002「食いしん坊のルームメイト」

とあるアパート。越してきたばかりなのか、段ボール箱などが積み上げられている。真一が段ボール箱を一つずつ開けながら、
真一「これは、台所用品と…。あれ…、これ捨てようと思ってたのに、何でこんなところにあるんだ。ああ…、もうぐちゃぐちゃだな。どこに何が入ってるのか分かんないよ」
真一が積み上げてある段ボール箱をどかすと、部屋の隅に女が座っていた。
真一「(驚いて)わぁ! えっ…、だれ? 何でこんなところに…」
幽子「初めまして。私、幽子って言います。どうぞよろしく」(三つ指ついておじぎをする)
真一「ゆうこ? えっ…。どっから入ってきたんだよ」
幽子「私は、ずっとここに居たよ。今日から、ルームメイトだね」
真一「はぁ、なに言ってるの? ここは俺の部屋だから。早く、出てけよ」
幽子「それは、ちょっと無理かなぁ。だって、ここから出られないし」
真一「えっ、なに言ってんだよ。いいから、出てけよ」
真一は幽子を外に追い出し、玄関の扉を閉める。閉めてすぐに、扉を叩く音がする。
真一「まったく、いい加減にしろよ!」
扉を開ける真一。外には別の女が立っていた。
希美「なに…。おどかさないでよ」
真一「のぞみ…。えっ、どうして…」
希美「一人じゃ大変だと思って、手伝いに来たんじゃない。それに、これ。引っ越しといえば、蕎麦でしょう。そこのコンビニで買って来ちゃった」
真一「あっ、ありがとう。あの…、いまさ、誰かに会わなかった?」
希美「誰かって?」
真一「いや…、別にいいんだ。さあ、入って。どうぞ」
希美「はい、おじゃましまーす。なんだ、全然片付いてないじゃない」
真一「だって、さっき始めたばかりだからさ」
希美「よし。じゃあ、やっつけちゃうわよ」
希美はコンビニの袋をそのまま冷蔵庫にしまう。二人は、片付けを始める。
しばらくすると、冷蔵庫の方で蕎麦をすする音がする。希美がそれに気づいて、
希美「だれ?(近づいて)何してるのよ。それ、私が買ってきたやつじゃない!」
幽子「初めまして。私、幽子って言います。どうぞよろしく」(三つ指ついておじぎをする)
希美「よろしくって? 真一! 誰よ、この人。何でここにいるのよ」
真一「えっ? あっ!(希美に)いや、あの…。俺にもよく分かんないんだけど…」
幽子「あの…。私のことは気にしないで。邪魔とかしませんから」
希美「そう言うことじゃなくて。(怒って)真一、ちゃんと説明してよね」
幽子「すいません。これ、もう一つ食べてもいいですか? もう半年も何も食べてなくて。前にいた人は、料理とか全然しない人だったんです。だから、追い出しちゃった。真一は、ちゃんと料理作ってね」
幽子は冷蔵庫のなかに消えていく。茫然と立ちつくす二人。
<つぶやき>引っ越しする時は気をつけましょう。先住者がいるかもしれません。
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2021年05月20日