超短編戯曲一覧

003「小悪魔的微笑」

ZZ003

小さな結婚式場で、受付をすることになった初対面の二人。
さやか「ねえ、花嫁のドレス、見た? 超ダサくない」
山本「そんな…。(小声で)他のお客さんに聞こえますよ」
さやか「別にいいじゃん。どうせ、ちんけな結婚式なんだから」
山本「ダメですって、そんなこと言っちゃあ」
さやか「正貴も、何であんなブスにしたんだろう」
山本「ブスって。姫野さんはブスじゃないですよ」
さやか「あんた、あの女のなに?」
山本「なにって…、友達ですよ」
さやか「私、むかし正貴と付き合ってたから、あいつのこと何でも知ってんだよね」
山本「えっ!?」
さやか「そんなに驚かなくてもいいじゃん。むかしのことよ」
山本「昔って?」
さやか「あの二人、ぜったい別れるね。一年もたないんじゃないのかなぁ」
山本「そんなことないですよ。別れるなんてことは…」
さやか(山本の顔を覗き込み)「あんたさ、もしかしてあの女のこと好きなの?」
山本(動揺して)「えっ、そ、そんなことは…」
さやか「やっぱりそうなんだ。あんな女、やめときなよ。どこがいいの? どうせ今日だって、無理やり受付係を押しつけられたんでしょう」
山本「いや、それは…」
さやか「ねえ、私と付き合わない?」
山本「はい?」
さやか「いいじゃない。あんた、どうせ他に彼女いないんでしょう」
山本「あのね、突然そんなこと言われても…」
受付に客がやって来る。
さやか「どうも、ありがとうございます。こちらにご記入下さい。(山本に微笑みかける)もうすぐ始まりますので、あちらの方でお待ち下さい」
客が受付を離れていく。山本はどうしたものかと考え込んでいる。
さやか「ねえ、これ終わったら、二人で抜け出さない?」
山本「そんな、ダメですよ」
さやか「いいじゃん、デートしようよぉ」
山本(怒って)「もう、冗談は止めて下さい。僕は…」
さやか「わあっ、かわいいーぃ。じゃあ、式が終わってからでいいよ」
山本「なんで、僕なんかと付き合うんですか。きょう会ったばかりなのに…」
さやか「だって、あんたみたいな人、初めてなんだもん。なんか、感じるものがあるのよ。きっと、私のタイプなんだわ。そんな難しい顔しないで。お試し期間ってことで、よろしくねっ~」(とても可愛らしく微笑みかける)
<つぶやき>この男、いじられるタイプなの? 優しくしてあげてくださいね。
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2021年05月28日

004「優しい嘘」

ZZ004

結婚十数年目の夫婦。朝食の情景。
和子(お茶を出して)「ねえ、昨夜も遅かったみたいね」
孝夫(ちょっと動揺)「えっ…、そうだね」(ご飯を頬張る)
和子(夫の前に座り顔色をうかがいながら)「仕事、そんなに忙しいの?」
孝夫(ご飯をのみ込んで)「うん…、ちょっと忙しいかな」
和子「へーえ、そうなんだ」
孝夫「なに? なんか…」
和子「別に…。そうだ、昨夜、山田さんから電話があったわよ」
孝夫「えっ、山田から? なんて…」
和子「さぁ。でも、あなた、会社にいたのよね。なんで家に電話してきたのかな?」
孝夫「昨日はさ、外回りしてて、直帰するって言っといたから。たぶんそれで…」
和子「あれーぇ。でも、山田さん、あなたは定時で帰ったって言ってたわよ」
孝夫「あれっ、おかしいな…」
中学生の娘・あずさがあわてて飛び込んで来て、食卓に座る。
あずさ「お母さん! 今日から朝練が始まるから早く起こしてって言ったじゃないの」
和子「そうだった?」
あずさ(食事を口いっぱいに入れて)「もう、遅れちゃうよ。先生に、怒られるんだから」
和子「遅くまで起きてるからでしょう。もっと早く寝なさいよ」
あずさ(食べながら)「いろいろやりたいことがあるのよ。一日、三十時間あったらなぁ」
孝夫(笑いながら)「それは、いくらなんでも無理だろう。(和子に)なあ…」
和子は孝夫に冷たい目線を向ける。孝夫は、目をそらして食事をつづける。
あずさ(食べ終わって、口をもぐもぐさせながら)「もう、行く。やばいよ」
和子「はい、お弁当。残さないでよ」
あずさ「わかってるって。いつも、ありがとうね。行ってきまーす」
あずさ、飛び出していく。和子は食卓に戻り、
和子「で、どこに行ってたの?」
孝夫「だから、仕事だよ。得意先を回ってて…」
和子「あなたのシャツ、いい匂いがしてたけど。誰かと、高級料理でも食べたのかな?」
孝夫「そんなことないよ。気のせいだって。ははは…」
和子「あなた! 家族のあいだで嘘はつかないって約束したよね」
孝夫「嘘なんか…。(間)わかったよ。実は…、篠原のところで料理を習ってるんだ」
和子「篠原…。あなたの親友で、あの高級レストランのオーナーシェフの…篠原さん?!」
孝夫「そうだよ。今度の結婚記念日、そのレストランで、僕が作った料理を食べてもらおうかなって…。もう、びっくりさせようと思ってたのになあ」
和子「えっ、ごめんなさい。私…。あーあ、そういうことは早く教えてよ。新しい服、買わないと。ねっ、いいでしょう? わぁ、楽しみだな。どんなドレスにしようかな…」
孝夫「いや、そこまでしなくても…。あずさも連れて行くんだし」(困った顔で見つめる)
<つぶやき>なんだかんだと言っても、家族円満が一番ですよね。うちは大丈夫かな?
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2021年06月03日

005「SINOBI」

ZZ005

○ 夕方のとある商店街
閑散として人通りのない商店街。店主たちが不安そうに通りを見ていた。
ナレーション「突然現れたスーパーにお客を奪われ、存亡の危機に瀕した商店街。だが、ここには人知れず暮らす忍びの者たちがいた。これは現代に生きる忍びの物語である」
○ 質屋の藏の二階
夜。音もなく集まってくる者たち。それぞれ仕事着を身につけ、道具を携えている。
八百屋「お頭、やっぱりあのスーパー、変ですよ。仕入れ先がまったくつかめない」
質屋の頭「運送屋の情報では、あちらこちらに出没して、荒稼ぎをしているようだ」
荒物屋「このままじゃ、この商店街も潰されちまいますよ。早く手を打たないと」
ミスド店員「えーっ、そんな。わたし、せっかくいいバイト見つけたのにぃ」
魚屋店員「お頭の前でなんて口のきき方するんだ。まったく、今どきの若いもんは…」
本屋「なに言ってんだ。お前とたいして違わねえだろう。お頭、これからどうします?」
質屋の頭「今夜、忍び込もう。いいか、どんな相手か分からんが、油断するんじゃないぞ」
   真剣な表情の面々。緊張が走る。
○ スーパーの店内
非常灯がついている薄暗い店内。あちこちに散って調べていた忍びたちが集合する。
米屋「お頭、ここの米、事故米が混じってますよ」
肉屋「それに、冷凍肉のラベル、張り替えてますぜ。どう見ても産地偽装だ」
本屋「金庫の中には裏帳簿がありました。どうやら、盗品も扱ってますね」
   突然、照明がつき、男たちがまわりを取り囲んだ。手には武器を持っている。
スーパー社長「おやおや、こんな大きなネズミがいたとはな」
魚屋店員「お前らな、こんな商売していいと思ってんのか!」
スーパー社長「ばれちゃ仕方がない。(子分たちに)生かして返すんじゃねえぞ!」
男たちは剣を振るい襲いかかる。忍びたちは、それぞれの道具で応戦する。菜箸やおたま、竹ぼうきなど。ミスド店員が男たちに囲まれる。魚屋店員が助け出す。
魚屋店員「お前、なにやってんだよ。ちゃんと修業してないだろう」
ミスド店員「うるさいなぁ。ちょっと、手元がくるっただけよ」
ミスド店員はフォークの手裏剣を敵に投げつける。形勢は忍びたちに傾く。社長が合図をすると、いたるところで爆発が起き、店内に煙が充満していく。
○ スーパーを見下ろす丘の上
忍びたちが炎上しているスーパーを見下ろしている。傷を負ったものもいる。
本屋「あいつらは、いったい何者だったんでしょう?」
質屋の頭「俺たちと同じ忍びだろう。また、現れるかもしれんな」
ミスド店員「そんときは、わたしがまたやっつけてやるわよ」
魚屋店員「よく言うよ。やられそうだったくせに」
ミスド店員はふくれ顔で魚屋店員を追いかける。みんなは笑顔で二人を見つめる。
<つぶやき>影ながら働いている人たちがいるかもしれません。あなたの隣にも…。
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2021年06月09日

006「人生の選択」

ZZ006

お洒落なバーで、若い男女が人生の大切な場面をむかえていた。
真理「ねえ、いつもの居酒屋でよかったのに。ここ、高いんじゃないの?」
 「あのさ、今日は…。静かなところがいいかなと思って」
真理「えっ? どうしたのよ。なんか、いつものみつぐじゃなぁい」
 「俺たち、もう付き合い始めて二年だろ。そろそろ…」
真理「もうそんなに。早いよね。私も、もうお肌の曲がり角かな。なんて」
 「だから、その…。ここらへんで、けじめというか…」
真理「なに? もしかして、他に好きな人できちゃったの?」
 「そうじゃなくて…。ぼ、僕と…。け、けっ…、結婚しよう!」
真理(結婚と聞いて、すぐに即答する)「無理」
 「えっ? なんで…」
真理「私たち、このままでいいじゃない。結婚なんて…」
 「だって、俺たち好きあってるんじゃ…」
真理「そうよ。私、みつぐのこと大好きよ。でも、結婚は無理なの」
 「わけ分かんないよ。大好きだったら、結婚ってことになるでしょう」
真理「オダマリ!」
 「えっ…」
真理「私、結婚したら尾田真理になるのよ。そんなの、ありえないでしょう」
 「はぁ? なに言ってるの。いい名前じゃない、尾田真理って」
真理「じゃあ、もし子供ができて、病院の待合室で<オダマリ!>を連呼されても平気でいられるの? 私は、無理。恥ずかしくて耐えられない」
 「そんなこと、こだわることじゃないでしょう。俺たちの愛にくらべたら…」
真理「だったら、みつぐが婿養子に来てよ。どうせ次男なんだから、いいでしょう」
 「それは…。その、養子は…」
真理「こっちはお姉ちゃんと二人だから、どっちかが継がないといけないんだから」
 「そんなこと言っても、俺も、無理だよ」
真理「なんでよ。私のこと愛してるんでしょう。だったら、それくらい…」
 「<タダのみつぐ>だよ。なんか、嫌なんだよなぁ」
真理「なによ。只野のどこが悪いのよ。只野家をバカにしてるの?」
 「だって、いままでさんざん君に貢いでるのに、それが名前になるんだよ」
真理「オダマリ! 私より名前にこだわるわけね。もういい、別れましょう」
 「えっ! なに言ってるんだよ。最初にこだわったのは君じゃないか」
二人とも黙り込んでしまう。なんともいやな間。
二人で 「あの…」(ばつの悪い間)
真理「私…。やっぱり、別れたくない。みつぐのこと大好きだから…」
 「僕も、真理のとこ大好きだよ。もう一度、養子のこと考えてみるから…」
二人、手を取り見つめ合う。この二人の未来は明るいのか?
<つぶやき>こんなことはそうあることでは…。でも、名字が変わるって変な感じかも。
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2021年06月15日

007「専属天使」

ZZ007

一人暮らしの男の部屋。男はデートに出かけようとして急いでいた。
安田「財布も持ったし、ハンカチOK。プレゼントもあるし…」
玄関のチャイムが鳴る。
安田「誰だよ、こんな時に…」
男は玄関を開ける。白いワンピースの若い女性が立っていた。
安田「えっ、どなたですか?」
スージー「あなた、安田さん?」
安田「はい。そうですけど…」
スージー「あーっ、やっと見つけた。この住所、分かりづらい。迷っちゃったじゃない」
安田「えっ?」
スージー「今日から、あなたの担当になったから、よろしく」(部屋に上がり込んでいく)
安田「ちょっと待てよ。なに、担当って?」
スージー「だから…。(めんどくさそうに)神様の命令で、あなた専属の天使になったの」
安田「天使ってなに? 悪いけど、これから出かけるから、帰って来んないかな」
スージー「あの女はやめときなよ。運命の相手じゃないから」
安田「なに勝手なこと言ってるんだよ。僕が彼女と付き合うために、どれだけ努力を重ねてきたか。彼女はね、もう僕にはもったいないくらい、素晴らしい人で…」
スージーはテーブルの上の箱からシュークリームを出して美味しそうに食べ始める。
スージー(食べながら)「そうよ、不釣り合いなの。分かってるじゃない」
安田(気づいて)「あっ! なに食べてんだよ。それは彼女のために買っておいた…」
スージー「これ、美味しいね。私、気に入っちゃった」
安田(箱を覗いて)「おまえ、全部食べたな。これを買うのに、何時間並んだと思ってんだよ。どうしてくれるんだ。今日、買っていくって約束して…」
スージー「もう、いいじゃん。どうせ、別れるんだから」
安田「おまえ、本当に天使か? 天使がこんなことしていいのかよ」
スージー「うーん、別にいいんじゃないの。天使にそんな決まりはないしぃ」
安田「嘘だ! おまえ、天使なんかじゃないだろう。誰に頼まれた? 言ってみろ!」
スージー「もう、うざい。そんなんだからモテないのよ」
安田「だったら、天使だっていう証拠を見せろ。天使の輪っかも羽根もないじゃないか」
スージー「そんなのあるわけないじゃん。それは、人間の作り話よ」
安田「もういい。出てってくれ。出てけよ!」
スージー「私も出て行きたいんだけど、これも仕事だしぃ。当分ここにいるから」
安田「当分って、なんだよ。まさか、ここに住みつくつもりか?」
スージー「しかたないじゃない。あなたが運命の人に出会って、幸せをつかむのを見届けなきゃいけないしぃ。いいじゃない、こんな可愛い天使と一緒にいられるのよ」
安田「あのな、どこが可愛いんだよ。だいたいな…」
スージー「ねえ。これ、毎日食べたい。でないと私、運命の人、教えてあげない」
<つぶやき>これは幸運なの、不幸なの。でも、運命の人が分かるんだよ。よくない?
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2021年06月21日

008「不思議な体験」

ZZ008

森の中の小道。二人の兄妹が歩いていた。
あかね「お兄ちゃん、ほんとに近道なの? ねえ、戻ろうよぉ」
陽太「なに言ってるんだよ。あかねが寄り道するから遅くなったんだろ」
あかね「だって、ばあちゃんに、このお花、あげたかったんだもん。それに、お兄ちゃんだって…」
陽太「もう、いいから。早くしないと、暗くなっちゃうぞ」
あかね「でも…」
陽太「大丈夫だよ。この森を抜ければ、ばあちゃんの家につけるから」
あかね「うん」
森の奥に入って行く二人。木々にさえぎられて、だんだん薄暗くなっていく。
あかね(立ち止まって)「お兄ちゃん」
陽太「なんだよ」
あかね「誰か…、後ろにいる」
陽太「えっ?(後ろの方を見る)誰もいないよ。もう、おどかすなよ」
あかね「だって、さっき足音がしたもん」
陽太「いいから。ほら、行くぞ」
あかね「待ってよ、お兄ちゃん」
妹は兄の手をとって、再び歩き出す。しばらくして、後ろの方で奇妙な音がする。
あかね(驚いて立ち止まり)「ねえ、いまの聞いた?」
陽太「うん。なんの音かな?」
二人して、後ろを振り向く。暗闇が迫ってくるように感じて、驚いて駆け出す二人。しばらく走ると、妹が転んでしまう。
陽太「あかね!」(妹に駆け寄る)
あかね「お兄ちゃん…」(泣き出してしまう)
陽太(後ろの方を見て)「もう大丈夫だ。誰もいないよ」
あかね(泣きながら)「もう、いやだ~ぁ」
森の中から音がして、何かが飛び出してくる。驚いて身をこわばらせる二人。
ばあちゃん「おや、どうしたね。(二人を見て)なんだ、陽太にあかねじゃないか」
あかね(ばあちゃんに抱きついて)「ばあちゃん!」
ばあちゃん「どうした、どうした。たぬきにでも化かされたか?」
陽太「タヌキ?」
ばあちゃん「そうだよ。この森には昔からたぬきたちが棲んでいてね。人をおどかしたり、迷わせたりするのさ」
あかね「ばあちゃんも、化かされたことあるの?」
ばあちゃん「ああ。でも、時には人助けもするんだよ。ほら、この先に行けば、ばあちゃんの家がある。これからは、兄妹仲良くしないといけないよ」
突然、一陣の風が吹き、目を閉じる二人。目を開けるとばあちゃんの姿は消えていた。
<つぶやき>こんな経験ありませんか? でも、気をつけて下さい。危険な場合も…。
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2021年06月27日

009「正義の味方ピーマン!」

ZZ009

子供向けイベントの控え室。出演者たちが準備をしている。
吾朗「なあ。何だよ、これ」
祐介「それは、虫歯キングーだよ。子供たちの歯を虫歯に変えてしまう…」
吾朗「そう言うことじゃなくて。ヒーロー物だって言ったよな」
祐介「そうだよ。吾朗には悪役の大将になってもらって…」
吾朗「あのさ、もっとさ、別のやつがあるだろ。もっと、こう…」
祐介「えっ?」
吾朗「だから、仮面ライダーとか、ウルトラマンとか、何とかレンジャーとか、格好いいのがあるじゃない。なんで、こんな…。格好悪いだろ、こんなんじゃ」
祐介「そうかな? でも、子供たちには、けっこう人気あるんだぜ」
吾朗「ホントかよ。それに、それなんだよ。お前の着てるの?」
祐介「これは、ピーマン。正義の味方で、子供たちを虫歯キングーから守っちゃうんだ」
吾朗「ダサいよ。だいいち、ピーマンなんて子供のいちばん嫌いな野菜だろ」
祐介「だから、子供たちに、ピーマンは君たちの味方だよって、分かってもらおうと…」
吾朗「俺、やめようかな。こんなの、やってらんないよ」
祐介「そんな、虫歯キングーがいなかったら、困るよ。なあ、頼むよ」
司会の奇麗なお姉さんが入って来る。
さおり「お早うございます。今日もよろしくお願いしまーす」
祐介「あっ、お早うございます。よろしくお願いします」
さおり「あれ、新しい人?」
吾朗「どうも。僕、長瀬吾朗と言います。今日からよろしくお願いします!」
さおり「あっ、虫歯キングーやるんだぁ。がんばってね」
吾朗「はい、がんばりまーす」
祐介「えっ、やるのかよ」
吾朗「さあ、稽古しようぜ。僕は、何をすればいいんだ」
祐介「ああ、それじゃ…」
さおり「じゃあ、私は打ち合わせしてくるね」
さおり、控え室から出ていく。
吾朗「おい、おい。あんな可愛い子がいるなら、そう言ってくれよ。俺、がんばっちゃうから。で、今日終わったら、彼女、飲みに誘おうぜ。お疲れ様会だーっ!」
祐介「それはいいけど、ホントにやってくれるんだろうな」
吾朗「もちろん。彼女、誰か付き合ってる人いるのかな?」
祐介「付き合ってるっていうか、彼女、結婚してるから。娘さんもいるし。それに、彼女、アラフォーだよ」
吾朗「えっ! だって、どう見たって、二十歳ぐらいにしか…」
祐介「じゃあ、稽古するから、早く着替えてね」
吾朗「何だよ。嘘だろーぉ!」
<つぶやき>世の中には信じられないことが多々あるのです。そこが面白いというか…。
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2021年07月03日

010「まぬけな窃盗団」

ZZ010

とある大企業の備品倉庫。地階の奥まったところにあるので、めったに人は来ない。会社の制服を着た女性が縛られている。それを取り囲む男たち。
明日香「あの、私、いつまでここに…」
兄貴「今、考えてるんだよ。静かにしてろ」
ふとっちょ「アニキ、もう帰ろうよ。オイラ、腹へって…」
兄貴「何だと。もとはといえば、お前の、がせネタのせいでこうなったんだろうが」
ちょろ「こうなったら、この女、かっさらって、そんで、売り飛ばして…」
兄貴「ばか野郎。俺たちはな、落ちぶれたとはいっても、由緒ある窃盗団なんだぞ」
ちょろ「だってよ、このままじゃ、金になんないし。それにこの女、結構、上玉だぜ」
明日香「あの、ちょっといいですか?」
ちょろ「うるせえな。おめえは黙ってろよ」
明日香「でも、私、思いついたんですけど…」
兄貴「やっと機密情報のことを話す気になったのか? もし、そうじゃなかったら…」
明日香「ごめんなさい。本当に知らないんです。でも、その人、私がすごいもの持ってるって言ったんですよね?」
ふとっちょ「そうだよ。なんかぁ、誰も真似できないんだって」
兄貴「おい、ちょっと待てよ。そんなこと聞いてねえぞ」
ふとっちょ「だって、兄貴、最後まで聞いてくれなかったじゃないか」
兄貴「よし、わかった。じゃあ、聞いてやるよ。ほら、話せよ。話せって、話せ!」
ふとっちょ「そんな、せかされるとさ。えっと…、あの…」
兄貴「その情報屋、どこのどいつだ。えっ? いくら払ったんだ?」
ふとっちょ「払ってないよ。だって、俺、そんな金、持ってないしね」
兄貴「おい、おい、おい。信じられねえよなぁ…」
ちょろ「ほら、どんな奴だか言ってみろ。俺が見つけだして、ボコボコにしてやるからよ」
ふとっちょ「知らないよ。この近くの、屋台で話してたの聞いただけで…」
兄貴「聞いただけって何だよ。それじゃ、何か、酔っぱらいのたわごとかよ」
ふとっちょ「うん、そうだよ。それを、兄貴が…」
兄貴「もういい! 何も言うな。もう、聞きたくない」
明日香「それ、たぶん、この会社の人たちです。きっと、そうだと思います」
兄貴「おい、ほどいてやれ。もう、やめた。バカバカしい」
ふとっちょ「いいのかい? わかった」
ふとっちょ、明日香の縄をほどいてやる。
兄貴(明日香に)「ほら、もう行ってもいいぞ」
明日香「ありがとうございます」
兄貴「あ、そうだ。さっき、何か言いかけてたよな?」
明日香「私、人の顔をすぐ覚えちゃうんです。それに、似顔絵も得意なんですよ」
明日香、ほっとした顔で出て行く。男たち顔を見合わせて、慌てて追いかけていく。
<つぶやき>果たして彼女は逃げられたんでしょうか? 言葉には気をつけましょう。
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2021年07月09日

011「作家の気晴らし」

ZZ011

とある落ち目の作家の書斎。新米の編集者がはりついている。
先生「うーん。あーぁ。んがーぁ……。だめだ、書けない。(編集者に)君ね、ちょっと向こうに行っててくれないか。どうも、気が散っていけない」
編集者「だめです。僕が離れたすきに、逃げようとしてるでしょう。今度はだまされませんよ。今日が締切なんですから、がんばって書いて下さいよ」
先生「そうは言うけどね、書けないものは書けないよ」
編集者「お願いします。今日、原稿を持って帰らないと、編集長に何て言われるか」
先生「そうね。でも、まあ、クビにはならんだろう。君、知ってるかね。あの編集長の武勇伝。彼女はね、ああ見えても、柔術の達人でね」
編集者「先生。この間は、大和撫子で日本女性の鏡だって言ってませんでしたか?」
先生「えっ、そんなこと言ったかな。そうか、大和撫子で柔術の達人なんだよ」
編集者「もう、いいですから。早く原稿を書いて下さい」
先生「せっかちだね。そんなだから、彼女に嫌われるんだよ」
編集者「そんなことないですよ。彼女とは…」
先生「うまくいってるの?」
編集者「それは、まあ、それなりに…」
先生「はっきりしないねぇ。ほら、この間の誕生日。私の言った通りにしたんだろ。(間)しなかったの? だめだよ、君。女性にとって誕生日とは、一種のバロメーターなんだよ。相手の男を査定してるんだ。だからこそ、男はそこに勝負を賭けなきゃ」
編集者「しましたよ。先生の言った通りに…」
先生「そうか。それで、どうだったんだ?(間)もう、じれったいなぁ。はっきりしない男は嫌われるぞ」
編集者「でも、何で彼女の誕生日に、禅寺で半日コースの修業をするんですか?」
先生「あの禅寺は良かっただろ。心身ともに鍛えられて。あそこの半日コースはな、お勧めなんだよ。値段も手頃だしな。君の彼女も喜んだろ」
編集者「どうかな。でも、僕はつらかったですよ。もう、足はしびれるし…」
先生「だめだよ。彼女の前でそんな弱音を吐いちゃ」
編集者「でも、先生。最後のホテルっていうのは、どうなんですか?」
先生「良かっただろ、あのホテル。あそこのディナーは最高なんだよ」
編集者「それ、いつの話ですか? 僕たちが行ってみたら、ラブホになってましたけど」
先生「えっ? そうなの。うふ、うふふ…。良かったじゃない。盛り上がっただろ」
編集者「それどころか、ひかれちゃいましたよ。彼女、そのまま帰っちゃって…」
先生「そうなの。君の彼女は奥手なんだねぇ。そうだ。これを書いてみるかな」
編集者「ちょっと、やめて下さいよ。変なこと書かないで下さい」
先生「大丈夫だよ。君のことだとは分からないさ。それとも、原稿できなくても…」
編集者「もう。先生、まさか原稿のネタがほしくて、僕にあんなことさせたんですか?」
先生は含み笑いをして、原稿用紙に向かいペンを走らせた。
<つぶやき>書けない時には、ちょっとした息抜きの充電が必要なんでしょうね。
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2021年07月15日

012「夜の訪問者」

ZZ012

夜中、銃をかまえて部屋に忍び込んできた二人の殺し屋。
マック(声をひそめて)「お前、あっちの部屋を見てこい」
ガスはうなずき、そっと扉を開けて隣の部屋へ入る。
マック「何だ、この部屋は。まるで女の部屋じゃないか。そういう趣味でもあるのかな」
ガスが戻ってきて、部屋の扉を閉める。
ガス「誰も居なかったよ。あっちは、寝室だった。縫いぐるみとか、いっぱいあったよ」
マック「どうも変だ。ほんとにこの住所なのか?」
ガス「うん、間違いないよ。何度も、確認したんだ」
マック「それにしたって、どう見ても女の部屋だぞ。それも子供部屋みたいだ」
ガス「こういうの集めてるんじゃないのかい。えっと、コレクターとかいう…」
マック「殺し屋がこんなもの集めるわけないだろ。俺は、どうも最初から気にくわなかったんだ。同業者をやるなんて。何で、こんな仕事を引き受けたんだ?」
ガス「ごめんよ。でも、少しでもお金が入れば…。ここんとこ、仕事なかっただろ」
マック「まあいい。住所はここで間違いない。相手の男は殺し屋で、ジェーシーと呼ばれていて、少女趣味がある変態ってことだ。奴が帰って来るまで、待ち伏せしよう」
ガス「そうだね。それがいいよ」
寝室の扉が開き、寝間着姿の少女が出てくる。男たちがいるのに驚いて、逃げようとする少女。男たちはあわてて少女を押さえ込み、口をふさぐ。
マック「(ガスに)誰も居ないんじゃなかったのかよ」
ガス「あっ、ごめんよ。暗かったから…。居ないと思ったんだ」
マック「(少女に)落ち着け、何もしないよ。静かにしてれば、何もしない。いいか?」
少女はうなずく。二人は彼女をはなしてやる。
マック「悪かったな。ちょっとした手違いなんだ。俺たちは、部屋を間違えただけだ。いいか、俺たちのことは忘れてくれ。そうしないと、あんたを消さなきゃいけなくなる」
ガス「(マックに)これから、どうするんだい?」
マック「もう、やめた。この仕事は断る」
ガス「でも、そんなことしたら、俺たちが消されちゃうよ」
マック「そんときは、二人して逃げようぜ。もう、汐時かもな」
ジェシカ「助けてあげようか? 私が逃がしてあげる」
マック「なに言ってるんだ。お嬢さんにそんなこと出来ないよ」
ジェシカ「それはどうかしら。私、ジェーシー。同業者みたいね。よろしく」
ガス「えっ! あんたが、殺し屋? 信じられないよ」
ジェシカ「実はね、私もやめたいと思ってたんだ。一緒に逃げてくれない。いいでしょ?」
マック「まあ、かまわないけど。それにしても、何だって殺し屋なんかに?」
ジェシカ「それを話してると、朝になっちゃうわ」
ガス「大丈夫だよ。これから話す時間はたっぷりあるさ」
三人はくすくすと笑う。ジェシカは急いで荷造りを始め、男たちもそれを手伝う。
<つぶやき>世の中には、いろんな職業があるんですね。でも、命は大切にして下さい。
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2021年07月23日