010「まぬけな窃盗団」

とある大企業の備品倉庫。地階の奥まったところにあるので、めったに人は来ない。会社の制服を着た女性が縛られている。それを取り囲む男たち。
明日香「あの、私、いつまでここに…」
兄貴「今、考えてるんだよ。静かにしてろ」
ふとっちょ「アニキ、もう帰ろうよ。オイラ、腹へって…」
兄貴「何だと。もとはといえば、お前の、がせネタのせいでこうなったんだろうが」
ちょろ「こうなったら、この女、かっさらって、そんで、売り飛ばして…」
兄貴「ばか野郎。俺たちはな、落ちぶれたとはいっても、由緒ある窃盗団なんだぞ」
ちょろ「だってよ、このままじゃ、金になんないし。それにこの女、結構、上玉だぜ」
明日香「あの、ちょっといいですか?」
ちょろ「うるせえな。おめえは黙ってろよ」
明日香「でも、私、思いついたんですけど…」
兄貴「やっと機密情報のことを話す気になったのか? もし、そうじゃなかったら…」
明日香「ごめんなさい。本当に知らないんです。でも、その人、私がすごいもの持ってるって言ったんですよね?」
ふとっちょ「そうだよ。なんかぁ、誰も真似できないんだって」
兄貴「おい、ちょっと待てよ。そんなこと聞いてねえぞ」
ふとっちょ「だって、兄貴、最後まで聞いてくれなかったじゃないか」
兄貴「よし、わかった。じゃあ、聞いてやるよ。ほら、話せよ。話せって、話せ!」
ふとっちょ「そんな、せかされるとさ。えっと…、あの…」
兄貴「その情報屋、どこのどいつだ。えっ? いくら払ったんだ?」
ふとっちょ「払ってないよ。だって、俺、そんな金、持ってないしね」
兄貴「おい、おい、おい。信じられねえよなぁ…」
ちょろ「ほら、どんな奴だか言ってみろ。俺が見つけだして、ボコボコにしてやるからよ」
ふとっちょ「知らないよ。この近くの、屋台で話してたの聞いただけで…」
兄貴「聞いただけって何だよ。それじゃ、何か、酔っぱらいのたわごとかよ」
ふとっちょ「うん、そうだよ。それを、兄貴が…」
兄貴「もういい! 何も言うな。もう、聞きたくない」
明日香「それ、たぶん、この会社の人たちです。きっと、そうだと思います」
兄貴「おい、ほどいてやれ。もう、やめた。バカバカしい」
ふとっちょ「いいのかい? わかった」
ふとっちょ、明日香の縄をほどいてやる。
兄貴(明日香に)「ほら、もう行ってもいいぞ」
明日香「ありがとうございます」
兄貴「あ、そうだ。さっき、何か言いかけてたよな?」
明日香「私、人の顔をすぐ覚えちゃうんです。それに、似顔絵も得意なんですよ」
明日香、ほっとした顔で出て行く。男たち顔を見合わせて、慌てて追いかけていく。
<つぶやき>果たして彼女は逃げられたんでしょうか? 言葉には気をつけましょう。
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2021年07月09日