書庫 ブログ版物語701~

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T:0701「まじっ?」
「もう、何なのよ」由香里(ゆかり)はプリプリしながら教室(きょうしつ)へ戻(もど)ってきた。
 教室で待っていた美幸(みゆき)は、「遅(おそ)かったじゃない。何かあったの?」
「聞いてよ、美幸。坂本(さかもと)のやつがね、付き合えってうるさいのよ。何で私が日直(にっちょく)の仕事(しごと)を手伝(てつだ)わなきゃいけないのよ。ひどいと思わない?」
「えっ? 坂本君って日直じゃないよ。それって…、もしかしてコクられたんじゃないの?」
 由香里は一瞬(いっしゅん)かたまったが、「…いやいや、ないない、それは、ないでしょ」
「でも坂本君って、いつも由香里のこと見てると思うんだけど。どんな感じで言われたの?」
「いや、どんなって…。えっと…、だから、俺(おれ)と付き合ってくれ…って」
「間違(まちが)いなく告白(こくはく)なんじゃない? ああっ、今ごろ、坂本君、落ち込んでるんだろうなぁ。あたし、ちょっと行ってくるね。慰(なぐさ)めてあげなきゃ、かわいそうだわ」
「ちょっと待ってよ。何で、美幸が慰めるのよ。おかしいでしょ」
「だって、あたし、坂本君のこと、ちょっと気になってたのよ。でも、由香里にその気がないんなら、あたしと付き合っても問題(もんだい)ないわよね」
「ええっ! だって、あんながさつで、どうしようもないやつよ。好きになるなんて…」
「そこがいいのよ。何だか、あたしの母性本能(ぼせいほんのう)をくすぐられちゃう感(かん)じ」
「待って、私も行く。だって、私にも責任(せきにん)があるから。美幸にだけ、そんなこと――」
<つぶやき>どこに恋(こい)がころがっているか分かりませんよ。ほら、あなたの目の前に…。
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T:0702「修業」
「いいか、頭(あたま)を使うな。身体(からだ)で会得(えとく)するんだ。分かったな」
「はい…。でも、わたしは、掃除(そうじ)をするために来たわけじゃ…」
「口答(くちごた)えをするな! お前は、私に弟子入(でしい)りしたくて来たんじゃないのか? 師匠(ししょう)の命令(めいれい)は絶対(ぜったい)だ。もし嫌(いや)なら帰ってもらってもかまわないんだぞ」
「いえ…、やります。すいませんでした。わたし、がんばりますから…」
 男は彼女を残(のこ)して出て行った。彼女は、雑巾(ぞうきん)を絞(しぼ)ると廊下(ろうか)の雑巾がけを始めた。――しばらく掃除を続けていると、老人(ろうじん)がよろよろとやって来た。彼女を見て老人は言った。
「君(きみ)は、こんなところで何をしているんだね?」
「掃除ですよ。ここの、先生(せんせい)に言われて…。わたし、ここで修業(しゅぎょう)するために来たんです」
「先生? わしの知っている限(かぎ)り、ここで先生と言われているのは一人だけのはずだが」
「だから、その先生が…。あの、あなたも、ここで働(はたら)いているんですか?」
「ああ、もしかして君の言う先生というのは、真っ黒に日焼(ひや)けした身体の大きな…」
「はい、そうです。その方です。とても厳(きび)しい先生で、さっきも口答えするなって」
「それなら、ここの居候(いそうろう)だよ。掃除をするように言っておいたんだが、また逃(に)げ出したか」
「えっ、違(ちが)うんですか? そんな…、わたしはてっきり…」
「じゃ、後は頼(たの)んだよ。終わったら、お茶(ちゃ)をご馳走(ちそう)しよう。美味(おい)しい饅頭(まんじゅう)もあるからな」
 老人はそう言うと、奥(おく)の部屋へ入って行った。もしかして、この老人が…。
<つぶやき>何かを会得するためには、厳(きび)しい修業が必要(ひつよう)なんですね。楽をしていては…。
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T:0703「グウェ」
 山道(やまみち)を登(のぼ)っていく取材班(しゅざいはん)。レポーターの女性がマイクを手に、
「ここが未確認生物(みかくにんせいぶつ)のグウェが棲息(せいそく)している場所(ばしょ)だということです。とても景色(けしき)が良い所なんですが、取材場所を公開(こうかい)しないという条件(じょうけん)での取材ですので、その景色をお見せすることはできません。――ねえ、カメラさん。回りを撮(と)らないように気をつけてね」
 しばらく行くと、待(ま)ち合わせの場所にたどり着いた。そこで待っていたのは、ちょっと場違(ばちが)いな雰囲気(ふんいき)の男性だった。彼女は彼に近づいてマイクを向けた。
「あなたが情報(じょうほう)を提供(ていきょう)していただいたKさんですか?」
 男性はちょっと緊張(きんちょう)した感じで答(こた)えた。「ええ、そうです。私が…」
「早速(さっそく)なんですが、そのグウェのことについて教えていただけますか?」
「ああ、はい。グウェというのは、ヒマラヤの雪男(ゆきおとこ)とかロッキー山脈(さんみゃく)のビッグフットに匹敵(ひってき)する生物(せいぶつ)なんです。ええ、体長(たいちょう)は2メートルほどで、人間のように二足歩行(にそくほこう)をして…」
「あなたは、目撃(もくげき)したことがあるんですか?」
「いえ、そう簡単(かんたん)には…。私は20年追(お)いかけてますが、なかなか…」
「では、この辺りの住人(じゅうにん)の方が目撃してるんですか? それとも昔の文献(ぶんけん)に出ていたとか」
「いや、それはどうでしょうか…。私は、聞いたことありませんけど…」
「えっ? じゃあ、どうしてここにいると…。どんな根拠(こんきょ)があって」
「感じるんです。この辺(あた)りにいるんじゃないかって…。間違(まちが)いありません」
<つぶやき>これは、どうなの? せっかく取材したのに、お蔵入(くらい)りになりそうですね。
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T:0704「おやつ盗難事件」
 学校(がっこう)から帰って来た好子(よしこ)は、空(から)になった菓子箱(かしばこ)を前にして呟(つぶや)いた。
「おかしいわ、今朝(けさ)はちゃんとあったのに…。誰(だれ)の仕業(しわざ)かしら?」
 好子は遅(おく)れて帰って来た妹(いもうと)に、「わたし達(たち)のおやつ、なくなってるわ」
「おやつ…? ああ、それならいつもの所にあるんじゃないの?」
「それじゃないの」好子は菓子箱を妹に見せて、「これよ。わたし、楽しみにしてたのに」
「ああ、それは、お母さんが――」
「そうよ。今日の分だから、手をつけちゃダメよって、言われてたやつよ。それがなくなってるの。これは事件よ。絶対(ぜったい)に犯人(はんにん)を捕(つか)まえて、取り戻(もど)さなきゃ」
「お姉ちゃん…。捕まえるって、そんなことしなくても…。それに、お母さん――」
「ああ! そうよ、これはきっと…。でも…、何か、何か欠(か)けているわ。この事件(じけん)を解(と)くためには…。何か見落(みお)としていることがあるような気がするの。それが何なのか…」
 その時、お使いに行っていた母親(ははおや)が戻(もど)って来た。好子は、さっそく尋問(じんもん)を始めた。
 母親は、「ああ、それはお客(きゃく)さまに出したわよ。あなたも知ってるでしょ。大崎(おおさき)の伯父(おじ)さん達がみえたのよ。昨日(きのう)、二人にはお話ししたでしょ?」
「わたし、そんなの聞いてないわ。わたし達の分じゃなかったの?」
 妹が言った。「あたし、聞いたわよ。お姉ちゃん、推理小説(すいりしょうせつ)に夢中(むちゅう)だったじゃない」
<つぶやき>人の話はちゃんと聞きましょうね。そうじゃないと、勘違(かんちが)いをすることに…。
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T:0705「しずく56~不思議な石」
 しずくはまだ眠(ねむ)ったままだった。つくねは何かを決意(けつい)するように、しずくの手を強く握(にぎ)りしめてささやいた。
「早く戻(もど)って来て。あなたには、言いたいことたくさんあるんだからね」
 つくねが部屋(へや)に戻ると、千鶴(ちづる)があずみに話しかけていた。
「それは厄介(やっかい)ね。人を操(あやつ)る能力者(のうりょくしゃ)か…。そんな相手(あいて)と、どう戦(たたか)うのよ?」
「そうね、分からないわ。私に、能力者を見分けられる能力(ちから)があればいいんだけど…」
 二人の話に割(わ)って入ったのはハルだった。「それなら、何とかなるかも」
 ハルはポケットから小石(こいし)を取り出した。丸(まる)っこいその石は艶(つや)こそないが、翡翠(ひすい)のような深(ふか)い緑色(みどりいろ)をしていた。ハルはそれをあずみの身体(からだ)に押(お)し当てた。すると不思議(ふしぎ)なことに、その小石が緑の光を放(はな)ち始めた。そして身体から離(はな)すと、光は消(き)えてしまった。ハルは、
「庭(にわ)の掃除(そうじ)をしてたときに見つけたの。よく分かんないけど、能力者どうしが触(ふ)れると光るみたいなんだ。これなら役(やく)に立つんじゃない?」
 あずみはその石を受(う)け取ると、手のひらに乗(の)せてつくねに言った。「試(ため)してみて」
 つくねがそっと指(ゆび)で触れてみると、また緑の光を放ちだした。つくねは思わず呟(つぶや)いた。
「すごい…。不思議ね、何で光るのかしら? でも、これがあればすぐに見つけられるわ」
「それだけじゃダメよ」千鶴が言った。「わたし達だって操られてしまうのよ。その能力(ちから)をはね返(かえ)す方法(ほうほう)を考えないと、勝(か)ち目はないわ。私も、ちょっと調(しら)べてみるね」
<つぶやき>無謀(むぼう)な戦いになるかもしれません。この先(さき)、どんな試練(しれん)が待っているのか…。
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T:0706「リベンジ」
 私の友だちに〈合(ごう)コンの女王(じょうおう)〉とささやかれている娘(こ)がいる。彼女はスタイルもよくて、誰(だれ)が見ても美人(びじん)の部類(ぶるい)に入る。おまけに社交的(しゃこうてき)で、いつも明るく振(ふ)る舞(ま)っていて――。そんな彼女が、今日は何だかイライラしていた。私を見つけると近寄(ちかよ)って来て、
「昨日(きのう)の合コンは最悪(さいあく)だったわ。あたしに落(お)ちない男はいないはずなのに…。そいつ、あたしと目を合わせようともしないのよ。信じられる? 何て男なの!」
 私は戸惑(とまど)いながら訊(き)いてみた。「昨日のって…、大学(だいがく)の…」
「そうよ、気晴(きば)らしのつもりで顔を出してあげたのに…。理工学部(りこうがくぶ)の斉藤(さいとう)! あたしを無視(むし)したのよ。この…、このあたしをよ。許(ゆる)せない。何であたしより串(くし)カツを選(えら)ぶのよ!」
「串カツ…? ああ、そういうお店に行ったんだね」
「そうよ、皆(みな)さん庶民的(しょみんてき)な所が好(この)みみたいで…。そうか、あのお店は、あたしにとってアウェーだったんだわ。だから、あたしの魅力(みりょく)に気づかなかったのよ。きっとそうだわ」
「いや、それは違(ちが)うと思うよ。でも、あなたがそんなこと気にしなくても…」
「気にするわよ。だって、理工学部の斉藤、あいつが、美味(おい)しそうに串カツをほおばる顔が目にちらつくのよ。寝(ね)ても覚(さ)めても、斉藤のことが頭から離(はな)れないの。こうなったらリベンジよ。斉藤を呼(よ)び出しで、高級(こうきゅう)フレンチのお店に連(つ)れて行ってやる」
<つぶやき>これは恋(こい)しちゃったのかな? でも、斉藤君にその気があるのかどうか…。
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T:0707「話さないで」
 夏美(なつみ)は息(いき)を切らしながら自分(じぶん)のアパートに飛(と)び込んだ。血(ち)の気(け)のない顔をして、身体(からだ)ががたがた震(ふる)えている。夏美は慌(あわ)ててドアに鍵(かぎ)をかけると、靴(くつ)を脱(ぬ)ぎ捨(す)てて部屋の中へ転(ころ)がるように入って行った。そしてベッドの前で小さな子供(こども)のようにうずくまった。
 しばらくそのままでいた夏美は、何か思いついたのか握(にぎ)りしめていたスマホで友だちに電話をかけた。呼(よ)び出し音が鳴(な)っている間(あいだ)、彼女は部屋の中を怯(おび)えながら見回した。相手(あいて)が出ると、慌てた口調(くちょう)で彼女はしゃべりだした。
「ど、どうしよう…。あたし、あたし――」
 その先(さき)は、涙(なみだ)があふれてきて声にならなかった。それでも何とか気を取り直(なお)して、
「あたし、見ちゃったの。女の人が、殺(ころ)されるところ。――もしもし、もしもし…。どうしたの? 貴志(たかし)? 貴志! 何とか言ってよ!」
 突然(とつぜん)、相手(あいて)の声が聞こえなくなった。夏美は不安(ふあん)になって、何度も何度も相手の名前を呼んでみた。でも、何の反応(はんのう)もない。――その時、玄関(げんかん)の扉(とびら)を叩(たた)く音がした。夏美は恐(おそ)る恐る玄関に近づいて、聞き耳(みみ)をたてた。すると、扉の外からか細(ぼそ)い女の声が聞こえた。
「誰(だれ)にも話さないでって言ったのに。あなたが約束(やくそく)を破(やぶ)るから、こうなるのよ」
 夏美はその場(ば)にへたり込んだ。身体中に悪寒(おかん)が走った。今度は後ろの方から声がした。
「でも、心配(しんぱい)しなくてもいいわよ。あなたもすぐに向こうへ連(つ)れて行ってあげるから…」
<つぶやき>ギャーッ! 何なのこれ。もう怖(こわ)いよ。トイレに行けなくなっちゃうでしょ。
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T:0708「電気屋さん」
「やっぱり、頼(たよ)りになるのは同級生(どうきゅうせい)の電気屋(でんきや)さんね」
「何だよ、心にもないこと言って。気色悪(きしょくわる)い」
「ひどい、これでも感謝(かんしゃ)してるんだよ。いつもありがとうね」
「でもな、買い変えた方がいいぞ。このクーラーだと電気代(でんきだい)もかかるだろうし、もう寿命(じゅみょう)だよ。今なら、もっと良いやつ出てるんだから」
「ムリだよ。そんなお金ないし、食べてくだけで精一杯(せいいっぱい)なんだもん」
「お前、まさか修理代(しゅうりだい)を値切(ねぎ)ろうとか思ってないだろうな。勘弁(かんべん)してくれよ。こっちだってな、個人商店(こじんしょうてん)なんだから。大手(おおて)の電気屋に客(きゃく)取られて大変(たいへん)なんぞ」
「そうなんだ、大変だね。でも…、わたしってけっこう利用(りよう)してるよね?」
「えっ、まあなぁ。…いつもありがとうございます。これからもごひいきに」
「じゃあさ、新しいクーラー買ってあげようかなぁ…?」
「……。何で? 今、金(かね)ないって言ったじゃないか…。あっ、ダメだ。絶対(ぜったい)ダメ!」
「まだ何も言ってないじゃない」
「聞かなくても分かるさ。値引(ねび)きしろって言うんだろ。これまで何回してやったと思ってるんだ。そのたびに、経理(けいり)やってるうちのやつを誤魔化(ごまか)すのにどれだけ苦労(くろう)してるか」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。奥(おく)さんとわたしは親友(しんゆう)なんだよ。あなたより付き合い長いんだから」
「だからだよ。こんなことしてるのがばれたら、あらぬ誤解(ごかい)をされちゃうだろ」
<つぶやき>奥さんに誤解されないように、ここは正直(しょうじき)に話したほうがいいんじゃない?
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T:0709「ウワサからの恋」
「えぇ! ど、どうして、そんなこと言うのよ。そんなことあるわけないじゃん」
 校門(こうもん)のところで顔を合わせた友だちに、さゆりは目を丸(まる)くして答えた。その友だちは、
「だって、すごい噂(うわさ)になってるよ。さゆりと三組の相沢(あいざわ)が付き合ってるって」
 何でそんな噂が…。そりゃ確(たし)かに、相沢君のこと気になってはいたけど、ただそれだけで。まだ、話しもしたことないのに…。誰(だれ)がそんないい加減(かげん)な噂を――。
 さゆりの頭に芳恵(よしえ)の顔が浮(う)かんだ。彼女だ。相沢君のこと打ち明けたのは彼女しかいない。さゆりは駆(か)け出した。息(いき)を切らしながら教室(きょうしつ)へ駆け込み、芳恵を見つけると、「あなたなの? 何でよ、変なこと言いふらさないで」
 芳恵はさゆりの耳元(みみもと)にささやいた。「大丈夫(だいじょうぶ)よ、あたしに任(まか)せて。きっとうまく行くわ」
 その時、誰かがさゆりの名前(なまえ)を呼(よ)んだ。振(ふ)り向くと、教室の入口(いりぐち)に相沢君が立っていた。
 芳恵が声をあげた。「ここです。この娘(こ)が、さゆりで~す!」
 さゆりは何が起(お)きているのかまったく理解(りかい)できないでいた。相沢君は、さゆりに言った。
「ちょっと、いいかな? 話があるんだ」
 さゆりの思考(しこう)は停止(ていし)した。もう、何が何だか…。芳恵がさゆりの背中(せなか)を押(お)して、
「やったね。これで話しをする機会(きかい)ができたじゃない。がんばってね」
 さゆりは芳恵の方を振り返り、「なに言ってるのよ。こんなことでうまく行くわけないでしょ。ムリだから、どう考えても…。もう、私、どうすればいいのよ」
<つぶやき>果(は)たして、相沢君の話って…。この恋(こい)は先(さき)へ進むことが出来るのでしょうか?
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T:0710「しずく57~帰路」
 あずみは千鶴(ちづる)たちに別れを告(つ)げると、車が駐(と)めてあるところまで降(お)りて来た。車に荷物(にもつ)を積(つ)み込んでいるとき、つくねが不意(ふい)にやって来て車に乗(の)り込んだ。
 あずみは驚(おどろ)いて車の中を覗(のぞ)き込み、「何やってるの? あなたはここに残(のこ)りなさい」
「あたしのことは気にしないでください。自分(じぶん)の身(み)は自分で守(まも)りますから」
「バカなこと言わないで。これから先(さき)、どんな危険(きけん)なことになるか分からないのよ」
「足手(あしで)まといにはなりません。今までだって、何度も危険(きけん)なことありましたから」
 つくねのこわばった顔を見て、あずみはあきらめるしかなかった。
「まったく、しょうがないわね。どうなっても知らないわよ」
「はい。あたし、絶対(ぜったい)、負(ま)けませんから。しずくが戻(もど)って来るまで……」
 あずみは車を走らせながら言った。「あなた、住(す)むところないわよね」
「それなら何とかなります。あの町に越(こ)して来たとき、いくつか見つけてありますから」
「そんなのダメよ。私のことへ来なさい。どこに敵(てき)が隠(かく)れているか分からないんだから」
「でも、あたしがいたら、迷惑(めいわく)なんじゃないですか?」
「なに言ってるのよ。迷惑なんか…、ないわよ。どうせ、一人暮(ぐ)らしだし…。ああ、でもね…。ちょっと散(ち)らかってるけど、気にしないでね。ほら、いろいろ忙(いそが)しくて、片付(かたづ)けしてる時間が…、ね。そういうの、分かるでしょ?」
<つぶやき>どんだけ散らかってるの。人には見た目では分からない意外(いがい)なギャップが…。
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T:0711「好きなもの」
「ねえ、亜利沙(ありさ)って、何か癒(い)やされるものってあるの?」
 京子(きょうこ)の質問(しつもん)に、ぽっちゃり系の良江(よしえ)が横から割(わ)り込んできて、「あたしは、甘(あま)い物を食べてるときかな。もう、イヤなこと全部忘(わす)れて、幸せな気持ちになれるの」
「はいはい、それはみんな知ってるよ」京子は頷(うなず)きながら言った。
 ちょっと謎(なぞ)めいた雰囲気(ふんいき)がある亜利沙は、おどおどしながら答えた。
「わたしは、そういうのは…、別に…」
「何かあるでしょ? 亜利沙って、美人(びじん)だし、きっとモテるんでしょうね」
「そ、そんなことないよ。わたしなんか…。あの、ちょっと違(ちが)うかもしれないけど…、わたしの好きなものはね。でも…、これ言うと、みんな笑(わら)うわ。だから…」
「笑わないよ、約束(やくそく)する。あたしたち、友だちじゃない。ねえ、教えてよ」
「じつはね、わたしの好きなものはね……、にのうで…、なの」
 二人はきょとんとして亜利沙の顔を見つめた。亜利沙は自分の二の腕(うで)を見せて興奮(こうふん)したように、「ここの、ぷにゅぷにゅ感(かん)がたまらないの。これは猫(ねこ)の肉球(にくきゅう)にも勝(まさ)るとも劣(おと)らないわ。だから良江の二の腕を見たとき、わたし、震(ふる)えたの。触(さわ)りたくてうずうずして…」
 良江は戸惑(とまど)いながらも言った。「あ、あたしのでよかったら、いつでも…」
「ありがとう。夏の間ね、わたし、ずっと我慢(がまん)してきたの。だって回りには二の腕だらけじゃない。もう毎日が拷問(ごうもん)って感じで…。だからわたし、なるべく出かけないように――」
<つぶやき>やっと願(ねが)いがなかったみたいで良かったです。嗜好(しこう)は人それぞれなんですね。
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T:0712「ゾンビ現る」
「どうしたの? 遅(おそ)かったじゃない」マコは玄関(げんかん)を開けるなり言った。
 入って来たのは友だちの陽子(ようこ)。彼女が真っ青(さお)な顔をしているのに気づいたマコは、心配(しんぱい)そうに訊(き)いた。
「大丈夫(だいじょうぶ)? どこか具合(ぐあい)でも悪(わる)いの? もう、ふらついてるじゃない」
 陽子は、マコに支(ささ)えられるようにしてリビングにたどり着くと、その場にへたり込んだ。そして、マコの手をとってか細(ぼそ)い声で言った。「私、ゾンビになっちゃうみたい」
 マコは、一瞬(いっしゅん)、耳(みみ)を疑(うたが)った。ゾンビって…、まさか、あのゾンビ?
 陽子はたどたどしく話し始めた。「ここへ来る途中(とちゅう)でね、ゾンビが歩いてて…」
「なに言ってるのよ。ゾンビなんか、普通(ふつう)にいるわけないじゃない」
「それが、いたのよ。私、逃(に)げたのよ。でも、そいつ足が早(はや)くて…。腕(うで)、噛(か)まれちゃった」
 陽子は噛まれた所をマコに見せた。そこには、しっかりと歯形(はがた)が残(のこ)っている。陽子は、
「ねえ、お願(ねが)いがあるんだけど…。私と一緒(いっしょ)にゾンビになってくれない? 私たち、友だちでしょ? 私一人じゃ、心細(こころぼそ)くて…。マコと一緒(いっしょ)だったら、少しは…」
 マコは慌(あわ)てて陽子から離(はな)れると、「そんなの、イヤよ。何で、あたしがゾンビにならなくちゃいけないの? 冗談(じょうだん)じゃないわよ、絶対(ぜったい)、イヤ!」
 その時、玄関のドアを叩(たた)く音が響(ひび)いた。陽子は笑(え)みを浮(う)かべてささやいた。「来たわ」
<つぶやき>何が来たのかな? いくら友だちの頼(たの)みでも、こればっかりはイヤですよね。
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T:0713「本能」
「別れようなんて…。あたしのこと、きらいになったの?」
「嫌(きら)いとか、そういうことじゃなくて…。なんて言えばいいのか…」
「あたしの、何が気に入らないの? はっきり言ってよ」
「君(きみ)は悪(わる)くないよ。気に入らないとかそういうことじゃなくて…」
「あたしが、月に向(む)かって吠(ほ)えたりするから? それとも、散歩(さんぽ)している犬(いぬ)に…。あたし、これでも我慢(がまん)してるのよ。だけど、どうしようもないの。これは、あたしの本能(ほんのう)だから」
「分かってるよ、そんなことは。分かってるけど…、君といると落ち着かないんだ」
「そんな…。あなたの方から付き合おうって言ったんじゃない。だから、あたし…。あたし、最初(さいしょ)に言ったよね。あたしは、普通(ふつう)じゃないって」
「ああ…、分かってるつもりだったけど…。君の目が…、恐(こわ)いんだ。君に見つめられると、襲(おそ)われるような気がして…。身体(からだ)がこわばってしまうんだ」
「ごめんなさい。あたし、そんなつもりは全然(ぜんぜん)ないのよ。あなたのこと食べようなんて、そんなこと思ったことない。だって、あなたと会う前には、いつもお腹(なか)いっぱい食べるようにしてるの。だから、安心(あんしん)していいのよ」
「そ…、そうなんだ。じゃあ、お腹が空(す)いていたら…」
「お腹が空いてたってそんなことしないわ。あたし、あなたのこと愛(あい)してるのよ!」
<つぶやき>彼女の正体(しょうたい)は何なんでしょうか? でも、彼への愛は本物(ほんもの)だと思いますよ。
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ブログ版物語End