008「不思議な体験」

森の中の小道。二人の兄妹が歩いていた。
あかね「お兄ちゃん、ほんとに近道なの? ねえ、戻ろうよぉ」
陽太「なに言ってるんだよ。あかねが寄り道するから遅くなったんだろ」
あかね「だって、ばあちゃんに、このお花、あげたかったんだもん。それに、お兄ちゃんだって…」
陽太「もう、いいから。早くしないと、暗くなっちゃうぞ」
あかね「でも…」
陽太「大丈夫だよ。この森を抜ければ、ばあちゃんの家につけるから」
あかね「うん」
森の奥に入って行く二人。木々にさえぎられて、だんだん薄暗くなっていく。
あかね(立ち止まって)「お兄ちゃん」
陽太「なんだよ」
あかね「誰か…、後ろにいる」
陽太「えっ?(後ろの方を見る)誰もいないよ。もう、おどかすなよ」
あかね「だって、さっき足音がしたもん」
陽太「いいから。ほら、行くぞ」
あかね「待ってよ、お兄ちゃん」
妹は兄の手をとって、再び歩き出す。しばらくして、後ろの方で奇妙な音がする。
あかね(驚いて立ち止まり)「ねえ、いまの聞いた?」
陽太「うん。なんの音かな?」
二人して、後ろを振り向く。暗闇が迫ってくるように感じて、驚いて駆け出す二人。しばらく走ると、妹が転んでしまう。
陽太「あかね!」(妹に駆け寄る)
あかね「お兄ちゃん…」(泣き出してしまう)
陽太(後ろの方を見て)「もう大丈夫だ。誰もいないよ」
あかね(泣きながら)「もう、いやだ~ぁ」
森の中から音がして、何かが飛び出してくる。驚いて身をこわばらせる二人。
ばあちゃん「おや、どうしたね。(二人を見て)なんだ、陽太にあかねじゃないか」
あかね(ばあちゃんに抱きついて)「ばあちゃん!」
ばあちゃん「どうした、どうした。たぬきにでも化かされたか?」
陽太「タヌキ?」
ばあちゃん「そうだよ。この森には昔からたぬきたちが棲んでいてね。人をおどかしたり、迷わせたりするのさ」
あかね「ばあちゃんも、化かされたことあるの?」
ばあちゃん「ああ。でも、時には人助けもするんだよ。ほら、この先に行けば、ばあちゃんの家がある。これからは、兄妹仲良くしないといけないよ」
突然、一陣の風が吹き、目を閉じる二人。目を開けるとばあちゃんの姿は消えていた。
<つぶやき>こんな経験ありませんか? でも、気をつけて下さい。危険な場合も…。
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2021年06月27日