超短編戯曲ID

*** 作品リスト ***
  No、  公開日    作品名(本文表示へ)
0003 2009/04/18 001「伝説・寿椅子」
0006 2009/04/26 002「食いしん坊のルームメイト」
0009 2009/05/06 003「小悪魔的微笑」
0012 2009/05/15 004「優しい嘘」
0015 2009/05/24 005「SINOBI」
0018 2009/05/29 006「人生の選択」
0021 2009/06/03 007「専属天使」
0024 2009/06/08 008「不思議な体験」
0027 2009/06/13 009「正義の味方ピーマン!」
0030 2009/06/18 010「まぬけな窃盗団」
0033 2009/06/23 011「作家の気晴らし」
0036 2009/06/28 012「夜の訪問者」
0039 2009/07/03 013「死出の旅」
0042 2009/07/08 014「会社の極秘事項」
0045 2009/07/17 015「突然の再会」
0048 2009/08/04 016「謎の物体」
0051 2009/08/10 017「行き違い」
0054 2009/08/18 018「ブラックパンサー1」
0057 2009/08/25 019「ブラックパンサー2」
0060 2009/09/12 020「ゴールを目指して」
0063 2009/09/23 021「よりどころ」
0066 2009/10/24 022「取扱注意の女」
0069 2009/12/21 023「○○○探知機」
0072 2010/01/15 024「私のテリトリー」
0075 2010/02/09 025「夫婦の絆」
0078 2010/02/21 026「記憶売ります」
0081 2010/03/05 027「モテ期の女?」
0084 2010/03/14 028「不老長寿の秘薬」
0087 2010/04/13 029「衝動買い」
0090 2010/04/24 030「透明風呂敷」
0095 2010/05/11 031「一緒にいる理由」
0100 2010/05/24 032「招福茶」
0107 2010/06/11 033「リストラ担当部長」
0113 2010/06/25 034「バックアップ」
0118 2010/07/07 035「あれそれ、なに?」
0122 2010/07/17 036「思い出せない」
0127 2010/07/31 037「悲しい誕生日」
0132 2010/08/10 038「変なこだわり」
0137 2010/08/24 039「幸せを呼ぶ猫」
0142 2010/09/05 040「読めない女」
0147 2010/09/14 041「ままならぬ恋」
0152 2010/09/29 042「どっちをとるの?」
0157 2010/10/11 043「命がけの合コン」
0197 2011/02/06 044「未来を映す鏡」
0226 2011/04/24 045「役者の悪夢」
0256 2011/07/19 046「最終兵器」
0270 2011/08/27 047「恋の方程式」
0275 2011/09/11 048「ひとおし」
0296 2011/11/07 049「タイムスリップ」
0356 2012/04/29 050「カバに好かれた男」
0362 2012/05/12 051「手術室」
0369 2012/05/26 052「自由恋愛禁止令」
0376 2012/06/10 053「恋の恨み晴らします」
0382 2012/06/23 054「憧れの先輩」
0389 2012/07/07 055「犬も食えない」
0396 2012/07/21 056「告白の手前」
0403 2012/08/03 057「恋愛同盟」
0410 2012/08/17 058「親父のつぶやき」
0418 2012/08/29 059「社内マニュアル」
0426 2012/09/10 060「月夜見さま」
0434 2012/09/22 061「あなたのこと嫌いです」
0442 2012/10/05 062「雲のように」

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T:062「雲のように」
街を見渡せる丘の上にある公園。ベンチに座る二人。無言で空を見ている。青い空に白い雲がいくつも浮かび、その中の一つが形を変えて二つに分かれようとしていた。
「ねえ、私たちも、あの雲みたいに、きれいに別れられたらいいのにね」
「……。別れよう。俺たち、その方がいいと思うんだ」
男は離婚届を女に渡す。すでに男は記入をすませ、印鑑も押されている。女は顔色も変えず、離婚届をしばらく見つめる。そして、男の方を向くとにっこり微笑んで、
「いやよ。(離婚届をゆっくり破りながら)私は、別れる気なんてないわ」
「なぜだ。もう、俺たちには愛情なんて…」
「私は、あなたのこと好きよ。愛してるわ」
「嘘だ。君は他に…。俺が知らないとでも思ってるのか?」
「そう言えば、ここだったわよね。あなたが私にプロポーズしたの」
「男がいるんだろ。その男と、食事をしたり、買い物に行ったり。俺は、ちゃんと…」
「あなた、ここで始めてキスしてくれて。(恥ずかしそうに微笑んで)私、嬉しくって」
「俺の話を聞けよ。いつから浮気してたんだ」
「私、浮気なんてしてないわ。あの人たちは、ただのお友だちよ」
「あの人たち? えっ、ヒゲの男だけじゃないのか。他にも…」
「ねえ、あなた。今日は、どこかでお食事でもしない? 久しぶりに」
「何言ってんだよ。俺たち、別れ話をしてるんだぞ。よくそんなこと…」
女、男の手を取り、やさしく微笑む。男は、困惑の色を隠せない。
「ね、いいでしょ?(何かを思いついて)そうだ。あのお店に行ってみない?」
「えっ? ……」
「ほら、私たちがデートの最後にいつも行ってた、あのお店よ。まだ、あるかしら?」
「そんなことより。俺と別れてくれ。俺は別れたいんだ」
女、しばらく男の顔を見つめている。いつになく真剣な男の顔。
「(空を見上げて)あっ、さっきの雲、消えちゃったね。どこ行ったんだろ?」
しばしの沈黙。女はいつまでも空を見ていた。男は立ち上がり行こうとする。
「(空を見上げたまま)いいわよ。別れてあげる」
「(振り返り)ほんとか? ほんとに別れてくれるのか?」
「(男の顔を見ないで)ええ。私たちも、きれいに別れましょ」
「ありがとう。じゃ、離婚届を書いて…」
「いいわ。(カバンから離婚届を出して)ここに、書いておいたから」
女はベンチに離婚届を置く。男はそれを受け取り、頭をさげて、
「悪いな。これで、さよならだ。元気でな」
「(また空を見上げて)ええ。あなたも…。今度の人は、ちゃんと幸せにしてあげて」
男、驚いて足が止まる。女の方を見るが、何も言わずに行ってしまう。女は空を見上げたまま。頬にひとすじ、涙がこぼれる。
<つぶやき>ちょっとだけ強がって、でも切ない思いで苦しくて。愛はどこへ行ったの?
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T:061「あなたのこと嫌いです」
ある大学のラウンジ。ユリカが沈んだ顔をして座っていた。そこへ香里(かおり)がやって来る。
香里「(ユリカの前に座り)ビシッと言ってやったからね。あなたのことは嫌いです。二度と顔も見たくない。もう私の前に顔を出さないでって」
ユリカ「えっ、私そんなこと言ってないでしょ。もう、何でよ」
香里「何でって。あなたが言えって言ったのよ。だから、あたし…」
ユリカ「私、嫌いとか、顔も見たくないなんて言ってないでしょ」
香里「ああ、それは、つい出ちゃったのよ。仕方ないじゃない。勢いってやつよ」
ユリカ「勢いって…。私は、もっと普通にしようって……。で、何か言ってた?」
香里「別に、何も」
ユリカ「何もってことはないでしょ。だって、だって…」
香里「そんなに気になるんだったら、本人に訊けばいいじゃない」
ユリカ「本人って…。もう、あの人と一緒にいると、落ち着かないのよ」
香里「まったく、何でそんなに喧嘩(けんか)ばっかするのかなぁ。あたしには理解できないわ」
ユリカ「知らないわよ。向こうからふっかけてくるんだから」
香里「あんたたち、ほんと似たもの同士ね。寂しがり屋のくせに、意地っ張りで。自分の思ってることを素直に言えないんだから」
ユリカ「そんなことない。あの人と一緒にしないで」
香里「おかげで、あたしは二人にいいように使われて。何でこんなめんどくさいこと」
ユリカ「ごめん。だって、香里しか頼める人いないから」
香里「どうせ、あたしは共通の友人ですよ。でもね、それも今日で終わりにするからね」
ユリカ「えっ? それ、どういう…」
そこへ智也(ともや)がやって来る。ユリカがいるので驚いて立ち止まる。
香里「もう、何やってるのよ。早く来なさいよ」
智也「(気まずそうに来て、座る。香里に)これ、どういう…」
香里「二人で、ゆっくり話し合ってもらおうと思って」
ユリカ智也「何で?」
香里「だから、お互いに言いたいことがあるよね。あるはずよ」
ユリカ「な、ないわよ。そんなの…」
香里「ユリカ。言っちゃいなさい。スッキリするわよ。さあ」
ユリカ「えっ、ここで…」
香里「智也も、あるんでしょ。自分の思いをぶちまけちゃいなさいよ」
智也「えっ。それは…」
香里「もう、めんどくさいなぁ。じゃ、あたしが代わりに言ってあげるよ。ユリカは智也のことが大好きです。智也もユリカのことが好きだーぁ」
二人、唖然として見つめ合う。
香里「ほら、立って。(二人を立たせる)ハグしなさい。いいから、しなさいよ。(二人、ぎこちなく抱き合う)これで良し。今度喧嘩したら、あたしが許さないからね」
<つぶやき>香里さんもこれでひと安心です。やっと、自分の彼氏捜しに専念できますね。
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T:060「月夜見さま」
 ○ 良太(りょうた)の部屋・夜
部屋の窓から月を見ている良太。突然、目の前に顔が現れて腰を抜かす。
良太「うわーっ!」
窓から女の子が入ってくる。良太、唖然(あぜん)とする。女の子、部屋の中を見回して。
月夜見「へえ、こんな狭いところに住んでるんだ」
良太「き、君は誰だ? どうやって…」
月夜見「あたし、月夜見(つくよみ)よ。あなた、あたしのことずっと見てたでしょ」
良太「えっ? 俺は、君なんて知らないよ」
月夜見「もう、あたしに見とれてたじゃない。だから、あたし来たのよ」
良太「だから、知らないって言ってるだろ。帰ってくれよ」
月夜見「イヤよ。あたし、帰らない。しばらく、ここにいることにするわ」
良太「冗談じゃないよ。そんなこと…」
月夜見「ねえ、お腹(なか)空いちゃった。何か食べさせてよ」
 ○ 良太の部屋・数日後の夜
良太と月夜見が帰ってくる。月夜見は楽しそうにはしゃいでいる。
月夜見「今日は楽しかったわ。ありがとうね、良太」
良太「いや、そんな…」
良太は財布を見る。中には小銭しか入っていない。
良太「なあ、そろそろ帰ってくれないか。俺もこれ以上学校休むと、マジやばいんだよ」
月夜見「学校?」
良太「だから、大学だよ。それに、バイトもしないといけないし」
月夜見「バイト?」
良太「もう、ピンチなんだよね。君が、すっごく食べるもんだから。そんな華奢(きゃしゃ)な身体して、どこに入ってくんだよ。店の人だって、驚いてたじゃないか」
月夜見「そお? これでも減らしてるんだけどなぁ。じゃあ、明日は…」
良太「だから、もう金(かね)がないんだよ。明日、食べるものなんてないんだ」
月夜見「なんだ。お金がないの? じゃあ、あたしが何とかしてあげる」
良太「えっ? 金、持ってるのかよ」
月夜見、窓から月を見上げて、
月夜見「あそこの、クレーターをあなたにあげるわ。自由に使っていいのよ」
良太「えっ、クレーターって?」
月夜見「月の中でも一番大きなやつよ。それと、その隣の平らなとこもつけてあげる」
良太「だから、そんなのもらっても…。どうしろって言うんだよ」
月夜見「そうだ。これから行かない? あたし、案内してあげるよ」
良太「行くって、どこへ?」
月夜見「(月を指さし)あそこよ。あたし、月の神様だもん」
<つぶやき>月を見つめすぎないで。月夜見さまがあなたの所へも現れるかもしれません。
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T:059「社内マニュアル」
とある会社のオフィス。新人のしのぶが仕事に追われていた。吉崎(よしざき)が来る。
吉崎「おい、いつまでかかってんだよ。早くしてくれよ」
しのぶ「あっ、すいません。あと少しですから…」
しのぶは書類の束を何組かホチキスで止めて、吉崎へ渡す。
吉崎「(確認して)何だよ。順番が違うじゃないか。何やってんだよ。ちゃんと番号がふってあるだろ。なに見てんだ」
しのぶ「すいません。あれ、番号なんてついてました?」
吉崎「ついてるだろ。それに、何でホチキスで止めるんだよ。アレがあるだろ」
しのぶ「あれ?」
吉崎「アレだよ。そんなことも分かんないのか。ほんと、使えねえなぁ。もういいよ」
吉崎、自分のデスクへ戻って行く。しのぶは隣の席の亜矢(あや)に声をかける。
しのぶ「あの、先輩。あれって何ですか?」
亜矢「ごめんね。私、これから急ぎでアッチへ行って来るから。あとよろしくね」
しのぶ「えっ、あっちって?」
亜矢「課長に何か言われたら、ナニをナニするからって、ちゃんと伝えといてね」
亜矢、足早にオフィスを出て行く。しのぶは慌てて、
しのぶ「あの、あっちって、どこなんですか? あたし、何て言えば…」
しのぶ、ため息をつく。そこへ課長がやって来る。
課長「あれ、松浦(まつうら)君は?」
しのぶ「あっ、それが…。あの、あっちへ行くって、ついさっき…」
課長「ああ、アッチへ行っちゃた。そうか、なら仕方ないな」
しのぶ「あの、課長。あっちってどこなんですか?」
課長「えっ、君、知らないの?」
しのぶ「はい」
課長「そうなの。君、新人研修は受けたんだろ」
しのぶ「新人研修って? そんなのあったんですか?」
課長「ああ。合格通知と一緒に案内が送られてるはずだが」
しのぶ「合格通知って…。あの、あたし、電話で聞いただけで、何も…」
課長「あれ、おかしいな。きっと人事の方の手違いだろう。よし。私から研修を受けられるようにナニしとくから。君も大変だったろう。何にも知らないんじゃ」
しのぶ「はい。もう、いつも怒られてばかりで…」
課長「そうだろう。あっ、そうだ。社内マニュアルが…。ちょっと待っててくれ」
課長は自分のデスクから、分厚いファイルを持って来る。
課長「分からないことがあったら、これを見るといい。ちょっと古いが、大体のことは分かるはずだ」
しのぶ、渡されたマニュアルの重さにふらついてしまう。
<つぶやき>仕事にはいろんな隠語(いんご)がつきもの。でも、それが多すぎると新人は大変です。
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T:058「親父のつぶやき」
会社の飲み会。宴(えん)もたけなわの頃。係長が部下に愚痴(ぐち)をこぼしていた。
係長「――小さい頃は、いつも俺にくっついててねぇ」
日菜子「へえ、娘さんがみえるんですか」
係長「そう。二人いてね。どっちも可愛(かわい)くって。こりゃ、誰に似たのかなぁ」
吉村「係長、そういうの親バカって言うんですよ」
係長「うるせえ、吉村。お前は、早く嫁さんをもらえ。そうすりゃな、俺の気持ちが…」
かすみ「係長、ちょっと飲み過ぎですよ」
係長「はい、分かっております。(日菜子に)でね、その娘が俺に言うのよ。お父さんとは……。(泣きそうになるのをグッとこらえて)まるで汚いものでも見るように。俺は、どうすりゃいいんだよ」
かすみ「高校生で思春期(ししゅんき)真っただ中でしょ。仕方ないんじゃないんですか」
係長「分かってますよ、そんなこと。でもね、父親としては…」
日菜子「私も分かります」
係長「俺の気持ち、分かってくれる?」
日菜子「いえ…、あの、娘さんの…」
係長「えっ、そうなの? そうか、君のお父さんも辛(つら)い思いをしてるんだね」
日菜子「そんなことありません。私の父は、ただ口うるさいだけの人ですから。だから、大学に入ったとき独り暮らし始めて…」
係長「えっ! そうなの? やっぱり、そうか~ぁ!」
かすみ「係長、どうしたんですか?」
係長「いやね、上の娘がね、独り暮らし始めたいから大学へ行くって言うんだよ。これって、おかしいでしょ?」
かすみ「えっ、どこがです?」
係長「どこがって。ほら、大学へ行くのは口実(こうじつ)で、家を出たいってことでしょ。で、そういうことはつまり、俺と一緒に暮らしたくないってことで…」
かすみ「そんな、考えすぎですよ」
吉村「でも、今どきの子は進んでますからねぇ。(日菜子を見て)一人になったら」
日菜子「何ですか? 変な目で見ないで下さい」
係長「ダメだ。絶対ダメだ。うちの子は、まだ子供なんだ。独り暮らしなんて絶対許さん」
かすみ「大学生はもう大人ですよ」
係長「だから心配なんじゃないか。そうだろ?(日菜子に)君の場合はどうだったのかな?」
日菜子「えっ、何がですか?」
係長「だから、危なかったこととか…。好きな人ができると、あれだよね。つまり…」
日菜子「えっ…。ちょっと、それは…」
かすみ「係長。そんなに知りたいんだったら、私が教えてあげますよ。私も、独り暮らし長かったですからねぇ。いま考えると、いろいろと――」
<つぶやき>父親の、この複雑な気持ち。娘には届かないのでしょうか。どう思います?
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T:057「恋愛同盟」
とある会社の女子寮の一室。ここでミーティングが行われようとしていた。
沙恵(さえ)と愛子(あいこ)が雑談しているところへ、香里(かおり)が後輩の菜月(なつき)を連れてやって来た。
香里「ごめん、遅くなって。(菜月の方を振り返り)さあ、入って」
香里、躊躇(ちゅうちょ)している菜月を引っぱり込み、二人の前に座らせる。
沙恵「これでそろったわね。じゃ、恋愛同盟のミーティングを始めます。まず、今日から新しく加わることになった、えっと…」
香里「山村(やまむら)菜月です。彼女は同じ課の後輩で、とってもいい子なんです」
菜月「(小さな声で)ちょっと、先輩。あたし、そんなつもりで…」
香里「何言ってるの。あんた、すっごく興味があるって言ってたじゃない」
菜月「そうですけど。でも、それは…」
沙恵「香里ちゃん。また先走っちゃったの? もう、しょうがないわね」
愛子「じゃあ、私からこの同盟の説明をさせていただきます」
香里「よっ、事務局長。秘書課の星!」
愛子「チャチャは入れないで下さい。(事務的な口調になり)まず、私たちには鉄の掟(おきて)があります。まず、毎日のミーティングで恋愛の成果を発表すること。これは、どんな些細(ささい)なことでも情報を共有して、失恋という最悪な事態を避けるためです」
香里「(菜月に)そうそう。あたしなんか、ずいぶん助けられてるのよ」
愛子「そして、婚約するまではお泊まり禁止。香里さんも、わかってますよね?」
香里「もちよ。あたしなんか、お泊まりはしてませんから」
沙恵「菜月さん。これは乙女のたしなみというものよ。貞節(ていせつ)は守らないとね」
菜月「……はい」(三人のテンションについていけない)
愛子「最後に、これが一番大切なことです。同盟内で同じ人を好きにならない。もし、この違反が発覚(はっかく)したら、それ相応(そうおう)のバツを受けてもらいます」
沙恵「(驚いている菜月に)心配しなくても大丈夫。これは、余計(よけい)な摩擦(まさつ)を避けるためよ。それに、二股とか三股とかする殿方もいるから、注意しないとね」
香里「そうなんだよ。ほら、営業に立花(たちばな)っているじゃない。ちょっとイケメンの」
菜月「ああ。あたし、食事に誘われて…」
香里「うそっ! あんたにまで」
愛子「あの人は止めときなさい。ここにいる全員に声をかけてますから」
菜月「そうなんですか? ああ、ありがとうございます。そうします」
香里「良かったね。これでもう、あんたも私たちの一員よ。頑張ろうね」
菜月「でも…。それと、これとは…」
香里「何言ってんのよ。あんたも、好きな人できたんでしょ。いいじゃん」
沙恵「どなたなの? 私たちにも教えて下さらない。あなたの力になりたいの」
菜月「あの…。(しばらく考えて)同じ課の、相沢弘樹(あいざわひろき)さん、です」
一同驚き、沙恵を見る。沙恵、一瞬顔が引きつり、倒れそうになる。
<つぶやき>この後、どうなったんでしょ。菜月さんは同盟に加わることになったのか?
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T:056「告白の手前」
学校の昼休み。渡り廊下を友だちと歩いているさやか。楽しげである。
友だち「ほんと、面白(おもしろ)いでしょ。まったくなに考えてんだか」
さやか「でも、そういうところが好きなんでしょ」
友だち「まあ、そうなんだけどさ」
反対側から思いつめた顔で卓海(たくみ)がやって来て、さやかに声をかける。
卓海「なあ、ちょっと話があるんだけど…」
さやかはちょっと驚いた顔をして、友だちを見る。
友だち「ああ、いいよ。あたし、先に行ってるから。じゃあね」
さやか「うん。ごめんね。(友だちを見送って)なに? 話って」
卓海「あの……。野球部に、斉藤(さいとう)先輩っているだろ」
さやか「斉藤…? 知らないわ、そんな人」
卓海「いるんだよ。その先輩が、君のこと知ってて。俺と同じクラスだろって…」
さやか「あの、何が言いたいの。分かんないよ」
卓海「だから、その先輩が、君のことが好きだって。で、俺に紹介しろって」
さやか「えっ? 何それ」
卓海「だから、ちょっと会ってくれるだけでいいんだ。頼む」
卓海、頭を下げる。困惑(こんわく)の顔で見ているさやか。
さやか「そんなの、イヤよ。あたし、困るわ」
卓海「そこを何とか。もし会ってくれないと、先輩に何されるか」
さやか「そんな――。内田(うちだ)君は、それでいいの?」
卓海「俺? 俺は――」
卓海、何も言えなくなる。さやか、何かを決心したように、
さやか「あたし、好きな人がいるの。だから、内田君から断ってくれない」
卓海「ああ…、そうなんだ。それじゃ、仕方ないよな。分かった、そうするよ」
さやか「ごめんね。なんか……」
卓海「いいよ。後は何とかするから、大丈夫。ほんと…」
卓海、すごすごと教室へ戻っていく。さやか、卓海を呼び止めて。
さやか「あの――。あたしの好きな人って……」
卓海「(振り返り)えっ?」
さやか「ううん。いいの。ほんと、ごめんね」
卓海、首をかしげながら行ってしまう。それを見送って、
さやか「もう…、何で言えないのよ。バカバカバカ(自分の頭を叩く)」
自己嫌悪で大きなため息をつくさやか。
さやか「卓海君、大丈夫かな。ひどいことされないといいんだけど…。やっぱり、会ってあげればよかったかなぁ。でも、そんなことしたら……。あーっ、あたし、なにやってんだろ。もう。しっかりしろ、さやか」
<つぶやき>「あなたが好きです」それだけのことなのに、なかなか言えないんですよね。
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T:055「犬も食えない」
始まりはささいなこと。それが泥沼へと落ちていく。ある夫婦の痴話喧嘩(ちわげんか)。
「そうよね。どうせ私のことなんか…」
「そんなこと言ってないだろ。そっちが勝手にそう思ってるだけで、俺は…」
「もういいわよ。あなたは私に興味なんかないんでしょ」
「何でそうなるんだよ。俺が、何したっていうんだ」
「ああっ! 分かんないんならいいわよ。もう、こんなのうんざりだわ」
妻は出て行こうとする。それを引き止める夫。妻は夫の手を振りはらい、
「離してよ。私、出て行くんだから。私たちには愛なんてなかった。そうでしょ」
「なに言ってんだ? 訳(わけ)分かんないよ」
「あなたは、私の稼(かせ)ぎに興味があるだけ。それだけのことよ。やっと分かったわ」
「バカ言え。俺は、そんなこと一度も思ったことないよ」
「嘘よ。よくそんなことが言えるわね。私が知らないとでも思ったの」
「何のことだよ」
「そうやって、いつもとぼけて…。何なのよ。たいした稼ぎもないくせに――」
「うるさいな! 俺だって、一生懸命働いてるだろ。そんなこと、とやかく言われる筋合いはないよ。――お前だって、俺のルックスに引かれただけじゃないか」
「そうよ。その何が悪いの」
開き直る妻。夫も後へ引けなくなった。
「あのな…。たいして可愛(かわい)くもないのに、結婚してやったんだぞ。それが何だ。ちょっと俺よりも稼いでるだけで、偉(えら)そうにしやがって…」
「可愛くない? よく言うわよ。プロポーズの時、何て言ったか忘れちゃったの?」
「そんな昔の話、覚えてるわけないだろ」
「――あなただって、見る影もないじゃない。今のあなたは、ただのメタボ中年よ」
「お前だって…」
夫、妻の顔を見る。夫は妻が少し奇麗になった気がして、言葉が出て来ない。
「(勝ち誇ったように)私だって、努力してきたのよ。あなたは知らないでしょうけど」
「……何時からだ?」
「なに? そんなこと、……言えないわよ」
「そんなに前から、浮気してたのか? 相手は誰だ。俺の知ってる奴か」
「(呆(あき)れて)ばっかじゃないの。私がそんなことするわけないでしょ」
「好きな奴がいるから、そんなに奇麗にしてるんだろ。それくらい俺だって…」
「ほんと、何にも分かってないのね」
「言えよ!」
「そんなこと…、恥ずかしくて言えないわ」
「俺は…、お前のことずっと愛してるんだ。それなのに…」
「私だって、あなたのことずっと愛してるわよ。何か文句あんの?」
<つぶやき>ちょっとしたすれ違いはあるものです。たまには喧嘩もありかもしれません。
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T:054「憧れの先輩」
学食。昼時のピークが過ぎたころ。
陽子(ようこ)と珠恵(たまえ)がやって来る。学食を見回した陽子、そこに憧れの先輩を発見する。
陽子「ねっ、あそこにしよ」
先輩のいる近くのテーブルへさっさと行ってしまう。先輩の顔が見える席に座る陽子。
遅れて珠恵がやって来る。先輩の顔を見て、驚いて声をかける珠恵。
珠恵「お兄ちゃん! どうしたのよ、こんなところで」
先輩「おっ、久しぶり。元気にしてるか?」
珠恵「もう元気よ、あたしは。珍しいよね、学食にいるなんて」
先輩「それがさ、お袋、入院しちゃってさ。弁当がないんだよね」
珠恵「えっ。おばさん、大丈夫なの? もう、教えてくれればいいのに」
先輩「大丈夫、大丈夫。大したことないから。でもな、お袋がいないだけで、家の中めちゃくちゃでさ。今、男ばっかりだからなぁ」
珠恵「じゃ、明日行ってあげるよ。どうせ、洗濯物とかたまってるでしょ」
先輩「でも、悪いよそれは」
珠恵「なに言ってるの。おばさんに仕込まれた家事の腕、見せてあげるわ」
先輩「じゃ、頼もうかな。助かるよ、ほんと。じゃ、来るとき連絡して」
先輩は、笑顔で去って行った。陽子の隣に座る珠恵。ふくれた顔で機嫌が悪い陽子。
珠恵「どうしたの? そんな顔して」
陽子「何でよ。何で紹介してくれなかったの!」
珠恵「えっ、なに?」
陽子「今の先輩と知り合いなの? どう言うこと、教えなさいよ」
珠恵「ああ、お兄ちゃんのこと。家が近くでね、お母さん同士が友だちだったのよ。だから、小さい頃から、よく遊びに行ってて」
陽子「何で教えてくれなかったのよ。もう!」
珠恵「そんなこと言われても…」
陽子「私も行く。一緒に行くからね。いいでしょ」
珠恵「行くって、どこへ?」
陽子「先輩の家によ」
珠恵「えっ、どうして?」
陽子「どうしてもよ。絶対に連れてってよ。約束だからね」
珠恵「いやいや、でもそれは…」
陽子「いいじゃない。私も手伝いたいの。それで、今度こそ先輩に紹介してよ」
珠恵「もう、どうしたのよ。あっ、まさかお兄ちゃんのこと…」
陽子「そ、そんなんじゃないわよ。それより、珠恵はどうなのよ。あの先輩のこと好きだとか、そんなことないわよね」
珠恵「ないわよ。だって、お兄ちゃんだもん」
陽子「じゃあさ、訊くけど…。先輩って、彼女とかいるのかな?」
<つぶやき>憧れの人とお近づきになりたい。こんなチャンスはまたとありませんから。
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T:053「恋の恨み晴らします」
とある公園。ここは恋人たちの待ち合わせの場所。今日も多くの恋人たちが、恋する人を待ちわびていた。そして、この二人も…。
藍子「もう、おそいぃ。何してたのよぉ」
タカシ「悪い。ちょっと仕事が終わらなくてさ」
藍子「あたし、もう待ちくたびれたぁ。今日は、タカシのおごりだからね」
タカシ「なに言ってんだよ。いつも俺が…」
藍子「ねえ、あたしのこと愛してる?」
タカシ「何だよ。変なこと聞くなよ」
藍子「変なことじゃないでしょ。だって、今日も遅れてくるし…」
タカシ「だから、仕事だって言ってるだろ。お前みたいに、時間通り終わんないんだよ」
藍子「いいから、言ってよ。ちゃんとタカシの口から聞きたいの」
タカシ「こんなとこで言えるかよ。ほら、行くぞ」
タカシが行こうとするのを、腕をつかんで止める藍子。
藍子「待ってよ。ちゃんと言ってくれるまで、あたし行かないから」
タカシ「はぁ? 何だよ、めんどくせぇなぁ」
藍子「ちゃんと言って。言ってよ。あたしのこと愛してるって」
タカシ、藍子の手を振りはらい、いらつきながら、
タカシ「もうやめよ。俺、やっぱお前のこと愛してないわ」
藍子「えっ? それ、どういうこと?」
タカシ「だから、お前とは付き合えないって言ってんだよ」
藍子「どうして? どうしてよ。あたしのこと好きだって…」
タカシ「それは、お前と付き合ってるって、友だちに自慢(じまん)したかっただけだよ。でもな、お前の良いとこ顔だけだもんな。あとは最悪」
藍子「そんなこと…。あたしだって…」
タカシ「何があるって言うんだ。頭は悪いし、性格もお高くとまってて。奇麗(きれい)ってだけで、何でも許されるなんて思うなよ」
藍子「何よ…。タカシだって、他に女がいるんでしょ。あたし、知ってるんだから」
タカシ「それが何だって言うんだよ。お前に関係ないだろ」
藍子「関係あるわよ。あたし、別れないから。絶対に別れないからね」
タカシ「うるせぇ。もう二度と連絡してくるな。分かったか」
タカシ、藍子を突き飛ばして行ってしまう。ひとり残される藍子。
二人の様子をじっと見ていた男がやって来る。
「(優しく)大丈夫ですか? よかったら、お話し聞きますよ」
藍子「えっ、どなたですか?」
「あっ、申し遅れました。私、恋の恨みをすっきり晴らす、晴らし屋でございます。ただいまキャンペーン中でして、格安料金になっております」
<つぶやき>一体何をしてくれるんでしょう。復讐、それとも…。ちょっと気になります。
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T:052「自由恋愛禁止令」
自由恋愛が禁止されている未来。愛してはいけない人を愛した男が逮捕された。
取調室で訊問(じんもん)を受ける男。
「何がいけないって言うんだ! 俺は、ただ彼女のことを…」
取調官「君は、なぜこの法律ができたか知ってるだろ。結婚できない人を無くすためだ。それに、遺伝的にも優秀な子孫を多く残す。これは少子化が進む社会では必要な…」
「そんなの知るか! 好きな女と結婚できないなんて、そんな社会…」
取調官「君に残された道は二つだ。再教育センターへ行くか、収容所で強制労働につくか」
男、一瞬顔がこわばる。取調官はあくまでも穏やかに話を進める。
取調官「君と一緒にいた女性だが、再教育センターへ行くことに決めたそうだ」
「嘘だ。彼女がそんなこと言うはずが…。俺たち愛しあってるんだ!」
取調官「いやぁ、女性の方がしたたかだと思わないか。彼女は賢明(けんめい)な選択をしたわけだ」
男、頭をかきむしり困惑する。取調官はさらに続ける。
取調官「あっ、そうそう。彼女の婚約相手と私も会ったが、なかなかの好青年だったよ。きっと彼女のことを幸せにするだろう」
「どんな奴だ。彼女も会ったのか?」
取調官「もちろんさ。あの様子だと、彼女もすぐに社会復帰できるだろ。そしたら、幸せな結婚生活が始まるってわけだ」
「くそっ! 何でだよ。俺に言ったことは全部嘘なのか…」
取調官「君も、冷静になって考えてみるといい。少し、時間をあげよう」
取調官、部屋を出て行く。身動きひとつしない男。
しばらくして女が入って来る。男、女が話しかけるまでまったく気づかない。
「ねえ、どうして待てなかったのよ」
女、男の前に座る。男はうつむき女を見ようともしない。
「誰だ、お前。いいから、ほっといてくれ」
「そんなに、いい女だったの?」
「ああ。でも、もうそんなこと…」
「あたしよりも、いい女だった」
男、初めて女の顔を見る。男の顔に驚きの表情がうかぶ。
「あと一日待ってくれたら、あたしと会えたのに」
「あと一日? 何のことだ。俺には…」
「もう、どうしてそんなにせっかちなのよ。あたしほどいい女はいないのに。あなただって分かったでしょ」
「えっ? 何だよ。何を言ってるんだ…」
「あたしよ、あなたの婚約者は。でも、それもどうなるか分かんないけどね。あなたがもし収容所を選んだら、あたしの運命も変わっちゃうから」
「いや、そんなこと…。俺は、君を選ぶよ。だから、俺と結婚してくれ」
<つぶやき>恋愛が苦手な人が増えたから? もし、こんな世界になったらどうしましょ。
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T:051「手術室」
手術室。ナースが準備をしている。そこへ新人のナースが患者を運んでくる。無言で作業は続く。そこへ、執刀医が登場。ナースたちの顔に緊張が走る。
望月「では、これより内臓の入れ替えと、腕の接合手術を開始する」
ナースたち「はい」
望月「麻酔はかけてあるな」
ももえ「もう、バッチリです」
望月「では、ミュージック、スタート!」
一瞬の間。望月は紗英を睨みつける。
ももえ「紗英ちゃん、スイッチ入れて。ほら、そこのラジカセ」
紗英「あっ…、はい。すいません」
紗英、慌ててラジカセのスイッチを入れる。大音響でハードロックが流れる。驚いた紗英、スイッチを切ってしまう。
望月「何やってんだ。俺のテンションを下げるつもりか!」
ももえ「もう、先生。そんなに怒らないでください。彼女は初めてなんですから」
紗英「(おどおどと頭を下げて)すいません。あたし…」
ももえ「(紗英に)大丈夫よ。最初は誰だってこうなんだから。慣れるわよ」
ももえ、ラジカセのスイッチを入れる。また、大音響で音楽が流れる。その中で、望月のテンションはヒートアップしていく。
望月「メス!」
ももえ、大きなハサミを渡す。紗英、ぼう然と見ている。
望月「開くぞ。(紗英に)おい、ここを持って広げてろ」
紗英「(慌てて)はい。これでいいですか?」
望月「ふん、やれば出来るじゃないか。しっかり持ってろ」
手術は順調に進んでいった。そして、最後のひと針を縫い終わり、糸を切る。
望月「(満足そうに)よし。これで終わりだ」
ラジカセを止めるももえ。二人とも、一仕事終えた達成感でいっぱいになっている。
紗英「あの…。(聞きにくそうに)これって、いったい…」
望月「つまらんだろ、普通にやったら」
紗英「でも、何であたしたちこんな格好で…」
望月「コスプレは嫌いか? だったら、他の仕事を捜しな」
ももえ「店長、そんなこと言ったら可哀相でしょ」
望月「まわりを見てみろ。子供たちが楽しんでるだろ」
窓の外には、子供たちが何人も並んで顔を覗かせていた。
望月「みんないい顔してるじゃないか。俺たちは、夢を売る仕事をしてるんだ。(手術台の縫いぐるみを抱きあげて)こいつだって、また子供たちのところへ帰れるんだ」
感無量で涙ぐむ望月。ちょっと引いて見ている紗英。
<つぶやき>初めての仕事は戸惑うことばかり。でも、楽しいこともきっとあるはずです。
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T:050「カバに好かれた男」
どことも知れぬ場所。男が疲れきった足取りでやって来る。
「(うわごとのように)本当にいるんだ。いるんだよ、そこに…。そこに…」
男は後ろを振り返り、何かの気配に怯え、よろめき倒れ伏す。
いつの間にか、男の背後に女が立っていた。女はしばらく男を見つめていたが、
「どうしたんですか? あなた、こんなところで何をしているの」
「(ゆっくりと顔を上げながら、消え入るような声で)誰だ。誰かいるのか?」
男、後ろを振り返る。しばらくの間。女は、意味ありげに微笑む。
「あなたは、だあれ?」
「俺は…。――いいんだ。もう行ってくれ。俺にかまうな」
「でも…。あなた、少し変よ。普通じゃないわ」
「そうさ。俺は普通じゃない。そんなこと分かってる。もう充分…」
「あたしに出来ることはない?」
「(悲嘆に笑い)ハハハ…、君に何ができるんだ。そんな、きゃしゃな身体で」
「あたし、見た目よりは力はあるのよ。何も心配はいらないわ」
「お前も変わってるな。じゃ、俺の話を聞いてくれるか?」
「(優しく微笑み)ええ、いいわよ」
「俺には見えるんだ。そいつは、いつも俺の後ろにいて、俺のことを狙ってる」
「誰かに追われているの?」
「誰か…。――そいつは人じゃない! カバだよ、でかい口を開けた」
女の表情が一瞬変わる。が、すぐにもとに戻り、男はそれに気づかない。
「(絞り出すように)何で俺なんだ。俺が、何をしたって言うんだ」
「そう。あなたにはカバが見えるのね」
「いいさ、どうせお前も信じちゃ…」
「あたし、信じるわ」
女、男に手を差し出す。間。男、神にすがるようにその手を取る。男、ゆっくりと立ち上がる。見つめ合う二人。が、男の頭にまた不安がよぎる。
「(女の後ろに隠れ子供のように怯えて)いる。あいつが、こっちをにらんでる」
「心配しないで。あたしが助けてあげる」
男、力が抜けるようにひざまずく。女、男から離れて。
「あたし、飼ってたウサギが死んじゃって。でも、その子がね、あたしの前に現れて言うのよ。カバに好かれてる人を探してって」
「何だよ、それ…」
「(男を抱き寄せ)良かったわ。これで、あの子がまた戻って来てくれる」
男の顔に苦悶の表情がうかぶ。女、男から離れる。男の身体にナイフが刺さっている。
「(すべてを悟ったように)ああ…。ありがとう。これで、ぐっすり眠れるよ」
男、ゆっくりと崩れていく。女は、聖母のように男を見つめる。
<つぶやき>誰かのために、誰かが犠牲を払う。でも、本当にそれでいいんでしょうか。
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T:049「タイムスリップ」
現在は使われなくなった倉庫。その一角に、着物姿の女が縛られている。その近くには、痩せていて神経質そうな男1と、小太りで間の抜けた男2がいる。
男1「俺は金持ちそうな女の子を連れて来いって言ったんだ。(女の指さし)何だこれは?」
男2「そうなんだけど…。でもね、ほら、よく見てよ。まるで、お姫様みたいだろ」
男1「あのな、こんな女連れて来たら、あとあと面倒だろが。分かってんのかよ」
男2「でも、金持ちってのは間違いないよ。俺、訊いたんだ。あんたの家は金持ちかって」
男1「バカか。そんなこと訊いたら、いっぺんに怪しまれるだろ」
男2「言ったんだよ。私はお城に住んでるって。お付きの人が何人もいて…」
男1「そんな女、どこにいるんだ。こんなのな、ただのコスプレの歴女のバカ女だ」
猿ぐつわをされた女が、何かを言いたくてウーウー声をたてる。
男1「うるさい! 静かにしてないと、ただじゃすまないぞ」
男2「ダメだよ。恐がってるじゃないか。きっと、きつく縛りすぎてるんだ。ちょっと、緩めてやろうよ」
男1「もう、勝手にしろ」
男2「(女に)な、いいかい。騒いじゃダメだぞ」
女、ウーウー言いながら首を縦にふる。男2、猿ぐつわをはずしてやる。
「(気品のある声で)私を誰だと思っているの。こんなことをして、あなた達こそ…」
男1「黙れ! いいか、それ以上何か言ったら、どっかへ売り飛ばしてやるからな」
男2「えっ、ダメだよ。そんなことしちゃ、かわいそうだ」
男1「(男2に詰め寄り)お前がヘマしたからだ。金にならなきゃ、俺たち終わりなんだぞ」
「そんなに金子(きんす)が欲しいのか? なら、この縄を解きなさい」
男1「何だと。お前、何様のつもりだ。俺たちがその気になったらな…」
「いいか、よくお聞きなさい。父上にお前たちを家来に取り立てるよう、私からお願いしてあげます。きっと、父上は私の言うことを…」
男1「(笑って)この女、バカじゃないのか。そんな嘘、誰が信じると思ってるんだ」
男2「(男1に)なあ、とりあえず、連絡してみるのはどうだろ? きっと、こいつの親も心配してると思うんだ。きっと、俺たちに金をくれるさ」
男1「そうだな。それしかないか。(女に)おい、お前んとこの電話番号を教えろ」
「でんわばんごう? それは、何だ?」
男1「はぁ? 電話だよ。お前の親と連絡をとるんだ」
「なら、文(ふみ)を書きます。この縄をほどきなさい」
男1「電話もねえのか。どんな家に住んでるんだ」
「(凜として)早くなさい!」
男2「(驚いて)はい」(女の縄を解いてやる)
女、すかさず男2を押し倒し、そばにあった棒切れで、男たちを叩きのめす。
「さあ、お前たちは今から私の家来です。私のために、しっかり働きなさい」
男たち、女の気高さに圧倒されて、その場にひれ伏してしまう。
<つぶやき>いつの時代も、女性は強くたくましいのです。きっと、この先の未来でも…。
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T:048「ひとおし」
とある会社の資料室の前。入口で中の様子をうかがっている則夫(のりお)。そこへ、先輩の夏美(なつみ)が通りかかる。夏美はそっと後ろから声をかける。
夏美「(ささやくように)何してるの?」
則夫「(驚いて)わっ…」
則夫、振り返って夏美だと分かると、彼女を少し離れた場所へ引っぱって行く。
夏美「なに…、何なの。もう、どうしたのよ」
則夫「(落ち着きなく)いや、別に何もないですよ。先輩こそ、どうしたんですか?」
夏美「それは、こっちが訊いてるんでしょ。中に誰かいるの?」
則夫、資料室の方を見せないように、ぎこちなく壁になって、
則夫「いや…、なに言ってるんですか。誰も、いませんよ。絶対…」
夏美「あやしーい」
夏美、則夫の目を見る。則夫、視線をそらす。その隙に、夏美はすり抜けて、資料室へ走り中を覗く。
夏美「あっ……。佐々木さん?」
夏美、中に入ろうとする。それを止める則夫。また引っぱり出す。
則夫「ダメですよ、先輩」
夏美「もう、何なのよ。ねえ、彼女どうしたの? なんか、泣いてるみたいだったけど」
則夫「よく分からないんですが、神崎課長に何か言われたみたいなんです」
夏美「えっ。あの課長、また新人いじめかよ。まったく、しょうがないなぁ。で、あんたはなに覗いてたの」
則夫「いや、僕は…。ちょっと、心配で…」
夏美「まったく…。今がチャンスでしょ。彼女に、優しい言葉でもかけてやりなよ」
則夫「えっ、でも、僕なんかが…」
夏美「あんたさ、佐々木さんのこと好きなんでしょ」
則夫「(あわてて)ぼ、僕は、そ、そんな…」
夏美「彼女が入社してきた時から、目つきが違ってたもんなぁ。ずっと、彼女のこと見てるでしょ。みんな気づいてるわよ。あんたが佐々木さんのこと、どう思ってるか」
則夫「えっ…。そうなんですか?」
夏美「(からかうように)気づいてないのは、佐々木さんだけかもね」
則夫、大きなため息をつく。
夏美「なに落ち込んでるのよ。まだ、何も始まってないでしょ。さあ、行ってきな」
則夫「えっ、行くって?」
夏美「彼女のところに決まってるでしょ。今、気持ちを伝えないでどうするのよ」
則夫「でも、今は…」
夏美「しょうがないなぁ。だったら、彼女のそばにいるだけでもいいから。行きな」
夏美、則夫の背中を押して、資料室へ入れてしまう。彼女の方へ歩き出す則夫。
<つぶやき>何か決断するとき、誰かに背中を押してもらいたい。そう思うことって…。
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T:047「恋の方程式」
初秋の公園。緊張した面持ちの五郎がやって来る。少し離れてその後ろに、重い足取りの友里がついて来ていた。公園のベンチに座っていた春菜が、五郎を見つけて。
春菜「五郎さん!(と笑顔で手を振る)」
五郎はますます緊張して、ぎこちない歩き方になる。春菜の前に来ると、心臓が飛び出さんばかりに騒ぎ出す。春菜は、五郎の後ろに友里がいるのに気付いて動揺する。
春菜「どうして、友里がいるの?」
友里「(戸惑いながら)いや、あの、私は…」
春菜「あたし、今日は五郎さんとデートだって言ったよね。それ、知ってて…」
友里「だから、私…、来るつもりなかったの。って言うか…」
五郎「あの、ぼ、僕が呼んだんです。一緒に来てくれって」
春菜「えっ? 五郎さん、そんな…」
五郎「あの、春ちゃんと知り合えたのも、こいつのおかげだし…。やっぱり、ちゃんと立ち会ってもらおうかなって…。ハハハ…(ぎこちなく笑う)」
友里「あの…、私、もう行くね。その方が…(その場を逃げ出そうとする)」
五郎「(友里を追いかけ腕をつかみ、小声で)何だよ。いてくれるって言っただろ」
友里「(小声で)だって、私がいたら…。(春菜の方を覗き見て)もう、イヤだ」
五郎「(小声で)幼なじみだろ。少しは協力しろよ」
友里「(小声で)だって…。何で私が、あんたの告白に付き合わなきゃいけないのよ」
五郎「(小声で)犬に噛みつかれそうになったとき、誰が助けてやったんだよ」
友里「(思わず大きな声で)それって、小学生のときの話でしょ。なんで…」
春菜「(二人の側に来て)ねえ、二人で何やってるのよ」
五郎「いや、何でもないんです。こいつが変なこと言うもんだから…」
友里「私は、別になにも…」
春菜「(二人の間に割って入り五郎に甘えるように)ねえ、今日はどこへ行こうか?」
五郎「あの、その前に…。ちょっと、だいじな話が」
春菜「(笑顔で)なあに?」
五郎、友里の方を見て、ひとりで何度も肯く。友里は、いたたまれずに目をそらす。五郎、心を決めて春菜の前に立つ。口の中がカラカラになっている。
五郎「あ、あの…(声がうわずってしまう)」
五郎、小さく咳払いをする。気を取り直して、春菜の方を向く。
五郎「ぼ、僕と…。あの…、僕は、君のこと…」
突然、友里が二人の間に入り、五郎の口をふさぐようにキスをする。五郎は驚き呆然となり、されるがままになっている。
春菜「そんな……」(哀しみのあまり、涙があふれてくる)
春菜、その場から逃げるように走り去る。友里、我に返り春菜に叫ぶ。
友里「春菜! 私、そんなつもりじゃ…。ごめんね。ほんとに、ごめんなさい…」
<つぶやき>恋はいつの間にか、本人も気づかないうちに芽生えてしまうものなのかも。
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T:046「最終兵器」
とある私立病院の診察室のひとつ。看護婦が患者を案内して入ってくる。
先生「どうされました?」
先生、患者の顔を見て一瞬、息が止まる。患者、先生の前に座る。
看護婦「先生。お願いします」
先生「あ、ああ…。(患者と目を合わさずに)今日は、どうされました…」
患者「あの、先生。実は…、ご相談したいことがありまして」
先生「相談? えっと、あの…。(看護婦に)君、あれだ…」
看護婦「はい?」
患者「先生。あたし、そんなに魅力ありませんか?」
先生と看護婦、思わず患者の顔を見る。
患者「女性として、どうなのかなって…」
先生「いや、ええっと…(看護婦の方を見る)」
看護婦「あ…、はい。もちろん、そんなことは…」
患者「夫は、あたしのこと、まったく見てくれないんです。話をしていても上の空で…」
先生「えっと、そういうことでしたら、別の先生を…」
患者「休みの日なんか、うちでゴロゴロしてて、家のこと何もしてくれないんです」
先生「それは、仕事が忙しいからじゃ…」
患者「あたし、別に無理なこと言ってるんじゃないんです。ただ、せっかく二人でいるのに…」
先生「そういうことはですね、ご主人と話し合われた方が…」
患者「あたし、何度もそうしようとしました。でも、ぜんぜん…(涙ぐむ)」
先生「あのですね、ここは病院ですから…。他の患者さんもみえますし…」
患者「ここでも、私の話しを聞いてくれないんですか」
先生「そうじゃなくて…。(言葉を荒げて)場所をわきまえろよ」
看護婦「(たしなめるように)先生、そういう…」
先生「あっ…。いや、これは、あれで…」
看護婦「(患者に)すいません。まだ、お若い先生なので、失礼なことを…」
患者「いえ、いいんですよ。慣れてますから」
看護婦「えっ?」
先生「(看護婦に)あの、ここはいいから、君は、ちょっと、はずしてもらえないかな」
看護婦「何を言ってるんですか、先生。私がいないと…」
先生「大丈夫だから、もう、あれだ…、あの…」
患者「あたしは、別にかまいませんよ。いてもらった方が、いいかもしれません」
先生「(患者に)あのな、そういうこと言うなよ」
看護婦「先生、また」
先生「だから…。これは、あれで…」
患者「(おもむろに白紙の離婚届を出して)時間はかかりません。三分ですみますから」
<つぶやき>奥さんには感謝の気持ちを伝えましょう。夫婦円満の秘訣かもしれません。
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T:045「役者の悪夢」
とある劇場の舞台袖。ロミオの衣装を着た大山が立っている。そこへ、小道具を持った吉田が来る。吉田、大山に気づいて声をかける。
吉田「先輩、どこへ行ってたんですか? 舞台監督が探してましたよ」
大山「あっ、吉田くん…。ここはどこだ? 俺、こんなとこで何してるんだ」
吉田「もうすぐ幕が開きますよ。スタンバイして下さい」
大山「ちょっと待てよ。えっ、何が始まるんだ?」
吉田「なに冗談言ってるんですか。頑張ってくださいね、先輩」
大山「頑張るって、何を?」
吉田「ロミオですよ。先輩、あんなにやりたがってたじゃないですか」
大山「バカ。俺が、ロミオなんてやれるわけないだろ。だって、その役は…」
舞台のベルが鳴る。
吉田「本番まで、あと十分ですよ。舞台監督には、僕からOKだって伝えときますから」
吉田、そのまま暗闇に消える。
大山「ちょっと、OKのわけないだろ。俺、台詞だってまともに覚えてないんだぞ」
暗闇からティボルトの衣装を着た花沢が現れる。
花沢「(大山を見て)ふん、ずいぶん年寄り臭いロミオだな」
大山「花沢…。どうしてお前、ロミオじゃないんだ」
花沢「どうして。こっちが訊きたいですよ。先輩、演出になに言ったんですか?」
大山「いや、俺は何も…。そうだ。替わってくれよ、ロミオはお前じゃなきゃ」
花沢「イヤミですか。せいぜい頑張って下さい。俺、本気で行きますから、そのつもりで」
大山「何だよ。本気って?」
花沢、暗闇に消える。入れ替わりに、ジュリエット役の久美が来る。
久美「先輩、よろしくお願いします」
大山「あっ、久美ちゃん。(しどろもどろになり)いや、俺は…。こんな…はずは…」
久美「あたし、大山先輩とやれるなんて夢のようです」
大山「だから、そうじゃなくって…。お、俺なんかじゃ…」
久美「実は、あたし…。先輩の舞台を観て、女優になりたいって思ったんです」
大山「えっ、お、俺なんかの…」
久美「あたし、まだまだ未熟ですけど、先輩のような役者になりたいんです」
大山「そ、それは、どうかな…。お、俺なんかより…」
久美「あっ、すいません。本番前にこんなこと…。じゃ、よろしくお願いします」
久美、暗闇に消えていく。ひとりになった大山、おろおろして。
大山「どうすんだよ。こんなにハードルあがっちゃって。今さら、やめられないじゃないか。(暗闇に向かって)おーい、吉田くん。いないの? ちょっと頼みがあるんだけどさ」
暗転。居酒屋のざわめき。その中で、吉田の声が聞こえてくる。
吉田(声)「先輩、起きて下さいよ。もう、帰りますよ。ねえ、先輩!」
<つぶやき>役者になると、こんな夢を見ることがあるみたい。夢でもドキドキですね。
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T:044「未来を映す鏡」
住宅地の中にひっそりと建つ古びた洋館。門は固く閉ざされているのだが、その前には老若男女であふれていた。老婆が不機嫌な顔で、門の中から怒鳴り散らした。
老婆「さあ、とっとと行きな! こんなとこにいられちゃ、目ざわりなんだよ!」
集まっていた人たちは、ざわざわと文句を言いながら散って行った。それを不思議そうに見ていた女が二人。老婆の方に駆け寄ってきて。
すず子「あの、何かあったんですか?」
老婆「何にもないよ」
すず子「でも…」
明日香「(すず子の腕をつかんで)ねえ、もう行こうよ」
すず子「(明日香に)だって、あれだけ人がいたんだよ。絶対、何かあったんだよ」
老婆「(明日香の顔をじっくり見て)あんた、いい顔してるね」
明日香「(恥ずかしそうに)えっ、そんな…」
老婆「美人っていう意味じゃないよ。(微笑んで)あんた、自分の未来を知りたくないか?」
明日香「みらい?」
老婆「見せてやろう。入りな」
老婆は門を開ける。明日香はためらってすず子を見る。
すず子「面白そうじゃない。見せてもらおうよ」
すず子は明日香の背中を押し、入ろうとする。それを止める老婆。
老婆「あんたはお呼びじゃないよ。とっとと行きな」
すず子「いいでしょ。あたしにも見せてよ」
老婆「(すず子の顔を覗き見て)まあ、いいだろう。後悔しても知らないよ」
部屋の中は、どこか異国の匂いがただよい、別世界に迷い込んだよう。部屋の奥に、分厚いカーテンで仕切られた部分がある。
老婆「(すず子に)じゃ、あんたからだ。そこに入りな」
すず子は嬉しそうに、カーテンの中へ。しばらくして、げっそりした顔で出てくる。
すず子「あれが、あたし? そんなはずないわよ。あたし、絶対信じないから」
老婆「信じようと信じまいと、あれが今のあんたの未来だ。さあ、今度はお前さんだ」
明日香「えっ? あたしは…」
いやがる明日香を、カーテンの中へ押し込む老婆。しばらくして出てくる明日香。
すず子「(明日香に)大丈夫? 気にしなくていいんだからね」
明日香「私は大丈夫よ。だって、ただの鏡じゃない」
すず子「なに言ってるの? あたしの時は、未来の姿が映ってたのよ」
老婆「人の未来はどうにでも変わるもんだ。自分次第でね。今日をどう生きたかだ。(明日香に)だがお前さんは、人とは違う道を歩くことになるようだ」
明日香「違う道?」
老婆「(微笑んで)あんたは、必ずまたここへ来ることになる。そういう運命さ」
<つぶやき>未来は変えられる。でも、どうにもならない運命って、あるのかもしれない。
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T:043「命がけの合コン」
個室のある洒落た雰囲気のお店。男二人、合コンのメンバーがそろうのを待っていた。
神崎「(落ち着かない様子で)なぁ、あいつら遅いな。何やってんだ」
吉田「(にやつきながら)何だよ。モデルと合コンだからって、舞い上がんなよ」
神崎「(思いつめた感じで)俺、やっぱ止めとくわ」
立ち上がろうとする神崎を押さえる吉田。
吉田「なに言ってんだよ。お前、美人のモデルと合コンだぞ。こんなチャンス、二度と…」
神崎「でもな、やっぱまずいよ。もし、こんなことが…」
吉田「なにびびってんだよ。大丈夫だよ。前だって、バレなかっただろ」
神崎「あの時は、俺が細心の注意をはらってたからで…」
吉田「俺たちみたいなオヤジがだぞ、美人のモデルさんたちとお話ができるんだ。これはもう、奇跡なんだぞ。それを、セッティングした俺の力量に感謝しろ」
神崎「じゃあ、何で来ないんだよ。大河内も杉浦も、遅いじゃないか」
吉田「たぶんあれだ、仕事で遅れてんだ。もし来なかったら、俺たち二人で…」
神崎「お前はいいよ。離婚してんだから。でも、俺は…」
吉田「お前はそんなんだから、奥さんに頭が上がらないんだ。もっと、堂々としてろよ」
神崎「バレたんだ。きっとそうだ。それ以外、考えられない」
吉田「はぁ? 何だよそれ」
神崎「お前だって知ってるだろ。あの二人の奥さんと俺のかみさん、ツーカー仲だって。毎日、連絡取りあってんだぞ。俺も、早く帰らないと…」
吉田「ちょっと待てよ。(携帯電話を取りだし)いま、電話してみるから」
神崎「(引きつった笑いで)ハハハ、もうお終いだ。離婚ってことになったら…」
吉田「たかが飲んで帰ったぐらいで、そんなことになるはずないだろ」
神崎「お前は知らないからそんなことが言えるんだ。あいつなら、やりかねない。だってな、俺がちょっと通りすがりの美人に振り返っただけで、三日、口もきいてくれなかったんだ。それに小遣いだって、三百円カットだ」
吉田「三百円って、子どもじゃないんだから」
神崎「そうだよ。俺もそう思うよ。一日、五百円だったのに、昼飯も食えないよ」
吉田「マジかよ」
神崎「なあ、一緒に来てくれないか。そんで、うちのやつに説明してくれよ」
吉田「なに言ってんだよ。ここは、どうすんだよ。合コンだぞ」
神崎「合コンなんかいつでもできるだろ。そんなことより…」
吉田「冗談じゃないよ。俺が、この合コン仕込むのに、どんだけコネ使ったか…」
外から女の子たちの笑い声が聞こえる。そして、ドアが開き女の子たちが入って来る。部屋の中がぱっとはなやかになる。男たち、思わず見とれてしまう。
吉田「(満面の笑みで)あれっ、早かったですね。どうぞ、どうぞ、入って」
神崎「さあ、さあ、こちらへ。(顔が緩み)いやーっ、お待ちしてました」
<つぶやき>男という生き物は、懲りないのかもしれません。それが男の性(さが)なのかも…。
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T:042「どっちをとるの?」
風呂上がりの夫。コップの水を飲み干し、ケーキの箱を手に取り、その軽さに驚く。
「(箱の中を見て妻に)おい、俺の分のケーキは?」
「(食事の片付けをしながら)ないわよ」
「えっ、ないって? どこへやったんだよ」
「だって…。あなた、甘いもの、好きじゃないでしょ」
「なに言ってるんだよ。俺だって、食べることあるよ」
「あら、そうなの」
「まさか、おまえ…」
妻はにっこり微笑み、お腹をさする。
「何でだよ。俺は、あのケーキを買うために、五日も並んだんだぞ」
「(甘えるように)また、買って来てね」
「冗談じゃないよ。やっとの思いで、今日こそ食べられるって…。それを」
「たかがケーキひとつで、そんなに怒ることないでしょ」
「あのケーキはな、特別なんだよ。有名なパティシエが作ったやつで、なかなか買えないんだ。俺の前に並んでた人で売り切れってこともあったんだから」
「(とぼけて)あら、そうなんだ。知らなかったわ」
「嘘つけ。おまえが知らないわけないだろ!」
妻は悲しげな表情になり、椅子に崩れるように座り、顔をふせる。嗚咽が漏れる。
「また…。そうやって泣けば、俺が許すとでも思ってるのか」
「(顔をあげて夫を睨み)あたしと、ケーキと、どっちをとるの?」
「(一瞬たじろぎ)そ、そんなこと……」
妻、夫をじっと見つめる。夫は妻のことを愛していた。
「だから……、おまえだよ。(恥ずかしそうに)そんなこと、訊くなよ」
妻は、してやったりと微笑み、夫の胸に飛び込み。
「ありがとーぅ」
夫は、妻を引き離す。割り切れない気持ちがあるので。
「じゃあな、俺と、ケーキと、どっちが…」
「そんなこと、決まってるじゃない」
妻は言葉を切り、夫の顔を見つめる。夫は、妻の一言を期待を込めて待つ。
「(満面の笑みで)ケーキよ」
夫、期待を裏切られ呆然とする。妻は、夫から離れる。
「(やり切れない思いで)何でだよ。俺のこと好きじゃないのか?」
「(振り返り)それとこれとは違うわ」
「でも、さっきおまえ…」
「あなた。あたしがあのケーキを食べるために、どれだけダイエットしてるか知らないでしょ。あたしも頑張ってるんだから、あなたも頑張って」
「そんな……」
<つぶやき>何だかんだ言っても、この二人愛し合ってるんでしょうね。あきれちゃう。
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T:041「ままならぬ恋」
とある会社の社食。食事を終えて、まなみが溜息をつく。同僚の久美が心配して。
久美「どうしたの? 今日は何だか元気ないわね。心配ごとでもあるの」
まなみ「うぅん…。(真剣な顔で)ねえ、聞いてくれる?」
久美「いいわよ」
まなみ「実はね…、昨夜、告られた」
久美「ほんと。(嬉しそうに)よかったじゃない。これで、やっとまなみも…」
まなみ「それがね…。(溜息をつく)」
久美「何よ、そんなに悩むことじゃないでしょ。でもさぁ、あんた、彼氏っていたの?」
まなみ「いないわよ。そんな人…」
久美「えっ? じゃ、何なのよ。告られたって」
まなみ「昨日、家に帰ったら、玄関で待ち伏せされて…」
久美「やだ。それ、ストーカーじゃない」
まなみ「違うわよ。そんなんじゃないの。彼は、幼なじみで…」
久美「何だ。それを先に言いなさいよ。じゃあ、幼なじみに告白されたのね」
まなみ「そう。でも、彼とは小さい頃から兄弟のようにしてて。そんなこと言うなんて…」
久美「でも、いいんじゃないの。お互い気心がわかってるし」
まなみ「だって、突然よ。あたし、そんなふうに思ったことないのに」
久美「まあ、それはあるかもね。近すぎて、恋愛対象にならないってことか」
まなみ「あたしには、お兄ちゃんって感じなの。だから、恋人としては考えられない」
久美「でもさぁ、嫌いじゃないんでしょ」
まなみ「それは、そうだけど…」
久美「じゃあ、これから恋愛対象として考えてみたら。きっとその人、前からあんたのこと好きだったのかもね。あんたさ、そういうとこ鈍いんだから」
まなみ「そんなことないわよ」
後ろの席に座って聞いていた先輩の純子が、唐突につぶやいた。
純子「やめときなよ、そんな人。不幸になるだけよ」
久美「でも先輩、よく知ってる人の方が…」
純子「そうかしら。そんな人はつまらないわよ。私の前の旦那がそうだったから」
まなみ「前の旦那?」
純子「なんて言うかな、どきどき感がないのよ。胸がざわざわするような、ときめきって言うの。そういうの、必要でしょ」
まなみ「そうですよね」
純子「でもね、ワイルド過ぎるのも考えものよ。私だって頑張ったのよ。何とかついて行こうと。もう、その時は必死だったわ。でも、続かなかったの。私には無理だった!」
久美「えっと、それって…」
純子「あ、これ前の前の旦那ね。今、どこで何してるのか。まあ、それがあったから、次の旦那は近場で見つくろって、失敗したわけよ。あんたは、慎重に相手を選びなさい」
<つぶやき>結婚って、相手のことをまるっと考えて…。とても、勇気のいる決断かも。
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T:040「読めない女」
一人暮らしの男の家。夜、男が帰ってくる。玄関を開けると、女が待っていた。
「(三つ指ついて)お帰りなさいませ。今日も、お仕事、お疲れさまでした」
「(驚き、あきれて)なぜだ。なぜここにいる」
「お食事にしますか? それとも、お風呂?」
「いい加減にしろよ。どうやって入ったんだ」
「(ニコリと笑い)それは、合い鍵がありますから」
女は首にかけている鍵を見せる。男の形相が変わり女を追いかける。キッチンに逃げ込む女。男は何とか女を捕まえて、椅子に座らせる。
「(息を切らしながら)いいか、よく聞け。君と私は、何の関係もないんだ」
「関係って…。もう、いやだ」
「なに恥ずかしがってんだ。君は会社の後輩で、それ以上何もない」
「だって。あたしたち、一緒に寝たじゃないですか。あなたが、あたしをここに…」
「ちょっと待て。それは、違うだろ。君が飲み会で酔いつぶれて、それで仕方なく」
「もう、いいんですよ。あたしは、別に…」
「よくない! 仕方なかったんだ。他の奴は先に帰っちゃうし。君をあのままにしておけないだろ。君はまったく起きないし。君の家は知らないし。それで、ここにつれて来たんだ。寝たのだって、別々の部屋じゃないか…」
女は夢中でしゃべっている男を放っておいて、ご飯をよそったり食事の支度を始める。男、やっとそれに気づいて。
「何してるんだよ」
「(支度をしながら)あなた、早く手を洗ってきて下さい」
「だから…。(女の腕をつかみ)もういいから、帰ってくれ(引っぱって行く)」
「痛いです。やめて下さい。はなして…」
「(手を離し)君は、僕の妻でもなければ恋人でもない。いつまでここにいるつもりだ」
「いつまでって…。ずっとですよ。あたしはあなたの…」
「やめてくれ。それ以上言うな」
「もう、いいじゃないですか。お食事にしましょ。お腹すいたでしょ(キッチンへ)」
「だから…(女を追いかける)」
「あたし、いい奥さんになりますから。心配しないで下さい」
「(あきれて)はぁ? どこがだ。どこをどう見れば、いい奥さんに見えるんだ」
「それは…。ほら、顔だって美人じゃないけど、そこそこじゃないですか」
「顔のことはどうでもいいんだ。見てみろよ。食事はスーパーで買ってきた惣菜だろ。それに、何だこの散らかりようは。ここは、ゴミ屋敷か」
「これは、あとで片付けますから。あたし、ぜんぜん気にしませんから」
「前は、こんなんじゃなかったんだ。もっと、きちんと片付いてて…」
「もう、一週間ですよ。そろそろ慣れて下さい。あたしたち、ずっと一緒なんですから」
<つぶやき>女の罠にはまっちゃったのかな。でも、何か憎めない娘だと思いませんか?
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T:039「幸せを呼ぶ猫」
小さな島にある小さな村。家の間をぬうように続く小道。二人の女が歩いている。
佳奈江「ねえ、ほんとにいるの?」
恵子「いるわよ。なんたって猫島よ。このガイドブックにだって、写真が載ってるわ」
佳奈江「でも、一匹も見つからないじゃない。あたし、この旅行にかけてるんだからね」
恵子「大丈夫だって。この島の猫は幸せを呼ぶって、ちゃんと書いてあるわ」
佳奈江「あーぁ。あたしこのままだと、ほんと、生きていけないわ」
恵子「そんなこと言ってると、幸せが逃げちゃうぞ」
佳奈江「やめてよ。会社がつぶれて失業して、これ以上、何があるって言うの」
恵子「じゃ、早く探しましょ。仕事に恵まれる猫」
佳奈江「でも、ほんとにいるの。そんな猫」
恵子「いるわよ。ちゃんと書いてあるもの。それも、写真付きよ(ガイドブックをめくる)」
佳奈江「(一人言)やめた方がよかったかな。貯金使っちゃったし、来月の家賃どうしよう」
恵子「(本を見せて)ほら、これが金運に恵まれる猫で、こっちのが子宝に恵まれるやつ。それで、こっちのが開運猫で、これが健康猫…」
佳奈江「もういいから。探すわよ。あたしの人生が掛かってるんだから」
佳奈江、必死になって探し回る。10mほど先の道に、猫がひょっこりと出て来る。
恵子「いた。(猫を指差し)ほら、佳奈江」
恵子は猫に近づこうとする佳奈江を止めて、ガイドブックと見較べる。
恵子「間違いないわ。あれが、仕事に恵まれる猫よ。ゆっくり近づいて、触るのよ」
佳奈江「わかってるわよ。(猫に近づいて行く)お願い、逃げないでよ。いい子だから…」
あと1mのところで猫が逃げていく。その場にへたり込む佳奈江。
佳奈江「(べそをかき)何でよ。あたしの仕事が……」
恵子「(側にしゃがみ)そんな血走った目で近づくからよ。きっと、殺気を感じたのね」
佳奈江「何よ、他人事だと思って…」
恵子「大丈夫よ。明日もあるじゃない。私たちには、まだ時間があるわ」
佳奈江「だって…。うーッ」
恵子「まず、宿に入りましょ。それから、作戦会議よ」
佳奈江「宿って? どこに泊まるのよ」
恵子「(指差して)ほら、あの山の上にあるお寺よ」
佳奈江「えーっ! そんなの聞いてないわよ」
恵子「そうだった? いいとこよ。たぶん…。さぁ、行きましょ」
二人が歩き出すと、脇腹にハートのブチがある猫が現れる。二人は立ち止まる。
恵子「嘘でしょ。まさか、こんなに早く見つかるなんて…」
佳奈江「どうしたのよ」
恵子「佳奈江、動かないでよ。あの成婚猫は、私のものだからね」
佳奈江「そんな猫がいるなんて聞いてないわよ。(恵子を押しのけて)あたしが先よ」
恵子「(佳奈江を捕まえて)やめなよ。また、逃げちゃうでしょ」
<つぶやき>猫には不思議な力があるかもしれません。くれぐれも、嫌われないように。
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T:038「変なこだわり」
とある遊園地の入口。大学のコンパで知り合った松井と桃子。今日は初めてのデートの日。松井が先に来て待っていると、人混みをぬって桃子が現れる。
桃子「ごめんなさい。遅れちゃって」
松井「いや、ぜんぜん。僕も、さっき来たところだし」
桃子「もう、孝志がぐずぐずしてて」
松井「えっ、タカシ?」
少し離れたところに男の子が立っていた。桃子は、男の子を引っぱって来て。
桃子「この子、あたしの弟なんです。もう高校生なんだけど、いつまでも子供で」
孝志、ふて腐れながらほんの少し頭を下げる。
桃子「こら。ちゃんと挨拶しなさい。(松井に)もう、礼儀も知らなくて」
孝志「(小声で)ちわっ」
松井「どうも…、松井です。(桃子に)でも、どうして?」
桃子「さあ、行きましょ。あたし、乗りたいのあるんです」
桃子、先に行ってしまう。後に残された二人、仕方なくついて行く。歩きながら。
松井「あの、君たち、仲が良いのかな?」
孝志「(まったく無関心に)別に…」
松井「(気まずく)ああ…、そうなんだ。でもさ、何で午後三時なんだろうね。今日は休みだし、朝からでも…」
孝志「あのさ、そういうことは姉貴に言ってよ」
松井「まあ、そうなんだけどね。君の姉さんのこと、まだよく分からなくて」
孝志「気をつけた方がいいよ。姉貴、見た目は良いけど、性格は最悪だから」
松井「えっ? それは、どういう…」
桃子が引き返して来て、
桃子「何してるんですか? 早くしないと、乗れなくなっちゃいます」
松井「あの、今度からさ、もっと早く待ち合わせしない?」
桃子「三時からじゃないと、だめなんです。あたし、3がラッキーナンバーだから」
松井「ラッキーナンバー?」
桃子「そうですよ。今日は3日だから、今度のデートは13日になります」
松井「えっ、何で?」
桃子「3のつく日にデートすると、幸せになれるんです」
松井「デートって…。だって、三人じゃない」
桃子「三人じゃだめですか? あたし、デートはいつも三人なんです」
松井、孝志の方を見る。孝志は目をそらす。
松井「ちょっと待ってよ。それ、おかしくない?」
桃子「(平然と)いいえ。もう、行きましょうよ。あたしたちには時間がないんです」
桃子、松井の腕を引っぱり、どんどん歩いて行く。孝志、溜息をつきついて行く。
<つぶやき>こんな姉思いの弟がいたら最高です。でもこの二人、いつまで続くのかな。
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T:037「悲しい誕生日」
○ ななみのアパート
 夜。ドアを叩く音。ドアを開けると、男が立っていた。
哲也「よっ。元気だったか?」
ななみ「哲也…。どうしてたのよ。全然、携帯つながらないし」
哲也「わるいわるい。(部屋に上がり込み)何か、仕事が忙しくてさぁ」
ななみ「でも、電話ぐらいしてくれたって…」
哲也「(座り込み)やっぱ、ここがいちばん落ち着くよなぁ。(寝転がる)」
ななみ「もう……。食事は? まだなんでしょ」
哲也「うん。何かある?(起き上がる)」
ななみ「あり合わせのものしかないわよ。来るなら、ちゃんと連絡してくれなきゃ」
哲也「(冷蔵庫を覗き)おっ、ケーキ、見っけ」
 哲也、ショートケーキをがぶりとほおばる。
ななみ「あっ、それは…」
哲也「なに? いいだろ。ケーキぐらい食わしてくれたって」
ななみ「……。そりゃ、いいけど…」
 哲也の携帯が鳴る。携帯を見て、着信メールを読む。
哲也「わるい。俺、ちょっと仕事行かなきゃ」
ななみ「仕事って、これから?」
哲也「うん。それでさ、ちょっと金貸して。タクシーで行かないと、間に合わないんだ」
ななみ「ええ、いいわよ。いくらいるの?」
哲也「そうだなぁ、五万くらい」
ななみ「(財布を見て)そんなにないわよ」
哲也「(財布を覗き込み、素早く札を抜き取り)これだけでいいよ」
ななみ「えっ、そんな…」
 哲也、「じゃあな」と言って、足早に出て行く。一人、溜息をつくななみ。
○ 同じ、ななみのアパート
 数時間後の深夜。また、ドアを叩く音。ドアを開けると、女が立っていた。
「(怒って)哲也はどこ? ここにいるんでしょ」
ななみ「えっ、何ですか?」
「(睨みつけ)あなたね。あの人の浮気相手って」
ななみ「浮気?」
「私、哲也と婚約してるんです。あなた、今すぐ別れなさい」
ななみ「婚約? そんな…」
「あの人に、どれだけお金つぎ込んできたと思ってるのよ。この、泥棒ねこ!」
女は、怒りにまかせてななみの頬を叩く。そして、ドアを勢いよく閉め、行ってしまう。ななみは立ち尽くし、
ななみ「何なのよ。(涙がこみ上げてきて、その場に座り込む)もう……、なんで…」
<つぶやき>尽くしても、その思いが伝わるとは限らない。くじけないで、生きていこう。
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T:036「思い出せない」
智子の部屋。彼女は頭を抱え、困り果てていた。そこへ親友の紗理奈がやって来る。
紗理奈「ねえ、どうしたのよ。緊急事態だけじゃ、分からないでしょ」
智子「(助けを求めるように)ねえ、彼が帰ってくるの」
紗理奈「そう…。それがどうしたの?」
智子「だから…。あたし、彼の顔…、分からない」
紗理奈「えっ、何よ? なに言ってるの、智子」
智子「彼ね、一週間前から東北に出張に行ってるの。それで…、彼、どんな顔してた?」
紗理奈「私に訊かないでよ。一度も会ったことないでしょ」
智子「えっ、そうだった?」
紗理奈「そうよ。私たち親友でしょ。紹介ぐらいしてくれたっていいじゃない」
智子「ごめん…」
紗理奈「で、何なのよ。泣きそうな声で電話してきてさぁ」
智子「だから、彼の顔が思い出せないの」
紗理奈「はぁ? あんた、彼とつき合い始めて、三カ月ぐらいはたってるはずよね」
智子「ええ、そのくらいかな」
紗理奈「で、なんで顔が分からないのよ」
智子「だって、顔よりも……」
紗理奈「まさか、プレゼントとか、そっちの方に目が行ってるわけ」
智子「とっても良い人なのよ。優しくって、何でもしてくれるの」
紗理奈「もう、信じられない。そんなことで私を呼び出したの?」
智子「だって、紗理奈しかいないんだもん。ねえ、どうしよう」
紗理奈「知らないわよ。そんなこと」
智子「彼ね、今夜、駅で会おうって、電話してきたの」
紗理奈「(面倒臭そうに)写真とかあるでしょ。それを見ればいいじゃない」
智子「彼ね、写真嫌いなの。ちゃんと写ってるの、一枚もないのよ」
紗理奈「もう、何なのよ。それじゃ、駅で待ってれば、彼の方が見つけてくれるわよ」
智子「ほんとに?」
紗理奈「心配ないって」
智子「でも、彼も、あたしのこと分からなかったらどうするの?」
紗理奈「そんなことないわよ。彼、智子のこと好きなんでしょ」
智子「うーん…。たぶん…?」
紗理奈「なによ、それ」
智子「だって、好きだとか、そういうこと一度も言ってくれないし…」
紗理奈「あんたたち、どういうつき合い方してんのよ」
智子「普通よ。別に特別な関係じゃないし」
紗理奈「恋人は、特別な関係でしょ。もう、なに言ってるのか分かんない」
<つぶやき>いろんなつき合い方があるのかも…。好きな人の顔、ちゃんと見てますか?
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T:035「あれそれ、なに?」
夫婦と娘が食卓を囲み、夕飯を食べている。一家団欒のひととき。
「(母に)おい、あれを取ってくれないか」
「はい、あれね。(娘に)ねえ、お父さんにそれ取って」
「……(ソースを父の前に置く)」
「ああ、ありがとう(ソースをかける)」
「ねえ、あれ、買って来てくれた?」
「あれな。売ってなかったぞ」
「そんなはずないわよ。お隣の奥さん、あそこであれしたって言ってたんだから」
「そんなこと言ってもな…」
「お店の人に、ちゃんと聞いてみたんですか」
「でも、あれだぞ。そんなこと聞けるかよ」
「じゃあ、あそこならあるんじゃないかしら」
「あそこまで行くのか? ちょっと遠いぞ」
「いいじゃないの。会社の帰りに寄ってみてよ。いい運動になるわよ」
「そんなに言うんなら、母さんが行けばいいじゃないか」
「だって、あたし忙しいし。お父さん、お願いします」
「分かったよ。じゃあ、あれのとき、ついでに行って来るよ」
「あれって、ずいぶん先じゃありませんか。そんなに待てないわ」
「じゃあ、母さんがあれのときに、あれすればいいじゃないか」
「あなたはいつもそうですね。私にばかり押しつけて」
「別に押しつけてないだろ。俺は、あれのときに行くって言ってるじゃないか」
今まで黙って食事をしていた娘が、たまりかねて口を出す。
「私が買って来てあげようか?」
突然言われたことに驚き、二人で娘を見つめる。
「(ビクッとして)なによ…。私、変なこと言った?」
「(真顔で)だめだ。お前に、そんなことさせるわけにはいかん」
「そうよ。あなたには、まだ早いわ」
「なに言ってるのよ。私、もう高校生よ。いつもスーパへ買い物に行ってるじゃない」
両親は顔を見合わせてから、黙って食事を続ける。
「なんなのよ。せっかく私が行ってあげるって言ってるのに」
「今度ね。今度のとき、頼むから…」
「(母に)ねえ、あれってなんなの? さっきから、なに話してるのか分からない」
「ああ…、それはね…」
「(止めるように)母さん」
「もう、あれとかそれとか。ちゃんと名詞で話してよ。そんなことじゃ、二人ともぼけちゃうわよ」
「なに言ってるんだ。父さんは、そんな歳じゃないぞ」
<つぶやき>あれって何なのでしょうか? あなたはあれとかそれ、使ってませんか?
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T:034「バックアップ」
とあるレストラン。女友だち二人が食事をしている。会話が途切れたところで。
麻衣「ねえ、実はね…。あたし、好きな人ができたかも」
さや「えっ、ほんと! あーぁ、よかったじゃない」
麻衣「でもね、まだ…」
さや、携帯電話を出してメールを打ちはじめる。
麻衣「ねえ、何してるの?」
さや「みんなにも報告しなくちゃ」
麻衣「ちょっと待ってよ。まだ誰にも言わないで」
さや「(打ちながら)だって、お祝いよ。みんなでぱーっと…」
麻衣「だから、まだそこまで行ってないっていうか…」
さや「(打つ手を止めて)えっ、どういうこと?」
麻衣「まだ、相手の気持ちもわからないし、あたしか勝手に思ってるだけって…」
さや「(続きを打ちながら)大丈夫よ。私たちでバックアップしてあげるから」
麻衣「いいよ。もう、そんなことしなくても」
さや「そんなわけにはいかないでしょ。あなただけよ、彼氏がいないのは」
麻衣「だから、いいってば」
さや「私たち、もうすぐ三十よ。少しは結婚のこと真剣に考えないと。そうでしょ」
麻衣「わかってるわよ。でも、前みたいに…」
さや「ああ、あれね。(思い出し笑い)あれは、麻衣がもたもたしてたからじゃない」
麻衣「でも、あたしが告白する前に、みんなでよってたかって…」
さや「あの男はダメよ。私たちは話をつけようとしただけなのに、逃げ出しちゃって」
麻衣「それは…。あんな大勢で、彼のこと…」
さや「次は大丈夫よ。私たちだって学習してるから。前みたいにはならないわ」
麻衣「ほんとに、お願いだから。余計なことしないで」
さや「(打ち終わって送信)集合かけといたわよ。で、今度はいつ会うの?」
麻衣「えっ? いつって、それは…。だって、あたしたち別に、付き合ってるわけじゃ…」
さや「そうか。じゃあ、そいつの名前教えて。それと、写メを送ってよ」
麻衣「だから…」
さや「ほら、早くして」
麻衣「(仕方なく)やまだ……。やっぱり、いいよ!」
さや「山田ね。携帯貸して。写真、撮ってあるんでしょ」
麻衣、首を振る。さや、手を突き出す。
さや「そんなわけないでしょ。告白は出来なくても、隠し撮りはしてたよね」
麻衣「うーん、でも…(迷ったあげく、携帯を渡す)」
さや「大丈夫よ、私たちにまかせて。麻衣のこと好きになるようにもっていくから。もし、他に女がいても何とかしてあげるわよ」
<つぶやき>こんな頼もしいバックアップは、どうなんでしょう。ほんとに、大丈夫?
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T:033「リストラ担当部長」
とある大企業の営業部。部長らしき男がお茶をすすり、他の社員たちの様子を見ている。仕事が一段落した女子社員たちがおしゃべりを始めた。
好美「あのォ、神崎部長っていつもああなんですか?」
さやか「ああって?」
好美「書類に判を押すだけで、誰かに指示をすることもないし」
厚子「あなたは、まだ来たばかりだから不思議に思うかもね。わたしもそうだったから」
さやか「ほんと、いつもお茶をすすってるし。あれで仕事してるのかって思っちゃうよね」
厚子「でもさ、あたしの聞いたところでは、かなりのやり手みたいよ」
好美「えーっ、ほんとですか?」
さやか「私も聞いたことある。何億っていう商談をまとめたとか…」
好美「あの部長がですか?(部長の方を覗き見て)そんなふうには見えないですけど」
厚子「人事部にいる友達に聞いたんだけど、神崎部長って経理や総務、それに人事部にもいたんだって。それに、専務や常務とため口で話してるのを見たことあるって」
さやか「それホント? でも、同期ってことはないわよね」
厚子「そこが不思議なのよ。年齢からいったら、部長の方がぜったい年下のはずよ」
好美「でもそんなすごい人が、なんで営業四課にいるんですか?」
さやか「そうよね。ここは営業部の吹き溜まりだからね」
好美「何か、やっちゃったんですよ。それでここに飛ばされた、とか」
厚子「それはないわ。そんな人が専務とため口なんかで話さないでしょ」
好美「そうですよね」
さやか「ねえ、部長って人事部にもいたんだよね」
厚子「それは間違いないわよ。人事部長がそう言ってたんだって」
さやか「じゃあ、あれしかないわね」
好美「えっ、なんなんですか?」
さやか「ほら、五年ぐらい前だったかなぁ。うちの会社、営業不振の時があったでしょ」
厚子「ああ、あったわね。あたしはまだ入社したてで、詳しいことはわからなかったけど」
さやか「私、その頃、庶務にいたの。で、妙な噂があったのよ」
厚子「噂って?」
さやか「リストラ部っていうのが新設されて、社員一人一人の査定を極秘でしてるって」
好美「極秘?」
さやか「その頃ね、庶務で何人か突然退職した人がいたの。いま考えると、神崎部長、ちょくちょく庶務課に顔だしてたのよ。きっと、情報収集してたんだわ」
厚子「それじゃ、リストラ担当部長ってこと?」
好美「でも…、でも、今は違いますよね。だって、だって…」
さやか「あなた、なに慌ててるのよ」
好美「あたし、昨日、ミスしちゃったんです。あたし、首になっちゃうんですか?」
<つぶやき>突然肩を叩かれて、もういいよって言われたら…。あなたならどうします?
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T:032「招福茶」
○ とある会社のオフィス
 社員たちが忙しそうに働いている。
榊原「あなた、まだそんなことしてるの」
百合恵「すいません。もう少しで終わりますから」
榊原「それ終わったら、この書類破棄しといて。お願いね(書類の束を置いて行く)」
百合恵「はい。わかりました」
神崎「ねえ、これコピーしてくれない。5部でいいから」
百合恵「でも、あたし…。これが、まだ…」
神崎「急ぎなんだよ。ここに置いとくから、頼んだよ」
百合恵、慌ててしまい大切な書類をシュレッダーに入れる。神崎がそれに気づいて。
神崎「バカ、何やってるんだよ。それは俺の書類だろ!」
百合恵「えっ…。(気づいて)あっ、すいません。あたし…」
神崎「何やってんだよ。コピーもできないのか。もういいよ。自分でやるから」
百合恵「すいません」
部長「おい。誰かお茶を淹れてくれないか。大事な取引先の社長が見えたんだ」
榊原「はい。すぐ持って行きます。(百合恵に)あなた、お茶を淹れて」
百合恵「あたしがですか?」
榊原「あなた、それぐらいしかできないでしょ」
百合恵「はい、すぐに…」
○ 同じ会社の応接室
 百合恵が呼ばれてやって来る。
社長「君かね、お茶を淹れてくれたのは」
百合恵「(恐る恐る)はい。あたしですが…」
社長「ちょっと訊きたいんだがね、このお茶はどこのお茶かね?」
部長「社長、このお茶はですね…」
百合恵「(突然)すいません。実は、来客用のお茶を切らしてしまって…」
部長「何だって! それじゃ、これはいつも飲んでいる特売のお茶なのか」
百合恵「ごめんなさい(頭をさげる)」
社長「(笑いながら)いや、そうか。あなたは大したものだ。こんなにうまいお茶を淹れられるなんて。どうかね、秘書として、私の所へ来てくれないか?」
百合恵「えっ?」
部長「社長、この子はですね、とてもそのような…」
社長「わかっとるよ、手放したくないことは。しかしだね、どうだろう出向ということで」
部長「しかし…」
社長「心配せんでもいい。ここの社長には、ちゃんと話をつけておく。(百合恵に)君、明日から来てくれるね。いや、楽しみが一つ増えた。よろしく頼むよ」
<つぶやき>何か得意なことを見つけよう。もしかすると幸せが転がり込んで来るかも。
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T:031「一緒にいる理由」
夕食後のくつろぎのひととき。それは、夫のちょっとした疑問で始まった。
「(お茶をひとくちすすり)なあ。俺たち、何で一緒に住んでるんだろう」
「(片付けを終えて、夫の前に座り)何よ。突然、変なこと言っちゃって」
「いや、何だろうね。俺たち、一緒に住む理由があるんだろうか?」
「(お茶をすすり)あたしたち、夫婦ですよ。一緒に住むのは当たり前じゃない」
「そうなんだよな。でもさぁ、子供たちも独り立ちしたし…」
「あなた、離婚したいんですか?」
「そうじゃないさ。そういうことじゃなくて、俺たちが一緒にいる理由さ」
「そんなこと急に言われても。思いつかないわ」
「そうだな。(お茶をすすり)お前、俺のこと愛してるか?」
「やですよ。そんなこと…。ねえ、どうしたの? 変ですよ」
「俺は、お前のことを愛してるのかな?」
「あらっ。あたしのこと愛してないんですか?」
「どうなのかなぁ。昔は、愛してた気がするんだけど」
「そうですね。あたしたち、子供のことで手一杯でしたからね」
「そうだな。俺、子供のために、頑張って働いたよな」
「あなただけじゃないですよ。あたしだって必死でしたから」
長い沈黙。それぞれ昔のことを思い出しているのか。
「なあ、俺たち昔に戻らないか?」
「えっ?」
「もう一度、あの頃に戻ってみようよ」
「あの頃って?」
「ほら。初めて二人が出会ったときから、もう一度はじめるんだ」
「何を言ってるんですか。子供じゃあるまいし」
「いいじゃないか。行ってみようよ。俺たちが初めて会った場所に」
「あなた、ちゃんと覚えてるんですか?」
「もちろんさ。あれはたしか、大学のコンパか何かで…」
「違いますよ。あたしたち、図書館で会ったんですよ」
「あれっ。そうだったか?」
「そうですよ。もう、いい加減なんだから」
「じゃあ、明日、行こうよ。行けば、ちゃんと思い出すさ」
「でも、もうないかもしれませんよ。昔のことですから」
「ないわけないさ。図書館だぜ。つぶれるわけないだろう」
「移転してるかもしれませんよ。それとも、建て替えられているかも」
「それでもいいさ。その場所に行くことに、意味があるんだ」
「そうですね。じゃ、別々に行きましょう。向こうで、お互いを見つけるの」
「それはだめだよ。外じゃ、お前のこと見つけられない」
<つぶやき>家にいる時の奥さんしか見てないと、外ですれ違っても気づかないかもね。
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T:030「透明風呂敷」
とある研究室。いろんな装置が置かれていて、雑然としている。女が入ってくる。
つばさ「(ドアから顔を覗かせて)ねえ、いるの?」
部屋の奥、見えないところから男の声がする。
一郎「ああ。入って来いよ」
つばさ「(入りながら)何なのよ、あの貼り紙。無断入室禁止なんて。それに、急に呼び出して。私が、何度電話しても出ないくせに…」
部屋の中にいるはずの一郎の姿がなく、つばさは辺りを見まわす。
つばさ「もう、どこにいるのよ。隠れてないで出て来なさい」
一郎「僕なら、ここにいるよ。君の目の前」
つばさ「えっ?(突然、鼻をつままれ)きゃっ」
つばさが目を開けると、一郎が目の前に立っていた。
一郎「ハハハ、大成功。やったね」
つばさ「なに、ふざけてんのよ。ほんと、怒るわよ」
一郎「僕の姿、見えなかっただろ。とうとう、成功したんだ。君に最初に見せたくてね」
つばさ「何なのよ」
一郎「透明マントさ。これをかぶると、姿が見えなくなるんだ」
つばさ「あきれた。あんた、そんなの作るために一ヵ月も研究所にこもってたの。それに、なにそれ。マントじゃなくて、唐草模様のでっかい風呂敷じゃないの」
一郎「これは試作品なんだよ。この布の表面に、特殊なコーティングがしてあるんだ」
つばさ「そんなの作って、いやらしいこと考えてるんじゃないでしょうね」
一郎「違うよ、そんなこと。僕はただ、ひとみさんの気持ちを知りたくて…」
つばさ「ひとみ?」
一郎「だから、ひとみさんが、僕のこと、どう思っているのかなって…」
つばさ「(ため息)はーっ。そんなこと、直接訊けばいいでしょ」
一郎「ばかっ、訊けるわけないだろ。ぜったい、無理だから」
つばさ「もう、小心者なんだから」
一郎「だから、つばさから訊いてみてくれないかな。僕、これかぶってそばにいるから」
この時、ドアがノックされる。女の声が聞こえる。
ひとみ「あの、どなたかいませんか?」
一郎「あーっ、ひとみさんだ。どーしよう。あの…、あの、まだ、僕、心の準備が…」
つばさ「しょうがないなぁ。まったく、めんどくさいヤツ」
つばさ、ドアを開けに行く。一郎、慌ててしまい風呂敷を裏むきにして頭からかぶる。
つばさ「(ドアを開けて)どうぞ、入って」
ひとみ「すいません。(部屋に入る)あの、教授はいらっしゃいますか?」
風呂敷をかぶった一郎を見て、ひとみは驚き立ち止まる。
つばさ「(そんな一郎を見て)ばっかぁ。(ひとみに小声で)見なかったことにしてあげて。教授は、ちょっとふざけてるだけだから、気にしなくてもいいのよ」
<つぶやき>慌てて失敗することってありますよね。皆さんも、どうかお気をつけ下さい。
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T:029「衝動買い」
ひなと綾佳がパソコンの画面に見入っていた。とんでもないものを見つけたようだ。
ひな「ねえ、これって本物かな?」
綾佳「なわけないでしょ。一万円よ。ただのフィギュアじゃないの」
ひな「だって、ここに説明が書いてあるわ。人間のように動き回り、話もできるって」
綾佳「あのね、ネットスーパーでそんなもの売ってるわけないでしょ」
ひな「でもね、鉄腕アトムよ」
綾佳「もう。あんたってすぐに信じ込むんだから。この前だって、変なガラクタ買っちゃったじゃない。いいかげん懲りたらどうなの」
ひな「でも…。でもね、鉄腕アトムよ。本物だったらどうするのよ」
綾佳「だから、本物じゃないって。ただの、アニメのキャラクターじゃない」
ひな「なに言ってるの。アトムが生まれてから50年以上たっているのよ」
綾佳「だから、なによ」
ひな「だから、本物ができていても不思議じゃないでしょ。もう、21世紀なんだから」
綾佳「ひなちゃん、よく考えてみな。もし本物だったら、一万円じゃ買えないでしょ」
ひな「もしかしたら、量産できるようになったのかも。だから、安く買えるのよ」
綾佳「いい加減にしなよ。そんな話、聞いたことないわ」
ひな「きっとあれよ。秘密裏に開発されて、私たちをあっと言わせたかったのかも。それか、どこかの研究所から盗まれたのが…」
綾佳「ねえ、もうやめよ。私たちが探してるのは、ロボットじゃないでしょ」
ひな「そうだけど…。でもね、もしここで買わないと、次はないかもしれないわ」
綾佳「まさか、買うつもりなの? 信じられない」
ひな「だって、私、後悔したくないもの。ここで手に入れないと、二度と買えないわ」
綾佳「あのね、鉄腕アトムを手に入れて、どうすんのよ? また、ガラクタが増えるだけでしょ。ほら、まわりを見てみなよ。あんたの部屋、寝る場所もないじゃない」
ひな「大丈夫よ。アトムに片付けてもらうから」
綾佳「はっ? ちょっと待ってよ。言っとくけど、これは本物じゃないから。ぜったい、片付けとか出来ないから」
ひな「そんなことないわ。人間のように動くのよ。話だってできるし。ほら、これを見て。(画面を指して)大きさだって、1メートルもあるのよ」
綾佳「もう、あたし知らないから。そんなの買ったら、ほんと寝る場所なくなっちゃうよ」
ひな「心配しなくてもいいよ。百万馬力なんだよ、空だって飛べちゃうのよ」
綾佳「だから、なに? 飛べるわけないでしょ」
ひな「じゃあ、買っちゃうね(クリックしようとする)」
綾佳「(ひなの手を押さえて)やめなさいって。あんた、人の話し聞いてないでしょ」
ひな「えーっ、でもーォ、欲しいんだもん」
綾佳「(優しく)ちょっと、頭、冷やそうね。良い子だから…(パソコンの電源を切る)」
<つぶやき>衝動買いとかしてませんか。気をつけないと自分の居場所をなくしますよ。
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T:028「不老長寿の秘薬」
豪華に飾り立てた女の部屋。そこへ、ボロボロの服を着てやつれ果てた男1が来る。
男1「やっと見つけたよ。君が欲しがっていた、不老長寿の秘薬を」
 「あなた、だれ?」
男1「俺だよ。ほら、ずいぶんやつれてしまったけど」
(男の顔をよく見て)「ああ、あなたね。ずいぶん時間がかかったのね」
男1「すまない。何しろ、世界中を飛び回っていたからね」
 「それで、本当に見つけてきたの?」
男1「ああ、チベットの奥地の小さな村でね」
男1は汚れた巾着袋から、大事そうに豆粒ほどの黒い塊を数個取り出す。
(それを見て)「これが、そうなの。(臭いが漂ってきて)うっ、何か臭うわ」
男1(それを女の前に差し出し)「さあ、飲んでみてくれないか」
(身をそらして)「でも、本当に効くの? これは、何で出来ているのかしら」
男1「それは、教えてもらえなかったんだ。でも、効き目はあるはずさ」
 「そう」(女は恐る恐る薬に手を伸ばす)
そこに男2がやって来る。彼は立派な服装をしている。
男2「お嬢さん。約束どおり、持って来ましたよ」
 「あなたは、昨日のお方」
男2「さあ、これであなたも十歳は若返ります」
女はリボンなどで奇麗に包装された箱を受け取り、ワクワクしながら箱を開ける。
 「あっ、これは! いまCMで話題沸騰中の、超売れているという、あの」
男2「そうです。あの若返りの美容液と、染みそばかすも消してしまうという化粧品のセットです。普通、何時間も並ばないと手に入らないのですが、僕のコネで手に入れました」
 「まあ、ステキ」
男1「待ってくれ。それは何だ、何なんだよ」
 「まあ、あなた知らないの? 遅れてるわね。ほほほほ」
男1「だって、俺は世界中を飛び回って、君のために…」
 「もう、あなたはいいわ。さあ、帰ってちょうだい」
男1「そんな…」
男2「お嬢さん。僕と一緒にディナーでも」
 「ええ、いいわ」
男1、その場に崩れ落ちる。そして、手にしていた薬を見つめる。やるせない思いで、涙があふれてくる。男1は、まるで毒でもあおるように、薬をすべて飲み込んでしまう。すると、やつれていた男1の姿がみるみる変わり、凛々しい青年へと変身する。
 「ウソでしょ。まさか、本物の不老長寿の秘薬だったの。(男1に駆け寄り)まだ残ってるわよね。私のために持って来てくれたんでしょ。ねえ、私にもちょうだい」
男1「もうないよ。すべて終わってしまった」(男1は立ち去っていく)
 「じゃあ、せめて、秘薬を見つけた村の場所を教えてよ。お願い!」
<つぶやき>自分にとって、本当に大切なもの。あなたは、それを見分けられますか?
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T:027「モテ期の女?」
一人暮らしの祐子の部屋。突然、友だちのやよいが訪ねてきた。
祐子「急にどうしたの? 連絡くれれば」
やよい「ふふふ、どうもぉ。ちょっとね、幸せのおすそわけ」
やよいは有名店のケーキを差し出す。
祐子「なによ、それってイヤミ? どうせ、私は一人ですよ」
やよい、いつものようにずかずかと上がりこむ。
やよい「実はね。あたし、モテ期に入っちゃったみたいなの」
祐子「モテ期って、あの一生のうちに三回来るってやつ?」
やよい「そうなの。もう、男の人の視線がすごいのよ。あたし、オーラ出てるかも」
祐子「なに言ってんのよ。あんたには彼がちゃんといるでしょ」
やよい「ふふ、そうなんだけど。それとは、違うのよ」
祐子「もう、そんなことしてると彼にふられちゃうわよ」
やよい「祐子、そんなこと言ってちゃだめよ。女はね、男の視線で美しくなるのよ」
祐子「はいはい、そうですか」
祐子、お茶の支度などをはじめる。
やよい「彼だってね、まったく他の男が振り向かない女を、好きでいられると思う?」
祐子「どうせ私は、誰も振り向きませんよ」
やよい「そうね。祐子はさぁ、もうちょっと考えた方がいいわ」
祐子「いいわよ。別に心配してくれなくても」
やよい「まず、服装ね。もう、地味すぎるのよ。もっと、こう…」
祐子「私は、変えるつもりはありません」
やよい「なに、意地はってるのよ。祐子は、あたしみたいに顔立ちがいいんだから」
祐子「もういいよ、そんな話は。それより、ケーキ食べよう」
やよい「そうやって、いつも肝心なことから目をそらして」
祐子「そんなことないわよ。私は…」
やよい「まさか、いつか白馬の王子さまが現れて、とか思ってるんじゃないでしょうね」
祐子「そんなこと、思ってないわよ」
やよい「じゃあ、モテ期を目指そうよ。祐子にも、幸せになってほしいの」
祐子「いや、それって目指すことじゃないでしょ」
やよい「あたしが、きっちりコーチしてあげる」
祐子「いいわよ。そんなことしてくれなくても」
やよい「祐子だって、彼が欲しいでしょ」
祐子「それは…、そうだけど」
やよい「じゃあ、一歩を踏み出そうよ。あたしの言うとおりにしてたら、男の視線はくぎづけよ。ね、あたしと一緒にがんばろう」
祐子「いや…。私は別に、あんたみたいになりたくないから」
やよい「もう無理しちゃって。いいのよ、遠慮しなくても。あたしの幸せ、分けてあげる」
<つぶやき>いい女の条件って何でしょう。男性にモテること? 自分磨きをしましょう。
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T:026「記憶売ります」
○ 夜の裏通り
人通りのない商店街の裏通りを、ふらふらと歩く亜紀。毎日の忙しさに疲れ果てているようだ。ふと、<記憶売ります>と書かれた小さな看板に目が止まった。気になって店の中を覗く亜紀。だが、中の様子はわからない。亜紀は一瞬ためらうが、思い切って中へ入ってみる。
○ 店の中
薄暗く狭い店内。小さなカウンターの奥に初老の男が座っていた。彼の後ろの棚には、何やら小さな箱がたくさん並べられている。
 「どんな記憶が欲しいんだい?」
亜紀「(戸惑いながら)いや、私はちょっと…」(出て行こうとする)
 「何でもあるよ。あんたのお望みしだいだ」
亜紀「私は、別に買いに来たわけじゃ…」
 「そうだな、これなんかどうだ。(棚から小箱を取り出して)格闘家の記憶だ。人を思う存分投げ飛ばして、ストレス解消にはこれがいちばんだ」
亜紀「だから、私は…」
 「気に入らないか。(別の小箱を出して)だったらこれだ。幸せの記憶。あんたにはこっちの方が良いかもな」
亜紀「幸せの記憶?」
 「ふふふ、これはいいぞ。(ひとつずつ示して)これは、恋愛の記憶。こっちは、愛人の記憶。で、これは達成の記憶。(亜紀の顔を見て)だが、あんたにはこれだな」
亜紀「えっ、これは?」
 「初恋の記憶だ。あんたが今、いちばん欲しいのは、これだろう」
亜紀は思わずそれを手に取り、じっと見つめる。
○ 会社の談話室
亜紀と同僚の桃子がつかの間の休憩を取っている。
桃子「ねえ、昨日、なんかあったでしょ」
亜紀「えっ、どうして?」
桃子「だって、すっごい楽しそうじゃない。ねえ、白状しなさいよ」
亜紀「別に、なんにもないわよ。ただね、ちょっと思い出したことがあって」
桃子「なによ、教えなさいよ」
亜紀「それが、今朝起きたらね。ふふふ…」
桃子「一人でニヤニヤしちゃって。もう、気になるぅ」
亜紀「ごめん。実はね、初恋の人のことを思い出しちゃって」
桃子「初恋?」
亜紀「あの頃に突然戻ったみたいになっちゃって、なんかドキドキしちゃった」
嬉しそうに話を続ける亜紀。それを、あきれた顔をして聞いている桃子。
<つぶやき>誰しもいろんな思い出があります。でも、本当にあなたの思い出ですか?
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T:025「夫婦の絆」
とある病院。病室で妻が眠っている。夫は横に座って、彼女の寝顔を見つめていた。夫の思いつめたような悲しい目。妻がふっと眼をさます。
「……あら、来てたんですか」
妻は起きようとするが、夫はそれを止めて、
「いいよ。起きなくても」
「(微笑んで)起こして下さればいいのに。全然、気がつかなかったわ」
「……うん」
「どうかしたんですか?」
「いや…。お前の、寝顔を見てたんだ。それだけだ」
「あら、いやだわ」
妻は顔を手で隠す。夫は気恥ずかしそうに笑う。
「お前の寝顔なんて、見たことなかったな」
「そうですか? そんなことありませんよ」
夫、急に口を固く結ぶ。その様子を見て、妻は何かをさっして、
「何かあったんですか? いつもと…」
「ない。何もない」
しばし見つめ合う二人。夫は目をそらして、
「旅行に行くぞ。ほら、前に行きたいって言ってた…」
「えっ? あなたが…」
「二人でだ。出発は…、明日だ。うん、明日」
「急なんですね。あなたは、いつも突然決めるんだから(懐かしそうに微笑む)」
「お前は、ついてくればいい」
「でも私、まだ退院できないんですよ。あなただけで行って下さい」
「一人で行って、どうするんだ。つまらんだろう」
「じゃあ、俊彦でも誘えばいいじゃないですか」
「あいつと行ったら、また喧嘩になる。それでもいいのか?」
「そうですねぇ。それは、困りましたね。(くすりと笑う)」
「なんだ。笑うところじゃないぞ」
「だって…。じゃあ、こうしませんか。私が退院したら、一緒に行きましょう」
「うん…、しかたないな。で…、いつ退院するんだ」
「そうですね…。あなたから、先生に訊いてみて下さい」
「俺がか? そうか…。うん…、そうだな」
「私は、大丈夫ですよ。あなたを、一人になんかしませんから」
「えっ? うん…、そうだ。そうしてくれ…」
「はい」
妻はにこりと微笑む。二人は、しばし見つめ合う。
<つぶやき>時間をかけ育んだ夫婦の絆。いつまでも、思いやれる心を持ちたいものです。
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T:024「私のテリトリー」
雑然とした一人暮らしの華子の部屋。足の踏み場もない。そこへ友達が訪ねてくる。
ななみ「ごめんなさい、こんな時間に」
華子「なに? どうしたの」
ななみ「あの、このあいだ、私が貸した本…」
華子「ああ、あれね。あるわよ。どうぞ、入って」
ななみ「ごめんね。ちょっと必要になって…」
部屋の中を見て凍りつくななみ。身体がむずがゆくなってくる。華子は雑誌や洗濯物などをどかしたりして、
華子「どうしたの? そんなとこに立ってないで、座ってよ。ここあけたから」
ななみ「ええ…。あの、掃除でもしてたの、ずいぶん散らかって…」
華子「あっ、そうだ。夕飯食べてかない? あたし、ちょうど鍋、食べたかったのよ」
ななみ「ええ、いいけど。あの、ちょっとここらへん片付けたほうが…」
華子「すぐ行ってくるね。そこのスーパー、この時間だと安売りしてるのよ」
ななみ「あの、はなちゃん。ここね、散らかってるから…」
華子「ダッシュで戻って来るから、あとよろしく!」
華子、買い物袋を提げて飛び出していく。取り残されるななみ。身体のむずむずがひどくなる。
ななみ「何なのよ、この部屋……。だめ、もう我慢できない」
ななみ、部屋の片付けをはじめる。その手際のよさはただ者ではない。部屋がきれいに片付いた頃、華子が戻ってくる。部屋に入るなり、これまた凍りつく。
華子「なんで…。どうしたのよ」
ななみ「お帰り。時間があったから、片付けといたね」
華子「なにしてんの。こんなことしたら、どこに何があるのかわからないじゃない」
ななみ「大丈夫よ。ちゃんと機能的に配置してあるから。すぐに見つかるわ」
華子「機能的って…。あたしには、あのままのほうが…」
ななみ「なに言ってるの。部屋はちゃんと片付けておいた方が、気持ちがいいじゃない」
華子「あのね、ななみはそうかもしれないけど…」
ななみ、華子の話も聞かずに買い物袋の中を覗き込んで、
ななみ「ねえ、これって何の鍋をやるつもりなの?」
華子「何のって、そんなの適当よ。何でも鍋に入れて、あと味付けすれば…」
ななみ「もう、はなちゃん。ちゃんと何を作るのか決めてから買い物しなくちゃ」
華子「大丈夫だって。適当にやっちゃっても美味しくなるんだから」
ななみ「だめよ、そんなの不経済だわ。それに、賞味期限が切れてるのは処分しないと」
華子「まさか、キッチンも…」
ななみ「だって、これから料理するんでしょ。きれいにしておいたほうがいいじゃない」
華子「ハハ…。そうだけど、そこまでしなくても…」
ななみ「そうだ。今度、うちに遊びに来てよ。美味しいもの作ってあげるから」
<つぶやき>こんな友達が一人いると、ずいぶん助かるかもしれません。でも、私は…。
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T:023「○○○探知機」
ビルに囲まれた小さな池。そこへ行くには、ビルの間の細い隙間を通り抜けなければならない。男と女が大きな鞄を抱えて、やっとのことで池の畔にたどり着いた。
「すごーい、こんなところに池があるなんて…。信じられないわ」
「僕の言ったとおりだろ。この古地図に間違いはなかった」
「こんな都会の真ん中なのに、よく残ってたわね。これは、奇跡よ」
男、鞄から小型の金属探知機を取り出し準備を始める。女はそれを見て、
「ねえ、何してるの?」
「お宝を探すのさ。この池に沈められているはずなんだ」
「えっ、何のこと? 私たち、ガマガエルの調査に来たんでしょ。幻の大ガマを…」
「そうでも言わなきゃ、君は手伝ってくれないだろ。だから…」
「ウソだったの? もう、信じられない! 私はてっきり…」
「もちろん、君の研究のためだよ。大学の研究室の予算は削られるばっかりだし、事業仕訳とかで、この先どうなるか。君が研究を続けるためにも、これはやり遂げないと」
「でも…」
「心配すんなよ。今度は大丈夫だから。確かな情報なんだ。ここは昔、大名庭園だったんだ。幕末の頃に、軍資金としてお殿様がここにお宝を沈めたんだってさ」
「もう…、いい加減にしてよ。そんなこと信じるなんて…」
「いいから、手伝ってくれよ。もし見つかったら、僕たちの結婚資金にしても…」
男、探知機のスイッチを入れると、途端に反応がでる。
「マジかよ。いきなりビンゴだぜ。ほら、見てみろよ」
女も色めき立つ。しかし、反応はすぐに消えてしまう。
「ほら、みなさい。どうせ、壊れかけの中古の探知機を買わされたんでしょ」
「おかしいな。ちゃんと調整したんだけどな」
男、探知機をいじりながら動かしてみる。草むらにかざしたとき、また反応が。
「ほら、こっちだったんだ。今度こそ…」
探知機の反応が弱くなる。男、探知機を動かしながら、
「あれ、おかしいな。どうなってんだ」
「何やってるの。やっぱり壊れてるんじゃない」
「いや、それが…。移動してるんだよ。お宝が動いてる」
草むらから何かが飛び出して、池に飛び込む。広がる波紋。女、それを見て驚き、
「えっ、そんな…。あれは、黄金のカエル。こんなところにいたなんて…」
「何だよ、それ」
「研究者の間で伝説になってる、幻のカエルよ! 昔の文献には出てくるんだけど、まだ誰も発見した人はいなくて…。もう絶滅したと思われているの」
「それは、高いのか?」
「値段なんか付けられないわよ。とっても、貴重な…。捕まえるわよ!」
女の目がらんらんと輝いた。男、その異様な雰囲気に思わず尻込みした。
<つぶやき>女の執念というか、ちょっと怖いところがあるかも。でも、引かないでね。
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T:022「取扱注意の女」
居酒屋で会社の飲み会が開かれていた。そろそろお開きという感じ。テーブルの隅の方で、芳恵が新入社員の圭太にからんでいた。
芳恵「ちょっと、ちゃんと私の話し聞いてる!」
圭太「もちろん、聞いてますよ、先輩。でも、あの、そろそろ…」
芳恵「なんで、あの女に任せるのよ。私の方が、きっちりと、この…」
圭太「あの、先輩。もう、みんな、帰ろうって…」
圭太は立ち上がろうとする。芳恵、彼の腕をつかんで引っぱる。
芳恵「まだ、話し終わってないでしょ。人の話は、ちゃんと最後まで聞きなさい」
圭太「ちゃんと聞いてますって…」
芳恵「私はね、この会社で、一生懸命働いてきてるの。もう、七年よ。七年」
圭太「ああ、そうなんですか」
芳恵「あの女より、私の方が優秀なんだから。ちょっと私より美人なだけなのに、なんでいい仕事は向こうへ行っちゃうわけ」
圭太「いや、そんなことないですよ。先輩の仕事だって…」
芳恵「フフフ…。ねえ、あの女の昔のあだ名、教えてあげようか? どん亀って言うの。フフフ…。小学校の運動会で、いつもびり走ってて…」
圭太「何で、そんなこと…」
芳恵「だから、こんなちっちゃい頃から知ってるの。ほんと、いやな奴だったわよ」
圭太「それって、幼なじみとか…」
芳恵「幼稚園のときなんか、私のおもちゃでかってに遊ぶのよ。自分のことしか考えてないの。今も、そういうとこあるじゃない。そう思わない…」
圭太「いや、そうかな…」
芳恵は圭太の腕をつかんだまま酔いつぶれてしまう。
係長「じゃあ、さきに帰るな。君たちの分は、立て替えといたから」
圭太「そんな、係長…」
明日香「じゃあね、芳恵のこと頼んだわよ。ちゃんと、送ってあげてね」
圭太「いや、待って下さいよ。僕も…」
寛子「大丈夫よ。君は草食系だから、きっと無事に帰れるわよ」
圭太「えっ? どういうことですか」
吾朗「(圭太の耳元で)お前、変な気おこすなよ。へたすると、怪我じゃすまないぞ」
圭太「なに言ってるんですか、先輩」
芳恵「(突然目をさまし)こら、新人。まだ、話し終わってないだろ(また寝る)」
圭太「あの、僕はどうすれば…」
時江「彼女、合気道やってるのよ。だから、反射的に身体が動いちゃうこともあるみたい。取扱には細心の注意を払いなさい。私が言えることは、それだけよ」
みんなは出て行く。圭太は、気持ちよさそうに寝ている芳恵を見て、途方にくれた。
<つぶやき>翌日、きっと彼女は何事もなく出社することでしょう。すべてを忘れて…。
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T:021「よりどころ」
暗闇の中。どこともしれない道。男と女が迷い込んだ。
「ねえ、どうするのよ」
「どうするって?」
「私たち、どこまで行けばいいの?」
「そんなこと、俺にわかるわけないだろ。こんな暗くて、先が見えないんじゃあ」
「あなたのせいよ。あなたが行こうって言ったのよ」
「何だよ。お前だって、のこのこついて来たんだろ」
「何よ、あなたがそそのかしたからでしょ。俺について来れば、幸せにしてやる…」
「それはな、言葉のあやだよ。そんなこともわかんないのかよ」
「もう、こんなの耐えられない。私、帰ります」
「ふん、出来るもんならやってみろよ。おまえ一人じゃ、何にも出来ないくせに」
「ひどい。女だと思って、馬鹿にしないでよ」
「馬鹿になんかしてないよ。俺は事実を言ってるだけだ」
「よく言うわよ。あなただって…。私がいなきゃ、何にも出来ないじゃない」
「俺は…。お前がいなくたって、全然平気だよ」
「強がり言っちゃって。わかったわよ。じゃあ、さよなら。お元気で」
女、男から離れていき、暗闇に消えてしまう。間。不安になる男。
「おい。(間)おーい! どこにいるんだ。戻って来いよ!」
男、女が消えた方に走り出そうとする。女、別の方向から現れる。
「呼んだ?」
「(驚いて)わあ! お前、脅かすなよ。何で、そんな方から…」
「知らないわよ。まっすぐ歩いてたら、あなたの声が聞こえて…」
「それで、淋しくなって引き返してきたのか?」
「違うわよ。引き返してなんかいないわ。私は、まっすぐ歩いてきたの」
「どういうことだ。まさか、俺たち、同じところをぐるぐる回っているのか?」
「そんな…。じゃあ、私たち、このままずっと…」
「なに馬鹿なこと言ってんだよ。そんなことあるわけ…」
「(不安になり)ねえ、私たち、どっちから来たのかな?」
「どっちって、(指さして)あっちだよ」
「それ、違うわよ。(別の方向を指して)むこうだったよ」
「なに言ってんだ。そっちじゃないよ。俺たちが来たのは…」
男、ぐるりとあたりを見回す。そして、困惑した顔で女を見る。
「なに? どうしたのよ」
「わからない。俺たち、どっちから来たんだ。出口はどこなんだよ!」
「落ち着いて。大丈夫だよ。きっと、どこかにあるわ。二人で探しましょ」
「なあ、俺のそばにいてくれ。(女にしがみつき)もう、どこへも行かないでくれ」
<つぶやき>男にとって、女はよりどころなのかもしれません。女にとって、男は…。
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T:020「ゴールを目指して」
駅前の喫茶店。利恵がそわそわしながら待っている。そこへはるかがやって来る。
利恵「もう、遅い。何時だと思ってるのよ」
はるか「十分遅れただけでしょ。それに、急に呼び出しといて…」
利恵「ねえ、どうしたの。そんなにお洒落しちゃって」
はるか「ちょっと……ね。私だって、暇じゃないんだから」
利恵「そうなんだ。うふふふ…」
はるか「変な笑い方するな。それで、急用ってなによ。私、あんまり時間ないから…」
利恵「(あらたまって)報告します。私、ついに彼氏ができちゃいました」
はるか「はい? なによ、そんなことで呼び出したの」
利恵「そうだよ。もう、まっ先にはるかに教えてあげたくて…」
はるか「いいよ、そんなこといちいち報告しなくても」
利恵「なに言ってるの。同級生の友達で私たちだけじゃない。いまだに彼氏がいないの」
はるか「(声をひそめて)もう、こんなとこで、そんなこと…」
利恵「今度の彼はね、とっても優しくて…」
はるか「はいはい。でも、今度は大丈夫なの? お金、だまし取られてるんじゃ…」
利恵「それは、大丈夫。私だって、ちゃんと学習できるんだから」
はるか「それならいいけど。あんた、ほんと変な男に惹かれるんだから」
利恵「彼ったらね、いつも私に電話してきて。腹へった、何か食べに行こうよって、甘えた声で言うのよ。私、そのたびに彼に付き合って。少し、太っちゃったかな?」
はるか「なにそれ。ひょっとして、おごったりとかしてない?」
利恵「だって、彼、まだ学生なのよ。社会人としては当然…」
はるか「あきれた。彼、いくつなの?」
利恵「うふふ。あのね、まだ、二十歳。きゃっ…」
はるか「利恵、冷静になって、よく考えてみな。あなたと、一回りも違うのよ」
利恵「十個だよ。それに、私のことお姉さんみたいだって…。彼ね、男の兄弟ばかりで、お姉さんが欲しかったんだって」
はるか「はーぁ。私、もう行くわ。付き合ってらんない」
利恵「えーっ、まだいいじゃない。いま来たとこでしょ」
はるか「私、堅実にいこうと思って。あなたより先に、ゴールするからね」
利恵「なによ、それ」
はるか「婚活よ。私、真剣に取り組もうと思って。これからお見合いパーティがあるの」
利恵「えーっ。大丈夫なの? 男の人と話したりするんだよ。ちゃんと、しゃべれるの?」
はるか「大丈夫よ…。私だって、もう、大人なんだし…」
利恵「だって、高校のとき、ひどいふられかたして、十日も学校休んだじゃない」
はるか「もう、言わないで。思い出しちゃうじゃない」
利恵「それ以来、男の人と…」
はるか「今度こそ、乗り切ってみせるわ。それで、淋しい女から卒業するんだから」
<つぶやき>みんなの思いはただひとつ。幸せをその手でつかみ取りましょう。ファイト!
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T:019「ブラックパンサー2」
パーティ会場。客の中に紛れ込んでいた刑事たちが、すぐに出入口をふさいだ。
稲垣「(驚き)どうしたんだ。なんだ、君たちは…」
神崎「私が警察を呼んでおきました。事件を未然に防ごうと思いまして」
稲垣「警察? なんてことを…!」
客の中から、年配の警部が近寄ってきて、
警部「大河原泰造だな。詐欺容疑で逮捕状がでてる。観念するんだな」
稲垣「なにを言ってる。俺は…」
警部「お前の仲間は、すでに我々が拘束した」
稲垣「クソッ…!」
神崎「警部、ダイヤは?」
警部「大丈夫です。いま捜させてます。(蛍光テープを取り出し)これを貼っといたんで、連中の動きはちゃんとつかんでますよ」
会場にある熱帯魚の入った大きな水槽の中を、刑事たちが手を入れて探っている。
刑事「ありました。警部、見つけましたよ」(走ってきて、ダイヤを警部に渡す)
警部「ほらね、日本の警察も捨てたもんじゃないでしょ」
神崎「(ダイヤを受け取り光にかざす)やっぱり、にせ物ですね」
警部「本物が見つかるわけありませんよ。深い海の底に沈んでるんですから」
神崎「そうですね」
警部「(部下に)おい、連行しとけ」
刑事たち犯人を連行していく。神崎は明菜に近づき声をかける。
神崎「今日はありがとう。おかげで…。(きょろきょろしている明菜に)どうしたの?」
明菜「あの、何か違うんです。停電になる前と…」
神崎「えっ?」
明菜「私、間違い探しが得意なんです。だから、気になっちゃって」
明菜は照明のシャンデリアに目を止めた。警部も何ごとかと近寄ってくる。
明菜「みーつけた。あそこです。(シャンデリアの一つを指差す)あそこに、何かあります」
探偵事務所。翌日。明菜が訪ねてきていた。
神崎「まさか、あんなところに本物のダイヤがあるとはね。君は、よく見つけたね」
明菜「でも、どうやってあんなところに置いたんでしょう」
神崎「さあねぇ。今日、帰るんだろ。元気でね。また…」
明菜「あの! 私を、ここで雇ってもらえませんか? お願いします」
神崎「えっ、何を言い出すんだ、君は」
明菜「私、ちゃんと確かめたいんです。兄のことを。そうじゃないと…」
神崎「でも、山岡は海で遭難して…」
明菜「でも、兄は見つかってません。それに、昨夜の会場にいたんです。私、はっきりと」
神崎「帰りなさい。もうこれ以上、かかわらない方がいい」
<つぶやき>お兄さんには何か秘密があるのでしょうか。それは、また次の機会に…。
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T:018「ブラックパンサー1」
探偵事務所。若い女がたたずんでいる。そこへ男が入って来る。
明菜「(驚いて)あっ、ごめんなさい。勝手に入ってしまって」
神崎「だれ? あっ、もしかして山岡の…。そうだよね! いつだったか、写真を…」
明菜「はい、妹の山岡明菜です。あなたは?」
神崎「俺は神崎。ここで一緒に働いてたんだ。あいつも、こんな可愛い妹を残して…」
明菜「生前は、兄がお世話になりました。今日は、私物を引き取りに来ました」
神崎「そうか。そこだよ。(机を指差す)几帳面だったから、きれいに片付いてるだろ」
明菜は兄が使っていた机にふれる。ドアがノックされて男が入って来る。
稲垣「仕事を頼みたいんだが」
神崎「そうですか、どうぞ」
古びたソファーに座るようにすすめる。座るやいなや、
稲垣「実は、ブラックパンサーの警備をお願いしたい」
神崎「(一瞬、驚くが平静をよそおって)ブラックパンサー?」
稲垣「ダイヤです。いま日本に来ていまして、明日のパーティでお披露目するんです」
明菜「それって、盗まれたんじゃ…」
稲垣が鋭い眼差しを明菜に向ける。
明菜「あ、すいません。以前、兄から聞いたことがあるんです。怪盗に盗まれたって」
稲垣「盗まれたのはイミテーションです。本物じゃありません」
神崎「それで、どうしてここに。警備会社に頼めばいいじゃありませんか」
稲垣「予告状が届いたんです。怪盗ドラゴンからね」
神崎「そんなばかな、彼なら…。いや、ドラゴンは死んだと聞いていますが」
稲垣「それは噂です。死んだという証拠はどこにもない」
稲垣はレトロな封筒を出す。受け取った神崎は封筒から予告状を取り出して読む。
稲垣「この探偵事務所は、ドラゴンと対決したことがあるとか。ぜひ、お願いした」
神崎「(しばらく考えて)わかりました。お引き受けしましょう」
賑やかなパーティ会場。一角には、ガラスケースに入れられたダイヤが展示してある。
明菜「あの、どうして私まで…」
神崎「ごめんね。人手がなくてね。猫の手も借りたいっていうか…」
明菜「私は猫じゃありません。それに…」
神崎「(時計を見て)そろそろ予告の時間だ。君は、何があってもダイヤから離れるな」
明菜「わかりました。ここにいますけど…」
神崎が離れると、突然停電になる。動揺する人々。しばらくすると灯りが戻る。
ケースのそばにいた人がダイヤが消えているのに気づき騒ぎ出す。
神崎が駆け込んでくる。ケースの横で茫然と立っている明菜を見て、
神崎「どうした。何があった?」
明菜「そんな…。(ゆっくり神崎を見て)兄が…、兄がいたんです。そこに(指差す)」
神崎「あいつが…」
<つぶやき>ダイヤはどこへ。そして、怪盗の正体とは。謎が謎を呼んで次回へ続く。
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T:017「行き違い」
ビルの屋上。夕焼けが街を染めている。女がひとり、たたずんでいる。そこへ男が現れる。
「どうしたんだ。こんなところへ呼び出して?」
「あっ、ごめんね」
「いいけどさ。なんかあった? また、ミスでもしたんだろ」
「そんなんじゃないよ。……」
「悩みごとか? まあ、恋愛のこと以外だったら、アドバイスしてやるよ」
「……。何で、何でそんなこと言うの? 芳恵のことなんか、もう忘れてよ」
「えっ? どうしたんだよ」
「芳恵はあなたを捨てたのよ。それなのに、あなた…」
「やめろよ。あいつのこと、悪く言うのは…」
「もう一年よ。いなくなった人のことを…」
「分かってるよ、そんなこと。でも…」
「でも、何よ」
「そんな話しだったら、俺、もう行くよ」(女から離れていく)
「私、あなたのそばにいるわ、ずっと。だから…」
「……」(ふり返る)
「好きなの、あなたのこと。芳恵が好きになる前から、あなたのことが好きだった」
「……」(困惑した顔つき)
「あーあ。やっと、言えた!」(笑顔になる女)
「えっ? どういうことだよ」
「ああ、もういいのよ。忘れて、今のは」
「(女に近づき)忘れてって…?」
「私ね、あなたに初めて会った時から好きになっちゃって。ずっと、告白しようって思ってたの。でも、あなたは芳恵と付き合い始めて…。彼女と別れてからも、あなたは私のことなんかちっとも…」
「だって、それは…。あいつの親友だし…」
「私、もう悩むのに疲れちゃったの。それに、自分を変えないと、前には進めないって気づいたんだ。だから、こんな片思いからは、今日で卒業します」
「何だよ、それ」
「明日からは、会社の同僚として、よろしくお願いします」
「あのさ、何かおかしくない? こんなこと聞かされたら、俺はどうすればいいんだよ」
「別に、今まで通りでいいんじゃない。何も変わらないわ。そうでしょ」
「いや、変わるだろ、普通。好きだって言われたら、こっちだって…」
「もう、しょうがないな。じゃあ、ハグしましょうか? それなら…」
「だから、そう言うことじゃなくて…。何か違うだろう? なんて言うかなあ…」
「わかった。じゃあ、キスしてもいいわよ。それで、おしまい」
<つぶやき>女はしたたかな生き物です。注意して取り扱いましょう。優しくしてね。
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T:016「謎の物体」
警察の遺失物係。担当者たちが机を囲んで、頭を抱えていた。
桜井「これ、何なんだ。ねえ、安藤さん。書類には何て書いてあります?」
陽子「えっと、<蛍光灯みたいな>」
桜井「はい? まったく、いい加減な…」
陽子「でも、ほんとに何でしょう。係長はどう思います?」
係長は椅子にふんぞり返って座っている。まるで興味がないようだ。
係長「適当に処理しとけよ。どうせ、誰も探しに来ないさ」
桜井「(手に取り)確かに丸型の蛍光灯みたいだけど、プラグを差し込むところがないし。それに、蛍光灯にしては重すぎるなあ。書類にはほかに何か?」
陽子「はい。子供たちが持ち込んだと…」
係長「何だよ。子供の悪戯じゃねえか。そんなの捨てちまえよ」
陽子「でも、係長…」
桜井「どこで拾ったんです?」
陽子「それはですね、えっと、農道の脇の草むらの中です」
桜井「農機具でもないしな。何かの機械の部品かもしれない」
係長「そんな輪っかで、何ができるんだよ。せいぜい、輪投げの輪っかぐらいだろ」
桜井「係長、茶化さないで下さいよ。こっちは真剣に…」
係長「お前は、そんなんだから飛ばされたんだぞ。わかってるのかよ」
輪っかに顔を近づけて、じっと見ていた陽子が突然叫んだ。
陽子「あっ! 桜井さん、ここの内側に何か書いてあります」
桜井「何かって?」
陽子「(目を皿のようにするが)うーん。ダメです。小さすぎてわかりません」
桜井「そうだ。確か、どっかの棚に大きな虫眼鏡が…」
係長「天眼鏡だったら、ここにあるぞ(机の抽出から取り出す)」
陽子「係長、かってに持ち出さないで下さい」
係長「わるいわるい。最近、新聞が読みにくくてさ」
陽子は係長から天眼鏡を受け取り、桜井に手渡す。
陽子「何かわかりますか?」
桜井「(覗いて)うーん。日本語でも英語でもないなあ。こんな文字、見たことないよ」
陽子「(横から天眼鏡を覗き込んで)これって、アラビア語とかじゃありません?」
いつの間にか、係長が陽子の後ろに立って覗き込み、
係長「というより、象形文字じゃないのか。これなんか、魚の形にそっくりだ」
桜井「ほんとだ。でも、何で…。ますます、分かんなくなってきたぞ」
係長「もう、いいからさ、帰ろうよ。とっくに閉店の時間だよ」
陽子「そうですね。もう、こんな時間だし、明日にしましょうか」
三人は帰り支度をすませると、部屋から出て行く。薄暗い部屋の中。机の上の輪っかが、かすかに光を放つ。点滅する光。突然、輪っかが浮き上がり、静かに回り始める。
<つぶやき>よく分かんないものって、ありますよね。想像力を膨らませてみましょう。
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T:015「突然の再会」
賑やかな居酒屋。会社の歓迎会で十数人が楽しく飲み食いしている。
係長「さあ、吉永さん。(ビールを注ごうとする)君は、いける口かね」
吉永「いえ、私は。(係長のビールを取り)どうぞ。これから、よろしくお願いします」
長田「あっ、係長! ずるいですよ。あの、僕にも注いでもらえませんか?」
吉永「はい。どうぞ(ビールを注ぐ)」
鈴木「吉永さん、そんなに気を使わなくてもいいから。まったく、うちの男どもは、ちょっと可愛い娘(こ)が来るとこれなんだから」
係長「いいじゃないの、鈴木さん。じゃあ、僕は鈴木さんに注いでもらおうかな?」
鈴木「はいはい。こんなおばさんで、すいませんねぇ」(ビールを注ぎに行く)
長田「それにしても、佐々木、遅いですね。何やってんだろうなぁ」
係長「なんか、向こうで引き止められたって言ってたな」
鈴木「佐々木さん、人がいいから。また、世間話に付き合わされたんじゃないの」
吉永「佐々木さんって?」
鈴木「あのね、一週間前から出張でね。あっちこっち、得意先を回ってるのよ」
係長「もう来ると思うんだけどねぇ」
佐々木が大きな鞄を抱えて入って来る。
佐々木「すいません、遅くなっちゃって。あっ、係長。無事に戻ってまいりました」
係長「ご苦労さん。報告は明日、明日。さあ、まあ、一杯やりなさい(コップを渡す)」
吉永「あの、私が」(佐々木にビールを注ぐ)
佐々木は吉永の顔を見て驚き、コップを落としてしまう。ビールがこぼれる。
長田「おい、佐々木。何やってんだよ!」
佐々木「あっ、すいません」(慌ててハンカチで拭こうとする)
吉永がてきぱきとおしぼりで先に拭いてしまう。吉永の顔を見つめる佐々木。
長田「なに見つめてんだよ。こら、佐々木。おまえ、十年早い!」
佐々木「あ、いや…。別に、僕は…」(しどろもどろになっている)
時間は過ぎて、歓迎会は終わった。最後に残ったのは佐々木と吉永の二人だけ。
佐々木「あの、吉永さん。えっと…、ご、ご出身はどちらですか?」
吉永「私は、ここが地元なんです。二年ぶりに戻って来たんですよ」
佐々木「二年ですか。あの、吉永さん…、えっと…、僕…、あなたに、似てる人…」
吉永「まったく、変わんないなぁ。はっきりしゃべりなよ!」
佐々木「えっ?」
吉永「まだ気づかないの。私よ、相沢真理。一年も付き合ってたのに、忘れるかぁ?」
佐々木「ま、まり! えっ、どうして…。だって、お前、二年前に急にいなくなって…」
吉永「いろいろあったのよ。両親が離婚してね。吉永って、母親の姓なの」
佐々木「でも、どうして僕の会社に…」
吉永「逢いたかったの。ずっと、ずーっと逢いたかったんだから」(佐々木を抱きしめる)
<つぶやき>男とは、いつも女に翻弄されるもの。それでも、男は女に惚れるのです。
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T:014「会社の極秘事項」
とある大企業の給湯室。女子社員たちが立ち話をしている。
綾乃「昨日の合コン、どうだったの?」
安江「それがね、みずきが…」
綾乃「えっ、みずきをよんだの? それじゃ、最悪だったでしょ。なんで彼女なんか…」
安江「だって、メンバーが足りなくて、仕方なかったのよ」
綾乃「で、今回は何やらかしたの? 前はたしか、相手の男、殴りつけて…」
安江「それが、すっごくおとなしかったの。まるで別人だったわ」
綾乃「ウソ。じゃ、相手の男、合格点だったのね。それでそれで、どうなったの?」
安江「別になにも…。店を出たら、そのまま一人で帰っちゃったから」
理恵「あの、私、見ちゃいました」
綾乃「理恵ちゃん、あなたも合コンに参加してたの?」
理恵「はい。先輩に、どうしてもって言われて…」
綾乃「もう、安江。彼女、まだ新人なんだから」
安江「それで、何を見たの? 教えなさいよ」
理恵「それが…。私、別に後をつけたわけじゃないんですよ。たまたま、帰る方向が…」
安江「いいわよ、そんなこと。本題に入りなさいよ」
理恵「はい。それが、男の人が待ってて…」
安江「えっ、合コンの男?」
理恵「いえ。それが、別の…」
綾乃「付き合ってる人、いたのね。知らなかったわ」
安江「みずきって、私生活は謎だらけだからね。それで、どんな男だったの?」
理恵「あの…。でも、こんなこと言っちゃっていいのかな…」
安江「何よ。ここまで言ってやめるつもり。許さないわよ」
綾乃「もう、そうやって新人をいじめないの。それで、知ってる人なの?」
理恵「はい。実は…、部長でした」
安江「部長!(急に声をひそめて)まさか、あの部長が? あり得ないでしょ」
綾乃「そうね。みずきのタイプじゃないわよ。だって、あの、まどぎわ部長よ」
安江「理恵ちゃん。あなたの見間違いじゃないの?」
理恵「そうでしょうか? 私、何だか自信が…」
年配の女子社員が入ってくる。
佐藤「あなたたちが知らないのも当然ね。今はまどぎわだけど、昔の部長はすごかったのよ。退社の時間になると、部長を目当てに女子社員がビルの外に集まったものよ」
安江「そんなことが…」
佐藤「このとこは、うち会社の伝説になっているから、覚えておきなさい。それと、みずきさん、部長の娘なのよ。でも、これは会社の極秘事項だから。もし誰かにしゃべったら、あなたたち会社から消されるわよ。気をつけなさい」
<つぶやき>会社には伝説や謎がつきものです。もしかしたら、あなたの会社にも…。
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T:013「死出の旅」
どこだかわからない何もない空間。ひとりの男が歩いてくる。
中年男「ここは、どこだ? 俺は何でこんなところに…」
暗闇から、老人がぬっと現れる。
老人「あなたは死んだんですよ。交通事故でした。あっけなかったですね」
中年男「死んだ…。俺は、死んだのか?」
老人「そうですよ。これからあなたは、長い旅に出ることになります。出発の前に、ひとつだけ願いをかなえることができますが、何かありますか?」
中年男「願い? じゃあ、生き返らせてくれ。俺は、あんたよりも若い。まだ、やりたいことがいっぱいあるんだ!」
老人「それは、無理です。では、他になければ…」
中年男「だったら、妻に会わせてくれ! せめて、女房には別れを言っておきたい」
老人はにっこり笑ってうなずくと、あたりはまばゆい光に包まれた。光が消えると、男の目の前に中年の女が立っていた。
中年女「あなた、何で死んじゃったのよ。まだ、家のローン、残ってるのよ」
中年男(女の顔を覗き込み)「誰だ、あんたは?」
中年女「あら、いやだ。私の顔、忘れちゃったの? もう、なんて人なの」
中年男「芳恵なのか? お前、そんな顔、してたんだ。そう言えば、お前の顔、じっくり見たことなかった気がするな…。(間)今まで、ありがとう。これで、さよならだ」
中年女「(明るく)後は心配しないで。あなたの保険金で、何とかやりくりするから」
女はまばゆい光にかき消される。光が消えると、男の子が現れる。
男の子「おじちゃん、出発の時間だよ」
中年男「ちょっと、待ってくれ。もう一人だけ、会いたい人がいるんだ」
男の子「どうしようかな? 願い事はひとつしか…」
中年男「いいじゃないか。ちょっと、面倒みてる子がいてね。俺が急にいなくなると…」
男の子「おじちゃんの恋人だよね。でも、会わないほうがいいと思うけど…」
中年男「さよならを言うだけなんだ。すぐ、すむから…」
また、光に包まれる。今度は、若い女が姿を現す。
若い女「おじさん! お金、持ってきてくれた?」
中年男(女の顔を覗き込んで)「お前、誰だ?」
若い女「なんだ、違うの? 今日は、会う日じゃないでしょ。私、忙しいんだから…」
中年男「嘘だ。俺の知ってる子は、もっと、奇麗で、スタイルもよくて…。こんな、そばかす顔のジャージ女じゃない。胸だって、もっとこう…」
若い女「ばっかじゃないの。私が、おやじと本気で付き合うわけないでしょ」
あたりは光に包まれ、女は光とともに消える。暗闇から老人が現れる。
老人「もう、心残りはありませんね。さあ、これがあなたの歩く道ですよ」
老人が指差すと、どこまでも続く道が現れる。男は先のない道をとぼとぼと歩き出す。
<つぶやき>私は心残りが一杯ありすぎて、願い事はひとつでは足りません。きっと…。
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T:012「夜の訪問者」
夜中、銃をかまえて部屋に忍び込んできた二人の殺し屋。
マック(声をひそめて)「お前、あっちの部屋を見てこい」
ガスはうなずき、そっと扉を開けて隣の部屋へ入る。
マック「何だ、この部屋は。まるで女の部屋じゃないか。そういう趣味でもあるのかな」
ガスが戻ってきて、部屋の扉を閉める。
ガス「誰も居なかったよ。あっちは、寝室だった。縫いぐるみとか、いっぱいあったよ」
マック「どうも変だ。ほんとにこの住所なのか?」
ガス「うん、間違いないよ。何度も、確認したんだ」
マック「それにしたって、どう見ても女の部屋だぞ。それも子供部屋みたいだ」
ガス「こういうの集めてるんじゃないのかい。えっと、コレクターとかいう…」
マック「殺し屋がこんなもの集めるわけないだろ。俺は、どうも最初から気にくわなかったんだ。同業者をやるなんて。何で、こんな仕事を引き受けたんだ?」
ガス「ごめんよ。でも、少しでもお金が入れば…。ここんとこ、仕事なかっただろ」
マック「まあいい。住所はここで間違いない。相手の男は殺し屋で、ジェーシーと呼ばれていて、少女趣味がある変態ってことだ。奴が帰って来るまで、待ち伏せしよう」
ガス「そうだね。それがいいよ」
寝室の扉が開き、寝間着姿の少女が出てくる。男たちがいるのに驚いて、逃げようとする少女。男たちはあわてて少女を押さえ込み、口をふさぐ。
マック「(ガスに)誰も居ないんじゃなかったのかよ」
ガス「あっ、ごめんよ。暗かったから…。居ないと思ったんだ」
マック「(少女に)落ち着け、何もしないよ。静かにしてれば、何もしない。いいか?」
少女はうなずく。二人は彼女をはなしてやる。
マック「悪かったな。ちょっとした手違いなんだ。俺たちは、部屋を間違えただけだ。いいか、俺たちのことは忘れてくれ。そうしないと、あんたを消さなきゃいけなくなる」
ガス「(マックに)これから、どうするんだい?」
マック「もう、やめた。この仕事は断る」
ガス「でも、そんなことしたら、俺たちが消されちゃうよ」
マック「そんときは、二人して逃げようぜ。もう、汐時かもな」
ジェシカ「助けてあげようか? 私が逃がしてあげる」
マック「なに言ってるんだ。お嬢さんにそんなこと出来ないよ」
ジェシカ「それはどうかしら。私、ジェーシー。同業者みたいね。よろしく」
ガス「えっ! あんたが、殺し屋? 信じられないよ」
ジェシカ「実はね、私もやめたいと思ってたんだ。一緒に逃げてくれない。いいでしょ?」
マック「まあ、かまわないけど。それにしても、何だって殺し屋なんかに?」
ジェシカ「それを話してると、朝になっちゃうわ」
ガス「大丈夫だよ。これから話す時間はたっぷりあるさ」
三人はくすくすと笑う。ジェシカは急いで荷造りを始め、男たちもそれを手伝う。
<つぶやき>世の中には、いろんな職業があるんですね。でも、命は大切にして下さい。
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超短編戯曲End