超短編戯曲ID

*** 作品リスト ***
  No、  公開日    作品名(本文表示へ)
0003 2009/04/18 001「伝説・寿椅子」
0006 2009/04/26 002「食いしん坊のルームメイト」
0009 2009/05/06 003「小悪魔的微笑」
0012 2009/05/15 004「優しい嘘」
0015 2009/05/24 005「SINOBI」
0018 2009/05/29 006「人生の選択」
0021 2009/06/03 007「専属天使」
0024 2009/06/08 008「不思議な体験」
0027 2009/06/13 009「正義の味方ピーマン!」
0030 2009/06/18 010「まぬけな窃盗団」
0033 2009/06/23 011「作家の気晴らし」
0036 2009/06/28 012「夜の訪問者」
0039 2009/07/03 013「死出の旅」
0042 2009/07/08 014「会社の極秘事項」
0045 2009/07/17 015「突然の再会」
0048 2009/08/04 016「謎の物体」
0051 2009/08/10 017「行き違い」
0054 2009/08/18 018「ブラックパンサー1」
0057 2009/08/25 019「ブラックパンサー2」
0060 2009/09/12 020「ゴールを目指して」
0063 2009/09/23 021「よりどころ」
0066 2009/10/24 022「取扱注意の女」
0069 2009/12/21 023「○○○探知機」
0072 2010/01/15 024「私のテリトリー」
0075 2010/02/09 025「夫婦の絆」
0078 2010/02/21 026「記憶売ります」
0081 2010/03/05 027「モテ期の女?」
0084 2010/03/14 028「不老長寿の秘薬」
0087 2010/04/13 029「衝動買い」
0090 2010/04/24 030「透明風呂敷」
0095 2010/05/11 031「一緒にいる理由」
0100 2010/05/24 032「招福茶」
0107 2010/06/11 033「リストラ担当部長」
0113 2010/06/25 034「バックアップ」
0118 2010/07/07 035「あれそれ、なに?」
0122 2010/07/17 036「思い出せない」
0127 2010/07/31 037「悲しい誕生日」
0132 2010/08/10 038「変なこだわり」
0137 2010/08/24 039「幸せを呼ぶ猫」
0142 2010/09/05 040「読めない女」
0147 2010/09/14 041「ままならぬ恋」
0152 2010/09/29 042「どっちをとるの?」
0157 2010/10/11 043「命がけの合コン」
0197 2011/02/06 044「未来を映す鏡」
0226 2011/04/24 045「役者の悪夢」
0256 2011/07/19 046「最終兵器」
0270 2011/08/27 047「恋の方程式」
0275 2011/09/11 048「ひとおし」
0296 2011/11/07 049「タイムスリップ」
0356 2012/04/29 050「カバに好かれた男」
0362 2012/05/12 051「手術室」
0369 2012/05/26 052「自由恋愛禁止令」
0376 2012/06/10 053「恋の恨み晴らします」
0382 2012/06/23 054「憧れの先輩」
0389 2012/07/07 055「犬も食えない」
0396 2012/07/21 056「告白の手前」
0403 2012/08/03 057「恋愛同盟」
0410 2012/08/17 058「親父のつぶやき」
0418 2012/08/29 059「社内マニュアル」
0426 2012/09/10 060「月夜見さま」
0434 2012/09/22 061「あなたのこと嫌いです」
0442 2012/10/05 062「雲のように」

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T:062「雲のように」
街を見渡せる丘の上にある公園。ベンチに座る二人。無言で空を見ている。青い空に白い雲がいくつも浮かび、その中の一つが形を変えて二つに分かれようとしていた。
「ねえ、私たちも、あの雲みたいに、きれいに別れられたらいいのにね」
「……。別れよう。俺たち、その方がいいと思うんだ」
男は離婚届を女に渡す。すでに男は記入をすませ、印鑑も押されている。女は顔色も変えず、離婚届をしばらく見つめる。そして、男の方を向くとにっこり微笑んで、
「いやよ。(離婚届をゆっくり破りながら)私は、別れる気なんてないわ」
「なぜだ。もう、俺たちには愛情なんて…」
「私は、あなたのこと好きよ。愛してるわ」
「嘘だ。君は他に…。俺が知らないとでも思ってるのか?」
「そう言えば、ここだったわよね。あなたが私にプロポーズしたの」
「男がいるんだろ。その男と、食事をしたり、買い物に行ったり。俺は、ちゃんと…」
「あなた、ここで始めてキスしてくれて。(恥ずかしそうに微笑んで)私、嬉しくって」
「俺の話を聞けよ。いつから浮気してたんだ」
「私、浮気なんてしてないわ。あの人たちは、ただのお友だちよ」
「あの人たち? えっ、ヒゲの男だけじゃないのか。他にも…」
「ねえ、あなた。今日は、どこかでお食事でもしない? 久しぶりに」
「何言ってんだよ。俺たち、別れ話をしてるんだぞ。よくそんなこと…」
女、男の手を取り、やさしく微笑む。男は、困惑の色を隠せない。
「ね、いいでしょ?(何かを思いついて)そうだ。あのお店に行ってみない?」
「えっ? ……」
「ほら、私たちがデートの最後にいつも行ってた、あのお店よ。まだ、あるかしら?」
「そんなことより。俺と別れてくれ。俺は別れたいんだ」
女、しばらく男の顔を見つめている。いつになく真剣な男の顔。
「(空を見上げて)あっ、さっきの雲、消えちゃったね。どこ行ったんだろ?」
しばしの沈黙。女はいつまでも空を見ていた。男は立ち上がり行こうとする。
「(空を見上げたまま)いいわよ。別れてあげる」
「(振り返り)ほんとか? ほんとに別れてくれるのか?」
「(男の顔を見ないで)ええ。私たちも、きれいに別れましょ」
「ありがとう。じゃ、離婚届を書いて…」
「いいわ。(カバンから離婚届を出して)ここに、書いておいたから」
女はベンチに離婚届を置く。男はそれを受け取り、頭をさげて、
「悪いな。これで、さよならだ。元気でな」
「(また空を見上げて)ええ。あなたも…。今度の人は、ちゃんと幸せにしてあげて」
男、驚いて足が止まる。女の方を見るが、何も言わずに行ってしまう。女は空を見上げたまま。頬にひとすじ、涙がこぼれる。
<つぶやき>ちょっとだけ強がって、でも切ない思いで苦しくて。愛はどこへ行ったの?
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T:061「あなたのこと嫌いです」
ある大学のラウンジ。ユリカが沈んだ顔をして座っていた。そこへ香里(かおり)がやって来る。
香里「(ユリカの前に座り)ビシッと言ってやったからね。あなたのことは嫌いです。二度と顔も見たくない。もう私の前に顔を出さないでって」
ユリカ「えっ、私そんなこと言ってないでしょ。もう、何でよ」
香里「何でって。あなたが言えって言ったのよ。だから、あたし…」
ユリカ「私、嫌いとか、顔も見たくないなんて言ってないでしょ」
香里「ああ、それは、つい出ちゃったのよ。仕方ないじゃない。勢いってやつよ」
ユリカ「勢いって…。私は、もっと普通にしようって……。で、何か言ってた?」
香里「別に、何も」
ユリカ「何もってことはないでしょ。だって、だって…」
香里「そんなに気になるんだったら、本人に訊けばいいじゃない」
ユリカ「本人って…。もう、あの人と一緒にいると、落ち着かないのよ」
香里「まったく、何でそんなに喧嘩(けんか)ばっかするのかなぁ。あたしには理解できないわ」
ユリカ「知らないわよ。向こうからふっかけてくるんだから」
香里「あんたたち、ほんと似たもの同士ね。寂しがり屋のくせに、意地っ張りで。自分の思ってることを素直に言えないんだから」
ユリカ「そんなことない。あの人と一緒にしないで」
香里「おかげで、あたしは二人にいいように使われて。何でこんなめんどくさいこと」
ユリカ「ごめん。だって、香里しか頼める人いないから」
香里「どうせ、あたしは共通の友人ですよ。でもね、それも今日で終わりにするからね」
ユリカ「えっ? それ、どういう…」
そこへ智也(ともや)がやって来る。ユリカがいるので驚いて立ち止まる。
香里「もう、何やってるのよ。早く来なさいよ」
智也「(気まずそうに来て、座る。香里に)これ、どういう…」
香里「二人で、ゆっくり話し合ってもらおうと思って」
ユリカ智也「何で?」
香里「だから、お互いに言いたいことがあるよね。あるはずよ」
ユリカ「な、ないわよ。そんなの…」
香里「ユリカ。言っちゃいなさい。スッキリするわよ。さあ」
ユリカ「えっ、ここで…」
香里「智也も、あるんでしょ。自分の思いをぶちまけちゃいなさいよ」
智也「えっ。それは…」
香里「もう、めんどくさいなぁ。じゃ、あたしが代わりに言ってあげるよ。ユリカは智也のことが大好きです。智也もユリカのことが好きだーぁ」
二人、唖然として見つめ合う。
香里「ほら、立って。(二人を立たせる)ハグしなさい。いいから、しなさいよ。(二人、ぎこちなく抱き合う)これで良し。今度喧嘩したら、あたしが許さないからね」
<つぶやき>香里さんもこれでひと安心です。やっと、自分の彼氏捜しに専念できますね。
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T:060「月夜見さま」
 ○ 良太(りょうた)の部屋・夜
部屋の窓から月を見ている良太。突然、目の前に顔が現れて腰を抜かす。
良太「うわーっ!」
窓から女の子が入ってくる。良太、唖然(あぜん)とする。女の子、部屋の中を見回して。
月夜見「へえ、こんな狭いところに住んでるんだ」
良太「き、君は誰だ? どうやって…」
月夜見「あたし、月夜見(つくよみ)よ。あなた、あたしのことずっと見てたでしょ」
良太「えっ? 俺は、君なんて知らないよ」
月夜見「もう、あたしに見とれてたじゃない。だから、あたし来たのよ」
良太「だから、知らないって言ってるだろ。帰ってくれよ」
月夜見「イヤよ。あたし、帰らない。しばらく、ここにいることにするわ」
良太「冗談じゃないよ。そんなこと…」
月夜見「ねえ、お腹(なか)空いちゃった。何か食べさせてよ」
 ○ 良太の部屋・数日後の夜
良太と月夜見が帰ってくる。月夜見は楽しそうにはしゃいでいる。
月夜見「今日は楽しかったわ。ありがとうね、良太」
良太「いや、そんな…」
良太は財布を見る。中には小銭しか入っていない。
良太「なあ、そろそろ帰ってくれないか。俺もこれ以上学校休むと、マジやばいんだよ」
月夜見「学校?」
良太「だから、大学だよ。それに、バイトもしないといけないし」
月夜見「バイト?」
良太「もう、ピンチなんだよね。君が、すっごく食べるもんだから。そんな華奢(きゃしゃ)な身体して、どこに入ってくんだよ。店の人だって、驚いてたじゃないか」
月夜見「そお? これでも減らしてるんだけどなぁ。じゃあ、明日は…」
良太「だから、もう金(かね)がないんだよ。明日、食べるものなんてないんだ」
月夜見「なんだ。お金がないの? じゃあ、あたしが何とかしてあげる」
良太「えっ? 金、持ってるのかよ」
月夜見、窓から月を見上げて、
月夜見「あそこの、クレーターをあなたにあげるわ。自由に使っていいのよ」
良太「えっ、クレーターって?」
月夜見「月の中でも一番大きなやつよ。それと、その隣の平らなとこもつけてあげる」
良太「だから、そんなのもらっても…。どうしろって言うんだよ」
月夜見「そうだ。これから行かない? あたし、案内してあげるよ」
良太「行くって、どこへ?」
月夜見「(月を指さし)あそこよ。あたし、月の神様だもん」
<つぶやき>月を見つめすぎないで。月夜見さまがあなたの所へも現れるかもしれません。
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T:059「社内マニュアル」
とある会社のオフィス。新人のしのぶが仕事に追われていた。吉崎(よしざき)が来る。
吉崎「おい、いつまでかかってんだよ。早くしてくれよ」
しのぶ「あっ、すいません。あと少しですから…」
しのぶは書類の束を何組かホチキスで止めて、吉崎へ渡す。
吉崎「(確認して)何だよ。順番が違うじゃないか。何やってんだよ。ちゃんと番号がふってあるだろ。なに見てんだ」
しのぶ「すいません。あれ、番号なんてついてました?」
吉崎「ついてるだろ。それに、何でホチキスで止めるんだよ。アレがあるだろ」
しのぶ「あれ?」
吉崎「アレだよ。そんなことも分かんないのか。ほんと、使えねえなぁ。もういいよ」
吉崎、自分のデスクへ戻って行く。しのぶは隣の席の亜矢(あや)に声をかける。
しのぶ「あの、先輩。あれって何ですか?」
亜矢「ごめんね。私、これから急ぎでアッチへ行って来るから。あとよろしくね」
しのぶ「えっ、あっちって?」
亜矢「課長に何か言われたら、ナニをナニするからって、ちゃんと伝えといてね」
亜矢、足早にオフィスを出て行く。しのぶは慌てて、
しのぶ「あの、あっちって、どこなんですか? あたし、何て言えば…」
しのぶ、ため息をつく。そこへ課長がやって来る。
課長「あれ、松浦(まつうら)君は?」
しのぶ「あっ、それが…。あの、あっちへ行くって、ついさっき…」
課長「ああ、アッチへ行っちゃた。そうか、なら仕方ないな」
しのぶ「あの、課長。あっちってどこなんですか?」
課長「えっ、君、知らないの?」
しのぶ「はい」
課長「そうなの。君、新人研修は受けたんだろ」
しのぶ「新人研修って? そんなのあったんですか?」
課長「ああ。合格通知と一緒に案内が送られてるはずだが」
しのぶ「合格通知って…。あの、あたし、電話で聞いただけで、何も…」
課長「あれ、おかしいな。きっと人事の方の手違いだろう。よし。私から研修を受けられるようにナニしとくから。君も大変だったろう。何にも知らないんじゃ」
しのぶ「はい。もう、いつも怒られてばかりで…」
課長「そうだろう。あっ、そうだ。社内マニュアルが…。ちょっと待っててくれ」
課長は自分のデスクから、分厚いファイルを持って来る。
課長「分からないことがあったら、これを見るといい。ちょっと古いが、大体のことは分かるはずだ」
しのぶ、渡されたマニュアルの重さにふらついてしまう。
<つぶやき>仕事にはいろんな隠語(いんご)がつきもの。でも、それが多すぎると新人は大変です。
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T:058「親父のつぶやき」
会社の飲み会。宴(えん)もたけなわの頃。係長が部下に愚痴(ぐち)をこぼしていた。
係長「――小さい頃は、いつも俺にくっついててねぇ」
日菜子「へえ、娘さんがみえるんですか」
係長「そう。二人いてね。どっちも可愛(かわい)くって。こりゃ、誰に似たのかなぁ」
吉村「係長、そういうの親バカって言うんですよ」
係長「うるせえ、吉村。お前は、早く嫁さんをもらえ。そうすりゃな、俺の気持ちが…」
かすみ「係長、ちょっと飲み過ぎですよ」
係長「はい、分かっております。(日菜子に)でね、その娘が俺に言うのよ。お父さんとは……。(泣きそうになるのをグッとこらえて)まるで汚いものでも見るように。俺は、どうすりゃいいんだよ」
かすみ「高校生で思春期(ししゅんき)真っただ中でしょ。仕方ないんじゃないんですか」
係長「分かってますよ、そんなこと。でもね、父親としては…」
日菜子「私も分かります」
係長「俺の気持ち、分かってくれる?」
日菜子「いえ…、あの、娘さんの…」
係長「えっ、そうなの? そうか、君のお父さんも辛(つら)い思いをしてるんだね」
日菜子「そんなことありません。私の父は、ただ口うるさいだけの人ですから。だから、大学に入ったとき独り暮らし始めて…」
係長「えっ! そうなの? やっぱり、そうか~ぁ!」
かすみ「係長、どうしたんですか?」
係長「いやね、上の娘がね、独り暮らし始めたいから大学へ行くって言うんだよ。これって、おかしいでしょ?」
かすみ「えっ、どこがです?」
係長「どこがって。ほら、大学へ行くのは口実(こうじつ)で、家を出たいってことでしょ。で、そういうことはつまり、俺と一緒に暮らしたくないってことで…」
かすみ「そんな、考えすぎですよ」
吉村「でも、今どきの子は進んでますからねぇ。(日菜子を見て)一人になったら」
日菜子「何ですか? 変な目で見ないで下さい」
係長「ダメだ。絶対ダメだ。うちの子は、まだ子供なんだ。独り暮らしなんて絶対許さん」
かすみ「大学生はもう大人ですよ」
係長「だから心配なんじゃないか。そうだろ?(日菜子に)君の場合はどうだったのかな?」
日菜子「えっ、何がですか?」
係長「だから、危なかったこととか…。好きな人ができると、あれだよね。つまり…」
日菜子「えっ…。ちょっと、それは…」
かすみ「係長。そんなに知りたいんだったら、私が教えてあげますよ。私も、独り暮らし長かったですからねぇ。いま考えると、いろいろと――」
<つぶやき>父親の、この複雑な気持ち。娘には届かないのでしょうか。どう思います?
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T:057「恋愛同盟」
とある会社の女子寮の一室。ここでミーティングが行われようとしていた。
沙恵(さえ)と愛子(あいこ)が雑談しているところへ、香里(かおり)が後輩の菜月(なつき)を連れてやって来た。
香里「ごめん、遅くなって。(菜月の方を振り返り)さあ、入って」
香里、躊躇(ちゅうちょ)している菜月を引っぱり込み、二人の前に座らせる。
沙恵「これでそろったわね。じゃ、恋愛同盟のミーティングを始めます。まず、今日から新しく加わることになった、えっと…」
香里「山村(やまむら)菜月です。彼女は同じ課の後輩で、とってもいい子なんです」
菜月「(小さな声で)ちょっと、先輩。あたし、そんなつもりで…」
香里「何言ってるの。あんた、すっごく興味があるって言ってたじゃない」
菜月「そうですけど。でも、それは…」
沙恵「香里ちゃん。また先走っちゃったの? もう、しょうがないわね」
愛子「じゃあ、私からこの同盟の説明をさせていただきます」
香里「よっ、事務局長。秘書課の星!」
愛子「チャチャは入れないで下さい。(事務的な口調になり)まず、私たちには鉄の掟(おきて)があります。まず、毎日のミーティングで恋愛の成果を発表すること。これは、どんな些細(ささい)なことでも情報を共有して、失恋という最悪な事態を避けるためです」
香里「(菜月に)そうそう。あたしなんか、ずいぶん助けられてるのよ」
愛子「そして、婚約するまではお泊まり禁止。香里さんも、わかってますよね?」
香里「もちよ。あたしなんか、お泊まりはしてませんから」
沙恵「菜月さん。これは乙女のたしなみというものよ。貞節(ていせつ)は守らないとね」
菜月「……はい」(三人のテンションについていけない)
愛子「最後に、これが一番大切なことです。同盟内で同じ人を好きにならない。もし、この違反が発覚(はっかく)したら、それ相応(そうおう)のバツを受けてもらいます」
沙恵「(驚いている菜月に)心配しなくても大丈夫。これは、余計(よけい)な摩擦(まさつ)を避けるためよ。それに、二股とか三股とかする殿方もいるから、注意しないとね」
香里「そうなんだよ。ほら、営業に立花(たちばな)っているじゃない。ちょっとイケメンの」
菜月「ああ。あたし、食事に誘われて…」
香里「うそっ! あんたにまで」
愛子「あの人は止めときなさい。ここにいる全員に声をかけてますから」
菜月「そうなんですか? ああ、ありがとうございます。そうします」
香里「良かったね。これでもう、あんたも私たちの一員よ。頑張ろうね」
菜月「でも…。それと、これとは…」
香里「何言ってんのよ。あんたも、好きな人できたんでしょ。いいじゃん」
沙恵「どなたなの? 私たちにも教えて下さらない。あなたの力になりたいの」
菜月「あの…。(しばらく考えて)同じ課の、相沢弘樹(あいざわひろき)さん、です」
一同驚き、沙恵を見る。沙恵、一瞬顔が引きつり、倒れそうになる。
<つぶやき>この後、どうなったんでしょ。菜月さんは同盟に加わることになったのか?
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T:056「告白の手前」
学校の昼休み。渡り廊下を友だちと歩いているさやか。楽しげである。
友だち「ほんと、面白(おもしろ)いでしょ。まったくなに考えてんだか」
さやか「でも、そういうところが好きなんでしょ」
友だち「まあ、そうなんだけどさ」
反対側から思いつめた顔で卓海(たくみ)がやって来て、さやかに声をかける。
卓海「なあ、ちょっと話があるんだけど…」
さやかはちょっと驚いた顔をして、友だちを見る。
友だち「ああ、いいよ。あたし、先に行ってるから。じゃあね」
さやか「うん。ごめんね。(友だちを見送って)なに? 話って」
卓海「あの……。野球部に、斉藤(さいとう)先輩っているだろ」
さやか「斉藤…? 知らないわ、そんな人」
卓海「いるんだよ。その先輩が、君のこと知ってて。俺と同じクラスだろって…」
さやか「あの、何が言いたいの。分かんないよ」
卓海「だから、その先輩が、君のことが好きだって。で、俺に紹介しろって」
さやか「えっ? 何それ」
卓海「だから、ちょっと会ってくれるだけでいいんだ。頼む」
卓海、頭を下げる。困惑(こんわく)の顔で見ているさやか。
さやか「そんなの、イヤよ。あたし、困るわ」
卓海「そこを何とか。もし会ってくれないと、先輩に何されるか」
さやか「そんな――。内田(うちだ)君は、それでいいの?」
卓海「俺? 俺は――」
卓海、何も言えなくなる。さやか、何かを決心したように、
さやか「あたし、好きな人がいるの。だから、内田君から断ってくれない」
卓海「ああ…、そうなんだ。それじゃ、仕方ないよな。分かった、そうするよ」
さやか「ごめんね。なんか……」
卓海「いいよ。後は何とかするから、大丈夫。ほんと…」
卓海、すごすごと教室へ戻っていく。さやか、卓海を呼び止めて。
さやか「あの――。あたしの好きな人って……」
卓海「(振り返り)えっ?」
さやか「ううん。いいの。ほんと、ごめんね」
卓海、首をかしげながら行ってしまう。それを見送って、
さやか「もう…、何で言えないのよ。バカバカバカ(自分の頭を叩く)」
自己嫌悪で大きなため息をつくさやか。
さやか「卓海君、大丈夫かな。ひどいことされないといいんだけど…。やっぱり、会ってあげればよかったかなぁ。でも、そんなことしたら……。あーっ、あたし、なにやってんだろ。もう。しっかりしろ、さやか」
<つぶやき>「あなたが好きです」それだけのことなのに、なかなか言えないんですよね。
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T:055「犬も食えない」
始まりはささいなこと。それが泥沼へと落ちていく。ある夫婦の痴話喧嘩(ちわげんか)。
「そうよね。どうせ私のことなんか…」
「そんなこと言ってないだろ。そっちが勝手にそう思ってるだけで、俺は…」
「もういいわよ。あなたは私に興味なんかないんでしょ」
「何でそうなるんだよ。俺が、何したっていうんだ」
「ああっ! 分かんないんならいいわよ。もう、こんなのうんざりだわ」
妻は出て行こうとする。それを引き止める夫。妻は夫の手を振りはらい、
「離してよ。私、出て行くんだから。私たちには愛なんてなかった。そうでしょ」
「なに言ってんだ? 訳(わけ)分かんないよ」
「あなたは、私の稼(かせ)ぎに興味があるだけ。それだけのことよ。やっと分かったわ」
「バカ言え。俺は、そんなこと一度も思ったことないよ」
「嘘よ。よくそんなことが言えるわね。私が知らないとでも思ったの」
「何のことだよ」
「そうやって、いつもとぼけて…。何なのよ。たいした稼ぎもないくせに――」
「うるさいな! 俺だって、一生懸命働いてるだろ。そんなこと、とやかく言われる筋合いはないよ。――お前だって、俺のルックスに引かれただけじゃないか」
「そうよ。その何が悪いの」
開き直る妻。夫も後へ引けなくなった。
「あのな…。たいして可愛(かわい)くもないのに、結婚してやったんだぞ。それが何だ。ちょっと俺よりも稼いでるだけで、偉(えら)そうにしやがって…」
「可愛くない? よく言うわよ。プロポーズの時、何て言ったか忘れちゃったの?」
「そんな昔の話、覚えてるわけないだろ」
「――あなただって、見る影もないじゃない。今のあなたは、ただのメタボ中年よ」
「お前だって…」
夫、妻の顔を見る。夫は妻が少し奇麗になった気がして、言葉が出て来ない。
「(勝ち誇ったように)私だって、努力してきたのよ。あなたは知らないでしょうけど」
「……何時からだ?」
「なに? そんなこと、……言えないわよ」
「そんなに前から、浮気してたのか? 相手は誰だ。俺の知ってる奴か」
「(呆(あき)れて)ばっかじゃないの。私がそんなことするわけないでしょ」
「好きな奴がいるから、そんなに奇麗にしてるんだろ。それくらい俺だって…」
「ほんと、何にも分かってないのね」
「言えよ!」
「そんなこと…、恥ずかしくて言えないわ」
「俺は…、お前のことずっと愛してるんだ。それなのに…」
「私だって、あなたのことずっと愛してるわよ。何か文句あんの?」
<つぶやき>ちょっとしたすれ違いはあるものです。たまには喧嘩もありかもしれません。
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T:054「憧れの先輩」
学食。昼時のピークが過ぎたころ。
陽子(ようこ)と珠恵(たまえ)がやって来る。学食を見回した陽子、そこに憧れの先輩を発見する。
陽子「ねっ、あそこにしよ」
先輩のいる近くのテーブルへさっさと行ってしまう。先輩の顔が見える席に座る陽子。
遅れて珠恵がやって来る。先輩の顔を見て、驚いて声をかける珠恵。
珠恵「お兄ちゃん! どうしたのよ、こんなところで」
先輩「おっ、久しぶり。元気にしてるか?」
珠恵「もう元気よ、あたしは。珍しいよね、学食にいるなんて」
先輩「それがさ、お袋、入院しちゃってさ。弁当がないんだよね」
珠恵「えっ。おばさん、大丈夫なの? もう、教えてくれればいいのに」
先輩「大丈夫、大丈夫。大したことないから。でもな、お袋がいないだけで、家の中めちゃくちゃでさ。今、男ばっかりだからなぁ」
珠恵「じゃ、明日行ってあげるよ。どうせ、洗濯物とかたまってるでしょ」
先輩「でも、悪いよそれは」
珠恵「なに言ってるの。おばさんに仕込まれた家事の腕、見せてあげるわ」
先輩「じゃ、頼もうかな。助かるよ、ほんと。じゃ、来るとき連絡して」
先輩は、笑顔で去って行った。陽子の隣に座る珠恵。ふくれた顔で機嫌が悪い陽子。
珠恵「どうしたの? そんな顔して」
陽子「何でよ。何で紹介してくれなかったの!」
珠恵「えっ、なに?」
陽子「今の先輩と知り合いなの? どう言うこと、教えなさいよ」
珠恵「ああ、お兄ちゃんのこと。家が近くでね、お母さん同士が友だちだったのよ。だから、小さい頃から、よく遊びに行ってて」
陽子「何で教えてくれなかったのよ。もう!」
珠恵「そんなこと言われても…」
陽子「私も行く。一緒に行くからね。いいでしょ」
珠恵「行くって、どこへ?」
陽子「先輩の家によ」
珠恵「えっ、どうして?」
陽子「どうしてもよ。絶対に連れてってよ。約束だからね」
珠恵「いやいや、でもそれは…」
陽子「いいじゃない。私も手伝いたいの。それで、今度こそ先輩に紹介してよ」
珠恵「もう、どうしたのよ。あっ、まさかお兄ちゃんのこと…」
陽子「そ、そんなんじゃないわよ。それより、珠恵はどうなのよ。あの先輩のこと好きだとか、そんなことないわよね」
珠恵「ないわよ。だって、お兄ちゃんだもん」
陽子「じゃあさ、訊くけど…。先輩って、彼女とかいるのかな?」
<つぶやき>憧れの人とお近づきになりたい。こんなチャンスはまたとありませんから。
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T:053「恋の恨み晴らします」
とある公園。ここは恋人たちの待ち合わせの場所。今日も多くの恋人たちが、恋する人を待ちわびていた。そして、この二人も…。
藍子「もう、おそいぃ。何してたのよぉ」
タカシ「悪い。ちょっと仕事が終わらなくてさ」
藍子「あたし、もう待ちくたびれたぁ。今日は、タカシのおごりだからね」
タカシ「なに言ってんだよ。いつも俺が…」
藍子「ねえ、あたしのこと愛してる?」
タカシ「何だよ。変なこと聞くなよ」
藍子「変なことじゃないでしょ。だって、今日も遅れてくるし…」
タカシ「だから、仕事だって言ってるだろ。お前みたいに、時間通り終わんないんだよ」
藍子「いいから、言ってよ。ちゃんとタカシの口から聞きたいの」
タカシ「こんなとこで言えるかよ。ほら、行くぞ」
タカシが行こうとするのを、腕をつかんで止める藍子。
藍子「待ってよ。ちゃんと言ってくれるまで、あたし行かないから」
タカシ「はぁ? 何だよ、めんどくせぇなぁ」
藍子「ちゃんと言って。言ってよ。あたしのこと愛してるって」
タカシ、藍子の手を振りはらい、いらつきながら、
タカシ「もうやめよ。俺、やっぱお前のこと愛してないわ」
藍子「えっ? それ、どういうこと?」
タカシ「だから、お前とは付き合えないって言ってんだよ」
藍子「どうして? どうしてよ。あたしのこと好きだって…」
タカシ「それは、お前と付き合ってるって、友だちに自慢(じまん)したかっただけだよ。でもな、お前の良いとこ顔だけだもんな。あとは最悪」
藍子「そんなこと…。あたしだって…」
タカシ「何があるって言うんだ。頭は悪いし、性格もお高くとまってて。奇麗(きれい)ってだけで、何でも許されるなんて思うなよ」
藍子「何よ…。タカシだって、他に女がいるんでしょ。あたし、知ってるんだから」
タカシ「それが何だって言うんだよ。お前に関係ないだろ」
藍子「関係あるわよ。あたし、別れないから。絶対に別れないからね」
タカシ「うるせぇ。もう二度と連絡してくるな。分かったか」
タカシ、藍子を突き飛ばして行ってしまう。ひとり残される藍子。
二人の様子をじっと見ていた男がやって来る。
「(優しく)大丈夫ですか? よかったら、お話し聞きますよ」
藍子「えっ、どなたですか?」
「あっ、申し遅れました。私、恋の恨みをすっきり晴らす、晴らし屋でございます。ただいまキャンペーン中でして、格安料金になっております」
<つぶやき>一体何をしてくれるんでしょう。復讐、それとも…。ちょっと気になります。
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T:052「自由恋愛禁止令」
自由恋愛が禁止されている未来。愛してはいけない人を愛した男が逮捕された。
取調室で訊問(じんもん)を受ける男。
「何がいけないって言うんだ! 俺は、ただ彼女のことを…」
取調官「君は、なぜこの法律ができたか知ってるだろ。結婚できない人を無くすためだ。それに、遺伝的にも優秀な子孫を多く残す。これは少子化が進む社会では必要な…」
「そんなの知るか! 好きな女と結婚できないなんて、そんな社会…」
取調官「君に残された道は二つだ。再教育センターへ行くか、収容所で強制労働につくか」
男、一瞬顔がこわばる。取調官はあくまでも穏やかに話を進める。
取調官「君と一緒にいた女性だが、再教育センターへ行くことに決めたそうだ」
「嘘だ。彼女がそんなこと言うはずが…。俺たち愛しあってるんだ!」
取調官「いやぁ、女性の方がしたたかだと思わないか。彼女は賢明(けんめい)な選択をしたわけだ」
男、頭をかきむしり困惑する。取調官はさらに続ける。
取調官「あっ、そうそう。彼女の婚約相手と私も会ったが、なかなかの好青年だったよ。きっと彼女のことを幸せにするだろう」
「どんな奴だ。彼女も会ったのか?」
取調官「もちろんさ。あの様子だと、彼女もすぐに社会復帰できるだろ。そしたら、幸せな結婚生活が始まるってわけだ」
「くそっ! 何でだよ。俺に言ったことは全部嘘なのか…」
取調官「君も、冷静になって考えてみるといい。少し、時間をあげよう」
取調官、部屋を出て行く。身動きひとつしない男。
しばらくして女が入って来る。男、女が話しかけるまでまったく気づかない。
「ねえ、どうして待てなかったのよ」
女、男の前に座る。男はうつむき女を見ようともしない。
「誰だ、お前。いいから、ほっといてくれ」
「そんなに、いい女だったの?」
「ああ。でも、もうそんなこと…」
「あたしよりも、いい女だった」
男、初めて女の顔を見る。男の顔に驚きの表情がうかぶ。
「あと一日待ってくれたら、あたしと会えたのに」
「あと一日? 何のことだ。俺には…」
「もう、どうしてそんなにせっかちなのよ。あたしほどいい女はいないのに。あなただって分かったでしょ」
「えっ? 何だよ。何を言ってるんだ…」
「あたしよ、あなたの婚約者は。でも、それもどうなるか分かんないけどね。あなたがもし収容所を選んだら、あたしの運命も変わっちゃうから」
「いや、そんなこと…。俺は、君を選ぶよ。だから、俺と結婚してくれ」
<つぶやき>恋愛が苦手な人が増えたから? もし、こんな世界になったらどうしましょ。
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T:051「手術室」
手術室。ナースが準備をしている。そこへ新人のナースが患者を運んでくる。無言で作業は続く。そこへ、執刀医が登場。ナースたちの顔に緊張が走る。
望月「では、これより内臓の入れ替えと、腕の接合手術を開始する」
ナースたち「はい」
望月「麻酔はかけてあるな」
ももえ「もう、バッチリです」
望月「では、ミュージック、スタート!」
一瞬の間。望月は紗英を睨みつける。
ももえ「紗英ちゃん、スイッチ入れて。ほら、そこのラジカセ」
紗英「あっ…、はい。すいません」
紗英、慌ててラジカセのスイッチを入れる。大音響でハードロックが流れる。驚いた紗英、スイッチを切ってしまう。
望月「何やってんだ。俺のテンションを下げるつもりか!」
ももえ「もう、先生。そんなに怒らないでください。彼女は初めてなんですから」
紗英「(おどおどと頭を下げて)すいません。あたし…」
ももえ「(紗英に)大丈夫よ。最初は誰だってこうなんだから。慣れるわよ」
ももえ、ラジカセのスイッチを入れる。また、大音響で音楽が流れる。その中で、望月のテンションはヒートアップしていく。
望月「メス!」
ももえ、大きなハサミを渡す。紗英、ぼう然と見ている。
望月「開くぞ。(紗英に)おい、ここを持って広げてろ」
紗英「(慌てて)はい。これでいいですか?」
望月「ふん、やれば出来るじゃないか。しっかり持ってろ」
手術は順調に進んでいった。そして、最後のひと針を縫い終わり、糸を切る。
望月「(満足そうに)よし。これで終わりだ」
ラジカセを止めるももえ。二人とも、一仕事終えた達成感でいっぱいになっている。
紗英「あの…。(聞きにくそうに)これって、いったい…」
望月「つまらんだろ、普通にやったら」
紗英「でも、何であたしたちこんな格好で…」
望月「コスプレは嫌いか? だったら、他の仕事を捜しな」
ももえ「店長、そんなこと言ったら可哀相でしょ」
望月「まわりを見てみろ。子供たちが楽しんでるだろ」
窓の外には、子供たちが何人も並んで顔を覗かせていた。
望月「みんないい顔してるじゃないか。俺たちは、夢を売る仕事をしてるんだ。(手術台の縫いぐるみを抱きあげて)こいつだって、また子供たちのところへ帰れるんだ」
感無量で涙ぐむ望月。ちょっと引いて見ている紗英。
<つぶやき>初めての仕事は戸惑うことばかり。でも、楽しいこともきっとあるはずです。
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T:050「カバに好かれた男」
どことも知れぬ場所。男が疲れきった足取りでやって来る。
「(うわごとのように)本当にいるんだ。いるんだよ、そこに…。そこに…」
男は後ろを振り返り、何かの気配に怯え、よろめき倒れ伏す。
いつの間にか、男の背後に女が立っていた。女はしばらく男を見つめていたが、
「どうしたんですか? あなた、こんなところで何をしているの」
「(ゆっくりと顔を上げながら、消え入るような声で)誰だ。誰かいるのか?」
男、後ろを振り返る。しばらくの間。女は、意味ありげに微笑む。
「あなたは、だあれ?」
「俺は…。――いいんだ。もう行ってくれ。俺にかまうな」
「でも…。あなた、少し変よ。普通じゃないわ」
「そうさ。俺は普通じゃない。そんなこと分かってる。もう充分…」
「あたしに出来ることはない?」
「(悲嘆に笑い)ハハハ…、君に何ができるんだ。そんな、きゃしゃな身体で」
「あたし、見た目よりは力はあるのよ。何も心配はいらないわ」
「お前も変わってるな。じゃ、俺の話を聞いてくれるか?」
「(優しく微笑み)ええ、いいわよ」
「俺には見えるんだ。そいつは、いつも俺の後ろにいて、俺のことを狙ってる」
「誰かに追われているの?」
「誰か…。――そいつは人じゃない! カバだよ、でかい口を開けた」
女の表情が一瞬変わる。が、すぐにもとに戻り、男はそれに気づかない。
「(絞り出すように)何で俺なんだ。俺が、何をしたって言うんだ」
「そう。あなたにはカバが見えるのね」
「いいさ、どうせお前も信じちゃ…」
「あたし、信じるわ」
女、男に手を差し出す。間。男、神にすがるようにその手を取る。男、ゆっくりと立ち上がる。見つめ合う二人。が、男の頭にまた不安がよぎる。
「(女の後ろに隠れ子供のように怯えて)いる。あいつが、こっちをにらんでる」
「心配しないで。あたしが助けてあげる」
男、力が抜けるようにひざまずく。女、男から離れて。
「あたし、飼ってたウサギが死んじゃって。でも、その子がね、あたしの前に現れて言うのよ。カバに好かれてる人を探してって」
「何だよ、それ…」
「(男を抱き寄せ)良かったわ。これで、あの子がまた戻って来てくれる」
男の顔に苦悶の表情がうかぶ。女、男から離れる。男の身体にナイフが刺さっている。
「(すべてを悟ったように)ああ…。ありがとう。これで、ぐっすり眠れるよ」
男、ゆっくりと崩れていく。女は、聖母のように男を見つめる。
<つぶやき>誰かのために、誰かが犠牲を払う。でも、本当にそれでいいんでしょうか。
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T:049「タイムスリップ」
現在は使われなくなった倉庫。その一角に、着物姿の女が縛られている。その近くには、痩せていて神経質そうな男1と、小太りで間の抜けた男2がいる。
男1「俺は金持ちそうな女の子を連れて来いって言ったんだ。(女の指さし)何だこれは?」
男2「そうなんだけど…。でもね、ほら、よく見てよ。まるで、お姫様みたいだろ」
男1「あのな、こんな女連れて来たら、あとあと面倒だろが。分かってんのかよ」
男2「でも、金持ちってのは間違いないよ。俺、訊いたんだ。あんたの家は金持ちかって」
男1「バカか。そんなこと訊いたら、いっぺんに怪しまれるだろ」
男2「言ったんだよ。私はお城に住んでるって。お付きの人が何人もいて…」
男1「そんな女、どこにいるんだ。こんなのな、ただのコスプレの歴女のバカ女だ」
猿ぐつわをされた女が、何かを言いたくてウーウー声をたてる。
男1「うるさい! 静かにしてないと、ただじゃすまないぞ」
男2「ダメだよ。恐がってるじゃないか。きっと、きつく縛りすぎてるんだ。ちょっと、緩めてやろうよ」
男1「もう、勝手にしろ」
男2「(女に)な、いいかい。騒いじゃダメだぞ」
女、ウーウー言いながら首を縦にふる。男2、猿ぐつわをはずしてやる。
「(気品のある声で)私を誰だと思っているの。こんなことをして、あなた達こそ…」
男1「黙れ! いいか、それ以上何か言ったら、どっかへ売り飛ばしてやるからな」
男2「えっ、ダメだよ。そんなことしちゃ、かわいそうだ」
男1「(男2に詰め寄り)お前がヘマしたからだ。金にならなきゃ、俺たち終わりなんだぞ」
「そんなに金子(きんす)が欲しいのか? なら、この縄を解きなさい」
男1「何だと。お前、何様のつもりだ。俺たちがその気になったらな…」
「いいか、よくお聞きなさい。父上にお前たちを家来に取り立てるよう、私からお願いしてあげます。きっと、父上は私の言うことを…」
男1「(笑って)この女、バカじゃないのか。そんな嘘、誰が信じると思ってるんだ」
男2「(男1に)なあ、とりあえず、連絡してみるのはどうだろ? きっと、こいつの親も心配してると思うんだ。きっと、俺たちに金をくれるさ」
男1「そうだな。それしかないか。(女に)おい、お前んとこの電話番号を教えろ」
「でんわばんごう? それは、何だ?」
男1「はぁ? 電話だよ。お前の親と連絡をとるんだ」
「なら、文(ふみ)を書きます。この縄をほどきなさい」
男1「電話もねえのか。どんな家に住んでるんだ」
「(凜として)早くなさい!」
男2「(驚いて)はい」(女の縄を解いてやる)
女、すかさず男2を押し倒し、そばにあった棒切れで、男たちを叩きのめす。
「さあ、お前たちは今から私の家来です。私のために、しっかり働きなさい」
男たち、女の気高さに圧倒されて、その場にひれ伏してしまう。
<つぶやき>いつの時代も、女性は強くたくましいのです。きっと、この先の未来でも…。
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T:048「ひとおし」
とある会社の資料室の前。入口で中の様子をうかがっている則夫(のりお)。そこへ、先輩の夏美(なつみ)が通りかかる。夏美はそっと後ろから声をかける。
夏美「(ささやくように)何してるの?」
則夫「(驚いて)わっ…」
則夫、振り返って夏美だと分かると、彼女を少し離れた場所へ引っぱって行く。
夏美「なに…、何なの。もう、どうしたのよ」
則夫「(落ち着きなく)いや、別に何もないですよ。先輩こそ、どうしたんですか?」
夏美「それは、こっちが訊いてるんでしょ。中に誰かいるの?」
則夫、資料室の方を見せないように、ぎこちなく壁になって、
則夫「いや…、なに言ってるんですか。誰も、いませんよ。絶対…」
夏美「あやしーい」
夏美、則夫の目を見る。則夫、視線をそらす。その隙に、夏美はすり抜けて、資料室へ走り中を覗く。
夏美「あっ……。佐々木さん?」
夏美、中に入ろうとする。それを止める則夫。また引っぱり出す。
則夫「ダメですよ、先輩」
夏美「もう、何なのよ。ねえ、彼女どうしたの? なんか、泣いてるみたいだったけど」
則夫「よく分からないんですが、神崎課長に何か言われたみたいなんです」
夏美「えっ。あの課長、また新人いじめかよ。まったく、しょうがないなぁ。で、あんたはなに覗いてたの」
則夫「いや、僕は…。ちょっと、心配で…」
夏美「まったく…。今がチャンスでしょ。彼女に、優しい言葉でもかけてやりなよ」
則夫「えっ、でも、僕なんかが…」
夏美「あんたさ、佐々木さんのこと好きなんでしょ」
則夫「(あわてて)ぼ、僕は、そ、そんな…」
夏美「彼女が入社してきた時から、目つきが違ってたもんなぁ。ずっと、彼女のこと見てるでしょ。みんな気づいてるわよ。あんたが佐々木さんのこと、どう思ってるか」
則夫「えっ…。そうなんですか?」
夏美「(からかうように)気づいてないのは、佐々木さんだけかもね」
則夫、大きなため息をつく。
夏美「なに落ち込んでるのよ。まだ、何も始まってないでしょ。さあ、行ってきな」
則夫「えっ、行くって?」
夏美「彼女のところに決まってるでしょ。今、気持ちを伝えないでどうするのよ」
則夫「でも、今は…」
夏美「しょうがないなぁ。だったら、彼女のそばにいるだけでもいいから。行きな」
夏美、則夫の背中を押して、資料室へ入れてしまう。彼女の方へ歩き出す則夫。
<つぶやき>何か決断するとき、誰かに背中を押してもらいたい。そう思うことって…。
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T:047「恋の方程式」
初秋の公園。緊張した面持ちの五郎がやって来る。少し離れてその後ろに、重い足取りの友里がついて来ていた。公園のベンチに座っていた春菜が、五郎を見つけて。
春菜「五郎さん!(と笑顔で手を振る)」
五郎はますます緊張して、ぎこちない歩き方になる。春菜の前に来ると、心臓が飛び出さんばかりに騒ぎ出す。春菜は、五郎の後ろに友里がいるのに気付いて動揺する。
春菜「どうして、友里がいるの?」
友里「(戸惑いながら)いや、あの、私は…」
春菜「あたし、今日は五郎さんとデートだって言ったよね。それ、知ってて…」
友里「だから、私…、来るつもりなかったの。って言うか…」
五郎「あの、ぼ、僕が呼んだんです。一緒に来てくれって」
春菜「えっ? 五郎さん、そんな…」
五郎「あの、春ちゃんと知り合えたのも、こいつのおかげだし…。やっぱり、ちゃんと立ち会ってもらおうかなって…。ハハハ…(ぎこちなく笑う)」
友里「あの…、私、もう行くね。その方が…(その場を逃げ出そうとする)」
五郎「(友里を追いかけ腕をつかみ、小声で)何だよ。いてくれるって言っただろ」
友里「(小声で)だって、私がいたら…。(春菜の方を覗き見て)もう、イヤだ」
五郎「(小声で)幼なじみだろ。少しは協力しろよ」
友里「(小声で)だって…。何で私が、あんたの告白に付き合わなきゃいけないのよ」
五郎「(小声で)犬に噛みつかれそうになったとき、誰が助けてやったんだよ」
友里「(思わず大きな声で)それって、小学生のときの話でしょ。なんで…」
春菜「(二人の側に来て)ねえ、二人で何やってるのよ」
五郎「いや、何でもないんです。こいつが変なこと言うもんだから…」
友里「私は、別になにも…」
春菜「(二人の間に割って入り五郎に甘えるように)ねえ、今日はどこへ行こうか?」
五郎「あの、その前に…。ちょっと、だいじな話が」
春菜「(笑顔で)なあに?」
五郎、友里の方を見て、ひとりで何度も肯く。友里は、いたたまれずに目をそらす。五郎、心を決めて春菜の前に立つ。口の中がカラカラになっている。
五郎「あ、あの…(声がうわずってしまう)」
五郎、小さく咳払いをする。気を取り直して、春菜の方を向く。
五郎「ぼ、僕と…。あの…、僕は、君のこと…」
突然、友里が二人の間に入り、五郎の口をふさぐようにキスをする。五郎は驚き呆然となり、されるがままになっている。
春菜「そんな……」(哀しみのあまり、涙があふれてくる)
春菜、その場から逃げるように走り去る。友里、我に返り春菜に叫ぶ。
友里「春菜! 私、そんなつもりじゃ…。ごめんね。ほんとに、ごめんなさい…」
<つぶやき>恋はいつの間にか、本人も気づかないうちに芽生えてしまうものなのかも。
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T:046「最終兵器」
とある私立病院の診察室のひとつ。看護婦が患者を案内して入ってくる。
先生「どうされました?」
先生、患者の顔を見て一瞬、息が止まる。患者、先生の前に座る。
看護婦「先生。お願いします」
先生「あ、ああ…。(患者と目を合わさずに)今日は、どうされました…」
患者「あの、先生。実は…、ご相談したいことがありまして」
先生「相談? えっと、あの…。(看護婦に)君、あれだ…」
看護婦「はい?」
患者「先生。あたし、そんなに魅力ありませんか?」
先生と看護婦、思わず患者の顔を見る。
患者「女性として、どうなのかなって…」
先生「いや、ええっと…(看護婦の方を見る)」
看護婦「あ…、はい。もちろん、そんなことは…」
患者「夫は、あたしのこと、まったく見てくれないんです。話をしていても上の空で…」
先生「えっと、そういうことでしたら、別の先生を…」
患者「休みの日なんか、うちでゴロゴロしてて、家のこと何もしてくれないんです」
先生「それは、仕事が忙しいからじゃ…」
患者「あたし、別に無理なこと言ってるんじゃないんです。ただ、せっかく二人でいるのに…」
先生「そういうことはですね、ご主人と話し合われた方が…」
患者「あたし、何度もそうしようとしました。でも、ぜんぜん…(涙ぐむ)」
先生「あのですね、ここは病院ですから…。他の患者さんもみえますし…」
患者「ここでも、私の話しを聞いてくれないんですか」
先生「そうじゃなくて…。(言葉を荒げて)場所をわきまえろよ」
看護婦「(たしなめるように)先生、そういう…」
先生「あっ…。いや、これは、あれで…」
看護婦「(患者に)すいません。まだ、お若い先生なので、失礼なことを…」
患者「いえ、いいんですよ。慣れてますから」
看護婦「えっ?」
先生「(看護婦に)あの、ここはいいから、君は、ちょっと、はずしてもらえないかな」
看護婦「何を言ってるんですか、先生。私がいないと…」
先生「大丈夫だから、もう、あれだ…、あの…」
患者「あたしは、別にかまいませんよ。いてもらった方が、いいかもしれません」
先生「(患者に)あのな、そういうこと言うなよ」
看護婦「先生、また」
先生「だから…。これは、あれで…」
患者「(おもむろに白紙の離婚届を出して)時間はかかりません。三分ですみますから」
<つぶやき>奥さんには感謝の気持ちを伝えましょう。夫婦円満の秘訣かもしれません。
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T:045「役者の悪夢」
とある劇場の舞台袖。ロミオの衣装を着た大山が立っている。そこへ、小道具を持った吉田が来る。吉田、大山に気づいて声をかける。
吉田「先輩、どこへ行ってたんですか? 舞台監督が探してましたよ」
大山「あっ、吉田くん…。ここはどこだ? 俺、こんなとこで何してるんだ」
吉田「もうすぐ幕が開きますよ。スタンバイして下さい」
大山「ちょっと待てよ。えっ、何が始まるんだ?」
吉田「なに冗談言ってるんですか。頑張ってくださいね、先輩」
大山「頑張るって、何を?」
吉田「ロミオですよ。先輩、あんなにやりたがってたじゃないですか」
大山「バカ。俺が、ロミオなんてやれるわけないだろ。だって、その役は…」
舞台のベルが鳴る。
吉田「本番まで、あと十分ですよ。舞台監督には、僕からOKだって伝えときますから」
吉田、そのまま暗闇に消える。
大山「ちょっと、OKのわけないだろ。俺、台詞だってまともに覚えてないんだぞ」
暗闇からティボルトの衣装を着た花沢が現れる。
花沢「(大山を見て)ふん、ずいぶん年寄り臭いロミオだな」
大山「花沢…。どうしてお前、ロミオじゃないんだ」
花沢「どうして。こっちが訊きたいですよ。先輩、演出になに言ったんですか?」
大山「いや、俺は何も…。そうだ。替わってくれよ、ロミオはお前じゃなきゃ」
花沢「イヤミですか。せいぜい頑張って下さい。俺、本気で行きますから、そのつもりで」
大山「何だよ。本気って?」
花沢、暗闇に消える。入れ替わりに、ジュリエット役の久美が来る。
久美「先輩、よろしくお願いします」
大山「あっ、久美ちゃん。(しどろもどろになり)いや、俺は…。こんな…はずは…」
久美「あたし、大山先輩とやれるなんて夢のようです」
大山「だから、そうじゃなくって…。お、俺なんかじゃ…」
久美「実は、あたし…。先輩の舞台を観て、女優になりたいって思ったんです」
大山「えっ、お、俺なんかの…」
久美「あたし、まだまだ未熟ですけど、先輩のような役者になりたいんです」
大山「そ、それは、どうかな…。お、俺なんかより…」
久美「あっ、すいません。本番前にこんなこと…。じゃ、よろしくお願いします」
久美、暗闇に消えていく。ひとりになった大山、おろおろして。
大山「どうすんだよ。こんなにハードルあがっちゃって。今さら、やめられないじゃないか。(暗闇に向かって)おーい、吉田くん。いないの? ちょっと頼みがあるんだけどさ」
暗転。居酒屋のざわめき。その中で、吉田の声が聞こえてくる。
吉田(声)「先輩、起きて下さいよ。もう、帰りますよ。ねえ、先輩!」
<つぶやき>役者になると、こんな夢を見ることがあるみたい。夢でもドキドキですね。
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T:044「未来を映す鏡」
住宅地の中にひっそりと建つ古びた洋館。門は固く閉ざされているのだが、その前には老若男女であふれていた。老婆が不機嫌な顔で、門の中から怒鳴り散らした。
老婆「さあ、とっとと行きな! こんなとこにいられちゃ、目ざわりなんだよ!」
集まっていた人たちは、ざわざわと文句を言いながら散って行った。それを不思議そうに見ていた女が二人。老婆の方に駆け寄ってきて。
すず子「あの、何かあったんですか?」
老婆「何にもないよ」
すず子「でも…」
明日香「(すず子の腕をつかんで)ねえ、もう行こうよ」
すず子「(明日香に)だって、あれだけ人がいたんだよ。絶対、何かあったんだよ」
老婆「(明日香の顔をじっくり見て)あんた、いい顔してるね」
明日香「(恥ずかしそうに)えっ、そんな…」
老婆「美人っていう意味じゃないよ。(微笑んで)あんた、自分の未来を知りたくないか?」
明日香「みらい?」
老婆「見せてやろう。入りな」
老婆は門を開ける。明日香はためらってすず子を見る。
すず子「面白そうじゃない。見せてもらおうよ」
すず子は明日香の背中を押し、入ろうとする。それを止める老婆。
老婆「あんたはお呼びじゃないよ。とっとと行きな」
すず子「いいでしょ。あたしにも見せてよ」
老婆「(すず子の顔を覗き見て)まあ、いいだろう。後悔しても知らないよ」
部屋の中は、どこか異国の匂いがただよい、別世界に迷い込んだよう。部屋の奥に、分厚いカーテンで仕切られた部分がある。
老婆「(すず子に)じゃ、あんたからだ。そこに入りな」
すず子は嬉しそうに、カーテンの中へ。しばらくして、げっそりした顔で出てくる。
すず子「あれが、あたし? そんなはずないわよ。あたし、絶対信じないから」
老婆「信じようと信じまいと、あれが今のあんたの未来だ。さあ、今度はお前さんだ」
明日香「えっ? あたしは…」
いやがる明日香を、カーテンの中へ押し込む老婆。しばらくして出てくる明日香。
すず子「(明日香に)大丈夫? 気にしなくていいんだからね」
明日香「私は大丈夫よ。だって、ただの鏡じゃない」
すず子「なに言ってるの? あたしの時は、未来の姿が映ってたのよ」
老婆「人の未来はどうにでも変わるもんだ。自分次第でね。今日をどう生きたかだ。(明日香に)だがお前さんは、人とは違う道を歩くことになるようだ」
明日香「違う道?」
老婆「(微笑んで)あんたは、必ずまたここへ来ることになる。そういう運命さ」
<つぶやき>未来は変えられる。でも、どうにもならない運命って、あるのかもしれない。
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T:043「命がけの合コン」
個室のある洒落た雰囲気のお店。男二人、合コンのメンバーがそろうのを待っていた。
神崎「(落ち着かない様子で)なぁ、あいつら遅いな。何やってんだ」
吉田「(にやつきながら)何だよ。モデルと合コンだからって、舞い上がんなよ」
神崎「(思いつめた感じで)俺、やっぱ止めとくわ」
立ち上がろうとする神崎を押さえる吉田。
吉田「なに言ってんだよ。お前、美人のモデルと合コンだぞ。こんなチャンス、二度と…」
神崎「でもな、やっぱまずいよ。もし、こんなことが…」
吉田「なにびびってんだよ。大丈夫だよ。前だって、バレなかっただろ」
神崎「あの時は、俺が細心の注意をはらってたからで…」
吉田「俺たちみたいなオヤジがだぞ、美人のモデルさんたちとお話ができるんだ。これはもう、奇跡なんだぞ。それを、セッティングした俺の力量に感謝しろ」
神崎「じゃあ、何で来ないんだよ。大河内も杉浦も、遅いじゃないか」
吉田「たぶんあれだ、仕事で遅れてんだ。もし来なかったら、俺たち二人で…」
神崎「お前はいいよ。離婚してんだから。でも、俺は…」
吉田「お前はそんなんだから、奥さんに頭が上がらないんだ。もっと、堂々としてろよ」
神崎「バレたんだ。きっとそうだ。それ以外、考えられない」
吉田「はぁ? 何だよそれ」
神崎「お前だって知ってるだろ。あの二人の奥さんと俺のかみさん、ツーカー仲だって。毎日、連絡取りあってんだぞ。俺も、早く帰らないと…」
吉田「ちょっと待てよ。(携帯電話を取りだし)いま、電話してみるから」
神崎「(引きつった笑いで)ハハハ、もうお終いだ。離婚ってことになったら…」
吉田「たかが飲んで帰ったぐらいで、そんなことになるはずないだろ」
神崎「お前は知らないからそんなことが言えるんだ。あいつなら、やりかねない。だってな、俺がちょっと通りすがりの美人に振り返っただけで、三日、口もきいてくれなかったんだ。それに小遣いだって、三百円カットだ」
吉田「三百円って、子どもじゃないんだから」
神崎「そうだよ。俺もそう思うよ。一日、五百円だったのに、昼飯も食えないよ」
吉田「マジかよ」
神崎「なあ、一緒に来てくれないか。そんで、うちのやつに説明してくれよ」
吉田「なに言ってんだよ。ここは、どうすんだよ。合コンだぞ」
神崎「合コンなんかいつでもできるだろ。そんなことより…」
吉田「冗談じゃないよ。俺が、この合コン仕込むのに、どんだけコネ使ったか…」
外から女の子たちの笑い声が聞こえる。そして、ドアが開き女の子たちが入って来る。部屋の中がぱっとはなやかになる。男たち、思わず見とれてしまう。
吉田「(満面の笑みで)あれっ、早かったですね。どうぞ、どうぞ、入って」
神崎「さあ、さあ、こちらへ。(顔が緩み)いやーっ、お待ちしてました」
<つぶやき>男という生き物は、懲りないのかもしれません。それが男の性(さが)なのかも…。
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T:042「どっちをとるの?」
風呂上がりの夫。コップの水を飲み干し、ケーキの箱を手に取り、その軽さに驚く。
「(箱の中を見て妻に)おい、俺の分のケーキは?」
「(食事の片付けをしながら)ないわよ」
「えっ、ないって? どこへやったんだよ」
「だって…。あなた、甘いもの、好きじゃないでしょ」
「なに言ってるんだよ。俺だって、食べることあるよ」
「あら、そうなの」
「まさか、おまえ…」
妻はにっこり微笑み、お腹をさする。
「何でだよ。俺は、あのケーキを買うために、五日も並んだんだぞ」
「(甘えるように)また、買って来てね」
「冗談じゃないよ。やっとの思いで、今日こそ食べられるって…。それを」
「たかがケーキひとつで、そんなに怒ることないでしょ」
「あのケーキはな、特別なんだよ。有名なパティシエが作ったやつで、なかなか買えないんだ。俺の前に並んでた人で売り切れってこともあったんだから」
「(とぼけて)あら、そうなんだ。知らなかったわ」
「嘘つけ。おまえが知らないわけないだろ!」
妻は悲しげな表情になり、椅子に崩れるように座り、顔をふせる。嗚咽が漏れる。
「また…。そうやって泣けば、俺が許すとでも思ってるのか」
「(顔をあげて夫を睨み)あたしと、ケーキと、どっちをとるの?」
「(一瞬たじろぎ)そ、そんなこと……」
妻、夫をじっと見つめる。夫は妻のことを愛していた。
「だから……、おまえだよ。(恥ずかしそうに)そんなこと、訊くなよ」
妻は、してやったりと微笑み、夫の胸に飛び込み。
「ありがとーぅ」
夫は、妻を引き離す。割り切れない気持ちがあるので。
「じゃあな、俺と、ケーキと、どっちが…」
「そんなこと、決まってるじゃない」
妻は言葉を切り、夫の顔を見つめる。夫は、妻の一言を期待を込めて待つ。
「(満面の笑みで)ケーキよ」
夫、期待を裏切られ呆然とする。妻は、夫から離れる。
「(やり切れない思いで)何でだよ。俺のこと好きじゃないのか?」
「(振り返り)それとこれとは違うわ」
「でも、さっきおまえ…」
「あなた。あたしがあのケーキを食べるために、どれだけダイエットしてるか知らないでしょ。あたしも頑張ってるんだから、あなたも頑張って」
「そんな……」
<つぶやき>何だかんだ言っても、この二人愛し合ってるんでしょうね。あきれちゃう。
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T:041「ままならぬ恋」
とある会社の社食。食事を終えて、まなみが溜息をつく。同僚の久美が心配して。
久美「どうしたの? 今日は何だか元気ないわね。心配ごとでもあるの」
まなみ「うぅん…。(真剣な顔で)ねえ、聞いてくれる?」
久美「いいわよ」
まなみ「実はね…、昨夜、告られた」
久美「ほんと。(嬉しそうに)よかったじゃない。これで、やっとまなみも…」
まなみ「それがね…。(溜息をつく)」
久美「何よ、そんなに悩むことじゃないでしょ。でもさぁ、あんた、彼氏っていたの?」
まなみ「いないわよ。そんな人…」
久美「えっ? じゃ、何なのよ。告られたって」
まなみ「昨日、家に帰ったら、玄関で待ち伏せされて…」
久美「やだ。それ、ストーカーじゃない」
まなみ「違うわよ。そんなんじゃないの。彼は、幼なじみで…」
久美「何だ。それを先に言いなさいよ。じゃあ、幼なじみに告白されたのね」
まなみ「そう。でも、彼とは小さい頃から兄弟のようにしてて。そんなこと言うなんて…」
久美「でも、いいんじゃないの。お互い気心がわかってるし」
まなみ「だって、突然よ。あたし、そんなふうに思ったことないのに」
久美「まあ、それはあるかもね。近すぎて、恋愛対象にならないってことか」
まなみ「あたしには、お兄ちゃんって感じなの。だから、恋人としては考えられない」
久美「でもさぁ、嫌いじゃないんでしょ」
まなみ「それは、そうだけど…」
久美「じゃあ、これから恋愛対象として考えてみたら。きっとその人、前からあんたのこと好きだったのかもね。あんたさ、そういうとこ鈍いんだから」
まなみ「そんなことないわよ」
後ろの席に座って聞いていた先輩の純子が、唐突につぶやいた。
純子「やめときなよ、そんな人。不幸になるだけよ」
久美「でも先輩、よく知ってる人の方が…」
純子「そうかしら。そんな人はつまらないわよ。私の前の旦那がそうだったから」
まなみ「前の旦那?」
純子「なんて言うかな、どきどき感がないのよ。胸がざわざわするような、ときめきって言うの。そういうの、必要でしょ」
まなみ「そうですよね」
純子「でもね、ワイルド過ぎるのも考えものよ。私だって頑張ったのよ。何とかついて行こうと。もう、その時は必死だったわ。でも、続かなかったの。私には無理だった!」
久美「えっと、それって…」
純子「あ、これ前の前の旦那ね。今、どこで何してるのか。まあ、それがあったから、次の旦那は近場で見つくろって、失敗したわけよ。あんたは、慎重に相手を選びなさい」
<つぶやき>結婚って、相手のことをまるっと考えて…。とても、勇気のいる決断かも。
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超短編戯曲End