「いつか、あの場所で…」006

 「大空に舞え、鯉のぼり」3
「こらっ!」突然、ゆかりが叫んだ。「高太郎、何してんの」窓から高太郎君が顔を出す。「さっきから、こそこそこそこそ」
「いいだろ別に何してても…。そっちこそ何してんだよ」
 窓越しに言葉が飛び交う。
「私たちはいま大事な話をしてるの。邪魔しないでね」
「どうだか…。迷惑かけてるんじゃないの」
「そっちこそ、覗いてたくせに」
「…誰が覗くか。お前さ、その性格なおした方がいいよ。ちょっとはその子見習って…」
「その子って? 誰のことかなぁ?」
「誰って…。ほら、その、隣にいる…」
「あんたさ、さくらのこと好きなんでしょう」
<えっ? そんな!>私は慌てて…、「私は違うから、そんなこと…」なに言ってるんだろう、私…。
「さくら、ほんとにこんなんでいいの? こいつ性格悪いよ」
<もう、ゆかりったら…。>
「お前に言われたくないよ。だいたいな、昔っからそうなんだよなぁ。いつも人に責任押しつけて。作じいの柿、盗んだときだって…」作じい? どっかのおじいさん?
「えっ、何のこと? 忘れちゃった」ゆかり、何したんだろう?
「なんにも知らない俺に、これあげるって言って柿、渡しただろ。俺が盗んだって思われて、作じいにむちゃくちゃ怒られたんだからな」
「あんたが鈍くさいからよ」
<それ違うよ、盗んじゃだめ。>
「ねえ、さくら。いいこと教えてあげる」
<えっ?> 私、ついていけない。
「高太郎ね、木から下りられなくなってビーィビーィ泣いたことあるの。可笑しいでしょう」
<えっ、そうなんだ。>
「なに言ってるんだよ。あれは、お前が下りられなくなったから、助けに行ってやったんだろう。忘れたのかよ」優しいとこもあるんだ。
「あれ、そうだったっけ? でも、情けないよなぁ。下見て足がすくんじゃって…」
「お前が、あんなとこまで登るからだろ」そんなに高かったのかな?
「まったく、都合の悪いことはいつも忘れるんだよなぁ」
 この二人、仲が良いのかな? 悪いのかな? いつも喧嘩ばかりしている。でも、二人とも楽しそうだ。相手のことが分かっているから、何でも言い合えるのかな? 私もこんな風になれるといいなぁ。二人の話には割り込めない。私はただ笑って見ているだけ。
<つぶやき>幼なじみっていいですよね。何でも言えるし。でも、近すぎるとかえって…。
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2021年06月11日