012「夜の訪問者」

夜中、銃をかまえて部屋に忍び込んできた二人の殺し屋。
マック(声をひそめて)「お前、あっちの部屋を見てこい」
ガスはうなずき、そっと扉を開けて隣の部屋へ入る。
マック「何だ、この部屋は。まるで女の部屋じゃないか。そういう趣味でもあるのかな」
ガスが戻ってきて、部屋の扉を閉める。
ガス「誰も居なかったよ。あっちは、寝室だった。縫いぐるみとか、いっぱいあったよ」
マック「どうも変だ。ほんとにこの住所なのか?」
ガス「うん、間違いないよ。何度も、確認したんだ」
マック「それにしたって、どう見ても女の部屋だぞ。それも子供部屋みたいだ」
ガス「こういうの集めてるんじゃないのかい。えっと、コレクターとかいう…」
マック「殺し屋がこんなもの集めるわけないだろ。俺は、どうも最初から気にくわなかったんだ。同業者をやるなんて。何で、こんな仕事を引き受けたんだ?」
ガス「ごめんよ。でも、少しでもお金が入れば…。ここんとこ、仕事なかっただろ」
マック「まあいい。住所はここで間違いない。相手の男は殺し屋で、ジェーシーと呼ばれていて、少女趣味がある変態ってことだ。奴が帰って来るまで、待ち伏せしよう」
ガス「そうだね。それがいいよ」
寝室の扉が開き、寝間着姿の少女が出てくる。男たちがいるのに驚いて、逃げようとする少女。男たちはあわてて少女を押さえ込み、口をふさぐ。
マック「(ガスに)誰も居ないんじゃなかったのかよ」
ガス「あっ、ごめんよ。暗かったから…。居ないと思ったんだ」
マック「(少女に)落ち着け、何もしないよ。静かにしてれば、何もしない。いいか?」
少女はうなずく。二人は彼女をはなしてやる。
マック「悪かったな。ちょっとした手違いなんだ。俺たちは、部屋を間違えただけだ。いいか、俺たちのことは忘れてくれ。そうしないと、あんたを消さなきゃいけなくなる」
ガス「(マックに)これから、どうするんだい?」
マック「もう、やめた。この仕事は断る」
ガス「でも、そんなことしたら、俺たちが消されちゃうよ」
マック「そんときは、二人して逃げようぜ。もう、汐時かもな」
ジェシカ「助けてあげようか? 私が逃がしてあげる」
マック「なに言ってるんだ。お嬢さんにそんなこと出来ないよ」
ジェシカ「それはどうかしら。私、ジェーシー。同業者みたいね。よろしく」
ガス「えっ! あんたが、殺し屋? 信じられないよ」
ジェシカ「実はね、私もやめたいと思ってたんだ。一緒に逃げてくれない。いいでしょ?」
マック「まあ、かまわないけど。それにしても、何だって殺し屋なんかに?」
ジェシカ「それを話してると、朝になっちゃうわ」
ガス「大丈夫だよ。これから話す時間はたっぷりあるさ」
三人はくすくすと笑う。ジェシカは急いで荷造りを始め、男たちもそれを手伝う。
<つぶやき>世の中には、いろんな職業があるんですね。でも、命は大切にして下さい。
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2021年07月23日