書庫 超短編戯曲1~

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T:001「伝説・寿椅子」
   ある会社の給湯室。新入社員の理恵に仕事を教えている女子社員の綾佳。
綾佳「ここが給湯室ね。お茶の葉とかコーヒーはこの棚にあって、湯呑みとかカップは後ろの食器棚に入ってるから」
理恵「はい」
綾佳「あと、分かんないことがあったら、いつでも訊いて。教えてあげるから」
理恵「あの…。私、何かしましたか?」
綾佳「何かって?」
理恵「だって、私の前に座ってる先輩が、怖い顔で私を見てるんです」
綾佳「ああ、お局様ね。(あたりを気にして小声で)亀山先輩に逆らっちゃダメよ。あの人に睨まれたら、地獄の底に突き落とされるから」
理恵「ええっ…、そんな。私、ちゃんと挨拶もしたし、なにも…」
綾佳「私が思うに、あなたの使ってる椅子が原因かもね」
理恵「椅子?」
綾佳「この会社には、寿椅子っていう伝説があってね。その椅子に女子社員が座ると、三ヶ月以内に恋人ができて、一年以内に寿退社できるって言われているの」
理恵「ほんとですか? そんなことあるはずないですよ」
綾佳「だって、一年くらい前にこの部署に来た子がね、昨日、寿退社したのよ。来週、結婚式を挙げるんだって」
理恵「え? でも、それは…」
綾佳「その子の椅子。いま、あなたが使ってるやつよ」
理恵「ええっ…」
綾佳「亀山先輩は、あなたの椅子を寿椅子だと思ってるのよ。きっと、狙ってたんだわ。今朝だって、いつもよりも早く出社してたし。でも…、どうして椅子を取り替えなかったのかな?」
理恵「あっ! 私、今朝、早く来すぎて、まだ誰もいなかったから、あの椅子に座って…」
綾佳「それ、ほんと?」
理恵「ええ。そしたら、亀山先輩が走り込んできて…。なんか、すごい顔で…」
綾佳「ああ、やっちゃったわね」
理恵「どうしよう…」
   突然、亀山が給湯室を覗き込んで、
亀山「いつまでかかってるの。早く仕事に戻りなさい。(理恵を睨んで)佐々木さん、早く一人前になってよね。でないと、私…」
   亀山、薄笑いをうかべて立ち去る。
理恵(慌てて)「私、今から椅子を取り替えてもらってきます」
綾佳「もう遅いわよ。伝説では持ち主になった人が寿退社しない限り、次の持ち主にはなれないらしいから」
理恵「そんなあ…」
<つぶやき>こんな椅子があったら、私も…。でも、これって神頼みですよね。
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T:002「食いしん坊のルームメイト」
   とあるアパート。越してきたばかりなのか、段ボール箱などが積み上げられている。真一が段ボール箱を一つずつ開けながら、
真一「これは、台所用品と…。あれ…、これ捨てようと思ってたのに、何でこんなところにあるんだ。ああ…、もうぐちゃぐちゃだな。どこに何が入ってるのか分かんないよ」
   真一が積み上げてある段ボール箱をどかすと、部屋の隅に女が座っていた。
真一「(驚いて)わぁ! えっ…、だれ? 何でこんなところに…」
幽子「初めまして。私、幽子って言います。どうぞよろしく」(三つ指ついておじぎをする)
真一「ゆうこ? えっ…。どっから入ってきたんだよ」
幽子「私は、ずっとここに居たよ。今日から、ルームメイトだね」
真一「はぁ、なに言ってるの? ここは俺の部屋だから。早く、出てけよ」
幽子「それは、ちょっと無理かなぁ。だって、ここから出られないし」
真一「えっ、なに言ってんだよ。いいから、出てけよ」
   真一は幽子を外に追い出し、玄関の扉を閉める。閉めてすぐに、扉を叩く音がする。
真一「まったく、いい加減にしろよ!」
   扉を開ける真一。外には別の女が立っていた。
希美「なに…。おどかさないでよ」
真一「のぞみ…。えっ、どうして…」
希美「一人じゃ大変だと思って、手伝いに来たんじゃない。それに、これ。引っ越しといえば、蕎麦でしょう。そこのコンビニで買って来ちゃった」
真一「あっ、ありがとう。あの…、いまさ、誰かに会わなかった?」
希美「誰かって?」
真一「いや…、別にいいんだ。さあ、入って。どうぞ」
希美「はい、おじゃましまーす。なんだ、全然片付いてないじゃない」
真一「だって、さっき始めたばかりだからさ」
希美「よし。じゃあ、やっつけちゃうわよ」
   希美はコンビニの袋をそのまま冷蔵庫にしまう。二人は、片付けを始める。
   しばらくすると、冷蔵庫の方で蕎麦をすする音がする。希美がそれに気づいて、
希美「だれ?(近づいて)何してるのよ。それ、私が買ってきたやつじゃない!」
幽子「初めまして。私、幽子って言います。どうぞよろしく」(三つ指ついておじぎをする)
希美「よろしくって? 真一! 誰よ、この人。何でここにいるのよ」
真一「えっ? あっ!(希美に)いや、あの…。俺にもよく分かんないんだけど…」
幽子「あの…。私のことは気にしないで。邪魔とかしませんから」
希美「そう言うことじゃなくて。(怒って)真一、ちゃんと説明してよね」
幽子「すいません。これ、もう一つ食べてもいいですか? もう半年も何も食べてなくて。前にいた人は、料理とか全然しない人だったんです。だから、追い出しちゃった。真一は、ちゃんと料理作ってね」
   幽子は冷蔵庫のなかに消えていく。茫然と立ちつくす二人。
<つぶやき>引っ越しする時は気をつけましょう。先住者がいるかもしれません。
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T:003「小悪魔的微笑」
   小さな結婚式場で、受付をすることになった初対面の二人。
さやか「ねえ、花嫁のドレス、見た? 超ダサくない」
山本「そんな…。(小声で)他のお客さんに聞こえますよ」
さやか「別にいいじゃん。どうせ、ちんけな結婚式なんだから」
山本「ダメですって、そんなこと言っちゃあ」
さやか「正貴も、何であんなブスにしたんだろう」
山本「ブスって。姫野さんはブスじゃないですよ」
さやか「あんた、あの女のなに?」
山本「なにって…、友達ですよ」
さやか「私、むかし正貴と付き合ってたから、あいつのこと何でも知ってんだよね」
山本「えっ!?」
さやか「そんなに驚かなくてもいいじゃん。むかしのことよ」
山本「昔って?」
さやか「あの二人、ぜったい別れるね。一年もたないんじゃないのかなぁ」
山本「そんなことないですよ。別れるなんてことは…」
さやか(山本の顔を覗き込み)「あんたさ、もしかしてあの女のこと好きなの?」
山本(動揺して)「えっ、そ、そんなことは…」
さやか「やっぱりそうなんだ。あんな女、やめときなよ。どこがいいの? どうせ今日だって、無理やり受付係を押しつけられたんでしょう」
山本「いや、それは…」
さやか「ねえ、私と付き合わない?」
山本「はい?」
さやか「いいじゃない。あんた、どうせ他に彼女いないんでしょう」
山本「あのね、突然そんなこと言われても…」
   受付に客がやって来る。
さやか「どうも、ありがとうございます。こちらにご記入下さい。(山本に微笑みかける)もうすぐ始まりますので、あちらの方でお待ち下さい」
   客が受付を離れていく。山本はどうしたものかと考え込んでいる。
さやか「ねえ、これ終わったら、二人で抜け出さない?」
山本「そんな、ダメですよ」
さやか「いいじゃん、デートしようよぉ」
山本(怒って)「もう、冗談は止めて下さい。僕は…」
さやか「わあっ、かわいいーぃ。じゃあ、式が終わってからでいいよ」
山本「なんで、僕なんかと付き合うんですか。きょう会ったばかりなのに…」
さやか「だって、あんたみたいな人、初めてなんだもん。なんか、感じるものがあるのよ。きっと、私のタイプなんだわ。そんな難しい顔しないで。お試し期間ってことで、よろしくねっ~」(とても可愛らしく微笑みかける)
<つぶやき>この男、いじられるタイプなの? 優しくしてあげてくださいね。
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T:004「優しい嘘」
   結婚十数年目の夫婦。朝食の情景。
和子(お茶を出して)「ねえ、昨夜も遅かったみたいね」
孝夫(ちょっと動揺)「えっ…、そうだね」(ご飯を頬張る)
和子(夫の前に座り顔色をうかがいながら)「仕事、そんなに忙しいの?」
孝夫(ご飯をのみ込んで)「うん…、ちょっと忙しいかな」
和子「へーえ、そうなんだ」
孝夫「なに? なんか…」
和子「別に…。そうだ、昨夜、山田さんから電話があったわよ」
孝夫「えっ、山田から? なんて…」
和子「さぁ。でも、あなた、会社にいたのよね。なんで家に電話してきたのかな?」
孝夫「昨日はさ、外回りしてて、直帰するって言っといたから。たぶんそれで…」
和子「あれーぇ。でも、山田さん、あなたは定時で帰ったって言ってたわよ」
孝夫「あれっ、おかしいな…」
   中学生の娘・あずさがあわてて飛び込んで来て、食卓に座る。
あずさ「お母さん! 今日から朝練が始まるから早く起こしてって言ったじゃないの」
和子「そうだった?」
あずさ(食事を口いっぱいに入れて)「もう、遅れちゃうよ。先生に、怒られるんだから」
和子「遅くまで起きてるからでしょう。もっと早く寝なさいよ」
あずさ(食べながら)「いろいろやりたいことがあるのよ。一日、三十時間あったらなぁ」
孝夫(笑いながら)「それは、いくらなんでも無理だろう。(和子に)なあ…」
   和子は孝夫に冷たい目線を向ける。孝夫は、目をそらして食事をつづける。
あずさ(食べ終わって、口をもぐもぐさせながら)「もう、行く。やばいよ」
和子「はい、お弁当。残さないでよ」
あずさ「わかってるって。いつも、ありがとうね。行ってきまーす」
   あずさ、飛び出していく。和子は食卓に戻り、
和子「で、どこに行ってたの?」
孝夫「だから、仕事だよ。得意先を回ってて…」
和子「あなたのシャツ、いい匂いがしてたけど。誰かと、高級料理でも食べたのかな?」
孝夫「そんなことないよ。気のせいだって。ははは…」
和子「あなた! 家族のあいだで嘘はつかないって約束したよね」
孝夫「嘘なんか…。(間)わかったよ。実は…、篠原のところで料理を習ってるんだ」
和子「篠原…。あなたの親友で、あの高級レストランのオーナーシェフの…篠原さん?!」
孝夫「そうだよ。今度の結婚記念日、そのレストランで、僕が作った料理を食べてもらおうかなって…。もう、びっくりさせようと思ってたのになあ」
和子「えっ、ごめんなさい。私…。あーあ、そういうことは早く教えてよ。新しい服、買わないと。ねっ、いいでしょう? わぁ、楽しみだな。どんなドレスにしようかな…」
孝夫「いや、そこまでしなくても…。あずさも連れて行くんだし」(困った顔で見つめる)
<つぶやき>なんだかんだと言っても、家族円満が一番ですよね。うちは大丈夫かな?
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T:005「SINOBI」
○ 夕方のとある商店街
   閑散として人通りのない商店街。店主たちが不安そうに通りを見ていた。
ナレーション「突然現れたスーパーにお客を奪われ、存亡の危機に瀕した商店街。だが、ここには人知れず暮らす忍びの者たちがいた。これは現代に生きる忍びの物語である」
○ 質屋の藏の二階
   夜。音もなく集まってくる者たち。それぞれ仕事着を身につけ、道具を携えている。
八百屋「お頭、やっぱりあのスーパー、変ですよ。仕入れ先がまったくつかめない」
質屋の頭「運送屋の情報では、あちらこちらに出没して、荒稼ぎをしているようだ」
荒物屋「このままじゃ、この商店街も潰されちまいますよ。早く手を打たないと」
ミスド店員「えーっ、そんな。わたし、せっかくいいバイト見つけたのにぃ」
魚屋店員「お頭の前でなんて口のきき方するんだ。まったく、今どきの若いもんは…」
本屋「なに言ってんだ。お前とたいして違わねえだろう。お頭、これからどうします?」
質屋の頭「今夜、忍び込もう。いいか、どんな相手か分からんが、油断するんじゃないぞ」
   真剣な表情の面々。緊張が走る。
○ スーパーの店内
   非常灯がついている薄暗い店内。あちこちに散って調べていた忍びたちが集合する。
米屋「お頭、ここの米、事故米が混じってますよ」
肉屋「それに、冷凍肉のラベル、張り替えてますぜ。どう見ても産地偽装だ」
本屋「金庫の中には裏帳簿がありました。どうやら、盗品も扱ってますね」
   突然、照明がつき、男たちがまわりを取り囲んだ。手には武器を持っている。
スーパー社長「おやおや、こんな大きなネズミがいたとはな」
魚屋店員「お前らな、こんな商売していいと思ってんのか!」
スーパー社長「ばれちゃ仕方がない。(子分たちに)生かして返すんじゃねえぞ!」
   男たちは剣を振るい襲いかかる。忍びたちは、それぞれの道具で応戦する。菜箸やおたま、竹ぼうきなど。ミスド店員が男たちに囲まれる。魚屋店員が助け出す。
魚屋店員「お前、なにやってんだよ。ちゃんと修業してないだろう」
ミスド店員「うるさいなぁ。ちょっと、手元がくるっただけよ」
   ミスド店員はフォークの手裏剣を敵に投げつける。形勢は忍びたちに傾く。社長が合図をすると、いたるところで爆発が起き、店内に煙が充満していく。
○ スーパーを見下ろす丘の上
   忍びたちが炎上しているスーパーを見下ろしている。傷を負ったものもいる。
本屋「あいつらは、いったい何者だったんでしょう?」
質屋の頭「俺たちと同じ忍びだろう。また、現れるかもしれんな」
ミスド店員「そんときは、わたしがまたやっつけてやるわよ」
魚屋店員「よく言うよ。やられそうだったくせに」
   ミスド店員はふくれ顔で魚屋店員を追いかける。みんなは笑顔で二人を見つめる。
<つぶやき>影ながら働いている人たちがいるかもしれません。あなたの隣にも…。
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T:006「人生の選択」
   お洒落なバーで、若い男女が人生の大切な場面をむかえていた。
真理「ねえ、いつもの居酒屋でよかったのに。ここ、高いんじゃないの?」
貢 「あのさ、今日は…。静かなところがいいかなと思って」
真理「えっ? どうしたのよ。なんか、いつものみつぐじゃなぁい」
貢 「俺たち、もう付き合い始めて二年だろ。そろそろ…」
真理「もうそんなに。早いよね。私も、もうお肌の曲がり角かな。なんて」
貢 「だから、その…。ここらへんで、けじめというか…」
真理「なに? もしかして、他に好きな人できちゃったの?」
貢 「そうじゃなくて…。ぼ、僕と…。け、けっ…、結婚しよう!」
真理(結婚と聞いて、すぐに即答する)「無理」
貢 「えっ? なんで…」
真理「私たち、このままでいいじゃない。結婚なんて…」
貢 「だって、俺たち好きあってるんじゃ…」
真理「そうよ。私、みつぐのこと大好きよ。でも、結婚は無理なの」
貢 「わけ分かんないよ。大好きだったら、結婚ってことになるでしょう」
真理「オダマリ!」
貢 「えっ…」
真理「私、結婚したら尾田真理になるのよ。そんなの、ありえないでしょう」
貢 「はぁ? なに言ってるの。いい名前じゃない、尾田真理って」
真理「じゃあ、もし子供ができて、病院の待合室で<オダマリ!>を連呼されても平気でいられるの? 私は、無理。恥ずかしくて耐えられない」
貢 「そんなこと、こだわることじゃないでしょう。俺たちの愛にくらべたら…」
真理「だったら、みつぐが婿養子に来てよ。どうせ次男なんだから、いいでしょう」
貢 「それは…。その、養子は…」
真理「こっちはお姉ちゃんと二人だから、どっちかが継がないといけないんだから」
貢 「そんなこと言っても、俺も、無理だよ」
真理「なんでよ。私のこと愛してるんでしょう。だったら、それくらい…」
貢 「<タダのみつぐ>だよ。なんか、嫌なんだよなぁ」
真理「なによ。只野のどこが悪いのよ。只野家をバカにしてるの?」
貢 「だって、いままでさんざん君に貢いでるのに、それが名前になるんだよ」
真理「オダマリ! 私より名前にこだわるわけね。もういい、別れましょう」
貢 「えっ! なに言ってるんだよ。最初にこだわったのは君じゃないか」
   二人とも黙り込んでしまう。なんともいやな間。
二人で「あの…」(ばつの悪い間)
真理「私…。やっぱり、別れたくない。みつぐのこと大好きだから…」
貢 「僕も、真理のとこ大好きだよ。もう一度、養子のこと考えてみるから…」
   二人、手を取り見つめ合う。この二人の未来は明るいのか?
<つぶやき>こんなことはそうあることでは…。でも、名字が変わるって変な感じかも。
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T:007「専属天使」
   一人暮らしの男の部屋。男はデートに出かけようとして急いでいた。
安田「財布も持ったし、ハンカチOK。プレゼントもあるし…」
   玄関のチャイムが鳴る。
安田「誰だよ、こんな時に…」
   男は玄関を開ける。白いワンピースの若い女性が立っていた。
安田「えっ、どなたですか?」
スージー「あなた、安田さん?」
安田「はい。そうですけど…」
スージー「あーっ、やっと見つけた。この住所、分かりづらい。迷っちゃったじゃない」
安田「えっ?」
スージー「今日から、あなたの担当になったから、よろしく」(部屋に上がり込んでいく)
安田「ちょっと待てよ。なに、担当って?」
スージー「だから…。(めんどくさそうに)神様の命令で、あなた専属の天使になったの」
安田「天使ってなに? 悪いけど、これから出かけるから、帰って来んないかな」
スージー「あの女はやめときなよ。運命の相手じゃないから」
安田「なに勝手なこと言ってるんだよ。僕が彼女と付き合うために、どれだけ努力を重ねてきたか。彼女はね、もう僕にはもったいないくらい、素晴らしい人で…」
   スージーはテーブルの上の箱からシュークリームを出して美味しそうに食べ始める。
スージー(食べながら)「そうよ、不釣り合いなの。分かってるじゃない」
安田(気づいて)「あっ! なに食べてんだよ。それは彼女のために買っておいた…」
スージー「これ、美味しいね。私、気に入っちゃった」
安田(箱を覗いて)「おまえ、全部食べたな。これを買うのに、何時間並んだと思ってんだよ。どうしてくれるんだ。今日、買っていくって約束して…」
スージー「もう、いいじゃん。どうせ、別れるんだから」
安田「おまえ、本当に天使か? 天使がこんなことしていいのかよ」
スージー「うーん、別にいいんじゃないの。天使にそんな決まりはないしぃ」
安田「嘘だ! おまえ、天使なんかじゃないだろう。誰に頼まれた? 言ってみろ!」
スージー「もう、うざい。そんなんだからモテないのよ」
安田「だったら、天使だっていう証拠を見せろ。天使の輪っかも羽根もないじゃないか」
スージー「そんなのあるわけないじゃん。それは、人間の作り話よ」
安田「もういい。出てってくれ。出てけよ!」
スージー「私も出て行きたいんだけど、これも仕事だしぃ。当分ここにいるから」
安田「当分って、なんだよ。まさか、ここに住みつくつもりか?」
スージー「しかたないじゃない。あなたが運命の人に出会って、幸せをつかむのを見届けなきゃいけないしぃ。いいじゃない、こんな可愛い天使と一緒にいられるのよ」
安田「あのな、どこが可愛いんだよ。だいたいな…」
スージー「ねえ。これ、毎日食べたい。でないと私、運命の人、教えてあげない」
<つぶやき>これは幸運なの、不幸なの。でも、運命の人が分かるんだよ。よくない?
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T:008「不思議な体験」
   森の中の小道。二人の兄妹が歩いていた。
あかね「お兄ちゃん、ほんとに近道なの? ねえ、戻ろうよぉ」
陽太「なに言ってるんだよ。あかねが寄り道するから遅くなったんだろ」
あかね「だって、ばあちゃんに、このお花、あげたかったんだもん。それに、お兄ちゃんだって…」
陽太「もう、いいから。早くしないと、暗くなっちゃうぞ」
あかね「でも…」
陽太「大丈夫だよ。この森を抜ければ、ばあちゃんの家につけるから」
あかね「うん」
   森の奥に入って行く二人。木々にさえぎられて、だんだん薄暗くなっていく。
あかね(立ち止まって)「お兄ちゃん」
陽太「なんだよ」
あかね「誰か…、後ろにいる」
陽太「えっ?(後ろの方を見る)誰もいないよ。もう、おどかすなよ」
あかね「だって、さっき足音がしたもん」
陽太「いいから。ほら、行くぞ」
あかね「待ってよ、お兄ちゃん」
   妹は兄の手をとって、再び歩き出す。しばらくして、後ろの方で奇妙な音がする。
あかね(驚いて立ち止まり)「ねえ、いまの聞いた?」
陽太「うん。なんの音かな?」
   二人して、後ろを振り向く。暗闇が迫ってくるように感じて、驚いて駆け出す二人。しばらく走ると、妹が転んでしまう。
陽太「あかね!」(妹に駆け寄る)
あかね「お兄ちゃん…」(泣き出してしまう)
陽太(後ろの方を見て)「もう大丈夫だ。誰もいないよ」
あかね(泣きながら)「もう、いやだ~ぁ」
   森の中から音がして、何かが飛び出してくる。驚いて身をこわばらせる二人。
ばあちゃん「おや、どうしたね。(二人を見て)なんだ、陽太にあかねじゃないか」
あかね(ばあちゃんに抱きついて)「ばあちゃん!」
ばあちゃん「どうした、どうした。たぬきにでも化かされたか?」
陽太「タヌキ?」
ばあちゃん「そうだよ。この森には昔からたぬきたちが棲んでいてね。人をおどかしたり、迷わせたりするのさ」
あかね「ばあちゃんも、化かされたことあるの?」
ばあちゃん「ああ。でも、時には人助けもするんだよ。ほら、この先に行けば、ばあちゃんの家がある。これからは、兄妹仲良くしないといけないよ」
   突然、一陣の風が吹き、目を閉じる二人。目を開けるとばあちゃんの姿は消えていた。
<つぶやき>こんな経験ありませんか? でも、気をつけて下さい。危険な場合も…。
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T:009「正義の味方ピーマン!」
   子供向けイベントの控え室。出演者たちが準備をしている。
吾朗「なあ。何だよ、これ」
祐介「それは、虫歯キングーだよ。子供たちの歯を虫歯に変えてしまう…」
吾朗「そう言うことじゃなくて。ヒーロー物だって言ったよな」
祐介「そうだよ。吾朗には悪役の大将になってもらって…」
吾朗「あのさ、もっとさ、別のやつがあるだろ。もっと、こう…」
祐介「えっ?」
吾朗「だから、仮面ライダーとか、ウルトラマンとか、何とかレンジャーとか、格好いいのがあるじゃない。なんで、こんな…。格好悪いだろ、こんなんじゃ」
祐介「そうかな? でも、子供たちには、けっこう人気あるんだぜ」
吾朗「ホントかよ。それに、それなんだよ。お前の着てるの?」
祐介「これは、ピーマン。正義の味方で、子供たちを虫歯キングーから守っちゃうんだ」
吾朗「ダサいよ。だいいち、ピーマンなんて子供のいちばん嫌いな野菜だろ」
祐介「だから、子供たちに、ピーマンは君たちの味方だよって、分かってもらおうと…」
吾朗「俺、やめようかな。こんなの、やってらんないよ」
祐介「そんな、虫歯キングーがいなかったら、困るよ。なあ、頼むよ」
   司会の奇麗なお姉さんが入って来る。
さおり「お早うございます。今日もよろしくお願いしまーす」
祐介「あっ、お早うございます。よろしくお願いします」
さおり「あれ、新しい人?」
吾朗「どうも。僕、長瀬吾朗と言います。今日からよろしくお願いします!」
さおり「あっ、虫歯キングーやるんだぁ。がんばってね」
吾朗「はい、がんばりまーす」
祐介「えっ、やるのかよ」
吾朗「さあ、稽古しようぜ。僕は、何をすればいいんだ」
祐介「ああ、それじゃ…」
さおり「じゃあ、私は打ち合わせしてくるね」
   さおり、控え室から出ていく。
吾朗「おい、おい。あんな可愛い子がいるなら、そう言ってくれよ。俺、がんばっちゃうから。で、今日終わったら、彼女、飲みに誘おうぜ。お疲れ様会だーっ!」
祐介「それはいいけど、ホントにやってくれるんだろうな」
吾朗「もちろん。彼女、誰か付き合ってる人いるのかな?」
祐介「付き合ってるっていうか、彼女、結婚してるから。娘さんもいるし。それに、彼女、アラフォーだよ」
吾朗「えっ! だって、どう見たって、二十歳ぐらいにしか…」
祐介「じゃあ、稽古するから、早く着替えてね」
吾朗「何だよ。嘘だろーぉ!」
<つぶやき>世の中には信じられないことが多々あるのです。そこが面白いというか…。
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T:010「まぬけな窃盗団」
   とある大企業の備品倉庫。地階の奥まったところにあるので、めったに人は来ない。会社の制服を着た女性が縛られている。それを取り囲む男たち。
明日香「あの、私、いつまでここに…」
兄貴「今、考えてるんだよ。静かにしてろ」
ふとっちょ「アニキ、もう帰ろうよ。オイラ、腹へって…」
兄貴「何だと。もとはといえば、お前の、がせネタのせいでこうなったんだろうが」
ちょろ「こうなったら、この女、かっさらって、そんで、売り飛ばして…」
兄貴「ばか野郎。俺たちはな、落ちぶれたとはいっても、由緒ある窃盗団なんだぞ」
ちょろ「だってよ、このままじゃ、金になんないし。それにこの女、結構、上玉だぜ」
明日香「あの、ちょっといいですか?」
ちょろ「うるせえな。おめえは黙ってろよ」
明日香「でも、私、思いついたんですけど…」
兄貴「やっと機密情報のことを話す気になったのか? もし、そうじゃなかったら…」
明日香「ごめんなさい。本当に知らないんです。でも、その人、私がすごいもの持ってるって言ったんですよね?」
ふとっちょ「そうだよ。なんかぁ、誰も真似できないんだって」
兄貴「おい、ちょっと待てよ。そんなこと聞いてねえぞ」
ふとっちょ「だって、兄貴、最後まで聞いてくれなかったじゃないか」
兄貴「よし、わかった。じゃあ、聞いてやるよ。ほら、話せよ。話せって、話せ!」
ふとっちょ「そんな、せかされるとさ。えっと…、あの…」
兄貴「その情報屋、どこのどいつだ。えっ? いくら払ったんだ?」
ふとっちょ「払ってないよ。だって、俺、そんな金、持ってないしね」
兄貴「おい、おい、おい。信じられねえよなぁ…」
ちょろ「ほら、どんな奴だか言ってみろ。俺が見つけだして、ボコボコにしてやるからよ」
ふとっちょ「知らないよ。この近くの、屋台で話してたの聞いただけで…」
兄貴「聞いただけって何だよ。それじゃ、何か、酔っぱらいのたわごとかよ」
ふとっちょ「うん、そうだよ。それを、兄貴が…」
兄貴「もういい! 何も言うな。もう、聞きたくない」
明日香「それ、たぶん、この会社の人たちです。きっと、そうだと思います」
兄貴「おい、ほどいてやれ。もう、やめた。バカバカしい」
ふとっちょ「いいのかい? わかった」
   ふとっちょ、明日香の縄をほどいてやる。
兄貴(明日香に)「ほら、もう行ってもいいぞ」
明日香「ありがとうございます」
兄貴「あ、そうだ。さっき、何か言いかけてたよな?」
明日香「私、人の顔をすぐ覚えちゃうんです。それに、似顔絵も得意なんですよ」
   明日香、ほっとした顔で出て行く。男たち顔を見合わせて、慌てて追いかけていく。
<つぶやき>果たして彼女は逃げられたんでしょうか? 言葉には気をつけましょう。
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T:011「作家の気晴らし」
   とある落ち目の作家の書斎。新米の編集者がはりついている。
先生「うーん。あーぁ。んがーぁ……。だめだ、書けない。(編集者に)君ね、ちょっと向こうに行っててくれないか。どうも、気が散っていけない」
編集者「だめです。僕が離れたすきに、逃げようとしてるでしょう。今度はだまされませんよ。今日が締切なんですから、がんばって書いて下さいよ」
先生「そうは言うけどね、書けないものは書けないよ」
編集者「お願いします。今日、原稿を持って帰らないと、編集長に何て言われるか」
先生「そうね。でも、まあ、クビにはならんだろう。君、知ってるかね。あの編集長の武勇伝。彼女はね、ああ見えても、柔術の達人でね」
編集者「先生。この間は、大和撫子で日本女性の鏡だって言ってませんでしたか?」
先生「えっ、そんなこと言ったかな。そうか、大和撫子で柔術の達人なんだよ」
編集者「もう、いいですから。早く原稿を書いて下さい」
先生「せっかちだね。そんなだから、彼女に嫌われるんだよ」
編集者「そんなことないですよ。彼女とは…」
先生「うまくいってるの?」
編集者「それは、まあ、それなりに…」
先生「はっきりしないねぇ。ほら、この間の誕生日。私の言った通りにしたんだろ。(間)しなかったの? だめだよ、君。女性にとって誕生日とは、一種のバロメーターなんだよ。相手の男を査定してるんだ。だからこそ、男はそこに勝負を賭けなきゃ」
編集者「しましたよ。先生の言った通りに…」
先生「そうか。それで、どうだったんだ?(間)もう、じれったいなぁ。はっきりしない男は嫌われるぞ」
編集者「でも、何で彼女の誕生日に、禅寺で半日コースの修業をするんですか?」
先生「あの禅寺は良かっただろ。心身ともに鍛えられて。あそこの半日コースはな、お勧めなんだよ。値段も手頃だしな。君の彼女も喜んだろ」
編集者「どうかな。でも、僕はつらかったですよ。もう、足はしびれるし…」
先生「だめだよ。彼女の前でそんな弱音を吐いちゃ」
編集者「でも、先生。最後のホテルっていうのは、どうなんですか?」
先生「良かっただろ、あのホテル。あそこのディナーは最高なんだよ」
編集者「それ、いつの話ですか? 僕たちが行ってみたら、ラブホになってましたけど」
先生「えっ? そうなの。うふ、うふふ…。良かったじゃない。盛り上がっただろ」
編集者「それどころか、ひかれちゃいましたよ。彼女、そのまま帰っちゃって…」
先生「そうなの。君の彼女は奥手なんだねぇ。そうだ。これを書いてみるかな」
編集者「ちょっと、やめて下さいよ。変なこと書かないで下さい」
先生「大丈夫だよ。君のことだとは分からないさ。それとも、原稿できなくても…」
編集者「もう。先生、まさか原稿のネタがほしくて、僕にあんなことさせたんですか?」
   先生は含み笑いをして、原稿用紙に向かいペンを走らせた。
<つぶやき>書けない時には、ちょっとした息抜きの充電が必要なんでしょうね。
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超短編戯曲End