009「正義の味方ピーマン!」

子供向けイベントの控え室。出演者たちが準備をしている。
吾朗「なあ。何だよ、これ」
祐介「それは、虫歯キングーだよ。子供たちの歯を虫歯に変えてしまう…」
吾朗「そう言うことじゃなくて。ヒーロー物だって言ったよな」
祐介「そうだよ。吾朗には悪役の大将になってもらって…」
吾朗「あのさ、もっとさ、別のやつがあるだろ。もっと、こう…」
祐介「えっ?」
吾朗「だから、仮面ライダーとか、ウルトラマンとか、何とかレンジャーとか、格好いいのがあるじゃない。なんで、こんな…。格好悪いだろ、こんなんじゃ」
祐介「そうかな? でも、子供たちには、けっこう人気あるんだぜ」
吾朗「ホントかよ。それに、それなんだよ。お前の着てるの?」
祐介「これは、ピーマン。正義の味方で、子供たちを虫歯キングーから守っちゃうんだ」
吾朗「ダサいよ。だいいち、ピーマンなんて子供のいちばん嫌いな野菜だろ」
祐介「だから、子供たちに、ピーマンは君たちの味方だよって、分かってもらおうと…」
吾朗「俺、やめようかな。こんなの、やってらんないよ」
祐介「そんな、虫歯キングーがいなかったら、困るよ。なあ、頼むよ」
司会の奇麗なお姉さんが入って来る。
さおり「お早うございます。今日もよろしくお願いしまーす」
祐介「あっ、お早うございます。よろしくお願いします」
さおり「あれ、新しい人?」
吾朗「どうも。僕、長瀬吾朗と言います。今日からよろしくお願いします!」
さおり「あっ、虫歯キングーやるんだぁ。がんばってね」
吾朗「はい、がんばりまーす」
祐介「えっ、やるのかよ」
吾朗「さあ、稽古しようぜ。僕は、何をすればいいんだ」
祐介「ああ、それじゃ…」
さおり「じゃあ、私は打ち合わせしてくるね」
さおり、控え室から出ていく。
吾朗「おい、おい。あんな可愛い子がいるなら、そう言ってくれよ。俺、がんばっちゃうから。で、今日終わったら、彼女、飲みに誘おうぜ。お疲れ様会だーっ!」
祐介「それはいいけど、ホントにやってくれるんだろうな」
吾朗「もちろん。彼女、誰か付き合ってる人いるのかな?」
祐介「付き合ってるっていうか、彼女、結婚してるから。娘さんもいるし。それに、彼女、アラフォーだよ」
吾朗「えっ! だって、どう見たって、二十歳ぐらいにしか…」
祐介「じゃあ、稽古するから、早く着替えてね」
吾朗「何だよ。嘘だろーぉ!」
<つぶやき>世の中には信じられないことが多々あるのです。そこが面白いというか…。
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2021年07月03日