006「人生の選択」

お洒落なバーで、若い男女が人生の大切な場面をむかえていた。
真理「ねえ、いつもの居酒屋でよかったのに。ここ、高いんじゃないの?」
 「あのさ、今日は…。静かなところがいいかなと思って」
真理「えっ? どうしたのよ。なんか、いつものみつぐじゃなぁい」
 「俺たち、もう付き合い始めて二年だろ。そろそろ…」
真理「もうそんなに。早いよね。私も、もうお肌の曲がり角かな。なんて」
 「だから、その…。ここらへんで、けじめというか…」
真理「なに? もしかして、他に好きな人できちゃったの?」
 「そうじゃなくて…。ぼ、僕と…。け、けっ…、結婚しよう!」
真理(結婚と聞いて、すぐに即答する)「無理」
 「えっ? なんで…」
真理「私たち、このままでいいじゃない。結婚なんて…」
 「だって、俺たち好きあってるんじゃ…」
真理「そうよ。私、みつぐのこと大好きよ。でも、結婚は無理なの」
 「わけ分かんないよ。大好きだったら、結婚ってことになるでしょう」
真理「オダマリ!」
 「えっ…」
真理「私、結婚したら尾田真理になるのよ。そんなの、ありえないでしょう」
 「はぁ? なに言ってるの。いい名前じゃない、尾田真理って」
真理「じゃあ、もし子供ができて、病院の待合室で<オダマリ!>を連呼されても平気でいられるの? 私は、無理。恥ずかしくて耐えられない」
 「そんなこと、こだわることじゃないでしょう。俺たちの愛にくらべたら…」
真理「だったら、みつぐが婿養子に来てよ。どうせ次男なんだから、いいでしょう」
 「それは…。その、養子は…」
真理「こっちはお姉ちゃんと二人だから、どっちかが継がないといけないんだから」
 「そんなこと言っても、俺も、無理だよ」
真理「なんでよ。私のこと愛してるんでしょう。だったら、それくらい…」
 「<タダのみつぐ>だよ。なんか、嫌なんだよなぁ」
真理「なによ。只野のどこが悪いのよ。只野家をバカにしてるの?」
 「だって、いままでさんざん君に貢いでるのに、それが名前になるんだよ」
真理「オダマリ! 私より名前にこだわるわけね。もういい、別れましょう」
 「えっ! なに言ってるんだよ。最初にこだわったのは君じゃないか」
二人とも黙り込んでしまう。なんともいやな間。
二人で 「あの…」(ばつの悪い間)
真理「私…。やっぱり、別れたくない。みつぐのこと大好きだから…」
 「僕も、真理のとこ大好きだよ。もう一度、養子のこと考えてみるから…」
二人、手を取り見つめ合う。この二人の未来は明るいのか?
<つぶやき>こんなことはそうあることでは…。でも、名字が変わるって変な感じかも。
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2021年06月15日