「いつか、あの場所で…」002

 「初めの一歩(いーっぽ)」2
 彼女の噂は同級生の間ですぐに広がった。都会から美少女現る。好奇心いっぱいで他のクラスからも覗きに来る。それを追い返すのがゆかりの役目になってしまった。手際よくさばいていく。
 僕も他のクラスの奴につかまって、あんまりしつこく聞いてくるからつい…、「そんな騒ぐほどじゃないよ。あれは性格悪いかもな。勉強が出来て、可愛いっていうのを自慢しているだけさ。それに、ゆかりの機嫌取って上手く利用して、なに考えてるのか…」
「なんで、なんでそんなこと言うの。私はそんなこと考えてない!」
「……!!」彼女の突然の出現に、僕もつい口にしてしまった。心にもないことを…。
「なんだよ、転校生のくせに…」
 彼女は目を潤ませて僕を見つめる。僕は、言ってはいけないことを言ってしまった。
 彼女はそのまま走り去る。一部始終を見ていたゆかりが追いかける。僕に最後の一撃を喰らわせて。「あんたって最低!」
 すごい後悔。僕は完全に嫌われてしまった。何度か謝ろうとしたんだけど、まったく受け付けてくれなかった。<話し掛けないで。顔も見たくない>彼女の目が、そう訴えているように思えた。
 友達になる糸口もつかめないまま、時間だけが過ぎていく。そしてついに来てしまった。それは僕たちをさらに引き裂いた。席替え…。今まで隣同士だったのに、同じ班だったのに…。クジ引きという理不尽な方法で、僕は運にも見放された。彼女は窓側、僕は廊下側。彼女との距離は銀河系よりも遙か遠くに感じた。
 それから何日かして、僕は知ってしまった。とんでもないことを…。
 学校からの帰り道、彼女とゆかりが僕の前を歩いていた。ふとひらめいた。彼女が一人になったときがチャンスだ。彼女にちゃんと謝って…。
 僕は距離をとってついて行く。突然、ゆかりが振り向いた。慌てて帽子で顔を隠す。…見つかってしまったのは確かだ。僕はなおも後を追う。彼女たちは何か笑っているようだ。きっと僕のことだ。ここまで来て諦めるのは…。僕は迷っていた。その時、二人が立ち止まった。とっさに物陰に入る。…彼女がゆかりから離れていく。ゆかりは僕を見つけると、にやりと笑って手を振った。そして自分の家の方へ歩いていく。
 僕はまだ迷っていた。あのゆかりの笑顔が気になった。あいつがあんな顔をするときは絶対何かあるからだ。彼女の歩いていった道は僕の家の方だった。もう迷っている時間はなかった。どんどん彼女が離れていく。見失うわけにはいかなかった。
 僕は、思い切って走り出した。
<つぶやき>取り返しのつかないことって誰にもありますよ。そういう私にも…。
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2021年05月16日