書庫 ブログ版物語801~

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T:0801「等々力研究所(とどろきけんきゅうじょ)」
 涼子(りょうこ)は再(ふたた)び押(お)しかけ助手(じょしゅ)として等々力教授(とどろききょうじゅ)、いや元教授(もときょうじゅ)の研究所(けんきゅうじょ)で働(はたら)くことになった。等々力(とどろき)を説得(せっとく)するのには時間(じかん)がかかったが、何(なん)とか承諾(しょうだく)させることに成功(せいこう)した。
 これには村人(むらびと)たちの助(たす)けもあった。村(むら)の人(ひと)たちは彼女(かのじょ)のために研究所(けんきゅうじょ)の近(ちか)くの空(あ)き家(や)を提供(ていきょう)して、ことあるごとに涼子(りょうこ)のことを等々力先生(とどろきせんせい)に強(つよ)く勧(すす)めたのだ。村(むら)にとっても若(わか)い人(ひと)が住(す)んでくれることは良(い)いことだし、村(むら)の過疎化(かそか)は深刻(しんこく)な状況(じょうきょう)になっているから…。
 涼子(りょうこ)は重(おも)い荷物(にもつ)をかかえながら研究室(けんきゅうしつ)に入(はい)って来(き)て言(い)った。
「教授(きょうじゅ)、荷物(にもつ)が届(とど)きましたけど。これ、何(なに)が入(はい)ってるんですか?」
 等々力(とどろき)は何(なに)かの装置(そうち)を組(く)み立(た)てているところだった。彼(かれ)は作業(さぎょう)の手(て)を止(と)めることもなく返事(へんじ)をした。「ああ、分(わ)かった。そこら辺(へん)へ置(お)いといてくれたまえ。それと、わしは、もう教授(きょうじゅ)ではない。そういう呼(よ)び方(かた)はやめてくれないか」
「すいません。つい、大学(だいがく)の時(とき)の習慣(しゅうかん)が抜(ぬ)けなくて…。以後(いご)、気(き)をつけます」
 涼子(りょうこ)は荷物(にもつ)を隅(すみ)へ置(お)くと、等々力(とどろき)のそばへ行(い)って作業(さぎょう)を見(み)つめながら、「今度(こんど)は何(なに)を作(つく)ってるんですか? 私(わたし)、助手(じょしゅ)なんですから、いい加減(かげん)教(おし)えて下(くだ)さい」
「まあ、そのうちな…。気(き)が散(ち)るから、向(む)こうへ行(い)ってくれないか」
「はぁい…。あっ、私(わたし)、これから義三(よしぞう)さんのとこ手伝(てつだ)いに行(い)ってきますからね」
 涼子(りょうこ)は日銭(ひぜに)を稼(かせ)ぐために農家(のうか)の手伝(てつだ)いをしているのだ。押(お)しかけなので、ここでは給料(きゅうりょう)はもらえないから…。涼子(りょうこ)は小(ちい)さなため息(いき)をつくと、研究室(けんきゅうしつ)を後(あと)にした。
<つぶやき>ひさしぶりの登場(とうじょう)です。けして忘(わす)れていたわけではないんですよ。ほんと…。
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    0806「コレクター」 ブログ版物語ID

T:0802「選(えら)ぶ楽(たの)しみ」
 彼女(かのじょ)は陳列棚(ちんれつだな)に並(なら)んでいる商品(しょうひん)を見(み)て唸(うな)っていた。どっちにしようか悩(なや)んでいるようだ。そばで所在(しょざい)なげに立(た)っていた彼(かれ)は、うんざりしたような顔(かお)で決着(けっちゃく)がつくのを待(ま)っていた。だが、どうやら彼女(かのじょ)の決断(けつだん)にはまだ時間(じかん)がかかりそうだ。彼女(かのじょ)はひとり言(ごと)のように呟(つぶや)いた。
「あああっ、どっちが良(い)いかな? この色(いろ)は好(す)きなんだけど…、こっちのデザインも惹(ひ)かれちゃうのよねぇ。迷(まよ)っちゃうわ…。ねえ、どっちが良(い)いと思(おも)う?」
 彼女(かのじょ)は、彼(かれ)の腕(うで)をつかんで引(ひ)き寄(よ)せて言(い)った。彼(かれ)は、まったく興味(きょうみ)が持(も)てないので面倒(めんど)くさそうに答(こた)えた。「そんなこと僕(ぼく)に訊(き)かれても、分(わ)かるわけないじゃないか」
「ちゃんと答(こた)えてよ。あなたの意見(いけん)が訊(き)きたいの。これと、こっちのなんだけど…」
「ええっ…。そうだな…、僕(ぼく)だったら、この右(みぎ)のやつかな。これ、良(い)いと思(おも)うよ」
「これ? こっちが良(い)いの? う~ん、そうかなぁ…。わたしは…」
「じゃあ、左(ひだり)のやつでもいいよ。どっちも素敵(すてき)じゃないか」
「そんなこと分(わ)かってるわよ。どっちも良(い)いから悩(なや)んでるんじゃない」
「そんなに悩(なや)むんなら両方(りょうほう)買(か)えばいいじゃないか」
「はぁ? なに言(い)ってるのよ。二(ふた)つは必要(ひつよう)ないでしょ。もういいわよ。あなたに訊(き)いたのが間違(まちが)いだったのね。また今度(こんど)にするわ。行(い)きましょ」
「えっ、買(か)わなくてもいいのかよ。じゃ、今(いま)までの時間(じかん)は何(なん)だったんだ?……」
<つぶやき>女性(じょせい)は選(えら)ぶ楽(たの)しさを知(し)っているんでしょうね。男性(だんせい)も我慢(がまん)する楽(たの)しさを…。
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    0807「最初(さいしょ)の事件(じけん)」 ブログ版物語ID

T:0803「異星人(いせいじん)」
 行(い)きつけの居酒屋(いざかや)。同期(どうき)で入社(にゅうしゃ)した彼女(かのじょ)たちの息抜(いきぬ)きの場(ば)になっていた。遅(おく)れてやって来(き)た静香(しずか)が、ふらふらした足(あし)どりで席(せき)について懇願(こんがん)するように言(い)った。
「もう、ダメ…。あたしの手(て)には負(お)えないわ。誰(だれ)か、助(たす)けてよぉ」
「どうしたの? しっかりしなさいよ。何(なに)があったのか話(はな)してみなさい」
「あいつら、同(おな)じ人間(にんげん)とは思(おも)えないわ…。もう、なに言(い)ってるのか全然(ぜんぜん)わかんないし」
「静香(しずか)って、新人(しんじん)の指導係(しどうがかり)になったのよね。どんな後輩(こうはい)たちなの? 教(おし)えてよ」
「もう、最悪(さいあく)よ。私(わたし)たちの後(あと)、6年間(ねんかん)も社員(しゃいん)の募集(ぼしゅう)してなかったじゃない。だから、やっと後輩(こうはい)ができるって楽(たの)しみにしてたのに…」
 そこへ、静香(しずか)に声(こえ)をかけてくる者(もの)があった。それは、新入社員(しんにゅうしゃいん)の一人(ひとり)だ。彼(かれ)は平然(へいぜん)と言(い)った。「あの、明日(あした)のことなんだけど。ちょっといいすか?」
 静香(しずか)は目(め)を丸(まる)くして訊(き)いた。「どうして…。わたしが、ここにいるのを…」
「簡単(かんたん)すよ。先輩(せんぱい)のスマホをGPSで探(さが)せるようにしといたんで。もうバッチリです」
「なに勝手(かって)なことしてるの? そんなことしたらダメじゃない。やめてよ」
「はい、じゃあ削除(さくじょ)しときます。で、明日(あした)なんですけど、俺(おれ)、ちょっと用(よう)があって、遅(おく)れてもいいすか? どうせ、早(はや)く行(い)っても仕事(しごと)ないし。じゃ、そういうことで」
 一同(いちどう)は、唖然(あぜん)とするばかり。彼(かれ)は、そのまま居酒屋(いざかや)を出(で)て行(い)ってしまった。
<つぶやき>まさか、こんな人(ひと)はいないでしょ…。でも、こんな後輩(こうはい)がいたら大変(たいへん)そう。
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    0808「これが結婚(けっこん)」 ブログ版物語ID

T:0804「状況不明(じょうきょうふめい)」
「わたしは、あなたが思(おも)っているような人間(にんげん)じゃないんです。もう、わたしのことはほっといて下(くだ)さい。話(はな)しかけないで…」
「でも…、僕(ぼく)は、あなたを見(み)ていると心配(しんぱい)で、ほっとけないんです。これはもう、運命(うんめい)です。僕(ぼく)とあなたが出会(であ)ったことは――」
「あたし、運命(うんめい)なんて信(しん)じません。だから、あなたとそういうことにはなりません」
「…そうですか、分(わ)かりました。でも、僕(ぼく)に何(なに)かできることはありませんか?」
「ありません、何(なに)も…。だから、もう――」
「僕(ぼく)は、あなたに幸(しあわ)せになってほしいんです。それだけです、それだけなんです」
「もう、行(い)きます。じゃ…」
「あの…。もし僕(ぼく)がいることで、あなたが不幸(ふしあわ)せを感(かん)じるなら、もう二度(にど)と、あなたの前(まえ)には現(あらわ)れません。あなたが幸(しあわ)せになるなら、僕(ぼく)はどうなってもかまわない」
「もう、やめて下(くだ)さい!」
「ほんとうに、僕(ぼく)にできることはありませんか? どんなことでも言(い)って下(くだ)さい…。あなたが幸(しあわ)せにならないと、僕(ぼく)は…、僕(ぼく)は困(こま)るんです」
「あなたには関係(かんけい)ないでしょ。…あなたって、ずるいです。どうして、そんな話(はなし)をするんですか? わたしに、どうしろと言(い)うの」
「ですから…。僕(ぼく)は、あなたが幸(しあわ)せになりさえすれば……。ほんとにそれだけなんです」
<つぶやき>二人(ふたり)はどういう関係(かんけい)なのか。状況次第(じょうきょうしだい)では、全(まった)く違(ちが)うお話(はなし)になりそうです。
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    0809「鉄男(てつおとこ)」 ブログ版物語ID

T:0805「しずく76~警察(けいさつ)」
 神崎(かんざき)つくねはそれに答(こた)えて、「しずくは、あなたの親友(しんゆう)だった娘(こ)よ。みんなの記憶(きおく)から消(け)されてしまったけど、あたしの大切(たいせつ)な従姉妹(いとこ)でもあるわ。しずくは……」
 つくねは突然(とつぜん)の頭痛(ずつう)に襲(おそ)われて、その場(ば)にしゃがみ込(こ)んだ。頭痛(ずつう)はすぐに治(おさ)まったが、つくねは何(なに)かのイメージを受(う)け取(と)ったようで、驚(おどろ)いた表情(ひょうじょう)を浮(う)かべていた。
 柊(ひいらぎ)あずみがすぐに駆(か)け寄(よ)って来(き)て、「ねえ、大丈夫(だいじょうぶ)? 何(なに)か――」
「いえ、平気(へいき)です。心配(しんぱい)しなくても…」つくねはそう言(い)うと、あずみの身体(からだ)につかまって立(た)ち上(あ)がった。その時(とき)、あずみの耳元(みみもと)にささやいた。
「これから、何(なに)があっても手(て)を出(だ)さないで。何(なに)もしないって約束(やくそく)して」
「えっ、なに? 何(なに)を言(い)ってるの…」あずみはつくねを見(み)つめた。
 ――突然(とつぜん)、屋上(おくじょう)へつながるドアが音(おと)を立(た)てて開(ひら)いた。そして、数人(すうにん)の男(おとこ)たちがドタドタとなだれ込(こ)んできた。瞬(またた)く間(ま)に、三人(さんにん)は男(おとこ)たちに囲(かこ)まれてしまった。あずみは、つくねたちをかばうように前(まえ)に立(た)った。一人(ひとり)の男(おとこ)があずみの前(まえ)に出(で)て来(き)て、
「神崎(かんざき)つくねは…。君(きみ)たちの中(なか)にいるだろ? 出(で)てきなさい」
 あずみが答(こた)えて、「あなたたち、誰(だれ)なの? つくねをどうするつもり」
「我々(われわれ)は警察(けいさつ)だ。ある事件(じけん)の容疑者(ようぎしゃ)として、神崎(かんざき)つくねを捜(さが)している。御協力下(ごきょうりょくくだ)さい」
「事件(じけん)って…、つくねがどんな事件(じけん)に関(かか)わってるっていうの?」
 つくねは、すっと前(まえ)に出(で)ると言(い)った。「あたしです。神崎(かんざき)つくねは…」
<つぶやき>これは突然(とつぜん)の展開(てんかい)です。今度(こんど)はつくねが狙(ねら)われたのでしょうか。それとも…。
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    0810「しずく77~容疑者(ようぎしゃ)」 ブログ版物語ID

T:0806「コレクター」
 とある場末(ばすえ)のバー。ほの暗(ぐら)い店内(てんない)のカウンターで一人(ひとり)で呑(の)んでいる若(わか)い女性(じょせい)。その女性(じょせい)の横(よこ)に中年(ちゅうねん)の男(おとこ)が座(すわ)った。バーテンに酒(さけ)を注文(ちゅうもん)すると、男(おとこ)は女性(じょせい)に話(はな)しかけた。
「見(み)かけない顔(かお)だね。ここは初(はじ)めてかい?」
「ええ、そうよ。旅行(りょこう)をしてるの、いろんな所(ところ)を見(み)て回(まわ)ってるのよ」
「そう、それはいい。…君(きみ)は、綺麗(きれい)な髪(かみ)をしてるね。とても艶(つや)があって、素敵(すてき)な黒髪(くろかみ)だ」
「ああ…、ありがとう。そんなこと言(い)われるの、初(はじ)めてだわ。うれしい」
「もしよかったら、君(きみ)の髪(かみ)に、ふれてもいいかな?」
 男(おとこ)は、女性(じょせい)の長(なが)い髪(かみ)に手(て)を伸(の)ばし一束(ひとたば)すくい取(と)ると、その匂(にお)いを嗅(か)ぐように顔(かお)を近(ちか)づけた。そして、女性(じょせい)の耳元(みみもと)でささやいた。
「これから僕(ぼく)と付(つ)き合(あ)わないかい? 面白(おもしろ)いものを見(み)せてあげるよ」
 女性(じょせい)は突然(とつぜん)立(た)ち上(あ)がると、男(おとこ)の胸倉(むなぐら)をつかんで言(い)った。
「警察(けいさつ)よ! あなたを逮捕(たいほ)します」
 それを合図(あいず)に、数人(すうにん)の客(きゃく)が立(た)ち上(あ)がり男(おとこ)に拳銃(けんじゅう)を向(む)けた。男(おとこ)は驚(おどろ)いて手(て)をあげて、
「ちょっと、待(ま)ってくれ。俺(おれ)は、別(べつ)に、何(なに)もしてないだろ…」
 女性(じょせい)は男(おとこ)の腕(うで)を締(し)め上(あ)げて、「女性(じょせい)の髪(かみ)を切(き)り取(と)って殺(ころ)すなんて、最低(さいてい)な男(おとこ)ね」
 男(おとこ)は、有無(うむ)も言(い)わさず連行(れんこう)された。――その様子(ようす)を、バーの隅(すみ)で見(み)ていた男(おとこ)。かすかに笑(え)みを浮(う)かべた。テーブルに隠(かく)された男(おとこ)の手(て)は、女性(じょせい)の髪(かみ)の束(たば)を愛撫(あいぶ)していた。
<つぶやき>怖(こわ)いです。連続殺人(れんぞくさつじん)なのかな? 女性(じょせい)を口説(くど)く時(とき)は、間違(まちが)われないようにね。
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    0811「大人(おとな)の対応(たいおう)」 ブログ版物語ID

T:0807「最初(さいしょ)の事件(じけん)」
 その娘(こ)は、クラスの中(なか)でも目立(めだ)たない存在(そんざい)だった。いつもそこにいるのに、なぜかみんなの印象(いんしょう)に残(のこ)らない。いてもいなくても、別(べつ)にどうってことのない娘(むすめ)だった。
 その娘(こ)が一度(いちど)だけ、その存在(そんざい)を印象(いんしょう)づけた事件(じけん)があった。それは、カンニング疑惑(ぎわく)だ。別(べつ)に、彼女(かのじょ)がやったわけではない。テストの後(あと)にカンニングペーパーが見(み)つかったのだ。最初(さいしょ)に疑(うたが)われたのは、たまたまテストの点数(てんすう)が良(よ)かった男子(だんし)だ。
 みんなはその男子(だんし)を問(と)い詰(つ)めた。だが、彼(かれ)は否定(ひてい)し続(つづ)けた。全(まった)くの濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だと――。
 そこで、あの目立(めだ)たない娘(むすめ)が登場(とうじょう)する。彼女(かのじょ)はカンニングペーパーを見(み)て呟(つぶや)いた。
「これ、ほんとにカンニングペーパーなのかな?……」
 みんなの視線(しせん)が彼女(かのじょ)に注(そそ)がれた。彼女(かのじょ)は、おどおどしながらも先(さき)を続(つづ)けた。
「だって…、ここに書(か)いてあるのって、全部(ぜんぶ)、テストに出(で)た問題(もんだい)の答(こた)えだよね。誰(だれ)も、テストにどんな問題(もんだい)が出(で)るのか知(し)らないわけでしょ。これがテストの前(まえ)に作(つく)られたカンニングペーパーなら、もっと他(ほか)の問題(もんだい)の答(こた)えが書(か)かれてないとおかしいと思(おも)うの」
 みんなは一様(いちよう)にうなずいた。確(たし)かに、彼女(かのじょ)の言(い)っていることに矛盾(むじゅん)はない。
「あたし、思(おも)うんだけど…。これは、テストが終(お)わってから、誰(だれ)かが答(こた)え合(あ)わせをするために書(か)いたんじゃないかしら? きっと、そうだと、あたしは思(おも)うわ」
 この目立(めだ)たない娘(こ)は、今(いま)では名探偵(めいたんてい)と呼(よ)ばれる女性(じょせい)に成長(せいちょう)していた。
<つぶやき>彼女(かのじょ)にとって、その後(ご)の人生(じんせい)を決(き)めるような出来事(できごと)だったのかも知(し)れません。
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    0812「するのか?」 ブログ版物語ID

T:0808「これが結婚(けっこん)」
 私(わたし)は結婚(けっこん)して、彼(かれ)と二人(ふたり)で暮(く)らすことになった。――新婚生活(しんこんせいかつ)はとても楽(たの)しくて、私(わたし)は幸(しあわ)せを感(かん)じていた。でも、しばらくして、私(わたし)は彼(かれ)の変(へん)なところに気(き)がついた。
 彼(かれ)は、会話(かいわ)の端々(はしばし)で、〈で?〉を付(つ)けるようになったのだ。どうやら、何(なに)かを求(もと)めているようなのだが、私(わたし)にはそれが何(なん)なのか理解(りかい)できなかった。適当(てきとう)に返事(へんじ)を返(かえ)すと、彼(かれ)は何(なん)だが不満(ふまん)そうに黙(だま)ってしまう。どうしたのって訊(き)いても、ちゃんと答(こた)えてくれなかった。
 その理由(わけ)が何(なん)となく分(わ)かったのは、彼(かれ)の実家(じっか)へ二人(ふたり)で遊(あそ)びに行(い)った時(とき)だ。彼(かれ)はまっ先(さき)にお母(かあ)さんのところへ行(い)って、まるで子供(こども)のように傍(そば)にくっついていた。彼(かれ)が、これほどのマザコンとは今(いま)まで気(き)づかなかった。
 彼(かれ)は、お母(かあ)さんにいろんなことを…、細々(こまごま)としたことまで話(はな)していた。私(わたし)といる時(とき)よりもおしゃべりだ。何(なん)で? 何(なん)で、そうなるのかなぁ。ちょっと嫉妬(しっと)を感(かん)じた。
 お母(かあ)さんは、食事(しょくじ)の支度(したく)の手(て)を止(と)めるわけでもなく、彼(かれ)の話(はなし)を聞(き)いていた。そして、〈そうなの、すごいね〉〈やるじゃない〉〈頑張(がんば)ったね〉と、彼(かれ)のことを褒(ほ)めていた。そのたびに、彼(かれ)は嬉(うれ)しそうな顔(かお)をした。
 これだ――。彼(かれ)は、私(わたし)にも褒(ほ)めてもらいたかったんだ。彼(かれ)が求(もと)めていたのはきっとこれなんだ。私(わたし)は納得(なっとく)し、これからのことを考(かんが)えると、面倒(めんど)くさいと思(おも)ってしまった。
<つぶやき>彼(かれ)の意外(いがい)な一面(いちめん)を知(し)っちゃたんですね。それを良(よ)しとできれば、この先(さき)も…。
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    0813「病気(びょうき)」 ブログ版物語ID

T:0809「鉄男(てつおとこ)」
「ねえ、鉄男(てつおとこ)って…、誰(だれ)なの?」娘(むすめ)は父親(ちちおや)に訊(き)いた。
 父親(ちちおや)は首(くび)をひねりながら、「俺(おれ)もよく分(わ)かんないけど、何(なん)でも鉄(てつ)のような頑丈(がんじょう)な男(おとこ)だって話(はな)しだ。そんで、ちょっと頑固(がんこ)なところがあるけど、真(ま)っ正直(しょうじき)な人間(にんげん)らしい」
「で、父(とう)さんとどういう関係(かんけい)なの? 何(なん)で、あたしが会(あ)わなきゃいけないのよ」
「山梨(やまなし)のおじさんの知(し)り合(あ)いの息子(むすこ)なんだ。年回(としまわ)りもちょうどいいし。どうかなって?」
「はぁ? それって、まさか、お見合(みあ)いってこと? あたし、そんなの聞(き)いてないよ」
「そんなこと言(い)ったら、お前(まえ)、来(こ)なかっただろ? だから内緒(ないしょ)にしてたんだ」
 二人(ふたり)の席(せき)に一人(ひとり)の男(おとこ)がやって来(き)た。彼(かれ)はぎこちなく頭(あたま)を下(さ)げると、
「あの、始(はじ)めまして。私(わたし)、山下竹男(やましたたけお)と言(い)います。今日(きょう)は、わざわざありがとうございます」
 娘(むすめ)は彼(かれ)の名(な)を聞(き)いて思(おも)わず言(い)った。「えっ、鉄男(てつおとこ)じゃないの…」
 彼(かれ)は恐縮(きょうしゅく)して答(こた)えた。「それは、あだ名(な)なんです。僕(ぼく)は、鉄(てつ)はどうも苦手(にがて)なんですが…」
 確(たし)かに彼(かれ)の体格(たいかく)を見(み)ると、鉄(てつ)と言(い)うより竹(たけ)ぼうきの方(ほう)がぴったりする。
 帰(かえ)り道(みち)、娘(むすめ)は父親(ちちおや)に呟(つぶや)いた。「あの人(ひと)、あたしのタイプじゃないわ。だから、断(ことわ)って」
「そうか? 俺(おれ)は、いい青年(せいねん)だと思(おも)ったんだがなぁ。気(き)に入(い)らないか…」
「もう、そんなに心配(しんぱい)しなくてもいいよ。相手(あいて)は自分(じぶん)で見(み)つけるから」
「そんなこと言(い)って、お前(まえ)、いくつになった? 今(いま)まで、一度(いちど)だって――」
<つぶやき>ダメですよ。それ以上(いじょう)言(い)ったら、完全(かんぜん)に地雷(じらい)を踏(ふ)むことになっちゃいます。
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T:0810「しずく77~容疑者(ようぎしゃ)」
 神崎(かんざき)つくねは男(おとこ)たちに連(つ)れられて行(い)ってしまった。柊(ひいらぎ)あずみは男(おとこ)の一人(ひとり)に尋(たず)ねた。
「ねえ、どこへ連(つ)れて行(い)くのか教(おし)えて下(くだ)さい。私(わたし)の生徒(せいと)なんです」
 男(おとこ)は振(ふ)り返(かえ)ったが、何(なに)も言(い)わずに去(さ)ってしまった。あずみはすぐにスマホを取(と)り出(だ)して電話(でんわ)をかけた。相手(あいて)は千鶴(ちづる)だ。彼女(かのじょ)の能力(ちから)でつくねの行(ゆ)き先(さき)を突(つ)き止(と)めてもらうのだ。だが、どういうわけか千鶴(ちづる)は電話(でんわ)に出(で)なかった。あずみは苛(いら)つきながら呟(つぶや)いた。
「どうして出(で)ないのよ。いつも、私(わたし)のこと覗(のぞ)き見(み)してるくせに…」
 そばにいた水木涼(みずきりょう)が声(こえ)をかけた。「ねえ、追(お)いかけようよ。その方(ほう)が――」
「ダメよ。あいつらの正体(しょうたい)が分(わ)からないのに、それは危険(きけん)すぎるわ」
「えっ、あの人(ひと)たちって、警察(けいさつ)じゃないの? …もう、どういうことか分(わ)かんないよ」
「いいわ、こうなったら…」あずみは別(べつ)の相手(あいて)に電話(でんわ)をかけた。今度(こんど)の相手(あいて)はすぐに出(で)たようで、「あずみ…です。ひさしぶり……。そう…、ごめん。心配(しんぱい)かけたのなら謝(あやま)るから……。ねえ、聞(き)いてよ……。あなたに頼(たの)みたいことがあるの。今(いま)ね、私(わたし)の生徒(せいと)が警察(けいさつ)に連(つ)れて行(い)かれたの……。補導(ほどう)されたんじゃなくて、何(なに)かの事件(じけん)の容疑者(ようぎしゃ)だって……。まだ高校生(こうこうせい)なの。あなたの方(ほう)で調(しら)べてもらえないかな? あなたなら、警察(けいさつ)のこと分(わ)かるでしょ……。無理(むり)を言(い)ってるのは分(わ)かってるわ。でも、あなたしかいないの――」
 あずみは電話(でんわ)を切(き)ると涼(りょう)に言(い)った。「あなたはもう帰(かえ)りなさい。私(わたし)はこれからある人(ひと)に会(あ)わなきゃいけないの。心配(しんぱい)しなくても大丈夫(だいじょうぶ)よ。私(わたし)がなんとかするから…」
<つぶやき>つくねはどこへ連(つ)れて行(い)かれたのでしょう。つくねはどんな未来(みらい)を見(み)たのか?
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JUMP 0812「するのか?」 0813「病気(びょうき)」 ブログ版物語ID

T:0811「大人(おとな)の対応(たいおう)」
「分(わ)かるよ。辛(つら)かったよね。でも、別(わか)れて正解(せいかい)だと思(おも)う。あんな男(おとこ)、あなたには――」
 あたしは、心(こころ)の中(なか)で思(おも)った。この娘(こ)、本当(ほんとう)に分(わ)かってるのか? だって、彼女(かのじょ)が振(ふ)られたなんて話(はな)し聞(き)かないし、恋愛(れんあい)で辛(つら)い思(おも)いなんかしてないでしょ。それでも、あたしは、
「ありがとう。でも、ほんとにあたし、彼(かれ)のこと好(す)きだったの。何(なん)でこんなことに…」
「あなたは悪(わる)くないわ。私(わたし)には分(わ)かるから。ねぇ、元気(げんき)だして」
 あたしは思(おも)わず言(い)ってしまった。「あなた、本当(ほんとう)に分(わ)かってるの? 彼(かれ)のこと知(し)らないじゃない。何(なん)でも分(わ)かってるようなこと言(い)わないで!」
 彼女(かのじょ)は、あたしの言(い)った言葉(ことば)に驚(おどろ)き、戸惑(とまど)いの表情(ひょうじょう)を浮(う)かべた。そして一瞬(いっしゅん)の沈黙(ちんもく)の後(あと)、彼女(かのじょ)は真顔(まがお)になって言(い)い返(かえ)した。
「それ、ダメでしょ。こっちは共感(きょうかん)してあげてるんじゃない。そりゃ、あなたの彼(かれ)のことは知(し)らないわよ。それに、あなたが何(なん)で振(ふ)られたのかなんて、私(わたし)にはどうでもいいことだし…。でもね、私(わたし)はあなたの友(とも)だちでしょ。友(とも)だちとして、心配(しんぱい)してるんじゃない」
「あっ、そう…、そうだよね。何(なん)か、あたし…」あたしには返(かえ)す言葉(ことば)が見(み)つからない。
「あのね、ここは、ちゃんと大人(おとな)の対応(たいおう)をしなきゃいけないと思(おも)うの。そうでしょ?」
「ご、ごめんなさい。あたし、そんなつもりじゃなかったんだけど…」
「で、あなたたち、何(なん)で別(わか)れたの? 私(わたし)でよかったら、聞(き)いてあげるよ」
<つぶやき>ここは、やっぱり聞(き)いちゃうんですね。これも、大人(おとな)の対応(たいおう)ってやつかな?
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T:0812「するのか?」
 彼(かれ)は、何時(いつ)もなら行(い)かないような高級(こうきゅう)レストランに彼女(かのじょ)を連(つ)れて来(き)た。二人(ふたり)は付(つ)き合(あ)い始(はじ)めて、もう数年(すうねん)たっている。そろそろ…、あれをしてくれるんじゃないかと、彼女(かのじょ)の期待(きたい)は高(たか)まっていた。でも、彼女(かのじょ)はそういうことを顔(かお)に出(だ)すようなことはしなかった。
 食事(しょくじ)をしている間(あいだ)、彼(かれ)は時々(ときどき)もぞもぞとテーブルの下(した)へ手(て)をやっていた。何(なに)をしているのか、彼女(かのじょ)は気(き)になった。さり気(げ)なく様子(ようす)をうかがうと、彼(かれ)の上着(うわぎ)のポケットが膨(ふく)らんでいるのを発見(はっけん)した。彼女(かのじょ)は、心(こころ)の中(なか)で――。
〈これは、もしかしたら指輪(ゆびわ)? 婚約指輪(こんやくゆびわ)を用意(ようい)してるのね。そうよね、それがなくちゃ話(はな)しにならないもの。でも、大丈夫(だいじょうぶ)かしら? 私(わたし)の指(ゆび)のサイズ分(わ)かってる?〉
 彼(かれ)と目(め)が合(あ)った。彼女(かのじょ)は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んで、「これ、美味(おい)しいわね」
「そうだろ。前(まえ)に来(き)たとき、とっても美味(うま)かったから、君(きみ)もきっと気(き)に入(い)ると思(おも)って」
「前(まえ)に…? えっ、誰(だれ)と? いつ来(き)たのよ? まさか一人(ひとり)ってことないわよね」
「ああ…、友(とも)だちだよ。友(とも)だちと来(き)たんだ。もう、何年前(なんねんまえ)だったかな…」
「このお店(みせ)、去年(きょねん)開店(かいてん)したのよ。私(わたし)、知(し)ってるんだから…。で、誰(だれ)と来(き)たんだって?」
「だから…、友(とも)だちだよ。おかしいなぁ、去年(きょねん)だったかなぁ」
 気(き)まずい空気(くうき)が一瞬(いっしゅん)流(なが)れた。でも、彼女(かのじょ)はそれ以上(いじょう)追及(ついきゅう)しなかった。だって、あれがあるから…。彼女(かのじょ)は満面(まんめん)の笑(え)みをうかべた。それを見(み)た彼(かれ)は――、ちょっとびびってしまったかもしれません。さて、彼(かれ)はあれをするのでしょうか?
<つぶやき>ここは、もらうものをもらって…。それから、友(とも)だちの話(はなし)を聞(き)きましょうね。
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T:0813「病気(びょうき)」
 患者(かんじゃ)を前(まえ)にして、医者(いしゃ)は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄(よ)せて難(むずか)しい顔(かお)をしていた。患者(かんじゃ)は不安(ふあん)な気持(きも)ちになって医者(いしゃ)に訊(き)いた。
「あの…、そんなに悪(わる)い病気(びょうき)なんですか?」
 医者(いしゃ)はちょっと間(ま)をおいて答(こた)えた。「いや、大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。ただの風邪(かぜ)でしょう。少(すこ)し熱(ねつ)があるようなんでお薬(くすり)を出(だ)しときますね。すぐに治(なお)りますよ」
「でも…」患者(かんじゃ)は意(い)を決(けっ)して言(い)った。「本当(ほんとう)のことを言(い)って下(くだ)さい。私(わたし)なら、何(なに)を言(い)われても大丈夫(だいじょうぶ)ですから。何(なん)なら家族(かぞく)を呼(よ)んでも――」
 医者(いしゃ)はまた眉間(みけん)に皺(しわ)を寄(よ)せて、「いや、その必要(ひつよう)はありません。風邪(かぜ)なんですから…。でも、そうですね…、ちょっと救急車(きゅうきゅうしゃ)を呼(よ)んでもらえませんか……」
「えっ…、そんなに悪(わる)いんですか? いったい、どんな病気(びょうき)なんですか?」
「違(ちが)うんです…。私(わたし)が……」
 医者(いしゃ)は突然(とつぜん)椅子(いす)から崩(くず)れ落(お)ちて、ウンウン唸(うな)りだした。そばにいた看護師(かんごし)が駆(か)け寄(よ)ってきて、倒(たお)れた医者(いしゃ)の容態(ようだい)を見(み)ながら言(い)った。
「もう、先生(せんせい)。だから言(い)ったじゃないですか。今日(きょう)はお休(やす)みにしましょうって」
 医者(いしゃ)は唸(うな)りながら答(こた)えた。「しかしね、私(わたし)がいないと…」
 看護師(かんごし)は呆然(ぼうぜん)と立(た)っていた患者(かんじゃ)に言(い)った。「ごめんなさいね、心配(しんぱい)ないですから。ちょっとお腹(なか)の具合(ぐあい)が悪(わる)いみたいで。食中毒(しょくちゅうどく)じゃないといいんですけど…」
<つぶやき>お医者(いしゃ)さんってお忙(いそが)しい仕事(しごと)ですから…。体調管理(たいちょうかんり)には気(き)をつけて下(くだ)さいね。
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