「いつか、あの場所で…」004

 「大空に舞え、鯉のぼり」1
 いつも引っ越してばかりで、私には故郷(ふるさと)と呼べるような場所はないんだ。転校したのだってこれで三回目。そのたびに友達を作り直さないといけない。これが結構大変なんだ。
 ママみたいにはなれない。ママはどこへ行ってもすぐに馴染んでしまう。これは才能の一つだわ。いつも感心しちゃう。私は不器用。それに…、みんなが思っているような良い子じゃない。可愛くもないし…。私は自分の顔が嫌いなんだ。この顔のせいでいつも苦労するの。もっとブスになりたい。本当の私は違うんだから。どこへ行ってもそうなんだ。いつも自分を装(よそお)って、みんなが思っているようになろうとしている。自分を誤魔化して…。
 今度だってそうなの。誰と友達になれば上手くやっていけるか。まず考えるのはこのことなの。これが今の私の唯一の才能なのかもしれない。ゆかりに近づいたのだって、彼女と友達になれば自分を守れると思ったから。…私はずるい子なのかもしれない。
 高太郎君の言ったことが、まだ私の中に突き刺さっている。自分の心の中を見抜かれてしまったような、そんな気がした。だから私も…。いつもならあんなことしないのに…。あれ以来、高太郎君とは気まずいままになってしまった。
 高太郎君は他の子とは違っていた。私を特別な目で見ないし、馴れ馴れしく話し掛けてくることもなかった。こんな子は初めてかもしれない。私もゆかりみたいになれたらいいのに。そしたらこんなカーテンなんか開けちゃって、彼に話し掛けることだって出来るのに…。もう一度やり直せたらどんなに良いか。…でも、私のこと嫌いだったら? もしそうだったらどうしよう。
 日曜日、ゆかりが突然やって来た。いつも元気だなぁ。悩み事なんかないみたい。
「よっ、さくら。何してるの? せっかくの休みなのに」
「別に…」
「何だよ、カーテン閉め切っちゃって。外、良い天気だぜ」
 ゆかりはカーテンを開けて、窓を全開にする。気持ちの良い風が吹き込んでくる。私の心のもやもやを晴らしてくれるように。
「あれ、あいつの部屋だ。こんなに近いんだ。ねっ、あいつと話したりしてる?」
「ううん…」
「いいなぁ、ここだったら夜遅くまで喋ってても怒られないよね」
 私はどう答えたらいいか分からなかった。ただ頷くだけ…。
「高太郎って良い奴だよ。ときどきバカやるけど。…あいつのこと嫌いになっちゃった?」
「そんなこと…」
「だったら、これから隣に行かない? 鯉のぼり、見に行こう」
 楽しそうにそう言って、私を強引に連れ出そうとする。私は突然のことに動転して…、
「行けないよ。私、嫌われてるもん」
「そんなことないって。いいわ、私が仲直りさせてあげる。もし高太郎がなんか言ったら、私がぶっ飛ばしてやるから」
<つぶやき>こんな頼もしい友達がいたら、頼ってしまうかもしれません。私は…。
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2021年05月30日