ。それに、どうやって風を見分けるの?」
「身体で感じるんです。自分の風を感じたら、飛び立つことができる」
「飛び立つ?」女は目を丸くして、「人は飛ぶことなんてできないわ」
「誰が決めたんですか?」男は女の顔を覗(のぞ)き込み、「思い込んでいるだけですよ」
「そんなことない」女はむきになって、「人の身体は飛ぶようにはできてないの」
「辛抱(しんぼう)して自分の風を待ち続ければ、飛び立つことができますよ。やってみませんか?」
「私には、そんな無駄(むだ)なことをする時間はないの。あなたもちゃんと働いた方がいいわ」
<つぶやき>男のロマンを理解することができたら、世界はもっと広がるのでしょうか?
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T:0006「タイミング」
 祐太(ゆうた)は会社の同期(どうき)の女性に思いを寄(よ)せていた。別に一目惚(ひとめぼ)れってわけじゃない。職場(しょくば)でたわいのない話をしたり、仕事のあとの飲み会とかで仲良くなって――。自分でも意識(いしき)しないうちに…、なんか良いよな、やっぱり気になる、好きになっちゃったのかも。てな感じで、<どうしようか>と思い始めたのは一ヵ月前だった。それからというもの、普通(ふつう)に話してるつもりでも、なんだかぎこちなくなっている自分がいた。
 彼女のプライベートのことは詳(くわ)しく知らないし、もしかすると彼氏がいるかもしれない。自分のことをどう思っているのかな? 祐太はあれこれと思い悩(なや)んでしまった。
 そんな祐太に突然(とつぜん)チャンスがめぐってきた。街を歩いていた祐太の目の前に、彼女が現れたのだ。彼女もびっくりした顔をして、
「この近くに友だちが住んでて、それで。田中(たなか)君は?」
「僕は、あの…。この辺(へん)に、住んでるんだよね。それで…」
「そうなんだ。あっ、そうだ。これから時間あります? 友達の家でパーティがあるの。一緒(いっしょ)に行きませんか?」
 祐太は行きたかった。でも、今日は田舎(いなか)から母親が出て来るので、駅まで向かえに行くことになっていたのだ。<なんで!>祐太は心の中で叫(さけ)んだ。彼女ともっと親(した)しくなれるかもしれないのに。祐太は彼女と別れてから、思いっ切りため息をついた。
<つぶやき>こういうことって、あるんですかね? そのうち、良い風が吹いてきますよ。
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T:0005「最後のラブレター」
 かすみさんがこの手紙を見つけたとき、もう僕はこの世界から消えてしまっていると思います。でも、悲しまないで下さい。僕とあなたが過ごした三十年のあいだ、楽しいことがたくさんあったから。僕は、あなたと一緒(いっしょ)にいられて、とても幸せでした。
 僕がこんなとこを言うと、かすみさんは怒(おこ)るかもしれませんね。だって、僕は良い夫ではなかったから。仕事にばかり夢中になって、あなたのとこを一人ぼっちにしてしまった。子供たちのことも、みんなかすみさんに任(まか)せてしまっていたし…。
 でも、あなたのおかげで、子供たちも無事(ぶじ)に育(そだ)ってくれました。とても感謝(かんしゃ)しています。こんなこと、面(めん)と向かっては言えなかった。ちゃんと言っておけばよかったね。
 あなたはいつも家族のことを考えていてくれたよね。僕が入院したときも、毎日のように来てくれた。僕がそんなに来なくていいよって言っても、あなたは<僕と一緒にいられる時間が増えたのよ、こんな幸せなことはない>って笑ってくれた。僕は、あなたの笑顔がいちばん好きだったんだよ。あなたの笑顔はみんなを幸せにしてくれる。
 僕がいなくなっても、笑顔を忘れないで下さい。これからは、あなたのやりたいことを好きなだけしていいんだよ。僕から、かすみさんへのご褒美(ほうび)です。ありがとう。
<つぶやき>人生の節目(ふしめ)にあたり、心のこもった感謝のラブレターを書いてみませんか?
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T:0004「ラブレター」
 山田(やまだ)君へ。突然(とつぜん)こんな手紙(てがみ)を書いちゃって、ごめんなさい。
 私が廊下(ろうか)で転(ころ)んでしまって、持っていたプリントをばらまいちゃったとき、そばにいた山田君は一緒(いっしょ)に集めてくれたよね。あのとき、私、ちゃんとお礼(れい)を言えなくて…。山田君は、そんなこともう忘れているかもしれないけど。私は、ずっと後悔(こうかい)してて…。なんで、ちゃんとありがとうって言わなかったんだろうって。ちゃんと言ってれば…。
 私、山田君と同じクラスになったときから、山田君のことがずっと気になってて…。でも、声をかけることができなかったんだよね。この手紙を書くのだって、ずっと迷(まよ)ってたんだ。友だちに相談(そうだん)したらね、ちゃんと告白(こくはく)した方がいいって言われたの。それで、私、決めたの。
 私、山田君のことが好きです。山田君は、他に好きな人がいるかもしれないけど、それでもいいの。私の片思(かたおも)いでもいい。こんな気持ちになったのは初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からないんだ。今もドキドキしてる。でも、なんだか心の中がほわっとしてて、あったかいの。今まで悩(なや)んでいたことが、どっかへ行っちゃった。
 あのときは助けてくれて、ほんとにありがとう。もし、私のこと好きじゃなかったら…、好きになれなかったら、この手紙は捨(す)ててください。
<つぶやき>初恋は青春の思い出よね。心のどこかに隠れてて、時々現れては消えていく。
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T:0003「仕事と恋」
「何でそんなこと言うの? 約束(やくそく)したじゃない! ずっと一緒(いっしょ)にいるって」
 涼子(りょうこ)は電話口で声を荒(あ)らげた。電話相手の彼とは、もう三年の付き合いになる。ここ数ヶ月はお互(たが)いの仕事が忙(いそが)しく、なかなか逢(あ)うことが出来なかった。それに、電話も夜遅くしか出来ないので、長話(ながばなし)をするわけにもいかなかった。涼子は淋(さび)しい思いを我慢(がまん)していた。
 だから、今日はまだ早い時間なのに彼から電話がかかってきて、涼子は飛び上がらんばかりに喜(よろこ)んだ。それが、まさかこんな事になるなんて、夢にも思わなかった。
「どういうことよ。はっきり言ってよ」
 涼子の声は震(ふる)えていた。相手の話を身動(みうご)きもせずに聞いていたが、
「分かんないよ! 仕事がそんなに大切(たいせつ)なの。……そりゃ、私だって、仕事が忙しくて、急に逢えなくなったときあったけど…」
 涼子の目から、一筋(ひとすじ)の涙(なみだ)がこぼれた。
「ねえ、どうしてもだめなの。離(はな)れたくないよ。ずっと一緒にいようよ」
 彼は、涼子が泣いているのに気づいたようだ。
「泣いてなんかいないわよ。二人で出かける旅行、楽しみにしてたんだから。それなのに、私を残して、一人だけ日帰りで帰るなんて。いいわよ、一人で泊(と)まるから。二人分、ご馳走(ちそう)食べてやる!」
<つぶやき>仕事と恋の両立は難しいのかもしれませんね。どっちも大切なんですから。
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T:0002「女の切り札」
「何なのこれ?」
 エコバッグからカップ麺(めん)を取り出して純子(じゅんこ)が呟(つぶや)いた。
「私は醤油味(しょうゆあじ)を頼んだのに、何でとんこつ味を買ってくるのよ」
「だって、ちょうど売り切れてたから」
 隆(たかし)はヤカンに水を入れながら答えた。
「私はいま、醤油味を食べたいの。それ以外はあり得(え)ないから」
「いいじゃない。これだって美味(おい)しいって」ヤカンをコンロにのせて火をつける隆。
「そりゃ、とんこつも美味しいわよ。でも、今は醤油なの。醤油を食べたいの!」
「そんなのいいじゃん。美味しけりゃ、同じだって」隆は無頓着(むとんちゃく)な人間のようだ。
「買ってきて」純子はエコバッグを隆に突(つ)きつけて、「今すぐ買ってきて!」
 隆は純子のわがままには慣(な)れっこになっていたが、今日は我慢(がまん)の限界(げんかい)に達していた。
「お前な、いい加減(かげん)にしろよ! 前から言いたかったんだけど、朝食の目玉焼きに醤油なんかかけるなよ。目玉焼きはソースだろ。俺がせっかく美味しく作ってるのに…」
「なに言ってるの?」
 純子は鼻(はな)で笑って、「目玉焼きは醤油じゃない。常識(じょうしき)でしょ。それより、早く行ってよ。15分だけ待っててあげる。遅れたら、もうこの部屋には入れないから」
「何だよ、それ」隆は背筋(せすじ)に冷たいものが走るのを感じた。「分かった。行ってきまーす」
<つぶやき>隆、負けるな。いつかきっと、報われる時が来るから。たぶん…、きっと…。
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T:0001「お嬢様教育コース」
「ここは何処(どこ)よ!」ファッションモデルのように着飾(きかざ)った若い女性が叫(さけ)んだ。「エッフェル塔(とう)は? 凱旋門(がいせんもん)は何処にあるのよ」
「ここ、ガルバね」と添乗員(てんじょういん)が説明(せつめい)し、「アフリカの秘境(ひきょう)あるよ。どうね、良い景色(けしき)ね」
「どこがよ。何にも無(な)いじゃない」女は頭をかきむしり、「吉田(よしだ)! どうなってるの? 私はパリに行きたかったのよ。パリが私を待ってるの。あなた、なんとかなさい。いいわね」
「お嬢(じょう)様、そう言われましても。次の飛行機が来るのは、一週間後ですから」
「何で? それじゃ、チャーターしなさい。お金はいくらかかってもいいわ」
 女はそう言うと、バックから札束(さつたば)を取り出して吉田に突(つ)き出した。
「おお、これダメね」添乗員は札束を見て、「ここ、お金、使わないよ。物々交換(ぶつぶつこうかん)ね」
「物々交換?」女は顔をひきつらせて、「なにそれ? じゃあ、どうするのよ。吉田!」
「お嬢様、仕方(しかた)ありません。とりあえず、ホテルを探(さが)しましょう」
「ホテル、ないよ。私の家、来るといい。今、収穫(しゅうかく)の時期(じき)。人手(ひとで)、欲(ほ)しかったね」
 女はその場にへたり込んだ。吉田はそんな彼女に優しく微笑(ほほえ)んで、
「お嬢様、ここで働くのも悪くないかもしれません。きっと、良い経験(けいけん)になりますよ」
<つぶやき>お金では手に入らないものが、きっと見つかるかもね。がんばれ、お嬢様!
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