007「専属天使」

一人暮らしの男の部屋。男はデートに出かけようとして急いでいた。
安田「財布も持ったし、ハンカチOK。プレゼントもあるし…」
玄関のチャイムが鳴る。
安田「誰だよ、こんな時に…」
男は玄関を開ける。白いワンピースの若い女性が立っていた。
安田「えっ、どなたですか?」
スージー「あなた、安田さん?」
安田「はい。そうですけど…」
スージー「あーっ、やっと見つけた。この住所、分かりづらい。迷っちゃったじゃない」
安田「えっ?」
スージー「今日から、あなたの担当になったから、よろしく」(部屋に上がり込んでいく)
安田「ちょっと待てよ。なに、担当って?」
スージー「だから…。(めんどくさそうに)神様の命令で、あなた専属の天使になったの」
安田「天使ってなに? 悪いけど、これから出かけるから、帰って来んないかな」
スージー「あの女はやめときなよ。運命の相手じゃないから」
安田「なに勝手なこと言ってるんだよ。僕が彼女と付き合うために、どれだけ努力を重ねてきたか。彼女はね、もう僕にはもったいないくらい、素晴らしい人で…」
スージーはテーブルの上の箱からシュークリームを出して美味しそうに食べ始める。
スージー(食べながら)「そうよ、不釣り合いなの。分かってるじゃない」
安田(気づいて)「あっ! なに食べてんだよ。それは彼女のために買っておいた…」
スージー「これ、美味しいね。私、気に入っちゃった」
安田(箱を覗いて)「おまえ、全部食べたな。これを買うのに、何時間並んだと思ってんだよ。どうしてくれるんだ。今日、買っていくって約束して…」
スージー「もう、いいじゃん。どうせ、別れるんだから」
安田「おまえ、本当に天使か? 天使がこんなことしていいのかよ」
スージー「うーん、別にいいんじゃないの。天使にそんな決まりはないしぃ」
安田「嘘だ! おまえ、天使なんかじゃないだろう。誰に頼まれた? 言ってみろ!」
スージー「もう、うざい。そんなんだからモテないのよ」
安田「だったら、天使だっていう証拠を見せろ。天使の輪っかも羽根もないじゃないか」
スージー「そんなのあるわけないじゃん。それは、人間の作り話よ」
安田「もういい。出てってくれ。出てけよ!」
スージー「私も出て行きたいんだけど、これも仕事だしぃ。当分ここにいるから」
安田「当分って、なんだよ。まさか、ここに住みつくつもりか?」
スージー「しかたないじゃない。あなたが運命の人に出会って、幸せをつかむのを見届けなきゃいけないしぃ。いいじゃない、こんな可愛い天使と一緒にいられるのよ」
安田「あのな、どこが可愛いんだよ。だいたいな…」
スージー「ねえ。これ、毎日食べたい。でないと私、運命の人、教えてあげない」
<つぶやき>これは幸運なの、不幸なの。でも、運命の人が分かるんだよ。よくない?
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2021年06月21日